よう実 √松下   作:レイトントン

50 / 82
無人島サバイバル③

 豪華客船『サン・ヴィーナス号』の設備はかなり充実しており、私と清隆くんは試験の説明会が始まるまでの僅かな時間、一緒に行動していた。

 プールやゲームコーナーで遊んだり、昼食会場で一緒にご飯を食べたり……

 2人きりというわけではなく、平田くんと恵も一緒でダブルデートのような形を取った。

 話題に多く上ったのは、やはり特別試験について。

 

「清隆くんが周囲のサポートに回ってくれるなら、僕としてはこれ以上に安心できることはないよ。でも、君自身は大丈夫なのかい?」

「どうだろうな。あっさり敗退するかもしれないし、全く役に立てない可能性もある」

「綾小路くんに限って、それはないでしょ。渡してる300万ポイントと『半減』カードはあくまで保険なんだからね?」

「分かってる。しかし、まだ試験の詳細も説明されていないからな。もちろん全力で取り組むが、あらゆる可能性は想定しておくべきだろう」

 

 とは言いつつ、ルール上で単独での試験参加が認められている以上、清隆くんが全く力になれない試験方式だとは考えづらい。

 彼で無理なら、単独で試験を乗り越えられる人がいなくなってしまう。

 

「でも、無人島での試験なら地形や他グループの情報を伝えるだけでも貢献にはなるんじゃないかな。清隆くんなら、その辺の情報収集はお手のものでしょ?」

「まあな。千秋と軽井沢のグループもちゃんとサポートするから、安心してくれていい」

 

 清隆くんはこの日に備えて、図書館でサバイバル関連の書籍を何冊か借りてきて読み込んでいた。私も清隆くんの隣でその内容を見ていたので、水の濾過方法や食べれる木の実や山菜の種類なんかはそれなりに頭に入っている。

 ただ、知識は近付けても発想力や身体能力、策を読む能力は清隆くんには遠く及ばない。清隆くんは上位入りを目指すわけじゃないし、必要な時は大人しく支援を受けよう。

 

「……1年生がちらほら出てきたな。そろそろオレたちの番か」

 

 試験のルールの追加説明会は、学年ごとに行われる。年齢差を考慮して、1年生が最も早く情報を得られるようはじめに説明会を受けていた。

 説明会は映画館で行われる。1年生たちが硬い表情で私たち2年を横目にすり抜けていく。

 

 そんな中で、1年生の幾人かと目が合う。

 七瀬翼ちゃんはこちらを見るやぺこりと会釈し、宝泉くんをはじめとする1年Dクラスの面々に混じっていった。

 一方、こちらに近付いてきたのは赤い髪の女の子。私は見覚えがなかったけど、清隆くんの方を見ているのが分かる。

 ……近付くにつれて鮮明に見えてくる彼女は、とても整った顔立ちをしている。ちら、と横目で清隆くんの顔を見ると、小さく首を振った。誤解だ、と主張しているみたい。

 

「やっほー、綾小路先輩。それと、クラスのお友達ですか?」

「そうだよ。僕は平田洋介。こっちは僕の彼女の軽井沢恵さん。そして清隆くんの彼女の、松下千秋さん」

「へぇ……」

 

 平田くんも、どうやら彼女の不穏な雰囲気を感じ取ったらしい。牽制を込めてか、私が清隆くんの彼女だと主張してくれた。

 非常に助かる。彼らしくもなく、恵を自分の彼女だと紹介したのも、違和感なく私の存在をアピールするためだろう。

 彼女……一夏ちゃんは、目を細めて私を見た。視線を受けて、私はつい彼女に声をかける。

 

「あなたは?」

「1年Aクラスの天沢一夏でーす。綾小路先輩とは同じ中学だったんだ。直接会ったことはなかったけどね」

「そうなんだ。面識ないのに知ってるってことは、清隆くんは中学でも有名人だったの?」

「そりゃあもう! 試験結果は常にトップ、運動神経も抜群。教師たちからは常に『綾小路清隆のようになれ』なーんて言われてたから」

 

 私たち3人の視線が集まり、清隆くんは気まずそうに目を逸らした。

 

「この学校に入ってから、綾小路先輩が相変わらずトップにいるって知ってさ。思わず声かけたってこと」

 

 一夏ちゃんは嬉しそうに清隆くんの方を見ている。

 ……なんだか危険な雰囲気を感じる。

 清隆くんを見る目だ。好意もそうだけど、なんだかそれよりもさらに一歩先に行っているような……

 まさか恋愛感情?

