よう実 √松下   作:レイトントン

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アニメ3期12話、終盤〜エンディングが最高だったので文化祭②です。


番外編 2年生編 文化祭②

 文化祭前日。プレオープンの日がやってくる。

 オレたち2年Aクラスはメイド喫茶と屋台を2つ、屋外でのクイズ大会を出し物として用意してある。やはりメインはメイド喫茶で、ここでの売上が順位の鍵を握る大切な要素だ。

 

 放課後になりプレオープンが始まる。

 客は他クラスの生徒たちだが、接客の練習にはもってこいの相手だ。

 佐藤、みーちゃん、千秋の3人は発案者だけあり積極的に業務をこなしている。中でも、やはり千秋の優秀さは頭ひとつ抜けており、周囲へのフォローを欠かさない。慈愛の精神を持ち合わせた完璧なメイドだ。

 その丁寧で優雅な仕草には思わず目を奪われる。

 

 オレも客として入りたいところだが、こっちはこっちで仕事がある。

 名残惜しい気持ちはあるが、裏方に入りながら千秋の活躍を横目で眺めるとしよう。

 彼女はみーちゃんが水の入ったコップを落とすなどのトラブルが発生しても、極めて冷静かつ的確に対処している。

 このメイド喫茶の柱のような存在だ。

 

「さすがね、松下さんは。彼女がいればとりあえず心配は要らなさそう」

 

 堀北の太鼓判ももらった。

 オレは千秋の円滑な接客対応を学習しながら、裏でドリンクの作成やチェキの準備、撮影などの雑務をこなす。

 

 やがて、千秋以外のメンバーたちもだいぶ接客に慣れてきたころ、ようやく千秋の休憩時間が回ってきた。

 

「お待たせ、清隆くん。今日はもう上がって大丈夫だそうだから、デートに行こうか」

 

 千秋に促され、オレたちは各クラスの出し物を見て回る、学園祭デートを決行した。

 

 学校の敷地内に屋台がずらりと並んでいる。ウチから出店している粉物の屋台もあるが、あれは散々試食したから今更食べる気にはなれない。

 

「チョコバナナ、りんご飴、じゃがバター、焼きそば……まさにお祭りって感じのラインナップだね」

「焼きそばは食べたことあるくらいだな。どれも美味そうだ」

 

 お祭りを楽しむために朝食は抜いた。

 程よく腹も減ってきたし、色々とある屋台につい目移りしてしまう。

 オレも健全な男子高校生。一種類ずつなら余裕で腹に入るだろう。

 

「よう、お二人さん!」

 

 片手をあげて声をかけてきたのは、龍園クラスの石崎と、その後ろに立つアルベルトだ。

 

「石崎くん、アルベルトくん。こないだの誕生パーティーはお誘いありがとうね」

「いやいや、俺らも楽しかったし、龍園さんも喜んでくれたはずだぜ」

 

 オレと龍園の誕生日が10月20日で同じ日だったため、龍園クラスの何人かと一緒に誕生パーティーをした時の龍園の顔を思い出す。

 楽しそう……だったか?

 

「綾小路は頭にお面、左手にチョコバナナ、右手にりんご飴とは祭りを楽しんでんな」

「わたあめにも興味がある」

 

 話しかけてきた石崎の手にあるわたあめに注目する。

 砂糖をわた状にしただけのお菓子だと聞くが、色とりどりのトッピングがされている上にふわふわで美味そうだ。

 

「わたあめなら向こうに売ってたぜ。3年の屋台だったかな」

「ありがとう。石崎と山田は、今日は龍園と一緒じゃないんだな」

「まあな。龍園さんも忙しいみたいだからよ。できる限り手伝いてえんだけど、俺じゃ役立てないことも最近多くて……」

 

 石崎は少し肩を落とす。そんな彼の背中を、後ろのアルベルトがぽんと叩いた。

 

「龍園も大変だな。生徒会とクラスのリーダーの二足の草鞋は、さすがにオーバーワークなんじゃないか?」

「俺もそう思ってたんだけどよ、ひよりたちもクラス運営に携わってくれるようになったし、意外と時任たちが……あ、いや」

 

 ベラベラと内情を話しすぎると、龍園にまた折檻されかねない。石崎の言葉を、アルベルトが肩を引いて止めた。

 なるほど、前年のクラス内投票や先日の満場一致特別試験でも脱落者を出さなかった龍園を、対抗勢力である時任たちが認めてきている。クラスを統一するのに注力する必要がなくなったのか。

 また、椎名や、おそらくは金田といった頭脳担当らを補佐に当てることで労力が減り、生徒会の業務も問題なく行えているということか。

 龍園クラスのチームワークもかなり深まってきているようだ。油断できないな。

 

「それより、綾小路、松下。俺の出品するプロテイン飲んでみてくれよ。クエン酸ドリンクと混ぜると面白い味になるんだぜ」

「面白い味?」

「飲んでみてのお楽しみだ」

 

