よう実 √松下   作:レイトントン

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アニメ3期11話で推しが美しすぎたので番外編です。
時系列とかはぶった斬ってIFルート、2年生編の文化祭のお話。


2年生編√
番外編 文化祭①


「……む」

 

 ちか、と閉じた瞼の上から降り注ぐ光に、思わず目を覚ます。オレの顔を覗き込む千秋と目が合った。

 

「おはよう、清隆くん。よく眠れた?」

「いつの間にか眠ってたのか……」

 

 いつ自分が微睡についたのか、記憶が曖昧だ。なにかとんでもない夢を見ていたような気がするが……気のせいだろう。

 ……千秋に対してまるで警戒心を持っていない自分に、自分で驚く。千秋がオレを害する訳がない。それを心の底から信じている。

 他人をここまで信用している様を見たら、あの男はどう思うだろう。弱者の思考だと吐き捨てるだろうか。

 それならそれで構わない。あの男の理解の外にいるというなら、悪いことじゃないな。

 

「体育祭では大活躍だったからね。知らないうちに疲れが溜まってたんじゃないかな」

「そうかもしれない……悪いな、膝を借りて。重かっただろ」

 

 植木の下で、千秋に膝枕をしてもらったまま眠っていた。たしか、天気も良かったから2人で外で弁当を食べていたな。千秋お手製の弁当は、いつも通り美味だった。

 そして話し込んでいるうちに、眠くなってしまったらしい。千秋の肩に頭を預けていた記憶は、なんとなく残っている。

 

「清隆くんの寝顔見れたし、全然良いよ。むしろ珍しいもの見れて感謝したいかも」

「オレの寝顔なんて見てもなんにもならないぞ」

「そんなことないよ。学校じゃ私しか知らないと思うし、清隆くんを独り占めしてるみたいで好きなんだ」

 

 千秋は小悪魔的な笑顔を見せた。

 いつも、オレに対する女子の声援にやきもきしている彼女だ。こんなことで独占欲が満たせるなら、寝顔くらいはいくらでも見せてやりたいものだな。

 

 千秋の太腿から頭を起こす。

 ……どうでもいい話だが、日本語では大腿部、つまり太腿も膝という括りに入る。だから太腿に頭を乗せていても膝枕という名称が成り立つ。

 

「独り占め、か」

「嫌だった?」

「そんなわけはない。オレは千秋の彼氏だからな。ただ、オレの方も独占欲というものを実感しただけだ」

 

 改めて、千秋の姿を見る。

 彼女は今、今度の文化祭で着用するメイド服姿でいた。

 同じくメイドとして働く佐藤や佐倉、長谷部は可愛らしいミニスカートを着用していた、フレンチメイドに近いスタイルだが、一方で千秋はロングスカートでヴィクトリアンメイドの格好だ。きっちり白手袋も嵌めている。

 可愛らしさより、千秋の大人びた雰囲気、美しさを全面に押し出した、良い選択だ。

 

「千秋のメイド姿は、本当ならオレ以外には見せたくない」

「嬉しいな。一瞬、辞退しようか悩んじゃった」

「そういうわけにもいかないよな。佐藤や王さ……みーちゃん、前園にも悪い」

 

 文化祭では上位4クラスに100のクラスポイントが付与される。無人島試験で勝利し、体育祭でさらに得点を得たとはいえ、まだまだ他クラスとの差は小さい。このポイント獲得には大きな意味がある。

 みーちゃんはともかく、佐藤や前園は、言っては悪いが普段あまりクラスに貢献できているわけではない。そんな彼女らが活躍できる機会を活かしてやりたい。オレもそうだが、彼女らと親しい友人である千秋は特にそう思っていることだろう。

 

「清隆くんも、頑張ろうね」

 

 ……それに関してはあまり思い出したくないな。

 千秋も苦肉の策だろうに。

 

「今日はその格好でいるつもりか? 目立つだろ」

「もう明後日にはプレオープンだし、隠す意味もないからね。むしろ良い宣伝になるんじゃないかな」

「たしかに、今からメイド喫茶を用意していたんじゃ、ウチのクオリティにはとても敵わないだろうからな」

 

 準備だって間に合うまい。

 それに、茶柱先生をはじめとした隠し玉も用意してある。売上一位を目指して、堀北や千秋、みーちゃん、オレ、佐藤が色々と考えた結果だ。

 

