よう実 √松下   作:レイトントン

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パートナー試験④

 天沢との接触を挟みながら、オレは1-Dとの会談場所であるカラオケの一室へ向かう。

 既に堀北と須藤、千秋は集まっていた。

 

「悪い、遅くなった。後輩に絡まれてな」

 

 合流してほどなくすると、宝泉と七瀬がやってくる。時間通りだ。龍園と違って、時間は守るタイプのようだな。

 

「……それで、手を組むつもりはあるのかしら?」

「てめえらからポイントの提供があるなら組んでやってもいい」

「断るつもりならもっと簡潔に言うことね。時間を取らせたわ、さよなら」

「待ってください、堀北先輩。宝泉くんも。堀北先輩のクラスと組むのが最も手堅い手段のはずです」

 

 宝泉の挑発を受けてやる義理もない堀北は、さっさと退散しようとする。感情的になっているのではなく、時間の無駄だと冷静に判断した。

 しかし、七瀬がそれを引き留める。

 

 坂柳のクラスは学力の高い1年生をポイントで引き入れようとしている。順当にいけば、今回の試験で1位となるのはここだろう。

 龍園のクラスも坂柳に追随し、マネーゲームを繰り広げている。が、あくまで坂柳クラスへの負担をかけるのがメインの目的なのだろう。まだ坂柳のクラスほどパートナーを締結できてはいないようだ。

 一之瀬のクラスは1年生との交流会を開き、クラス問わず、学力に自信のない1年生らを集めているようだった。退学者を出さないことを優先しているようだな。あのクラスは学力の平均値が高いし、滅多なことでは退学者は出ない。

 

 オレたちのクラスと組むのが最も手堅いと七瀬は言ったが、一之瀬のクラスだってアリだ。無理してオレたちと組む必要はないと思うが。

 

「仕方ねえ、おまえのその態度も許してやるよ、堀北。なんせ知らねえんだもんな」

「知らない? なんのことかしら」

「おまえたちのクラスは未だかつてないほどの大ピンチってことさ」

「……話が見えないわ。そんなハッタリで交渉が有利になると思うなら甘すぎるわね。あなたのことを買い被っていたみたい」

 

 堀北はその場を去ろうとする。あまりに具体的でない宝泉の言動に、聞く価値がないと判断した堀北は、須藤と千秋、オレに促して交渉の席を立とうとする。

 

「良いのかよ。このままじゃ綾小路は退学だぜ?」

「……聞き捨てならないね」

 

 宝泉の言葉に、千秋が立ち止まった。

 

「どういうことかな。今回の特別試験、500点以下の点を取ればたしかに私たち2年生は退学になる。けど、清隆くんの学力は最高のA+。組む相手の候補も複数いるけど、誰もが学力A以上。退学になる要素はないよ」

「誰が今回の試験で退学になるっつった? 綾小路が危険に晒されるのは今回だけじゃねえのさ」

「……意味が分からない」

「行こうぜ、松下。どうせそいつの口から出まかせだ。綾小路が退学になんてなるわけねーだろ」

「確かに、その馬鹿の言う通り簡単に退学するタマじゃねえかもな。が、そうなる可能性が大きくなるほどにおまえらは不利な状況に陥ってんだよ。おまえらも知らない間にな」

 

 不敵に宝泉は笑う。隣の七瀬の顔も見るが、そこに迷いや躊躇いはない。ただ、力強い瞳でオレを射抜いている。

 

「……あなた、いったい何を知っているの」

「てめえらがウチと組み、ポイントを支払うってんなら、情報を恵んでやってもいいぜ」

 

 どこまでも、宝泉はポイントを求める。

 が、ここで支払ってやる義理も必要もない。

 

「堀北。オレはそう簡単に退学するつもりはない。情報を買う必要はない」

「……そうね。宝泉くん、悪いけどポイントはビタ一文支払うつもりはないわ」

 

 宝泉は耳の穴をかきながら、しばし考え込む。そして、小さく舌打ちした。

 

「そう簡単にはいかねえか。仕方ねえ、情報はくれてやる。が、それを話した上で、おまえらは俺にポイントを支払いたくなるだろうよ」

 