 

 私は思わず清隆くんと腕を組んだ。

 一夏ちゃんの表情に翳りが差したのが見て取れる。

 

「凄いじゃん清隆くん。学校中に実力が知れ渡っていたなんて」

「だから高校ではあまり目立ちたくなかったんだが……擬態失敗だな」

「入学当初は綾小路くんマジで目立たなかったもんね。まあ、すぐ実力バレしてたけど」

「去年の無人島試験あたりでは、既にクラスの中心人物だったよね。心強かったよ」

 

 平田くんから褒められて、清隆くんはぽりぽりと頬を掻いている。

 

「ねえねえ。千秋先輩はいつから綾小路先輩と付き合いだしたの?」

「去年の5月頃だね」

「ふーん……どうして? その時はまだ、綾小路先輩は実力を隠していたんでしょ? 千秋先輩が好きになる要素はなかったんじゃない?」

 

 その質問は、私の気質がどういうものか明確に把握した上でのものだと彼女の目が告げていた。

 私がどういう性格なのか見抜いている。鋭いな、この子。

 清隆くんといいこの子といい、優秀な生徒ばかりだね。清隆くんのいた中学って、もしかして結構名門?

 

「所作のひとつひとつや水泳の時の体つきとか、話してみたら色んな知識を持っていたりとか……徐々に、清隆くんが実力を隠していたことに気付いていった感じかな」

 

 ひとまず、よく周囲に話す、清隆くんと一緒に考えた馴れ初めエピソードを少しだけ披露する。

 ふうん? と一夏ちゃんは疑わしげに私をじろじろと睨めている。

 

「千秋も最初は実力隠してたもんねー」

「私のは大したことないよ。ほどほどに手を抜いているってだけだったし。清隆くんは、平凡を演じるには実力があり過ぎたね」

 

 まあ、堀北元生徒会長とのやりとりを見るまで私も清隆くんには全く気付けなかったんだけどね。

 

「ふむふむ。千秋先輩凄い慧眼だねー。綾小路先輩の彼女になれるなんて、とっても運が良いよ」

「運が良かったのはオレの方だ。千秋が彼女になってくれてよかった」

 

 ……そのセリフは反則でしょ…………

 言われなくても分かる。今、私は顔を真っ赤にしているに違いない。

 恵、肘で突かない。平田くん、そんな微笑ましそうな顔で見ないで。

 

「私も、清隆くんが彼氏で良かったと思ってるから!」

「おおっ、大胆な告白」

「揶揄わないでよっ」

 

 弄られる一方で、一夏ちゃんは、どこか面白くなさそうだ。

 やっぱり、清隆くんには特別な感情があるのかも。

 

「と、話し過ぎたね。皆、そろそろ会場に入ろうか」

 

 人気も疎になってきた。いけない、立ち話が過ぎた。

 

「じゃあね、一夏ちゃん」

「はい、先輩がた。……また無人島で」

 

 不穏な言葉を残して、一夏ちゃんは去っていく。

 ふと、彼女が歩いていくその先に、一人の男子生徒がいるのを見つけた。

 彼は確か、パートナー筆記試験で清隆くんと組んだ、八神拓也くん。

 

 彼はまっすぐ、清隆くんの背中を見ていた。

 その視線は、まるで……

 

「おい、千秋。早く行こう。席が埋まってしまう」

「あ、うん。ごめんね」

 

 清隆くんに促され、私は後ろ髪を引かれる思いをしながら、説明会会場である映画館に足を向けた。

 ……今回の無人島サバイバル、思っている以上に注意しなければならないことが多いみたいだ。

 

 

 私たち4人は横一列に並んで映画館の席に座る。その周辺にウチの堀北さん、坂柳さんと葛城くん、龍園くんと彼のクラスの女子生徒……たしか、椎名さんだったかな? ともかくその子。それに一之瀬さんと神崎くんと、各クラスのリーダー格の生徒たちが集まってくる。

 