 しかし、最初の指摘通り見目麗しいメイドさんを伴って歩くのは相当に目立った。いつも一緒にいるオレたちが連れ立って歩いているのは珍しいことではないはずだが、やはりメイド姿の千秋は目を引く存在だ。

 彼女は気恥ずかしくなってきたのか、オレの後ろに隠れてしまった。オレの制服の裾を摘んで、赤い顔を俯かせている。

 

 不思議なもので、ついさっきまでは独り占めにしたかったはずのこの可愛らしい彼女の姿だが、隠そうとされると逆に見せびらかしたくなる。

 

「千秋、宣伝はどうしたんだ」

「今日の清隆くん、意地悪モード?」

 

 ビシ、と肩を叩かれる。

 可愛い彼女の抗議に身を委ねていると、前方から見知った後輩たちが歩いてくるのが見えた。

 千秋に視線をやると、彼女は既に瀟洒なメイドとしての立ち振る舞いに切り替わっていた。プロだな。

 

「こんにちは、綾小路先輩、松下先輩」

「松下先輩メイド服だ。綾小路先輩といかがわしいことでもしてたんですかー?」

 

 七瀬と天沢か。珍しいペアだな。文化祭も近いし、出し物の準備で忙しいだろうに他のクラスの生徒と一緒に行動しているのか。

 

「こんにちは翼ちゃん。一夏ちゃんは相変わらず生意気だね。学校内でそんなことするわけないでしょ」

「えー、問題発言。学校の外ならするんですかー?」

「さあ、どうだろうね」

 

 もはやオレと千秋には切っても切れない絆がある。千秋は天沢の煽りにも余裕の態度だ。

 天沢も平然としているが、自分の方が能力は上回っているのに切り崩せない相手に、少しイライラしているようだ。

 

「綾小路先輩、先日の体育祭はお見事でした。出場した全競技で1位だなんて……宝泉くんが悔しがってましたよ」

「一応、身体能力で学内最高評価を貰っている。それに恥じない働きをしただけだ」

 

 オレたちが2年に上がってから、生徒会長である南雲の方針によりOAAという生徒個人のパラメーター表のような制度が導入された。

 学力、身体能力、機転思考力、社会貢献性、それらを合わせた総合力の5項目で評価されている。

 オレもまたOAAによって能力を数値化されており、以下のような数値となっている。

 

 学力    A+(99)

 身体能力  A+(98)

 機転思考力 B (70)

 社会貢献性 B+(76)

 総合力   A (87)

 

 学年トップクラスである須藤の身体能力評価はA+で96。僅かにオレが上回る形になった。山田も身体能力は相当のものなはずだが、力を発揮する機会に恵まれなかったかAの90に収まっている。

 学年で1位、加えていえば学内でも身体能力でオレより評価が上の生徒はいない。そんな結果をもらっている以上、露骨に手を抜きすぎたらバレるからな。ある程度真剣にやらせてもらった。

 

「入学当初の試験でも、綾小路先輩はあの高難易度のテストで満点を取っていました。まさに文武両道を体現された方です。ぜひ今後機会があれば、ご指導ご鞭撻をお願いいたします」

「七瀬は十分優秀だろ。オレから指導することなんてなにもない」

「そんな……私なんて、まだまだ未熟者です」

「私も私も! 綾小路先輩に指導されたいな」

 

 天沢も七瀬に便乗する。

 七瀬のように「おまえも優秀だから指導は必要ない」と遠回しに褒められたいらしい。躾のなってない犬のようだ。

 ホワイトルームでもっとちゃんと教育しておいてほしいものだな。

 千秋に視線をやると、頷きが返ってくる。

 

「七瀬がそこまで言うなら、先輩として応えてやる必要があるな。オレに指導できることがあるかは分からないが、何かあったら相談してくれ」

「はい、ありがとうございます綾小路先輩!」

「先輩、あたしはー?」

「おまえはダメだ」

「松下先輩、綾小路先輩がイジメるんですけど」

「うーん、妥当な扱いかな」

「諸悪の根源は松下先輩だった!」

 

 天沢は頭を抱える。

 剽軽な様子を演じているが、天沢の心は揺れ動いちゃいないだろう。オレへの別な接触方法を考えているのかもしれない。

 

「冗談だ。天沢も何かあれば相談しろ」

「先輩やっさしー! うん、四六時中電話するね!」

「やっぱり着信拒否しておく」

「ごめんごめん、私も冗談だよー。許して先輩」

 

