よう実 √松下   作:レイトントン

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パートナー試験③

 千秋と七瀬が話を進めた結果、2-Aと1-Dが組むかどうかは今日の放課後に決まる、ということになった。昼休み、千秋と机をくっつけて弁当を食べながら、パートナー筆記試験について考える。隣には堀北も立って、会話に交ざっていた。

 

「どうしようか。宝泉くん怖いんだよね、顔が。……というのは冗談にしても、やっぱり組むにはリスキー過ぎるかな」

「かなり粗暴で短絡的な印象ね。正直、私も組むなら他のクラスが良いと思うわ。私たちには他にも選択肢がある。他の1年生のクラスにも、平田くんたち部活組から呼びかけを行なってもらっていることだし」

 

 部活組といえば、驚いたことに、須藤には既にパートナーが出来ていた。学力Bの生徒で、バスケ部の後輩らしい。須藤はここ数日、後輩に対してかなり親切にしてきたとのことで、後輩に慕われるのも悪くないと溢していた。その成果と言えるだろう。

 後輩からの信頼は、須藤のさらなる精神的な成長にも繋がるプラス要素だ。このまま良い先輩を続けてもらいたいものだな。

 

 さて……弁当も食べ終わったことだし、オレも考えなければならない。

 ホワイトルーム生が誰なのかを。

 

 オレは春休み、月城と一つのゲームをすることに決めた。

 1年生160人の中に、ホワイトルーム生を紛れ込ませる。その正体を4月中に見抜くことができれば、その時点で月城は手を引く、というもの。

 デメリットは何もない。あまりにオレに有利なルールだが、月城の方から言い出したものだ。遊び感覚で付き合うことにしよう。

 複数人いるなら全員的中させるのは厳しいだろうしな。

 

 ホワイトルーム生を退けることは容易だが、問題は複数人いる可能性がある、ということ。1人だけなら退けるのは簡単でも、2人、3人と多人数で、しかも潜伏されると手間だ。

 

 月城理事長代理の賭けはともかく、1人くらいホワイトルーム生は削っておいていいかもしれない。

 今後の学校生活を円満に過ごすためにも。

 まあ……消えるかどうかは、向こうの出方次第か。色々と観察しなきゃならないことが多い。面倒だ。

 

「清隆くん?」

 

 しまった、物騒な思考に染まっていた。

 千秋が呼びかけてきたので意識を切り替える。

 

「どうした?」

「1年生が呼んでるってさ」

 

 教室の入り口を見ると、ちょうどその辺りにいたため声をかけられたらしい小野寺が手招きしていた。陰になっていて、1年生の顔は見えない。ただ、女子ではない。男子の制服だ。

 

「行ってくる」

「はーい」

 

 小野寺とバトンタッチし、オレを呼んだ1年生と対面する。オレより少々背の低い、少し幼さの残る顔立ちの少年だった。

 

「おまえは……1-Bの八神か」

「……! 既にOAAで1年生の顔を把握しているんですか?」

 

 八神は興奮を隠そうともせず、オレに詰め寄る。

 

「いや、おまえはオレにパートナー申請してきていただろ。だから覚えていただけだ」

 

 本当は八神の言う通りOAAの情報は全て記憶してあるが、情報を開示する意味もない。

 

「ああっ。すみません、僕としたことが。では、綾小路先輩はご存知でしょうが、改めて。八神拓也と申します。おっしゃる通り、1年Bクラスに所属しています」

「おまえもこちらを知っているようだが、2-A、綾小路清隆だ」

「綾小路先輩の名前を知らない1年生はいませんよ。お話しできて光栄です」

「大袈裟だ。それで、初対面のオレに何の用だ?」

 

 背後からクラスメイトのヒソヒソと囁く声が聞こえてくる。気恥ずかしいから早く会話を終わらせたいところだ。

 八神は意を決して、といった様子で切り出した。

 

「綾小路先輩。僕とパートナーを組んでいただけませんか?」

「理由は?」

「当然、上の順位を目指すためです。僭越ながら、僕は学力Aの評価を貰っています。綾小路先輩と組むことができれば、上位5ペアに入れるでしょうから」

 