「こんにちは、綾小路くん。今回は学年全体で協力体制を取るとお伺いしています。なんでも、私たちのグループを1位に押し上げてくださるとか」

「今回はその方が有益だと判断した。オレは最終順位3位以内に入らず、おまえたちをサポートするという契約だ。一之瀬や龍園も納得済みのようだが、不満か?」

「いえ。綾小路くんにも事情があるでしょうし、今回は私も十全に力を発揮できる試験内容ではないですから。勝負はまた時期を見るとしましょう。たまには、あなたと共に他学年を蹂躙するのも悪くないですしね」

 

 私たちの前の席に腰を下ろした坂柳さんは、清隆くんにそう言って笑いかけた。

 ……この子、一之瀬さんや龍園くんのクラスとも協力していることを忘れてないかな。

 それを感じ取ったのかそうでないかは定かでないけど、坂柳さんの発言に一之瀬さんが口を挟む。

 

「わあ……坂柳さん、怖いこと言うね。でも、確かに学年全体で協力なんて初めてのことだし、ちょっとワクワクするかも」

「呑気なもんだな。1位は俺たちが獲るが、問題は2位以下だ。綾小路は契約上、3位以内に入ることはねえが……Aクラスには他にも駒がいるからな。そいつらの入賞を防がなければ、損するのは俺たちだ」

「あら、あなたは私たちのクラスでは綾小路くんにしか興味がないのかと思っていたけれど?」

「お前らは綾小路の駒みたいなもんだろ? 綾小路にとっちゃ、てめえで動くのが一番強い手だが、それが封じられたなら駒に指示を出すくらいはするだろうよ。……まあ、1年や3年がいる以上、入賞は困難ではあるだろうがな」

「ま、まあまあ2人とも。私たち生徒会の仲間なんだから、今回みたいな協力する試験では仲良くしよう?」

「無理だ、一之瀬。堀北はともかく龍園が他のクラスと馴れ合うはずがない」

 

 龍園くんの不遜な態度に突っかかっていった堀北さん。同じ生徒会だというのに、彼らの仲は相変わらず犬猿だ。

 止めに入ろうとした一之瀬さんは、側近の神崎くんに止められる。彼の判断は正しいと私も思う。龍園くんはどうあっても周囲を煽らずにはいられないはず。

 協調するなら、聞き流すくらいのつもりでいなければならない。堀北さんは……構ってあげているんだ、うん。そう思うことにする。

 

 ……しかし、龍園くんに連れてこられた椎名さんは、我関せずというように本を読むばかり。彼がわざわざ連れて歩くくらいだから、能力的にかなり優秀なんだと思うけど……今までの試験であまり名前を聞かなかったのは、このマイペースさが原因なのかな?

 

 喧嘩の仲裁に入りながら、ふと一之瀬さんは私たち……正確には清隆くんの方を向いて、思い出したとばかりにある話題を口にした。

 

「ところで、綾小路くん。南雲会長が、今回の試験で綾小路くんと順位争いをするって生徒会室で言っていたけど、本当なの? しかも会長が勝ったら、綾小路くんが生徒会に入るって聞いたよ」

「ああ、不本意ながらその条件で勝負を受けた。オレが勝ったら南雲の可能な範囲で何でも願いを叶えてくれるらしいが……まあ、今回は望み薄だな」

「南雲も優勝候補の1人だ。俺たちのサポートをこなしながらじゃあ厳しいだろうな」

 

 生徒会メンバーには、南雲会長と綾小路くんの勝負については知れ渡っているみたい。ということは、当然1年生たちの耳にも入っているはず。また厄介ごとの種が増えたような……

 

「生徒会に入ることはそこまでデメリットじゃないが、ある程度本腰を入れておかないと南雲がうるさそうだ。……ああ、もちろんおまえたちのグループを1位にするため、サポートを優先するからそこは心配しなくていい」

 

 清隆くんの言葉に不安そうなのは、葛城くんや神崎くんだ。清隆くんならサポートに徹しながらでも上位を獲ってしまうと考えているのかな。彼らは清隆くんを相当に評価しているらしいね。

 その後も試験に向けての話し合いを続けていると、スクリーンの下に学年主任の真嶋先生の姿が現れた。説明会の開始時刻だ。

 

「では、これより無人島サバイバル試験の追加ルールを説明する」

 

 無人島サバイバル試験……これまでにないほど大規模かつ過酷な試験ということで、そのルールは今まで以上に複雑だ。

 