 天沢は両手を合わせて謝罪してくる。まったく本気度は窺えないが、まあいいか。

 

「2人は文化祭の準備は順調?」

 

 千秋がそんなことを質問する。

 

「あたしはあんまりクラスの活動に参加してないからなー。当日に振られた仕事するだけだから、準備はほとんどしてないかな」

「私たちのクラスはお祭りの屋台のようなものを幾つか出店しています。射的なんかもあるので、明後日のプレオープンはぜひ先輩方も天沢さんも遊びにきてください」

「お祭りか……」

「清隆くん、行ったことない?」

「ああ。ちょっと楽しみだな」

「ええー、先輩お祭り行ったことないの?」

 

 この場にいる中でも特にオレの事情に詳しい天沢が聞いてくる。千秋と七瀬に対してのカモフラージュか。

 

「家が厳しくてな」

「かわいそー。七瀬ちゃんは先輩のことたっぷりおもてなししてあげないとだね」

「はい! 綾小路先輩、全力でおもてなしいたします!」

「じゃあ、明後日はお祭りデートだね」

「ああ、楽しみにしてる」

「先輩たちいつもデートしてるじゃないですかぁ……」

 

 若干げんなりした様子で天沢が指摘した。

 いや、そんなことはないだろうと七瀬の方に助けを求める視線をやると、彼女はさっと目を逸らした。

 ……まさか後輩たちに色ボケしていると思われてるとは。心外だ。

 千秋も気恥ずかしそうに頬を掻いている。が、否定しようとはしない。

 そうか……オレたちのデートの頻度は高かったのか。もうこの学校に来て1年半が経つというのに、新しい発見は尽きない。

 

「文化祭は特別だからね。別腹別腹」

 

 千秋の言葉に、今度こそ天沢と七瀬は項垂れた。

 

「いやいや、この間の3年Aクラスの出し物も2人で参加してましたよね!!」

「そ、そうだったっけ」

 

 とぼけるように千秋は斜め上を見る。

 たしかに、オレたちはお化け屋敷デートも既に体験していた。

 数日前のことを思い出す。

 

 

 南雲の所属する、というよりは支配している3年Aクラスは、今回競争に参加する気はないらしく、大量の資金を投じて体育館を貸し切り、迷路とお化け屋敷を一体にした催し物を行うようだ。

 今回は負けてもクラスポイントの減少はない。クラスメイトたちの労いの場にする、ということだろう。

 

 文化祭というものは体験したことがないし、千秋に言って一緒に開放されている体育館を見に行くことにした。

 

 既に中には列ができており、3年生の出し物を見て参考にしたいという生徒たちが多いのが分かった。その中には、一之瀬と神崎の姿もある。

 

「あ、綾小路くん、松下さん。デートかな?」

 

 気さくに話しかけてきてくれる一之瀬だが、どこか元気がないように見える。

 一方で隣の神崎のこちらへの視線は厳しい。

 

「まあな。そっちもデートか?」

「あはは、私と神崎くんはそういう関係じゃないよ」

「それにデートしている余裕もない。先日の体育祭では最下位。加えてDクラスに落ちてしまった。ここから浮上する方法も見えてないしな」

 

 やはり、先日の体育祭で結果が振るわなかったことを気にしているようだ。一之瀬クラスは最下位のDクラスに落ちた。一之瀬や神崎、他の生徒も、明確に成長した部分が見られない。

 加えて言えば、現状の戦力で言えば龍園クラスに分がある。先日の満場一致特別試験でもクラスメイトを切らなかった龍園のクラスには、強い団結力が生まれている。

 一之瀬クラスが優っているのは学力くらいのものだろう。

 

「そんなクラスの内情を明かしていいのか?」

「お前なら見抜いているんじゃないのか」

 

 その通りではあるが、『おまえたちのクラスは落ち目だ』と目の前で宣言するつもりはない。

 オレは無難な返答を選んだ。

 

「今の発言を信じて油断してやることはできないな」

「油断もない、か。先生の子供だけはあるな……まさに万全だ」

 

 どこか諦めが入ったような口調で、神崎はオレを讃えるようなことを言った。

 

「あの男は関係ない」

「……そうだな、お前の実力はお前が身に付けたものだ。悪かった。一之瀬、すまないが少し頭を冷やしてくる」

 

 神崎は列を抜け、体育祭から出て行った。

 