 オレの、冷たいと捉えられてもおかしくない単刀直入な返しに対しても、八神は淀みなくそう答える。

 至極まっとうな理由だ。指摘するようなことは何もない。

 

「悪いがこちらとしては旨みのない話だな。どうせ上を目指すなら、もっと学力が上のやつはいるだろう」

 

 既に頭に入れてはいるが、さっき嘘をついた手前、何も見ずに例を出すのもおかしい。端末を取り出しOAAを開き、1年生の学力高順にソートする。

 

「1-Aの石上とかな」

「では、僕と組んではいただけませんか?」

「いや、そういうわけでもない。……ここからの話は少し場所を変えたい。ここは人目に付く」

 

 オレが教室を出ると、八神もそれに追従する。

 校舎の外に出て、歩きながら話す。

 

「さっきはああ言ったが、もしおまえが利益を提示できるのであれば、パートナーを組んでも構わない」

「それは……プライベートポイントでしょうか?」

 

 八神は不安そうに口にする。

 なるほど、既に1年生の間では交渉にプライベートポイントを持ちかけられるという事例が蔓延しているらしい。坂柳や龍園のクラスだな。

 

「いや、さすがに入学早々の後輩からポイントを巻き上げるようなことはしたくない」

「入学早々でなければするんですか? 怖い人ですね、綾小路先輩は」

「そこは冗談だ。それで、オレは何を求めていると思う?」

 

 試すような言葉を八神に投げかける。彼は顎に手を当てて逡巡し、やがて答えを出した。

 

「綾小路先輩にとって有利となるよう、僕のクラスの生徒からパートナーを融通する。ですかね」

「鋭いな」

 

 綾小路先輩のクラスにとって、ではないところが特にそう思う。

 

「よかった、正解でしたか。僕にもなんとかできそうなことで良かったです。人数はどうしますか?」

「そうだな……学力C以上を5人。最低2人はB以上を用意してくれ。期限は3日後の20時まででどうだ?」

「分かりました。交渉成立ですね」

「ああ。よろしく頼む」

 

 オレは八神に手を差し出す。

 彼ははにかみ、躊躇いがちにオレの手を取った。

 

 

 まだオレと八神でのパートナー締結までは時間がある。予約が入っていることを知らない1年生から、ひっきりなしに声をかけられるが、それは全て断らせてもらっている。

 もっとも早く接触してきた、かつこちらに利益を提示できた八神が、今のところ一番パートナーとしては有用に感じる。何もなければ、八神で決めて問題ないだろう。

 

「こんにちは、綾小路先輩」

 

 またか、と思いつつ、振り返る。

 声をかけてきたのは、赤髪の女子生徒。OAAの情報と照らし合わせると、名前は天沢一夏だったな。

 

「パートナーの勧誘か?」

「それもあるけど、単純に先輩に興味があって。ちょっとお話してもいいかな?」

「……ああ。だが、自己紹介くらいはしてくれ」

「あっ、ごめんごめん。先輩ならOAAくらい既に把握してるかと思って。天沢一夏、1-A。先輩と同じAクラスでーす。よろしくね」

 

 天沢はフレンドリーな口調、声色で、オレに語りかけてきた。

 彼女は学力Aを貰っている生徒だったな。ただ、機転思考力がD+と低く、対人能力は高くないと思っていた。

 OAA上では顔と名前、その生徒の数値化された能力までは把握できるが、やはり直接会わなければひととなりは分からないものだな。

 

「話って?」

「歩きながら話そうよ。秘密のお話だから、人に聞かれたくないんだよね」

「秘密の話か」

 

 後輩女子と2人きりで秘密の話。間違いなく千秋はいい顔をしないな。

 

「悪いがこの後予定がある」

 

 まだ宝泉たちとの話し合いまで時間はあるが、予定が入っていることは事実。それを盾にしてその場を離れようと試みる。

 

「ええーっ。そんなあ、綾小路先輩にも絶対良いお話だよ?」

「オレが食いつく話題がどんなものか知っているのか?」

 

 それこそ、OAAでは知り得ない情報のはず。

 月城に情報を与えられた刺客であるという可能性が高まる。

 オレからの意識を感じ取ったのか、天沢はにやりと小悪魔のような笑みを浮かべた。

 

「うん。たとえば……ホワイトルームについて、とかね」

 

