ゴールデンウィークは楽しく過ごすことができた。
清隆くんとのデートもいつも通り楽しんだし、恵や寧々、麻耶たちとショッピングを楽しんだり、みーちゃんや井の頭さんたちとカフェでお喋りしたりもした。ポイントに余裕があるのはとてもありがたいことだ。
清隆くんは清隆くんで、平田くんや須藤くん、三宅くんとバスケやサッカーで遊んだり、幸村くんや堀北さんと図書館で勉強したりと充実した日々を過ごしていたみたい。
5月中は特別試験もなく、私たちは穏やかに春を過ごしていた。
1年生の間では、Cクラスの生徒が退学するなど色々と大変なことがあったみたいだけど、大きなニュースはそのくらい。
そして私たちは、6月も半ばを迎えていた。
教室に入ってきた茶柱先生の纏う雰囲気がいつもと違うことに、クラスメイト全員が気付いている。
こういった日はいつも、アレがくる。
「おまえたちとの付き合いも長くなってきた。雰囲気で感じ取っただろうが……次の特別試験についての話だ」
やっぱり、と思いつつ茶柱先生の話の続きを待つ。
「今回発表する特別試験は夏休み中に行われる」
「夏休み……結構先ですね」
「ああ。前もっての告知となったのは、この試験がかつてないほど大規模、かつ過酷な試験となるからだ」
茶柱先生の言葉に、皆の緊張が高まるのを感じ取る。
それにしても、夏休みの試験か……まさかとは思うけど。
「次の特別試験は『無人島サバイバル』だ」
やっぱり、無人島での試験。
前回は清隆くんの活躍で勝利できたけど……今回はかつてないほど大規模、というワードが気になる。
どうやら今回の試験期間は2週間のようで、7月20日から8月3日までの日程となっているみたい。
加えて、以前の無人島より大きい島での実施、かつ全学年合同で競い合うとのこと。
1年生は体格等で不利だけど、その分報酬は高く、ペナルティは少ないらしい。
年齢差もそうだけど、性差での不利もあると思った。しかし、そこは考慮されないようだ。
説明されるルールは一部だという。この場では全てのルールは開示されないらしい。
茶柱先生の言う通り、相当大がかりな試験のようで、ルールも複雑だ。
まず、7月16日までに小グループというものを組む。最大3人。同じ学年からの生徒同士でのみ、グループを組める。男女混合になる際は、男女比を1対2にしなければならない。ただ、男子のみや女子のみのグループ、単独のグループも作れるみたい。
清隆くんと2人きり、ってわけにはいかないね。
学校側としても不純異性交友があれば困るだろうし、無人島という監視の行き届かない場で、そういった状態を防ぐためのルールなんだろうか?
いや、早合点は危ないか。
グループを作成したあとは、どんな理由でも他グループへ移動はできない。
ただし、小グループが集まって大グループになることはあるみたいだ。小グループが最大3人なのに対し、大グループは最大6人。
ただ、大グループを組むには特別な条件があるみたいだけど、今回それは明かされなかった。
男女混合で大グループを組む際は、グループ内には半数以上女子がいる必要がある。
「詳しい内容は明かせないが、今回の試験で必要なのは体力だけではない。学力やコミュニケーション能力、精神力、その他様々な技能が必要となる」
あらゆる能力が必要になる、ということ。
そこも考慮して、バランス良くグループを組まないといけない。
また、グループを組むことの最も大きなメリットとして、脱落者が出た場合でも、残りのメンバーで試験を継続できる点を茶柱先生は強調した。
リタイアした生徒は船に戻るけど、最後まで残る生徒がいれば試験は継続することができる。
そして報酬についてだけど、やはり過酷な試験だけあってかなりのものだ。去年の船上試験ほどじゃないけど。
1位 300クラスポイント 100万プライベートポイント 1プロテクトポイント
2位 200クラスポイント 50万プライベートポイント
3位 100クラスポイント 25万プライベートポイント
もし1〜3位を独占するようなことがあれば、得られるのは実に600クラスポイント。まあ、これは現実的じゃないかもだけど、1位を取れれば一気に他クラスを突き放せる。
ただし、グループ内に他のクラスの生徒がいる場合は、クラスポイント報酬は構成人数に関わらず均等に分割される。プライベートポイントは全員に配布され、プロテクトポイントはグループ内の各クラス代表者1名に配布されるみたいだ。
たとえば、坂柳さんのクラスの精鋭5人とウチの山内くんを同じグループにして1位を取ってもらった場合、坂柳さんのクラスとウチのクラス、それぞれにクラスポイント150が入るわけだね。
