龍園くんと堀北さんが生徒会入りした。
その噂はあっという間に学校中を駆け巡り、特に龍園くんが生徒会なんてガラでないことも相まって中々の混乱を生んだわけだけど……
目の前の彼氏くんは、相変わらずの無表情で私の報告を聞くだけだ。
すっかり入り浸るようになった清隆くんの部屋で、私は彼への尋問を始めた。
「清隆くん、知ってたね?」
「……バレたか」
清隆くんより私の方が交友関係も広く、こういった噂の類に関しては耳が早い。にも関わらず清隆くんの方が早く情報に触れていた、ということは、彼が一枚噛んでいた、ということに他ならない。
……彼の出生のことにまでとやかく言うつもりはないけど、ちょーっと秘密が多過ぎるかな?
「秘密主義は結構だけど、行き過ぎると浮気を疑われるかもしれないよ?」
「それは困る。分かった、白状する」
浮気なんてしないと分かっているけど、そう脅してみると清隆くんは吐いた。
どうにも、今年の頭の混合合宿の時には龍園くんに生徒会入りを勧めていたらしい。プライベートポイント優先の戦略を取る彼にとって、試験のルール設定に介入できる生徒会は極めて魅力的だからだ。
敵に塩を送る行為ではあるけど、清隆くんの方針に口を出すつもりはない。私たちの成長を考えてくれているんだと思うし。
ただ、龍園くんだけに都合の良いルールを作らせることはウチのクラスを不利にしかねない。一之瀬さんが防波堤になるかもしれないけど、万が一彼女と龍園くんが結託すればストッパーはいなくなる。
そこで堀北さんに生徒会入りを命じたらしい。龍園くんの動きを監視し、清隆くんに伝える役割だ。
彼女のお兄さんは前生徒会長。生徒会入りを希望してもなんら不思議はないし、彼女自身、兄と同じ景色を見ることには前向きだった。
生徒会で南雲会長や龍園くん、一之瀬さんと腹芸を磨き合うのも良いだろう、とのことだ。
ついでに、南雲会長の動きの監視も依頼しているとのこと。抜け目ないね。
「それで隠していることは全てかな?」
「後は、今度の試験で生徒会長と順位を比べ合うことになった。負けたらオレも生徒会に入る。書記で」
「それは……生徒会長から仕掛けられたの?」
「ああ。南雲はどうも勝負事が好きみたいでな。学……堀北の兄が卒業して、ついにオレに目を付けたらしい」
清隆くんはうんざりした様子で言った。
そんなに嫌なんだ……
「オッケー。試験では私も協力するよ」
「いや、負けても大したデメリットじゃないから気にしなくていい。懸賞金の件もあるしな。むしろ、オレが千秋たちをサポートすることの方が多いかもな」
「そっか……なら、なにか私に手伝えることはない?」
「そうだな……もしオレが生徒会に入ったら、千秋も付いてきてくれ。一緒の時間が減るのは嫌だ」
思わず苦笑してしまう。
清隆くんがあまりに可愛らしかった。
「そんなことで良ければ、全然構わないよ。あ、南雲会長が認めればだけど……」
「無理にでも認めさせるさ。なんなら堀北か龍園、一之瀬と入れ替わりでも良い」
「酷い言い様だね!?」
敵クラスの龍園くんや一之瀬さんはともかく、堀北さんは自クラスな上に清隆くんの命令で生徒会入りしたというのに。
「他の人を排除してまで2人で生徒会入りなんて、どんだけバカップルなんだって思われるよ。ほんと度が過ぎてるからやめてね」
「……冗談だ」
いや、この間は冗談で言ってなかったな。
彼氏が私のことを愛しすぎてる。こっちもなんだけどさ。
「他に隠し事はないよね?」
「オレの家庭のこと関連以外にはない」
「……ふーん?」
嘘は言ってないけど、微妙に真実からは外れている感じはする。
まあ、清隆くんの秘密主義は今に始まったことじゃない。そのくらいは許してあげよう。
知られたくないことなんて誰にでもあるだろうし。
「次回の試験は色々大変だよね。難易度も高そうだし、高円寺くんや会長の件、懸賞金の件もあるし」
「一筋縄ではいかないのは確かだ。まあ、懸賞金はともかく高円寺と、一応南雲に対してはある程度の対策はある」
「えっ、ほんと?」
私は思わず聞いた。
まだ試験内容も定まっていない段階だというのに、早くも清隆くんは対策を打っている?