 宝泉は情報を売りつけることでポイントを引き出すのは諦めたようだが、まだポイントそのものを諦めた様子ではない。

 にや、と笑ったこの男は、語り始めた。その衝撃的な特別試験の内容を。

 

「おまえら2年は、このパートナーを組む筆記試験が今年度最初の特別試験だと思ってるんだろ?」

「……違うと言うの? 1年生には既に別の特別試験が与えられている、と?」

「ああ。それもごく一部の生徒だけにな。報酬は2000万プライベートポイント」

「にせっ……!?」

 

 思わず、といった様子で須藤が声を漏らした。2000万ポイントといったら、退学の取り消しやクラス間移動を可能にするだけの額。

 それを学校側が用意した、という言葉に、驚きを隠せないでいるようだ。

 

「……特別試験の内容は?」

「はっ、随分学校側の不興を買ったんじゃねえのか、綾小路。……試験内容は『綾小路清隆を退学させること』だとさ」

 

 一瞬、カラオケルームが静まりかえる。

 堀北、須藤、そして千秋は、宝泉の言葉の意味を理解しがたい様子だった。

 沈黙を破ったのは、バン、とテーブルを叩く音。

 

「そんな、あり得ない!」

 

 立ち上がった千秋が、両手をテーブルに叩きつけていた。

 

「理不尽が過ぎる! 清隆くんは何も悪いことをしていないし、そんな懸賞金みたいなものをかけられる謂れもない!」

「悪いことをしてなくても、謂れはあるんじゃねえのか。噂は聞いてるぜ、お前らのクラスは、去年0ポイントからたった1年で900ポイントを稼ぎ、Aクラスに上がった。いや、綾小路が上がらせた……ってところか」

 

 宝泉の指摘に、千秋が黙り込む。図星を突いて興が乗ったらしい宝泉は、語気を強めて笑う。

 

「強すぎたんだよ、ソイツは。クラスを競わせるのは学校の方針なんだろうな。ある程度なら力の差が出ることは仕方ねえ。それが競争だからな。しかし、バランスってもんがある。それをぶっ壊すほどの力を持ったそいつが邪魔なんだろうさ」

 

 これについては宝泉の予想なのだろう。実際の理由は、オレの出生に関わることが理由だ。しかし、そんなことを推察できるはずもない。

 だが、納得できないこともない推論ではある。

 

「ところが、何もやらかしていない奴を表立って退学にゃあできねえ。だから俺らみたいな1年を使って退学に追い込もうとしてんだろ。今回の試験、2年に不利すぎるとは思わなかったのか?」

「それは……っ!」

「ついでに言っておくなら、こいつは理事長直々に通達された試験だ。ウチの担任の頭すら飛び越えてのな。下手したらおまえらの担任も知らないことかもな」

「それについては、私も同じく証言します。私たちが綾小路先輩を退学させるよう指示された時、その場に月城理事長がいらっしゃいました」

 

 宝泉と七瀬の言葉に、堀北、須藤、そして千秋は動揺を隠せない。

 オレはオレで、気になったことができた。宝泉らに質問する。

 

「なら、おまえたちはオレを退学にし、報酬を得ようと思わなかったのか?」

 

 なぜ、わざわざそれをオレたちに明かしたのか。

 

「当然、最初は考えた。雑魚相手なら幾らでも手は考えられたが……てめえと直に接して、猪口才な手が通用する相手じゃねえことはすぐに分かった。なら、情報を流し、俺らを雇わせた方が得だと考えたわけだ」

「雇う?」

「ああ。1年の動向は1年の方が監視しやすい。そうだろ? 俺たち1-Dが綾小路を退学から守ってやるよ。月100万でな」

 

 なるほど。面白い売り込みだ。

 オレを退学させることでの成功報酬の受け取りが難しいと感じ取るや、他のクラスの妨害とともにオレたちからポイントを受け取る方向に舵を切った、というわけか。

 万が一にも他クラスとの差をつけられることを防ぎ、なおかつプライベートポイントの面で有利を得られる。

 この宝泉という男、戦闘能力だけではない。戦略もそれなりに立てられるらしいな。

 