坂柳さんのクラスが憤慨するから、そんな組み合わせにはならないだろうけど。
茶柱先生は続けて、ペナルティの話に移る。
この巨額の報酬は、成績下位のグループを擁するクラスから吸い出されるとのことだった。
最下位のグループにいる生徒を持つクラスは、マイナス100クラスポイントとなる。下から2番目は66、3番目は33。
4クラス混合の際だけは、それぞれ均等に割る形になる。
また、下位5グループに所属する生徒は退学となる。
大グループ6人が5グループ下位を取ってしまったら、30人もの生徒が退学になる。非常に厳しいペナルティだけど、代わりに退学取り消しにかかるポイントがグループ1つにつき600万プライベートポイントという救済措置も取られている。
グループに所属する生徒の数で割られるため、6人グループなら1人100万。ただし、退学が決定してからポイントの貸し借りはできない。
クラス貯金が3900万あれば誰も退学の心配なしに試験に臨めたけど、それはどのクラスも厳しいだろうね。坂柳さんのクラスなら可能性はあるかな?
とても厳しい試験な上に、茶柱先生はさらに追加のルールがあるという。
特別な効果を持つカードが事前に配られ、それを所持していることで様々な効果を得られるとのこと。
基本カード
・先行:試験開始時に使えるポイントが1.5倍になる
・追加:所有者の得るプライベートポイントを2倍にする
・半減:所有者のペナルティ時に支払うプライベートポイントを半減させる。
・便乗:試験開始時に指定したグループのプライベートポイント報酬の半分を追加で得る。指定したグループと合流し、同じ大グループとなった場合は効果は消滅する
・保険:体調不良等で失格した場合、所有者は1日だけ回復する猶予を得る。ただし不正による失格には使用できない
特殊カード
・増員:所有者は7人目としてグループに入れる。男女の割合にも左右されない
・無効:所有者のペナルティ時に支払うプライベートポイントを0にする
・試練:クラスポイント報酬を1.5倍にする権利を得る。ただし上位30%に入れなければペナルティを受ける。追加分の報酬は学校から提供される
試練のカードを除いて、どれを持っていても損はない。その試練のカードも、使い方次第ではとても強力な武器になる。
これらのカード8種類は、各生徒に1枚、ランダムに配られる。タイミングは明日の朝、特殊カードは学年につき各種1枚のみ。
特別試験開始までの間、同学年別クラスの生徒に限り譲渡やトレードが可能とのこと。
ただし同じ種類のカードで効果が重複することはない。
『試練』と『追加』のカードを清隆くんにありったけ集めて『便乗』を集中させれば……と思ったけど、それはできないってことだね。残念。
先生の説明は以上となった。とても複雑でややこしく、しかもまだ説明は一部。
こんなルールを書き出す人がいるとしたら大変だろうな。先生の話だとマニュアルが学内のイントラネットに配布されるらしいから、わざわざメモする人もいないだろうけど。
茶柱先生が退室するとともに、クラス内がざわつき始めた。清隆くん、堀北さん、平田くんとAクラスのリーダーたちの元にクラスメイトたちが集まり始める。
しかし、その中で高円寺くんだけが立ち上がり、早々に教室から出ていくのが見えた。
「千秋」
清隆くんから名前を呼ばれる。
……追え、ってことだね。了解了解。
私はこっそり教室から抜け出して、高円寺くんの後を尾ける。
少し歩くと、曲がり角を曲がった先で高円寺くんと茶柱先生が話し始めた。少し歩くペースが早いと思ったら、先生を追いかけてたんだ。
「……それで、今度の特別試験で体調不良に陥った単身の生徒はどうなるのかな? ティーチャー」
「体調不良だろうがペナルティを受けることとなる。去年の無人島試験のように早々のリタイアは不可能ということだ」
高円寺くんはまた特別試験をサボろうとしていたらしい。でも、それは不可能だ。
高円寺くんと組んであげる人はいないだろうし、ペナルティとなれば退学を防ぐには600万ものプライベートポイントが必要となる。
「オーケー、聞きたいことは聞けた。もう行って構わないよ、ティーチャー」
茶柱先生に、高円寺くんは上から目線でそう告げた。
こっちも高円寺くんの様子は探れたし、早く戻ろう。
「それで、松下ガールは盗み聞きかな? 感心しないねえ」
げ、と思わず声が出そうになる。
素人ながら、それなりに上手く尾行できてたと思ってたんだけど、とんだ思い上がりだった。
いや、高円寺くんが超人的なだけかな?