気になる……けど、そこは自分で考えてみたい。
清隆くんもそれを察したのか、頬杖を突きながら私を見守る。
「うーん、対策かあ。高円寺くんの1位を阻止するのが、条件面では一番簡単そうに見えるけど……生徒会長との勝負を誘導して1位を狙わせて高円寺くんの優勝を防ぐ、とか?」
「考え方は合っているな。だが、オレたちが誘導せずとも南雲は1位を狙ってたんじゃないか? 実力のある生徒ならトップを狙うのは当然といえば当然だ」
「う、だよね」
「南雲が1位を狙えそうなのは事実だ。だが、高円寺の実力は未知数。それだけでは防げない可能性もあるし、南雲が1位じゃオレの生徒会入りは確定してしまう」
「なら、清隆くんも順位争い入りして……っていうのも違うか……とすると、順位争いするための代理を立てて、そこをサポートする?」
この考えはいい線行ってるんじゃないかな。清隆くんの表情を盗み見ると、うんうんと頷いている。
「私が手伝えることはないか聞いた時、リアクション薄かったし私たちのグループが代理ってことはなさそう。なら、堀北さんか平田くんのグループ……いや」
それだけでは足りない、気がする。
「……もしかして、2年生の他クラスをサポートする?」
「ああ。もうほとんど正解だ。あと一息だな」
ほとんど、ってことはまだ先があるってことだよね。
うー、なんだろ……
「南雲に勝つため、そして他クラスに1位を獲られた時のデメリットを減らすためには?」
「……あっ、BCDクラスで組ませる?」
「正解だ」
清隆くんは満足気に頷いた。
そっか、3年生をほとんど掌握している南雲会長に対抗するには、2年生も組まないとだもんね。
加えて、単独で勝利されるのに比べて、3クラス合同でのグループで勝利された場合、得られるポイントはひとクラス100クラスポイント。プライベートポイントはひとクラス2〜300万程だ。
プロテクトポイントは痛いけど、他は高円寺くんが2位か3位くらいを取ればまだなんとかなる。
「B〜D連合と南雲傘下の3年生。戦力的にはほぼ互角か、3年が僅かに上という程度だろう。オレたちが連合に加勢すれば完全に戦力差は覆る。3年Bクラスは南雲に対抗しているしな」
「それに、他クラスにとっては有利でしかないもんね」
1年生の時、私たちは派手に勝ちまくった。そんな私たちが狙われなかったのは、入学当初から坂柳さんのクラスのポイントが圧倒的で常にAクラスだったからだ。常に狙われる立場だった彼女らに対して、有利なポジションで試験に臨めた。
今回は、逆に私たちが狙われる立場となる。他クラスへ干渉が利き、なおかつ違うクラス同士でも組める試験。なら、他学年への対抗と私たちAクラスへの包囲を同時に行えるB〜D連合は理にかなった戦略だ。
「まあ、南雲の方と同じくオレたちから働きかけなくても他クラス同士で組む可能性は高い。が、勝負を挑まれた南雲と違い、連合にはこちらから協力を申し出る余地がある」
「そうかな? 連合はAクラスを倒すためのものでしょ? なら協力なんてしてくれないんじゃ……」
「普通はそうだな。が、連合も敵同士で一時的に組んでいるに過ぎない。3クラス中2クラスが納得すれば交渉は通る」
……なるほど、そういうことだね。
怖いなあ、清隆くんは。
「南雲は自分が絶対王者だと疑っていない。2年連合だけじゃなく、暴れ回る高円寺や鬼龍院先輩、1年生たちへの対応にも追われることになる。そこに付け入る隙ができる……かもな」
まあ、できなくても生徒会入りするのを受け入れるだけで良い。そう呟いて、清隆くんはゆっくりとコーヒーを啜った。
私は、今の話を聞いてやらなければならないことができた。堀北さんにメッセージを送り、交渉相手のスケジュールを確認してもらう。
「……明日の放課後か」
◆
その放課後。私は授業が終わるやいなや、堀北さんと連れ立ってDクラスを訪ねていた。
「こんにちは、龍園くん」
「悪ぃがこれから生徒会の用事だ、シツレイするぜ」
「またまた、ここにおわすが誰かお忘れ? 同じ生徒会の堀北さんだよ?」
「龍園くん、あなたこの後に仕事なんて振られてないでしょう。いいから来なさい」
「優秀な鈴音サマと違って出来が悪くてなぁ、書類仕事に追われてんだよコッチは」
「なら生徒会室まで着いていくよ」
龍園くんは露骨に顔を顰め、頭を掻きながらため息を吐いた。やっぱり嘘だったんだ。
少し歩いて、人気のないベンチまで移動する。
「……用件はなんだ? てめえの作り笑いを見て鳥肌が立ったんだ、早くしろ」
「酷い言いようだね……次の試験、Aクラスは
