第31話での月城さんとの遭遇からルート分岐となります。
本編との相違点は
・松下さんとその家族を人質に取らなかった
・なので綾小路くんが自主退学してない
・月城理事長も便宜を図らないので葛城くんは坂柳クラスに残留
こんな感じです。
堀北学らが卒業し、新学期。オレたちは2年生として、気持ちを新たにこの高度育成高等学校での刺激的な学生生活に身を投じていくことになる。
オレに残された時間も、あと2年。これからも学生としての時間、そして千秋との時間は大切にしていきたいところだ。
2年次となっても、クラス替えはない。それは1年次から説明されていたことではあるが、普通の生徒が当たり前に体験したことのある事象を受けられないのは、少し寂寥感を覚える。
とはいえ、この学校のシステム上仕方ないことだ。受け入れる他ない。千秋と違うクラスにならなかった、と前向きに捉えるとする。
「よ、綾小路」
「また松下と一緒に登校かよ。お前らいつもイチャイチャしてんな」
三宅と須藤からそんな声をかけられる。
「二人とも早いな。朝練か?」
「部活組は皆そうっぽいな。平田や小野寺もだろ」
「始業式くらい休ませてほしいぜ……まあ、部活説明会の準備とかもあるからしゃーねーけどよ」
「須藤は部活説明会に出るんだな」
「ああ。今回は数分のアピール時間がもらえるらしくてよ。ちょうど体育館でやることだし、実際シュート打ったりすんだよ。試合より緊張するぜ」
「良いよな、球技は。弓道は実際やると危ないからって、アピールタイムは特に何もできないんだぞ」
「それは……ちょっと可哀想だな。まあ、弓道部も緩いところをアピールすれば、気が合う奴が入部してくるだろう」
部活か……結局オレはどの部活にも入らなかったな。
入部したらそれはそれで楽しいんだろうが、千秋との時間も大切にしたい。緩い弓道部はアリかもしれないが、そんな環境で結果を残しすぎても考えものだ。
実力を抑えて部活に参加するのも三宅に悪い気がするし、やはり入部はしなかった。
「サッカー部も、リフティングでアピールすることになったよ」
「平田も出るのか」
なるほど、体育館という狭い空間でも、リフティングなら場所を取らないしな。
しかし、サッカー部なんて人気の部活動ならわざわざアピールをするまでもなく入部希望者はいると思うが……いや、高校から始めるやつだっているか。きっかけになればなんでもいい。
それに、平田がアピールするなら、マネージャー希望の女子が溢れかえる可能性はある。
「どこも大変だな」
「僕は1年生もそうだけど、綾小路くんにサッカー部に入ってほしいけどね。……いや、それはバスケ部も弓道部も同じかな」
2人は大きく頷いている。気持ちは嬉しいが、1年生と同じタイミングで入部は嫌だ。オレは首を縦に振ることはなかった。
やがてチャイムが鳴り、各々が一年時の席に戻る。
茶柱先生が入室する。その顔はどこか嬉しそうだ。自分の受け持つクラスが、最高評価のクラスとなったことが誇らしいのだろうか。
「揃っているな。まずはこう言っておこう。Aクラス昇格おめでとう、とな」
その言葉にクラスが沸く。学年末特別試験を終えた直後には終業式があったし、すぐに春休みとなった。オレたちのクラスがAクラスに本格的に移行したのは、今回が初だ。
教室の表札も『2-A』となっている。
「だが、油断はするな。Bクラスとのポイント差は僅かだ。特別試験1つでひっくり返る程度でしかない。卒業した際の特権を得られるのは、最終的にAで卒業したクラスの生徒だけだということを忘れるな」
「そんなこと分かってますって。大丈夫ですよ、綾小路もいるんだし!」
池からそんなセリフが飛び出し、オレへの注目が集まる。
坂柳とのチェス対決を制したことで、クラス中、いや学年中の生徒が、オレが学年で最も優れた生徒だと認識しているようだ。
頼られるのは悪い気はしないが、それでクラスメイトの成長が止まるのはよろしくはない。
「オレだけに頼っているようじゃ、すぐ下位のクラスに逆戻りだ。皆が成長してこそ、Aクラスを維持できる。どんなに勉強ができようが、1人で取れる点数は1教科100点だ。クラスの総合点を競うようなテストがあれば、オレたちの不利は変わらない」
「そ、それはそうだけどさ……」
「一人ひとりが力を付けることが重要なんだ。当たり前だが、個より集団の方が強い」
しん、とクラスが静まり返る。