「ごめんごめん。高円寺くんが先生に質問なんて珍しいと思って、つい立ち聞きしちゃったよ」
「誤魔化さなくてもいいさ。綾小路ボーイの指示、だろう?」
後者だね、絶対。
「バレてたか。うん、そうだよ。清隆くんの指示。高円寺くんが動いたのが気になったんだってさ。清隆くんは無人島サバイバルの対策で忙しいから、私が代わりに尾けてた」
悪びれもせずにそう答える。
高円寺くんはちょっとくらい尾行されているのを気にするような性格してなさそうだし。
「ふふふ。さっきの会話を踏まえて、綾小路ボーイへの報告を行うわけだ。なら、彼に聞いておいてくれるかな。私を綾小路ボーイのグループに入れる気はないかとね」
いや、絶対試験開始直後にリタイアするでしょ。
そんなの受け入れられるわけない。
「一応聞いてはおくけど、多分拒否されると思うよ?」
「ふふふ、言ってみるだけ損はないからねえ」
高円寺くんが真面目に試験に臨む……そんな姿はまるで想像できない。
唯一真面目に臨んだフラッシュ暗算は、全問正解という恐ろしい結果だった。同じく参加した私自身、彼が怪物だというのは良く理解している。
ほんと、真面目にやってくれれば清隆くんと並んでウチのクラス最強戦力なのになあ。
……まあ、現時点でAクラスにいるわけだし、高円寺くんが本気を出したら過剰な戦力かもしれないけど。
高円寺くんから言伝を貰いつつ、私は教室に戻る。短い時間だったけど、既に堀北さんによって試験の方向性は示された。
ひとまずはクラス内で話が纏まるまでグループを確定させないこと、早急にグループを決める必要がある場合は堀北さんはじめリーダー陣の誰かに連絡すること。この2つを定めた。
けど、本格的にグループ決めの動きが出てくるのは、放課後になってからだと推測していた。戦略を練る時間も必要だしね。
◆
放課後、クラスメイトたちの端末から着信音が鳴り響く。オレのものからも同様だ。早速優秀な人材の取り合いが始まっているらしい。
「清隆くん、今回はどうする?」
千秋の端末も鳴りっぱなしだが、まだ応答する様子はない。
「千秋たちに任せる。が、オレは単独で動こうと思っているから、なるべく当てにしないでほしい」
「宝泉くんたちが言ってたアレだね」
実際には月城理事長代理による妨害を懸念しているわけだが、千秋がそう思ってくれているなら好都合だ。
「なら、清隆くんでも単独1位は厳しいかあ」
「アレがなければやらせるつもりだったのか……」
「清隆くんいつも言ってるじゃん。駒として動くつもりはあるってさ。実行する能力がある人にそれを任せるのは当然だよ」
「全くその通りね。単独1位を得られれば私たちのクラスは更に卒業までのAクラス維持が近付く。ぜひあなたには目指してもらいたいと思ったんだけど」
堀北も会話に加わってくる。期せずして対策会議のようになってしまったが、特別試験のことを話していると、「いいかな?」と声をかけられる。高円寺だ。
「堀北ガール、綾小路ボーイ。今回私が無人島サバイバルにおいて好成績を残したならば、私の卒業までのフリーダムを約束したまえ」
高円寺のよく通る声は、教室内に響く。何を言っているんだ、というクラスメイトたちの視線が彼を貫く。
たしかに、高円寺の能力なら無人島サバイバルがどんな内容だろうと、一定の成績を残すことは可能だろうな。