「ああ? 元不良品どもが随分偉くなったな。綾小路の力を自分のものだと勘違いしたか?」
うっ。確かに偉そうな物言いだった。
虎の威を借る狐みたいで恥ずかしいな。
とはいえ、反省は後。今は強気な表情を崩さない。
「次の試験、当然龍園くんたちは1位を狙うつもりなんだよね?」
「おまえたちにペラペラ話してやる理由もねえ。だが、おまえの発言は面白いな。まるで1位を狙わないクラスがあるような言い方じゃねえか」
にやりと龍園くんが笑う。
見抜かれている。私の発言も迂闊だったけど、やっぱり鋭いな。
「話が早くて助かるよ。私たちのクラスは、次の試験1位を狙わない。さすがに2年他クラスで組まれちゃ、勝つのは大変だからね」
「クク、綾小路の入れ知恵だな。いいさ、そのくらいあってようやく俺と交渉できるレベルだろうからな」
「あなたたちが同盟を組んでいることくらい、私だって予想が付いていたわ」
「こりゃ失礼、悪かった。綾小路以外には脳みそが詰まっていないクラスだと思っていたことを謝罪させてくれ」
にやにやと嘲笑する龍園くんと、ガルルと唸っている姿が幻視されるほどに気が立っている堀北さん。相変わらず犬猿の仲だ。
とはいえ、龍園くんは暗に同盟を組んでることを認める発言をした。
ここまでは順調だね、一応。
「やっほー、堀北さん……って、あれ? 龍園くんに、松下さんも?」
話の途中で合流したのは、Cクラスのリーダー、一之瀬さん。堀北さんに呼んでもらった相手だ。
「生徒会関連……じゃなさそうだね。次の試験の話かな?」
「ええ。龍園くんとも話していたんだけど、あなたたちの同盟が1位になるよう協力したいの。もちろん、見返りも要求させてもらうけど」
一之瀬さんは一瞬、龍園くんの方を盗み見た。同盟のことを話したの? と聞きたげな顔。
「同盟については私たちの予想よ。Aを倒すために、他クラスが協調するんじゃないか、ってね」
「……やっぱり凄いなあ、Aクラスは。でも、さすがに一つのクラスじゃ同盟には勝てない。だから協力する代わりに見返りを求めるってことかな?」
私たちは頷く。しかし、一之瀬さんは少し難しい表情だ。理由は分かっている。
「あまりお人好しの一之瀬を困らせてやるなよ。遠慮せずハッキリ言っていいんだぜ、一之瀬。Aクラスを倒すための同盟なのに、Aに協力させて分け前を与えちゃ意味がねえってよ」
龍園くんが一之瀬さんの言いづらいことを代弁する。
「確かにね。でも、3年生……つまりは南雲会長に勝つには、やっぱりウチの力も必要なんじゃない? 3クラス連合対3クラス連合。人数は拮抗しているけど、ウチと対立しながら南雲会長ともやり合うのは大変だと思うよ」
「クク、脅しかよ。相変わらず怖え女だぜ」
「そんなつもりはないけど……試験で協力関係にない相手に、手心を加える意味もないからね」
「そうかよ。なら、条件ってのを聞くだけ聞いといてやる。言ってみな」
龍園くんは私たちから条件を聞き出そうとする。聞いてみるだけ、多少なりとも交渉に前向きになってくれたかな。
「便乗カード4枚でどう?」
龍園くんは露骨に顔を顰めた。
今回の試験、『便乗』カードの重要性はかなり高い。
B〜D連合のどこかのグループを1位にするよう協力するなら、当然2年のどのクラスもそのグループを便乗の対象に指定する。
『追加』、『増員』で得られるプライベートポイントを水増しするだろうから、『便乗』1枚につき得られるプライベートポイントは
1位 1人あたり100万ポイント
×2倍(『追加』カード)
÷2 (『便乗』カード)
で100万プライベートポイント。
もちろん、『増員』カードを持った生徒のグループが狙い通りに大グループを組めるとも限らないけど、今回私たちは自分たちの学年が協力し、1位を獲る前提で話を進めている。本気で狙うなら、たとえ困難な条件でもこのくらいは達成したいところ。
しかし、そうなると『便乗』カードは1枚100万プライベートポイントのチケットということになる。
各クラス約40名。通常のカードは5種。平等に配られるのであれば、各カードは7か8枚配られることになるはず。現にウチのクラスは39名、清隆くんに特殊カードの『試練』が配布された状態で、『便乗』カードは7枚配られている。
クラスによっては、100万ポイントが8枚で800万ものプライベートポイントが各クラスに入る。
それを4枚、つまり400万プライベートポイント相当のチケットを要求している。そりゃ、龍園くんも顔を顰めるよね。
「4枚、か。強欲な上に性格が悪いな、松下」