・試験期間は2週間(初日は9:00開始、最終日は15:00終了)

・試験期間内での獲得得点をグループ毎に競い合う

・得点の獲得方法は2種類あり、『基本移動』と『課題』となる。詳細は後述

・各得点は支給される腕時計(スマートウォッチ)を通して集計される。また腕時計と連動したタブレットも支給される

・腕時計により学校側は常時生徒の健康状態を把握している。健康状態が悪化するとはじめ警告アラートが鳴り、健康状態が回復しない場合は緊急アラートに移行する。

 緊急アラートが鳴った場合スタート地点に24時間以内に戻らねばならず、破ればリタイアを含むペナルティがある。5分以上手動で緊急アラートを切らなかった場合救助隊が向かう。緊急性が認められる場合は5分を待たずに救助される

・腕時計が破損すると得点の受け取りができないのでスタート地点での交換が必要となる。破損に関してペナルティはない

・タブレットでは無人島の地図、指定エリア、自分の現在位置が確認できる。また、4日目〜12日目までは上位、下位10グループと構成メンバーを確認できる。

・6日目以降、1得点を消費することで腕時計により全生徒の位置を確認できるGPSサーチを使うことができる。

・タブレットが充電不足になった際はスタート地点か特定の場所で充電可能

 

『基本移動』

 無人島をA〜Jの縦列、1〜10の横列により100エリアに区切り、特定のエリアに一定時間毎に向かうよう指示される。各グループごとに12のテーブルに割り当てられ、各テーブルごとに指定エリアは異なる。

 指示された地点に辿り着けば『到着ボーナス』として1人につき1点が与えられる。また、『着順ボーナス』も存在し、指定エリアへの到着が早かったグループに与えられる。

 1着が10点、2着が5点、3着が3点。ただし、『着順ボーナス』の発生はグループの全員が指定エリアに揃ったタイミングとなる。また、リタイア者が発生しているグループは『着順ボーナス』を得られない。

 

 『基本移動』のエリア指定は初日と最終日に3回、それ以外の日には4回となる。

 1回目 7:00〜9:00

 2回目 9:00〜11:00

 3回目 13:00〜15:00

 4回目 15:00〜17:00

 

 指定エリアが告示された時点で指定エリアにいた場合、『到着ボーナス』は得られるが『着順ボーナス』は得られない。

 また、グループの誰も指定エリアへの移動を成功していない状態……スルーを3回連続でしてしまうと、グループから1点がマイナスされる。4度目はマイナスされる得点が2ポイント、5度目は3ポイントと増え続ける。スルーを止めた場合、ペナルティの増加はリセットされ、次に3回スルーした際は1点からマイナスされていく。

 

 エリアの指定には法則性があり、4回の指定の内3回は前回の指定エリアから前後左右2マス、斜め1マスの範囲内となり、1回は全てのエリアからランダムな指定となる。ただしランダム指定が連続して起こることはなく、また海上などの到達不可能なエリアが指定されることはない。

 

『課題』

 無人島の各所に7:00〜17:00の間(初日は10:00開始、最終日は13時終了)、『課題』が設けられる。開催地点、課題内容、参加条件等はタブレットの地図上に表示される。課題の実施中は常に情報は表示され、終了次第地図上から消える。

 開催地点にいるスタッフ(教員含む)に参加を申請し、腕時計とタブレットを通してエントリーされる。

 課題の上位入賞者には得点とともに食料などが与えられる。4日目以降には『グループの最大人数を増やす』という報酬の課題も発生する。グループ同士が合流した際、ポイントは平均化される。ただし最大上限である6名まで解放したグループは以後その課題は受けられない。

 

「基本移動と課題か……」

 

 清隆くんは興味深そうに呟いた。今頃、彼の頭の中ではAクラスのための、そして連合を1位にするための戦略が練られていることだろう。

 

「他学年への本格的な干渉は、大グループと順位確認が解禁される4日目以降ですね」

「それまではオレは課題での物資確保を優先しておく。サポートが必要そうならトランシーバーで連絡してくれ」

「ええ。グループ毎ですと費用も嵩みますし、必要数のトランシーバーを用意しておきましょう」

 

 学年全体で連携する以上、連絡手段となるトランシーバーは必須だけど、なかなか高価だからね。坂柳さんの言葉は正しい。

 