今回だけ力を貸すから、卒業までは今まで通り過ごさせてもらう。そんな契約を持ち出したのは、クラス内投票のような試験があった時に危機を排するためだろう。
オレは堀北に視線を遣る。彼女は頷き、高円寺の言葉に答えた。
「悪いけれど、私は高円寺くんの能力を高く評価しているわ。今回の試験だけそこそこの結果を出して、あとは働かないなんてもったいないことをするつもりはない」
「それでは交渉は決裂かな?」
「いいえ。条件次第では受けても構わない。まず、好成績なんて曖昧な表現じゃ受け入れられないわ。そうね、ちょうど綾小路くんとも話していたことだし、単独1位を獲ってもらう」
単独での1位。まだ特別試験のルールも確定していない現状で約束するには高いハードルだ。
しかし、高円寺はそれすら意に介さず承諾する。
「では交渉成立ということでいいかな?」
「いいえ? あなたの賭けに付き合わされる以上、こちらにもメリットが欲しいわね。単独1位を獲れなかった場合、次回以降の特別試験の内の一回、あなたに全力で働いてもらう。どの試験で協力してもらうかは、私か平田くん、松下さんが指示するわ」
良い交換条件だ。
高円寺が1位を獲っても獲れなくても損はない。
むしろ、理想としては高円寺に2位を獲ってもらうことだろう。
高円寺はその条件すら了承した。
未だ能力の底が見えない高円寺だが、その自信も相当なものだ。
「綾小路くん。やっぱり単独で1位を獲ってもらってもいいかしら」
「無茶言うな」
応えてやりたいのも山々だが、1年生や月城理事長代理の妨害があるだろうことを考えると、かなり難しいオーダーだ。まだ特別試験の全貌も見えないことだしな。
3年には学年の多くを掌握している南雲もいる。ルール次第では厳しい戦いになるだろう。
◆
数日が経過し、無人島サバイバルに向けて色々なグループが出来始めてくる。
千秋は軽井沢、森と組むことになったらようだ。軽井沢も森もここ最近は学力、身体能力ともに向上してきているし、上位が狙えるほどではないが、下位に沈む心配もない。悪くないグループと言える。
オレもひっきりなしにグループに誘われてはいるが、全て断った。
高円寺と同じく単独で挑むつもりだからだ。
単独の方が動きやすく、月城や1年生の妨害を回避しやすい。
が、そんなオレの様子が気になったらしく、オレは生徒会室に呼び出されていた。
「呼び出して悪いな、綾小路」
少しも悪いと思っていなさそうな表情で言ったのは、南雲だった。
「いえ。本日はどのような用件で?」
「綾小路清隆。OAAでは学力、身体能力ともに学校でも最高値。たった1年でクラスポイント0だったDクラスをAクラスまで引き上げた天才……堀北先輩が目をかけるだけのことはあるようだ」
「過分な評価をいただいてます」
「嫌味なやつだ。まあいい、綾小路。次の特別試験で俺と勝負しろ」
去年の南雲を思い出す。
学に挑み続け、ことあるごとに勝負を持ちかけていたこの男は、次はオレに目を付けたらしい。
「勝負というと……どちらの所属するグループがより高い順位を獲るか競う、という認識でいいですか」
「ああ。シンプルで最も分かりやすい」
「別に構いませんが……」
勝とうが負けようがデメリットはない。
が、オレのそんな内心を読んだように、南雲は人差し指を立てる。
「待て。本気でやってもらわなければ困るぜ。たとえどんな障害を抱えていようとな」
意味深に、南雲はそんなことを言う。
月城との関係を知られているのか?