 なんだか嫌な予感がするが、何事もチャレンジだ。が、得体の知れないものを千秋に飲ませるわけにはいかない。

 オレはチョコバナナとりんご飴を千秋に渡し、石崎から紙コップを受け取る。

 プロテインとクエン酸……問題がある組み合わせとは思えないが。

 

 くい、と紙コップを煽り、喉に流し込む。

 ……その味は最悪だった。吐瀉物のような風味だ。

 

「清隆くん、大丈夫?」

「うおっ、綾小路が険しい顔してるぞ! こりゃすげえ威力だ……!」

「変なところで感動しないでくれるか」

 

 龍園が知ったら喜びそうなネタなのはその通りだが。

 交渉の際、事あるごとに石崎特製プロテインを飲ませようとしてくる龍園……想像するだけでげんなりする。

 これを一杯500ポイントで出品するらしい。狂気の沙汰だ。

 アルベルトに渡された水で口の中を浄化する。

 

「サンキュー、アルベルト」

 

 アルベルトは小さく笑い、頷いた。

 やはりアルベルトは良いやつだ。いや、石崎が嫌なやつというわけではないが。

 

「千秋は飲まない方がいい」

「そうさせてもらうね。でも石崎くん、ウチの清隆くんに変なもの飲ませないでよね」

「お母さんかよ。でも、綾小路の珍しい表情が見れたぜ?」

「それは……ナイスかも」

「おい」

 

 あれはもう飲みたくない。

 石崎たちと別れ、オレたちは引き続き屋台を見て回る。

 食べ物は十分楽しんだし、次は遊びだな。

 

「縁日だと射的や輪投げ、型抜きなんかが有名かな」

「なるほど……輪投げに関しては、今日はプレオープンだから、景品はもらえないみたいだな。射的はお菓子がもらえるみたいだ」

 

 千秋にプレゼントできないのは残念だが、早速2人で輪投げにチャレンジしてみる。

 欲しい景品に向けて輪を投げ、景品を囲い地面まで輪が落ちれば成功。

 一番高価そうな景品を狙うも、輪の大きさギリギリの幅となっているようで上手くいかない。

 結果は、千秋の勝利となった。

 

「やった。私の勝ちだね」

「なかなか難しいな……」

「高い景品はそれだけ難易度も高いからね。でも、清隆くんなら何回か練習すればいけるんじゃない?」

「いや、そんなこともないと思うぞ。それに、輪投げも射的も今日はチャレンジは一人一回だそうだ」

 

 宝泉に絡まれたりもしつつ、遊技を楽しんだオレたちは、次はグラウンド方面へ移動する。

 部活動に参加している生徒が多く出し物をしているらしい。サッカー部の生徒たちが、PKの距離からボールを蹴って行うサッカー版のストラックアウトのようなものを出し物としている。

 

「サッカーか。洋介と何度かやったことがあるし、あれなら行けるかもな」

「私は見学させてもらおうかな」

 

 メイド服だしな。PKのような運動はしづらいだろう。

 

「綾小路、松下。おまえたちもキックターゲットをやりに来たのか?」

 

 キックターゲットって言うのか、あれは。

 

「南雲会長もですか?」

「まあ、元サッカー部だからな。3年の別クラスのやつの出し物らしいが、この俺がやらないわけにもいかないだろ。どうだ綾小路、勝負しないか?」

 

 本当、勝負事が好きな男だ。

 

「良いですよ」

「……やけにすんなり了承するな。なにか企んでやがるのか?」

「別に、何も企んではいませんが……」

 

 オレを何だと思っているのか。

 別に負けても退学するわけでも、クラスポイントが減るわけでもないのだから気楽なものだ。そもそも負けるとは思っていないが。

 だが、南雲のことだ。なにか賭けるか、なんて言い出しそうなものだが……

 

「しかし、ただ勝負ってのも緊張感がないよな。ポイントでも賭けるか」

 

 そら来た。

 

「生徒会長が賭け事をやっていいんですか?」

「今更だろ。それを言い出したらこの学校の試験なんてどうなるんだ」

「それはそうですね。分かりました、額はどうします?」

「2000万……ってのは冗談として、勝った方が負けた方に50000ポイントを渡す、でどうだ? 丁度良い額だろ」

 

 南雲も無茶苦茶ばかりして桐山はじめ他の3年生に睨まれているからな。あまり気にしてはいないようだが、ここで無意味に3年生の忠誠を揺るがすつもりもないらしい。

 丁度良い額なのかは知らないが、50000ならお互い、ポケットマネーから十分出せる額だと言える。

 千秋の方をちらと見ると、呆れ顔ながらも頷いた。

 

「分かりました。引き分けの場合は?」

「もう一回やり直しだ。そこでも勝負が付かなければ、次回に持ち越しだな」

 

 次回って、まだやるつもりなのか。面倒な……

 ともかく、キックターゲットが始まった。

 

 ペナルティマーク、ゴールから11メートルほどの距離からボールを5回蹴る。

 大きな布がゴール前に張られており、数字の書いてある部分はボールが通り抜けるようになっている。そこにシュートを決めれば、書かれた数値分加点される。

 穴が小さいほど、また難しい位置にあるほど得点が高くなっている。数字が付いてない部分にシュートしてしまうと、当然ながら得点にはならない。

 10点が、20点、30点、50点の穴がそれぞれ2箇所ずつある。最大得点は50点を5回で250点。

 今の所最高得点は……洋介の220点か。

 