「南雲会長と綾小路くんが同じテーブルなら妨害の面で楽なんだけど……」

「おい坂上、プライベートポイントで各グループのテーブルの確認と決定はできるのか?」

 

 龍園くんが、私たちの近くで佇んでいた先生方の中から担任の坂上先生に、そう問いかける。うーん、やっぱり頭の回転速いなあ。私は思い付いてなかった……

 

 先生方も、この集団が2年のトップであり、質問が来るならここからだと当たりを付けていたみたいで、周りでたむろしていたらしい。坂上先生は首を横に振った。

 

「今回、その権利はプライベートポイントでは販売していません。残念ですがね」

「ちっ。まあいい、綾小路と南雲が同じテーブルであることを祈るとするか」

「4日目以降なら、誰か生徒会長と同じテーブルの生徒と綾小路で大グループを組む手もあるんじゃないか?」

 

 一之瀬さんの右腕である神崎くんから、そんな提案が出た。

 合流した際、テーブルはどうなるのか先生に問い合わせたところ、拡張権を保持し、行使した側のグループのテーブルとなるということだった。

 

「ふふ、面白い手ですね、神崎くん。しかしどうでしょう。グループの最大人数拡張が報酬となる課題は、そう数が多くないと真嶋先生は仰ってました。私たちのグループはもちろん、南雲会長のグループも、1年生たちも主要グループを6名ないし7名に拡張することを狙うはず。争奪戦になる中で、南雲会長と同じテーブルの生徒が都合良く最大人数拡張の権利を得られる可能性は、そう高くないでしょうね」

「それに、下手なグループと合流すれば、南雲より先に着順ボーナスを得ることも難しくなる。妨害の目的を果たせなくなってしまう可能性があるし、無理をして狙う必要はないかもしれないな」

 

 しかし、坂柳さん、清隆くんに却下されてしまう。かなり有効な作戦ではあったと思う。私も、事情を知らなければ同じ提案をしていただろう。

 しかし、清隆くんは今、懸賞金がかけられており1年生から狙われている状態。他の生徒を巻き込まないために単独グループとなった部分がある。合流は得策じゃない。

 ……気になるのは、清隆くんとともに坂柳さんも神崎くんの意見を退けていること。彼女も懸賞金の存在を知っている?

 けど、だとしたらどこから漏れたんだろうか?

 

「しかし、もし適当な条件のグループがあれば、神崎くんの作戦は効果的ではないでしょうか?」

 

 意見を出したのは、これまで本に目を落としていた椎名ひよりさんだった。

 彼女は本を閉じて、様子を窺うように清隆くんと、そして坂柳さんを見ている。彼女の問いかけに、坂柳さんはすっと目を細めた。

 

「ええ、確かにその通りですね。もし適当なグループが出た場合は、綾小路くんに連絡して合流していただきます」

「連絡をするのは坂柳さんが?」

「ええ。私の体では無人島を動き回るのは難しいので、情報の整理と学年全体への連絡、指示で貢献しようと考えています。しかし、私と同じグループである一之瀬さんと神崎くんにはご迷惑をかけてしまいますね。着順報酬が得られなくては厳しい戦いを強いられるでしょう、申し訳ございません」

「それについては問題ない。今回、坂柳は半分リタイアに近い形での参加が認められた。坂柳がいなくともお前のグループには着順報酬が認められる。無論、到達ボーナスや着順ボーナスは到達した人数分のみになるがな」

「おや、そうなのですね。お気遣いありがとうございます、先生方」

「詳しいルールの発表前にグループを組ませたのは学校側だからね」

 

 茶柱先生、星ノ宮先生より、坂柳さんに対しての特別ルールに触れられる。

 坂柳さんの事情を知っている人なら、基本移動のルールを知っている状態でグループを組もうと思う人はそういない。逆に今回のように、後から知らされたルールで坂柳さんが責められないようにという配慮かな。

 

 その後、月城理事長がトラブルを多少は容認するような発言をしたり、別室で試験開始前に購入する試験用のアイテム、テントや食料、リュックなどのサンプル品の展示が行われるという告知などしつつ、説明会は終わった。

 

 明日には無人島サバイバルが開始される。

 私は不安を覚えながらも、それでも清隆くんを信じて、豪華客船の柔らかいベッドで眠りについた。




やっとルール説明が終わった……
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。