いや、違う。
「例の懸賞金ですか」
「ああ。俺も名前を貸した程度だが関わりがある。本当の実力者なら、この程度の障害を押し付けられたところで問題ないだろ?」
「ええ。オレが本当の実力者なら、ですが。勝負してみれば案外大したことはないかもしれないですよ?」
「堀北先輩が買っていたお前だ。それはない」
南雲は学を相当に買っているようだ。もちろん、オレの噂やOAAの能力値を見て総合的に判断したことではあるだろうが、この男の評価を見直さなければならないかもしれない。
「もちろん全力で取り組むつもりですよ」
「それならいい、と簡単に信じるほど単純な性格じゃない。賭けをしようぜ、綾小路。おまえが勝てばなんでも望みを叶えてやる。俺の権力の及ぶ範囲であればな。ただし負ければ……おまえの彼女、松下を——」
南雲のよく回る舌が止まる。
オレの視線に気付いたからだろう。
そこから先の発言には気を付けろよ、と無言で主張する。
無人島は去年より広大だというし、学校側がどれだけ手段を講じようとも監視に穴はできる。月城にしても同じこと。
千秋を害するつもりなら、南雲には最悪無人島の冷たい海の底に沈んでもらう必要があるかもしれない。
それができないほど、オレも衰えたわけじゃない。
「……松下を生徒会に入れてもらおうか。お前の彼女は優秀だって聞くし、俺も生徒会の仕事が予想外に多くて辟易していた。ここいらで追加人員が欲しいと思っていたところだ」
「オレの一存で決められる話ではありませんね。千秋はモノじゃない」
「それはそうだな。なら、綾小路。お前に生徒会に入ってもらおうか。役職は書記で据え置き。どうだ?」
「構いません」
大したデメリットではないな。面倒な上、千秋との時間も減ってしまいそうだが、その時は千秋にも生徒会に入ってもらえばいい。
「よし。賭けは成立だ」
南雲は行っていいぞ、とオレに退室するよう促す。
だが、オレの方はせっかくだから伝えておきたいことがある。
「南雲会長。賭けとは別に、ひとつ個人的なお願いがあるんですが」
「なんだ? 言うだけならタダだ」
「堀北鈴音と龍園翔。この2名が生徒会入りを希望した時は、ぜひ受け入れてやってほしいんです」
オレの言葉に、南雲は露骨に顔を顰めた。
「言っておくが、俺はおまえからそんな言葉が出なければ素直に受け入れるつもりだったぜ。席が空いていれば来るもの拒まずのスタイルなんだよ、俺は。なぜその2人を推す? 堀北先輩の差し金か?」
「いえ。個人的に、生徒会入りしたら面白そうな人材だと思っているだけです。堀北鈴音には堀北学並の潜在能力がある。龍園翔には実現したい野望がある。楽しみじゃないですか、そんな奴らの才能が開花するのは」
「同級生への発言とは思えないな。まあ良いだろう、元から断るつもりもなかった。2年が帆波1人じゃ生徒会長は確定したようなもので残念だとは思っていたし、対抗馬ができるのは、退屈凌ぎにはちょうど良い」
南雲からの言質も取れたことだし、このあたりで満足しておくとするか。
生徒会室を出ると、待ち構えていたかのようにある男に捕まった。
3年Bクラスの桐山だ。彼はオレを校舎の外まで連れ出した。
「南雲に呼び出されたのか。おおかた、自分との勝負を要求したんだろう、あいつは」
「ええ。どちらが上の順位を獲るか、と。オレが負ければ生徒会入り、南雲会長が負ければオレの望みを叶えてくれるそうです」
「勝った時は何を要望するつもりだ?」
「桐山先輩にお話する必要はないと思いますが」
「……相変わらず生意気なやつだ。まあいい、精々南雲に勝って奴にダメージを与えてくれ。俺もAに上がるため、南雲に対抗するために色々と考えている」
その一つがこいつだ、とベンチに座る女を紹介される。
「鬼龍院。お前が言っていた通り、綾小路清隆を連れてきたぞ」
白銀の艶やかな髪を長く伸ばし、キリッとした吊り目が特徴の美女。桐山の発言、OAAと照らし合わせ、彼女が鬼龍院楓花という3年生であることを認識する。
OAAでオレと同じく学力、身体能力ともにA+という非常に優れた生徒だ。