「お互いさまでしょ? もう結論は出てるんじゃないかな」
「一応、同盟相手にも聞いとかねえとな。一之瀬、てめえはどうだ? クラスポイントの差は縮まるが、400万をAに渡してまで協力させる気はあるか」
「南雲会長は凄い人だし、協力してくれるってことなら私は賛成だけど……一番聞かなきゃいけない相手は坂柳さんだよね……」
一之瀬さんも、龍園くんと同様に私の意図を察してくれた。
要求する便乗カードの枚数の割合としては、龍園くんと一之瀬さんのクラスから1枚ずつ、私たちのすぐ後ろに着く坂柳さんたちBクラスからは2枚もらいたい。そんな意図を。
「坂柳さんのクラスは次の試験次第じゃAクラスに上がるからね。2人としても戦力は削っておきたいんじゃない?」
「そりゃてめえらも同じことだぜ、Aクラス様よ。元々、てめえらを蹴落とすための同盟なんだよ。それが報酬を支払うようじゃ、差は縮まらねえだろ」
「クラスポイントでは差は縮まると思うけど。加えて言うなら、ウチは最初に配布された『便乗』カードは7枚だった。あなたたちのクラスは元々1枚多いんじゃない?」
龍園くん、一之瀬さんのクラスはウチのクラスと違って、ここまで退学者を出さずに来ている。特殊カードの配布状況次第だけど、便乗カードが8枚配布の可能性は高い。
「それに、1位の獲得報酬もあるし。『追加』カードでひとクラス最低400万は貰えるでしょ?」
「なるほど……たしかに、得られるプライベートポイントの額で、差は生まれないね」
「クク、坂柳だけが損するってんなら悪くねえ話だ。だが、組むにはまだ足りねえな」
組むのに乗り気になってくれていた一之瀬さんを遮るように、龍園くんは条件を被せてくる。
「綾小路が持っている『試練』カードを渡しな」
……たしかに、私たちは1位を目指さない、龍園くんたちをサポートするという体で協力を申し出た。
私たちがこの条件を断れば、『裏で清隆くんを上位入りさせるように企んでいます』と言っているようなものだ。
サポートはしつつも、こっそり清隆くんが上位入り……たとえば2位に入れば、『試練』カードの効果で貰えるクラスポイントは300にまで増加する。3位でも150クラスポイントだ。
龍園くんたちは、クラスポイントで距離を縮めるどころか離される結果になりかねない。それを少しでも妨害するための手。さすがだね。
これは、断れない。断れば、交渉は白紙に戻る。
「分かった。ただし、『便乗』以外の他のカードと交換ね。そうだね……『半減』3枚でどうかな。『無効』1枚でもいいけど」
「『半減』3枚だ。良いだろう、交渉成立だ。坂柳には俺から伝えておいてやる。鈴音も着いて来な」
「大丈夫かな。坂柳さんに勝手に決めて」
私たちと組むことに抵抗はないらしい一之瀬さんは、不安気に坂柳さんの名前を口にする。が、龍園くんの方はどこ吹く風という感じで、気にした様子はない。
「問題ねえよ。元よりあいつは『3クラス平等な同盟だから条件も平等』なんて抜かしていやがったからな。鈴音のクラスが落ちりゃあ、次にAに上がるのはてめえらだってのに、気に食わねえとは思っていた。少しは痛い目を見てもらわねえとな」
「けど、『便乗』カード1枚は大きいよ?」
「『試練』カードとAクラスの協力が手に入る状況で『便乗』を手放すのを渋るようなら、当然同盟は解消だ。同盟の利になることを蹴るんだからな。そうなりゃ坂柳の立場がねえ。あいつも泣く泣く応じるだろうよ」
読み通りだ。
坂柳さんのクラスにだけ負担を負わせて、一之瀬さんと龍園くんのクラスは実質タダで私たちの協力とクラスポイント50が追加で手に入るとなっては、400万のプライベートポイントが私たちに渡ったとしても得になると判断した。
坂柳さんのクラスも、2人にとっては結局目の上のたんこぶだからね。そこからポイントが引かれるなら問題ないと思ったんだろう。
……『試練』カードを手放すことは織り込み済みだった。
元々、賞金を懸けられている清隆くんは、今回上位入りを狙わない方針だった。
クラスメイト同士でカードの交換や譲渡ができないルールである以上、『試練』カードは宝の持ち腐れ。なら、交渉の材料にしてしまう方が余程いい。
そう語った清隆くんの横顔を思い出して、やっぱり私の彼氏は読みがずば抜けていると実感した。
かくして、2年生での同盟が組まれた。
3年生、1年生たちも戦略を走らせていることだと思う。
夏休みに入り、私たち高度育成高等学校の生徒たちを乗せた豪華客船サン・ヴィーナス号は、船上に様々な思いを交錯させながら、試験会場となる島に向けて航海を始めた。