 ……千秋への言い訳を考えておかないとな。

 

「分かった。話を聞こう」

「先輩やっさしー! あ、それとも一夏ちゃんの可愛さに目が眩んじゃった?」

「天沢はホワイトルームを知っているんだな」

「無視しないでよー!」

 

 くっついてこようとするのを、ひらりと避ける。

 

「可愛い後輩のハグを受け入れないなんて、罪な男だよ先輩は」

「答える気がないなら帰る」

「ごめんごめん! そうだよ。あたし、綾小路先輩の一個下、5期生だからね」

 

 なるほど。たしかに、オレはホワイトルームの4期生。天沢が実際にホワイトルームにいたかどうかは知らないが、少なくとも月城にある程度情報を渡されている刺客ということになる。

 

「それで? それをオレに明かすことで、おまえになんのメリットがある」

「知ってもらいたくて。私は綾小路先輩の味方だよ、ってこと」

 

 それを信じるほど、オレもこの学校で平和ボケしてはいない。

 オレの言いたいことは分かっているようで、待って、と天沢は手のひらを突き出してオレの言葉を制止する。

 

「信じられないよね。でも、信じてほしいな。あたし、綾小路先輩のこととても尊敬しているんだ」

「尊敬? なぜ?」

「あたしたちは常に綾小路先輩と比べられてきた。どんなに努力しても、結果を出しても、綾小路清隆はもっと凄かった。綾小路清隆のようになれ、って言われてね。最初は疑ってたけど……データで見て、そして実際に会ってみて分かった。綾小路先輩は最高傑作なんだ、ってね」

 

 胸に手を当てて、熱っぽい視線で天沢はオレを見ている。

 これが演技だとしたら大したものだな。オレは続きを促した。

 

「月城さんから聞いてるでしょ? 綾小路先輩を退学させるために、ホワイトルームから刺客が送り込まれてるってさ」

「ああ」

「ホワイトルーム生は、あたしを含めて2人。あたしは綾小路先輩を退学させたりしないけど、もうひとりはそうじゃない。むしろ、血反吐を吐いてまで叩き出したスコアを全部上回られて、ずっと比較されてきた……あいつは綾小路先輩を憎んでる」

「オレの味方だという割に、そいつの名前は出さないんだな」

「あはっ、ごめんね先輩。あたし基本的には先輩の味方だけど、あいつとの付き合いは先輩よりも長くてさ。さすがに売るような真似はできないよ。先輩とあいつが勝負するなら、あたしは傍観させてもらうかな」

 

 そこに関してはどっちつかずの立場を取るというわけだ。

 まあ、最初から天沢のことは味方としてカウントしてはいない。むしろ向こうの味方をしてくれても構わないくらいだが、こちらに付くというなら精々利用させてもらおう。

 それが嘘でも本当でも、オレの信用を得るためにはある程度の働きはこなす必要がある。

 

「分かった。それを無理に聞き出すつもりはない。だが、本当にオレの味方だというなら、早速働いてもらおうか」

「うん。なんでも言ってよ。たとえば……夜のお相手とかでも、あたしはオッケーだよ」

「公共の場でそういうことを言うのはやめろ」

 

 周りの奴に変な勘違いをされても困るし、千秋の耳に入ったら最悪だ。

 

「おまえのクラスの学力B以上の生徒を3人ほど捕まえてこい。オレが指名した相手と組ませろ」

「えー。あたしクラスで浮いてるから難しいよー」

「おまえが本当にホワイトルーム生なら、そう難しいことじゃないだろ。つべこべ言わずやれ」

「はーい」

 

 試しに強い口調で命令してみたが、天沢は嫌な顔ひとつ見せない。むしろ嬉しそうに笑っている。本当にホワイトルーム生なんだとしたら、命令されることには慣れているだろうからな。これだけで確定させるつもりはないが、可能性は高まったといえる。

 ただマゾ気質なだけの可能性もあるが。

 

「必要があれば呼ぶ。連絡先を交換しておくか」

「ご連絡お待ちしてまーす、先輩」

「ああ、じゃあな」

 

 天沢一夏か。本当にホワイトルーム生なのかはまだ明確でない以上、しばらく泳がせる必要があるな。

 

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