クラスのリーダーは堀北や平田だが、クラスで誰よりも成果を出しているオレの言葉に、言いたいことがあったとしても反論できない状態となっている。
あまり良くない傾向だ。
「悪い、説教をするつもりはなかった。オレが言いたかったのは、Aに上がったのがオレだけの力だと思うのは間違いだってことだ。皆で掴んだAクラス。維持していくのも、オレたち全員で、だ。皆も1年前とは違う。そうだろう?」
「清隆くん、私と2人の時はいっつも皆のこと褒めてるもんね。また須藤くんのテストの点が上がったとか、今日は山内くんが真面目に授業受けてた、とかさ」
「千秋、余計なことを言わなくていい」
「はーい」
と口では言いつつ、内心では親指を立てる。ナイスフォローだ、千秋。
名前が出てきた須藤、山内は照れ臭そうにしている。
「……意識の改善もできたところで、話を続けさせてもらおうか。といっても、今日のホームルームでの連絡事項は特にない。教科書類のデジタル化は以前説明した通りだ。設定に問題はないな?」
生徒たちからは特に声は上がらない。
「よし。なら、今回残る議題は『席替え』だ」
なんだと……
オレは思わず立ち上がりそうになる。
クラス替えは体験できなかったが、席替え。そういうのもあるのか。
なるほど。クラスメイト同士といっても、やはり席が近いものほどよく話す相手となる。それは入学当初、孤独少女だった堀北が唯一話す相手が隣の席のオレだったことが証明している。
席替えという機会にそれをシャッフルすることで、クラスメイトでも別な相手との仲を深めさせることが目的。そういうことか。
なら、ある程度親しいやつとは席を離した方がいいのか……?
だが、千秋とあまり席が離れすぎるのは避けたい。なんなら隣がいい。
「先生、席はどう決めるんすか?」
「おまえたちの自主性に任せる。ただ、希望があればプライベートポイントで好きな席を確保することもできる」
なるほど、この学校ならではのシステムだ。
しかし、金銭と同様の使い方ができるプライベートポイントで席を買うのか……
クラスメイトの何人かはおおっ、と盛り上がりを見せるが、明確に難色を示す生徒がひとり。
「皆、こんなことでプライベートポイントを使うのは勿体無いわ。最終的に使うかどうかは個人に委ねるしかないけれど、極力話し合いで決めましょう」
この春休み、学との別れを通してさらに成長し、長い髪をショートにした堀北がそう提案する。
そりゃそうだ。プライベートポイントは日々の学生生活にも必要だし、何より特別試験の攻略にも重要な鍵となる。おいそれと無駄遣いして良いものではない。
やはり、クラスメイトたちも日々成長している。無闇やたらと意見を主張するものはなく、山内も、一人だけ必死に挙手して意見を出したいアピールをするに留めていた。
「皆、協力ありがとう。それじゃ、順番に席替えについての意見を聞いていくわ」
「順番って、どう決めるんだよ」
「名前の五十音順でいいんじゃないかしら。別に、先に出た意見が通るわけじゃないから安心して」
特に否定意見は出なかった。言いそうな池が五十音順なら早い段階で順番が回ってくるからだろう。山内の否定意見は蝉の鳴き声みたいなものだから誰も気にしない。
頭文字が「あ」のオレからか。
「オレの希望は——」
『松下(さん)の隣だろ(でしょ)』
……クラスのほぼ全員から、横槍が入る。
さっきのオレへの反論ができないってのは杞憂だったみたいだな。
オレの希望は通り、千秋の隣の席となった。
◆
放課後、気になったことがあるオレは千秋や堀北を観察しながら教室に残っていた。
特に動きはない、か。
こちらから促してもいいが、1年次はかなり出しゃばって動いたからな。もうAクラスまで引っ張りあげたことだし、あとはクラスメイトたちが頑張るのを陰ながらサポートするくらいでちょうどいいだろう。
まあ、周りの行動次第ではそうもいかないだろうが。
現段階では、本人たちが気付いてないことまでどうこう言うつもりはない。
「清隆くん、どうかした?」
「いや、なんでもない」
「それはなんでもなくない時の顔じゃない?」
千秋が隣の席から頬をツンツンと突いてくる。鋭いな。だが、話す気はないので「そんなことはない」と返答しておく。
「なんか隠してるね? うーん」
千秋は顎に手を当てて考える。オレの態度自体がヒントになってしまったが、それくらいは許容しよう。