「……宝泉くんの話が本当かどうかも分からないし、ポイントは支払えない」

「良いのかよ? この場で契約を締結しなけりゃ、今度は2年の他クラスにこの情報を持っていくぜ? こいつに退学してほしい奴なんていくらでもいるだろうさ。何せAクラスを目指す上での目の上のたんこぶなんだからな。1年と2年、両方に狙われて彼氏を守り切れるっていうなら好きにすりゃあいい」

「他の2年生だって、こんな馬鹿げた話信じるはずがないよ。今までの学校の方針から大きく外れているし、信じられるだけの根拠もない」

「信用なんざ関係ねえ。綾小路が邪魔だから排除したいのは2年のどのクラスも一緒だ。両手をあげて歓迎してくれるだろうよ。俺たちは2年から傭兵として雇われる。そして綾小路を退学させる。それで2000万と、さらに追加報酬を得られるって寸法だ」

 

 にや、と宝泉が笑う。普段であれば千秋や堀北なら宝泉との交渉も上手くやれるはずだが、今回は相手の握っているカードが強すぎた。

 仕方ない、ここはオレが引き継ぐか。

 良い戦略ではあった。宝泉……龍園ほどじゃないが、なかなか面白い男だ。

 

「悪いがおまえたちを雇うつもりはない」

 

 そう宣言する。3人は心配そうにオレを見てくる。しかし、こいつらを雇わないことに、なんの問題もない。

 元々、1年生は全員が警戒対象だった。2年も競争相手。それは変わらない。

 組まれたら困るという部分も、それほど気にしてはいない。

 

「退学させられない自信があるってのか? 自信過剰だぜ、それは」

「私もそう思います。まだ短い期間しか接していませんが、他のクラスの1年生も曲者揃いだと実感しているところです。それが2年生と組んでも、綾小路先輩の脅威にはならないと?」

「宝泉、おまえのさっきの言葉。2年他クラスから雇われたら2000万と追加報酬を得られる。たしかにその通りだ。なら、なぜ初めからそうしない?」

 

 オレの指摘に、宝泉は黙り込む。

 

「理由は幾つか考えられる。まず、この特別試験の内容はあまり大人数に知られたくないはずだ。さっき、この試験は1年生のごく一部にしか知らされていないと言ったな? その理由は明白だ。1年全体に周知すれば、当然2年、3年にも噂は広まっていく。そうすればオレたちも当然、学校側に強く抗議する。噂を知っている人間が多くなればなるほど、学校側もシラを切ることはできなくなる」

 

 逆に言えば、知っている人間が少なければ学校側も知らぬ存ぜぬを貫き通すことができる。特に月城が理事長である今、数人しか存在を知らない特別試験のことなんて認めない可能性が高い。

 だからこそ、極めて少人数を対象とした特別試験となっている。

 

「恐らく、この特別試験の内容を漏らすだけでもペナルティが課せられるはずだ。そんな中で、2年の他クラスに片っ端から交渉を持ち掛けることはできない。最低限の接触で組むことができるのは余程物分かりのいい相手か、今回ターゲットとなったオレたちのクラスだと踏んだ」

 

 交渉がスムーズに行くような相手か見定めるには、まだ入学してから日が浅過ぎる。2年生の各クラス相手に、有利に交渉を進められるとは思えない。

 なら、初めからターゲットであるオレたちに特別試験の存在を知らしめ危機感を煽ることで、交渉を通しやすくした。

 先ほど宝泉がしたように、断られたとしても他のクラスに話を持っていくと脅すこともできるからな。

 2年の他のクラスだったらそうはいかない。オレを退学させようと画策したとして、それが露呈すればオレたちのクラスから強い恨みを買うことになる。そのリスクを他のクラスが負ってくれるのであれば、むしろ喜ばしいことと言えるだろう。

 坂柳や龍園、一之瀬の人間性からは考えづらいが、一般的な考えとしてはそうなる。

 