「先行を譲ってやろうか?」

「どちらでも構いませんが、そういうことならお言葉に甘えます」

 

 オレから先にスタートする。

 洋介と軽く遊んだ時のことを思い出しながらボールを蹴る。

 ボールはあっさりと50点の穴に吸い込まれた。

 

「清隆くんナイスシュート!」

「やるな、綾小路。綺麗なフォームだったぜ」

 

 千秋の声援に乗っかるように、パチパチ、と南雲が拍手する。

 オレはそのまま、全く同じフォームで同じコースに連続で決め続ける。結果、満点の250点を獲得した。

 

「パーフェクトとはな。綾小路、お前実は経験者だったのか?」

「シュートのやり方は洋介に教わりました」

「ほう、あいつ教えるの上手いじゃないか。俺が抜けてどうなるかと思ったが、高育サッカー部は安泰だな」

 

 オレが満点を取った以上、失敗できないというのに、南雲は余裕の表情を崩さない。サッカー部としての経験に裏打ちされた自信が顔を覗かせている。

 南雲の番となるが、彼も同じく満点を獲得した。それも、同じフォームで同じ場所を狙ったオレとは異なり、2箇所の50点の穴を交互に狙った上での満点。自分の方が技術は上だと言わんばかりのしたり顔で、こちらを見てくる。

 

「引き分けだな。次も先行をやるから、また満点を取れるように頑張れよ、綾小路」

 

 ぽん、と肩に手を置いてくる。

 オレは1回目のシュートを50点の位置に決める。南雲や、いつの間にか集まっている幾人かのギャラリーも拍手をする。

 

 ギャラリーは3年の生徒ばかりだ。南雲はこちらにプレッシャーをかけようとしてきているわけだ。

 なるほど、相手のミスを誘う手か。

 オレも50000ポイントはちょっと欲しいし、同じように向こうにプレッシャーをかけてみるとしよう。

 

 進行役の生徒からボールを受け取ると、オレはペナルティマークからさらに後退する。

 

「おいおい、随分派手なパフォーマンスだな」

「近づいているわけではないので、問題ありませんよね?」

「面白いな。いいぜ、やってみな」

 

 2度目のシュートも50点の箇所に決め、さらに後退。

 3度目、4度目と同じように退がり続け、5度目にはコートの4分の1ほどの距離、だいたい25メートルほど離れてからのシュートとなった。

 だが、それでもボールは50点の箇所を通過し、オレは満点を獲得した。

 

「次は南雲会長の番ですね」

「……そうだな」

 

 南雲の面持ちは硬い。

 南雲の2度目のチャレンジ。

 最初のシュートは問題なく決める。進行役からボールを受け取った南雲は、少し考え込む。オレと同じように退がるか、その場で続けるかを考えているのだろう。

 プライドからか、南雲はオレと同じように後退することを選んだ。

 しかし、2度目まではなんとか50点を取り続けたものの、3度目のシュートを失敗し、南雲の敗北が決定した。

 

「コントロールは中々のもんだな、綾小路。だが、本当のPKはゴールキーパーを振り切るキック力も必要だからな、こうはいかないぜ。ま、今回はポイントはくれてやるよ」

 

 懲りない南雲から、50000ポイントの入金を確認する。

 

「ありがとうございます」

「やったね、清隆くん。おめでとう」

「臨時収入も入ったことだし、今日はちょっと良い店で夕食にしよう」

「ほんと? やった!」

 

 喜ぶメイド千秋は可愛らしい。

 南雲のおかげだ、感謝しておくとしよう。

 このくらいの賭けなら定期的に挑んでくれてもいいかもしれないな。




おまけ
諸事情で修正された綾小路くんと堀北さんのやり取り


「この文化祭、もらったな。ミスコンがあればウチの千秋が優勝を掻っ攫っていただろう」
「松下さんは美人だけど……かなりあなたの贔屓目が入っていないかしら」
「何を言う。全く公平な判断基準のもとでの言葉だ」
「そう……」
「さて、もう一度列に並んでくるとするか」
「あなた、さっきも松下さんのチェキを撮るために並んだわよね!? いい加減に仕事をしなさい!」
「いや待ってくれ。ピースだけじゃ不満足だ。接触は禁止だがハートを作るものや壁ドン、他にも色々やりたいポーズがあってだな」
「そんなの営業が終わってからゆっくり撮ればいいでしょう!?」
「馬鹿だな堀北。本当のファンはそんな抜け道でなく、正当な手段で手に入れたものにこそ価値を見出すものなんだよ。苦労して手に入れたものにこそ心のプレミアが付くんだ」
「あなた外村くんに心を乗っ取られていない?」
「確かに師匠には、メイド喫茶話を聞いた際に色々と薫陶を賜ったが……」
「ちょっと外村くんとお話ししてくるわ」

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