が、協調性に類するものがオレよりも更に下であることは、機転思考力や社会貢献性の数値からも予想が付く。
「はじめましてだな。私は鬼龍院楓花、3年Bクラスだ」
「ご紹介に預かりました、綾小路清隆です」
「ふむ、君が噂の綾小路清隆か。素晴らしい実力を持っているそうじゃないか。なんでも高難易度の試験を全科目満点だとか。入学して以降、最初期を除いて常に試験では満点とも聞く。ふふ、入試では手を抜いていたわけだ」
「最初のうちは目立ちたくなかったもので」
オレのその言葉を聞いて桐山は眉根を寄せ、鬼龍院は大笑いした。
「それが今ではまるで逆の状態じゃないか! はは、面白い奴だ綾小路。桐山に無理を言った甲斐があった」
「オレと鬼龍院先輩を引き合わせたかったんですか?」
「この鬼龍院は高円寺に近い性質をしていてな。クラス間抗争にまるで興味がない。……が、今回の試験で噂を聞き付け、おまえに興味を持ったらしいからな。焚き付けられれば御の字と思っただけだ」
「本人を目の前にして言いますか?」
「構わんさ。桐山には普段から苦心させていることだしな」
「分かっているならクラスに協力しろ」
桐山の呆れたような物言いに、鬼龍院は笑って首を振る。良い性格をしているな。
しかし、桐山も強かだ。オレも高円寺を上手く動かす方法を探ってはいるが、まだアクションを起こしてはいない。
動かない山を動かす……そんな工夫を試みている桐山には好感を覚える。
鬼龍院の実力にも興味があるし、桐山にはクラス内投票の時の借りもある。協力するのは吝かじゃない。
「鬼龍院先輩は次の無人島サバイバル、単独で挑まれるんですか?」
「ああ。上位入りすれば大量のプライベートポイントが手に入るからな。1位を狙う必要はないが、上を目指すつもりはある」
「オレや、同じクラスの高円寺という生徒は単独1位を狙っています」
「ほう?」
半分嘘の混じった情報に、鬼龍院が食い付いた。興味深そうに片眉をあげている。
「南雲や他の後輩たちも相当厄介なはずだが、単独1位を狙うと。自信家だな、綾小路」
「オレも高円寺も、不可能とは思っていません。可能性は高くないでしょうが」
「可能性があるだけ凄まじいことだ。全校生徒はざっと450人。それらを全てなぎ倒せると考えているんだからな」
「学力と運動能力でオレに比肩する生徒は、今まで見てきた中ではそれこそ高円寺くらいのものです。ですが、鬼龍院先輩もOAAの評価を見るに、単独1位を狙える実力があるのでは?」
「まあな。君と同じだ。個人の能力で私以上だと思える生徒には、今までお目にかかったことがない」
鬼龍院は自らの能力を疑うことなく、強気に宣言した。たしかに、OAAで見れば鬼龍院は3年の中でも個人の能力は突出している。
同じ3年で言えば南雲や桐山も高水準に纏まった優秀な生徒だが、個人の能力だけで言えばトップは鬼龍院だ。
「なら、次の試験では初めて見つけることになるかもしれませんよ」
「君が勝つから、そう言いたいのか?」
鬼龍院の雰囲気が、単なる興味から好戦的なものへと変わっていく。
「どうでしょう。高円寺も相当に優れた生徒ですからね」
「ふふ……いいとも。後輩にここまで言われて黙っているほど、私の精神も成熟してはいない。君の挑発に乗ろう、綾小路。楽しみだ、私以上の評価を貰っている者の本気を見るのは」
狙い通り、鬼龍院はノッてきた。高円寺と同じような性格と聞いた時、この手が有効かは怪しいものだったが、オレのOAAが相応の数値だったことが良い方向に影響したらしい。
鬼龍院には少し悪いことをしたな。オレは次回の試験で1位を狙うわけではないから、期待には応えられそうもない。代わりに高円寺には頑張ってもらおう。
一方で桐山は、鬼龍院がやる気を見せたことが嬉しいのか、オレの肩を叩いてよくやってくれた、と笑顔で溢した。
オレ自身にも狙いがあってやったことだし礼を言われるのもむず痒かったが、素直に受け取っておくことにする。
鬼龍院の件は想定外だったが、プラスに働いた。
今のところ狙い通りにことが運んでいるが、あいつはどうなるか……
端末に届いた、オレと会って話がしたいという旨のメッセージを見ながらオレは嘆息した。