「ごめんね、2人とも。神崎くん、Dクラスに落ちて、ちょっと焦っちゃってるんだ。普段はもっと優しい人なんだけど」

「大丈夫だよ。でも、相当悩んでるみたいだね、神崎くんは」

「……私が情けないリーダーだから、だよね」

 

 神崎だけじゃない。一之瀬も負けが込んでいる現状を良しとはしていないが、それでも抜け出す方法を見出せていないようだ。

 オレや龍園、坂柳のような策略家がいないことで、対抗策を練れていないのが原因だろう。それさえあれば、一之瀬クラスのポテンシャルは坂柳のクラスに匹敵する。

 いや、脱落者を出していない以上、2名分のアドバンテージがある。単純な戦力なら坂柳クラスを超えているだろう。

 平均的な学力なら、ウチや龍園のクラスとは比べるまでもない。

 

 きっかけさえあれば、他クラスと戦えるクラスとなれる。

 一之瀬も神崎も、それが分かっているから歯痒いんだろうがな。

 

「……あはは! ごめんね、暗い話しちゃって。そろそろ私の番だし、先に行くね」

 

 無理に明るく振る舞う彼女は、お化け屋敷に1人で入って行ってしまった。

 

「……一之瀬さんたち、大変そうだね」

「下降気味のクラスのリーダーとあっては、責任感や罪悪感は相当なものだろうな。それでも一之瀬のクラスからは不平や不満はそうそう聞こえてこない。統率力は学年、いや学内一だろう」

 

 とはいえ、それだけで勝てるほどクラス間闘争は甘くない。

 一之瀬には頑張ってほしいものだ。必要とあれば手助けしてやることも吝かじゃない。

 独走がすぎると、クラスメイトたち自身にも良くないからな。緊張感は必要だ。

 

 考えを巡らせていると、3年Aクラスの生徒に中に入るよう促される。

 オレと千秋は腕を組みながら迷路お化け屋敷の中に入った。

 

「わっ、雰囲気あるね」

「これは……寒気がすると思ったら、切れ目を入れた発泡スチロールに氷を入れて、冷気を送り込んでいるのか」

 

 学生らしい、あまりお金の掛からない良い工夫だ。

 暗さだけでなく冷気によってお化け屋敷らしい雰囲気を作り出している。

 

 他にも、均一ショップで買ったらしいさまざまな小道具や仕掛けも用意されており、そのどれもが高クオリティで仕上げられている。3年Aクラスの美術担当は優秀だな。

 

「清隆くん、全然怖がってないね。頼もしいよ」

 

 腕を組む千秋がオレの顔を覗き込む。

 千秋も全く怖がっている様子が見られないから、なんとも言えないな。

 

「顔に出づらいだけだ。ちゃんとビビってるから安心してくれ」

「あはは! 清隆くんがビビるところ見てみたいかも」

 

 千秋はお化けが出る度に、楽しそうに「きゃー!」「こわーい!」とオレの腕に抱き付いてくる。あざと可愛い彼女だ。

 お化けの生徒たちも、カップルのいちゃつきのダシにされて心なしか疲れているように見える。成仏してほしい。

 

「わーっ! って、あれ。綾小路くんじゃん」

「朝比奈先輩。ちゃんとお化け役を全うしてくださいよ」

「固いこと言わないでよっ。他の人には真面目にやってるし。松下ちゃんもこんにちは」

「こんにちは、朝比奈先輩。すっごく怖いですよ」

「ほんと? 頑張った甲斐があったなあ」

 

 しみじみ、と朝比奈先輩は頷いている。

 全然怖くないな、このお化け。

 

「どう? ウチの出し物は」

「クオリティが高くて驚きました。高校の文化祭ってこんなものなんですかね」

「どうだろ、私たちも文化祭は初めてだからね。でも、雅がやるって言った以上、妥協しないタイプだからさ。私たちもそれなりに頑張らなきゃいけないってわけ」

 

 南雲に付き合わされているってわけか。

 桐山と違い満更でもなさそうなのは、やはり同じクラスメイトだから……というわけではなさそうだ。

 

「あ、後ろの人たち来ちゃうかも。朝比奈先輩、失礼します」

 

 話している間にも、千秋は後ろの流れを気にしてくれていたようだ。優秀な彼女を持つと楽でいい。

 

 朝比奈に挨拶して、オレたちはお化け屋敷をゆっくりと楽しんだ。

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