「オレを簡単に退学させられないと判断したのも一因だろう。おまえはオレという個人を退学させろ、という指示に疑問を持った。オレがそれほどの存在なのかとな。そして実際に接触を図り、退学させるのは相当難しいと感じたんだろう。下手に退学させようとして失敗すれば、特別試験のことが露呈しかねない。それよりも自分たちから明かして信頼を勝ち取り、協力関係を得る方が、手間も労力も少ないと考えたわけだ」

 

 他の1年生に睨みを利かせているだけで、報酬が入り込んでくるからな。

 

「そして、最大の理由がオレの懐に入り込むことができるというメリット。散々美味い汁を吸ったところで、後ろから油断したオレを刺す。そして報酬を受け取るという動きができる」

 

 なっ、と言葉を失った須藤が目を見開く。堀北は、想定していないわけではなかったのか、悔しそうに視線を下げるのみだ。

 

「もちろん契約を交わす上で、契約内容を詰めればそれも難しいだろうが、不可能ではない。たとえば、1年他クラスと手を結び、情報を流してそいつらにオレを退学させてもらう。報酬を折半としておけば、クラス間で差が開くことはない。オレたちに気付かれることなく裏切ることは可能だ。オレに隙がないようなら、裏切りは諦めてボディガードの報酬だけを悠々と受け取ればいいしな」

 

 もちろん、他クラスに大量のポイントを渡すことにはなってしまうが、宝泉にはボディガードで得た資金がある分、差し引きはプラスとなる。そういった寸法だ。

 

「そこまで読み切ってやがるとはな……たった1人懸賞金をかけられたことといい、一体何者だよ、てめえ」

「どこにでもいる普通の高校生だ」

 

 千秋を含む全員からしらーっとした視線を向けられる。思い切り滑ってしまった。

 

「今のは俺でもどうかと思うぜ、綾小路」

「松下さん。ちゃんと彼氏のギャグセンスを磨いておいて頂戴」

「無茶言わないでよ。それは彼女の仕事じゃないし。それに、欠点の一つくらい残しておかないと近寄りがたいでしょ?」

「好き勝手言ってくれるな、おまえら……」

 

 だが、幸いなことにこの弛緩した空気に宝泉も毒気を抜かれたらしい。それを鋭く察知した七瀬が、声をかける。

 

「宝泉くん。綾小路先輩はやはり一筋縄では行かない人のようです。ここは今回の特別試験の突破を優先すべきかと」

「けっ。まあいい、ボディガードが欲しけりゃいつでも連絡しな。ポイント次第で請け負ってやるよ。今回はクラス同士で組むだけで満足しておいてやる」

「提案と情報提供には感謝している。礼として、こちらからは毎年行われているらしい特別試験の情報を提供させてもらおう。千秋、あとで七瀬の連絡先にペーパーシャッフルの概要を送っておいてくれ。堀北は契約書の作成だ。いいな?」

「うん、了解」

「分かったわ」

 

 しかし、ノータッチで行くつもりだったが、結局口を挟んでしまった。

 千秋を守るためだし、仕方ないことではあるが……

 堀北と七瀬で、OAAを元に組ませる生徒の選定が進んでいく。そんな中、宝泉の視線はずっとオレを留めていた。

 

「……まだ何かあるのか?」

「言っておくが、俺の本領はオツムじゃねえ、コッチだ。いずれてめえとは遊びたいもんだな、綾小路センパイ。2000万とは関係なしにな」

 

 宝泉は拳を握る。

 喧嘩自慢か。見た目はまさにその通りだし、パッと見ただけでもかなりの筋力量であることが窺える。

 ……面倒なやつに目を付けられてしまったようだ。




原作と2年生編の漫画を軽く読み直したら、なんか宝泉くんが好きになってきました。

・漫画版ではガタイの良いイケメン
・時間はちゃんと守る
・恐怖でクラスを支配。でもクラスメイトからポイントの巻き上げはしない
・↑なのに自分の足にナイフブッ刺してでもポイントを得ようとする
・一之瀬帆波推し

宝泉くん割と良い人説ない……?
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