「清隆くんは2年生になったら、周囲の成長のために特別試験で裏で動くのは控えめにするって言ってたよね……なら、言い淀んでいるのは特別試験かそれに関係するなにか? でも、茶柱先生からは特別試験について、なにか通達があったわけじゃない」
小声で、千秋は自らの考えを口にする。頭の中を整理するには良い手段だ。声に出す、書き出すといったアウトプットは、それ自体が新しい発想に繋がる。
「……通達があったわけじゃない?」
ぴく、と千秋の眉が上がる。
掴んだようだな。
「……そっか。そう。そうだよね。おかしい」
一人納得して頷いた千秋は、堀北と平田に声をかける。
千秋の席に、クラスリーダーたちが集う。2人はオレと千秋を交互に見ながら、何かあったのか質問してきた。
「ううん。何もなかった。でも、それって変じゃない?」
「どういうこと?」
「2人とも、1年前を思い出してみて。私たち、当時はどうだった?」
「どう、って……あまり思い出したくはないけど、散々だったわね」
堀北が苦虫を噛み潰したような顔で言う。
堀北自身、兄と和解した今、1年前の自分は若干の黒歴史となっていることだろう。
平田も苦笑いしている。最近はクラス仲が良好で、この男の心労は極めて少ない。心なしか肌ツヤが良く、男前が上がっているような気もする。
1年前のクラスの状況は散々だった、と懐古しているようだ。
「そうだね。授業態度も良くはなかったし、クラスもバラバラだった」
「クラスポイント0からのスタート。誰かさんのおかげで立て直しが利いたけれど、本当にドン底からのスタートだったわね」
無人島試験で活躍したのは本当なので、それに関しては否定する気はない。
「そう、ドン底、0ポイントに私たちは落ちた。もちろんクラス全体の授業態度が問題だったのはそうだけど、Sシステムのルールに気付けなかったことも原因の一つ。私たちが去年、ポイントを減らしたのはシステムについて誰からも知らされなかったから。そうじゃない?」
「あっ……!」
ここまでの話で、堀北、平田も千秋が何を言いたいのか見えてきたようだ。
「Sシステムについて、去年は上級生にも箝口令が敷かれていたはずだよ。でないと、上級生の口からすぐに情報が流出するからね」
「もう1年生も入学したっていうのに、それがない、ってことだね」
平田の言葉を受けて、千秋は頷く。
「つまり、今年の1年生は既にSシステムについてある程度知らされている可能性が高い」
「……羨ましいわね。ポイントが横並びでポイントの減少に関する情報もあるなら、挽回の機会はいくらでもある。クラスの順位もすぐに変動が起こりそうね」
「代わりに、クラス同士の争いは僕たちの代よりも熾烈になるかもしれないね」
「まあ、基本的には能力順に配属されているのは変わらないだろうから、Aクラスが有利ではあると思うが……下位クラスもいくらでも上がる目はあるな」
今年の1年生がすでにSシステムについて知らされているのであれば、ポイントを極端に減らすクラスは出ない。
だが、千秋が伝えたいのはさらにその先。
「どうして今年の1年生にはSシステムの説明がされたのか。あくまで予想だけど、直近で1年生を含む学校全体での大規模な特別試験が予定されているんじゃないかな」
「……クラスポイントやプライベートポイントの増減に関して説明するなら、Sシステムについて隠しておくわけにはいかないものね」
「もちろん、理事長が変わったことで学校の方針自体が変わった可能性だってあるけど、そう予想しておくに越したことはないと思う」
千秋の言う通りだ。取り越し苦労だったならそれはそれで構わない。笑い話にすればいいだけのこと。
可能性を予測し、備えておくことが重要だ。
「体育祭や混合合宿といった他学年と合同で行う試験の例を考えると、1年生と協力する必要が出るかもしれない」
「今のうちに優秀な生徒とコネを作っておくのが有利ね。平田くん、部活組への通達をお願いできるかしら」
「もちろんだよ。部活ってとっかかりがあると、下級生との関係は持ちやすいしね」
平田自身サッカー部だし、面倒見のいい男だ。すぐに後輩から慕われる先輩となるだろう。
須藤は……なにも知らない状態だとスパルタである可能性は否定できない。三宅や小野寺もそうだが、事前に後輩と仲良くしておくよう通達があれば、スムーズにことは進むだろう。
千秋の発案により、Aクラスは次の特別試験で他のクラスに一歩先んじたと言えるだろう。さすがはオレの彼女だ。