あ、あと今更ですが原作未読の場合、無人島のエリア分けとか分かりづらいですよね。
適当な電子書籍サイトで2年生編3巻の無料試し読みすれば見れると思うので、地図が欲しい方はお手数ですがそちらから確認してみてください。
千秋との水遊びを堪能した後、活力を得たオレはそれまで以上のペースで無人島を駆け回った。
得点を十分に得られている以上、次のオレの役目は3年生の妨害だ。
南雲は課題の参加枠を残り一枠を除いて独占し、そこに自分が入ることでポイントを稼ぐ算段を付けている。が、オレが課題の設置地点に現れては、残り一枠をキープしておくことはできない。100メートル走の課題と同じだな。
高円寺や鬼龍院は独自に動いているわけだが、同じように課題実施地点に現れては3年生たちも対応せざるを得ない。ひとクラス分の人数差もあり、2年生主力グループはどんどんと得点を重ねていく。
本日2度目の指定エリアJ5の隣、J6ではビーチフラッグスの課題が開かれている。得点は1位が得られる6点のみだが、1位には選択できる追加報酬がある上に、全員に参加賞として500ミリリットルの水が与えられる。
J6も他テーブルの指定エリアとなっていたようで生徒たちが集まっている。しかし幸いなことに、課題の参加枠はまだ空いている上、なんと妨害のターゲットである南雲グループも参加しているようだった。しかも、J6が指定エリアだったらしい千秋たちもビーチフラッグに参加するようだ。もちろん狙いは優勝だろうが、参加するだけでも水は手に入る。
ちなみに、オレも優勝狙いだ。南雲の妨害なのもそうだが、彼女に良いところを見せなくてはな。
「2-A綾小路清隆、参加します」
「同じく2-A松下千秋、参加します」
この課題はグループごとに1人しか参加できないため、代表して千秋が参加するようだ。
参加は受理され、各学年の生徒たちが混合した課題への参加が決まる。
南雲が片手を挙げてオレに近付いてくるのが見えた。
「彼女連れで参加とは余裕だな、綾小路」
「南雲先輩だって、朝比奈先輩たちを連れているじゃないですか」
「あれ、私自己紹介したっけ?」
「南雲会長は尊敬すべき先輩ですから。グループを組みそうな同じクラスの生徒はOAAで顔を覚えています」
本当は全校生徒のOAAを把握しているが、それっぽい嘘を吐いてみる。
そんな戯言を、朝比奈先輩はほえ〜とした顔で信じ込んでいた。南雲と同じグループとは思えないほど素直な人だ。
「朝比奈は大事なクラスメイトだが、彼女じゃない」
「そうでしたか、失礼しました。南雲会長もビーチフラッグに参加するんですよね?」
「ああ。この試験は既に独占に失敗していたが、ちょうど近くを通りかかったんでな」
独占のことを隠そうともしないか。まあ、こちらや1年生も同じ手を使っているのだから、当然ではある。
「綾小路も、俺の得点を防ぐために参加するだろ? 精々楽しませてくれ」
「楽しませることができるかは分かりませんが、追加報酬というのは気になりますね。菓子類や保存食、肉なんかもあるみたいですし」
「はっ、1位を獲るのは自分だってか? とぼけた面で面白いことを言うな」
南雲が鋭い視線でオレを睨む。無自覚だったが、南雲には煽りと捉えられてしまったらしい。
着替えのためにテントに入っていく南雲を見送っていると、今度は同じく参加するらしい3年生、桐山に声をかけられる。
「綾小路もビーチフラッグスに参加か。厳しい戦いになるな」
「申し訳ないですが、彼女の前なので手加減はできません」
「また生意気な口を……まあいい。おまえのお陰で鬼龍院がやる気を出したわけだからな。それに、南雲にも付け入る隙ができている」
「隙……ですか」
「ああ。今、奴はおまえたち2年生に押されている状況だ。そちらに注力している分、鬼龍院以外の俺たち3年Bクラスへのマークが甘くなっている。……しかし、押されているにも関わらず余裕のある態度なのは気になるところだがな」
そんな情報を提供してくれた桐山と一緒に、テントに入り水着に着替える。シンプルなハーフパンツタイプの水着をレンタルしているようだ。
水着をレンタル。その言葉を聞いた瞬間、オレの灰色の脳細胞は極めて高度かつ論理的な考えを弾き出す。
すなわち、男子に水着レンタルがあるなら、女子にも水着レンタルがあるはずだ、と。
オレは一瞬で着替えを終えると、素早くテントから出て千秋の姿を探す。しかし、彼女はまだテントから出てきていないようだった。
くっ。女子の着替えは男子よりも時間がかかることは分かっていたというのに。ミス、だな……
待機場として用意されたパラソルの下で千秋を待つ。軽井沢と森が座っていたので、片手を挙げてそちらにお邪魔する。
「さっきぶりだな、軽井沢、森」
「綾小路くんやっほー。腹筋バキバキだね……」
なにやら危険な視線を森から感じる。
「運動神経バツグンだもんねー。てか、女子より男子からの視線の方が凄くない?」
たしかに、周囲の男子生徒、先輩たちから感嘆の声が聞こえてくる。オレでこれなら、高円寺なんか見た日には狂喜乱舞するんじゃなかろうか。
参加賞で配られたまだ冷えている水で三人とも暑さを凌いでいると、
「皆、もう配られた水飲んでるの?」
そんな声をかけられる。
振り向くと、千秋は可愛らしいビキニタイプの水着姿で、座るオレを見下ろしていた。黒のフリルタイプ……意外ではあるが、千秋によく似合っている。
去年のプールではパレオを着用していたが、ビーチフラッグスでは邪魔になるからな。
「可愛いぞ、千秋。とてもよく似合っている。レンタルなのが惜しいな」
「あはは。開口一番褒め言葉なの嬉しいね」
「大事なことだ」
くそ、カメラがないのが惜しい。今回の試験、後悔してばかりだ。
この試験を終えたら、佐倉に頼んでカメラについて色々教えてもらうか……
「もう、恥ずかしいよ。早く課題に参加しよ?」
「そのあと、ちょっとだけ遊ばないか。せっかくビーチにいるわけだし、水着も借りれたわけだし」
「こら、綾小路くん。今は試験中なんだけど! 遊ぶのは船に帰ってからにしてよ。あ、あとあたしと寧々、麻耶、洋介も一緒にさ。いいよね?」
軽井沢に水を差される。しかし、彼女の言葉が正しいか。
「分かった。今はこの課題で1位を狙う。皆も頑張れ」
「よーし、あたしたちも優勝するぞ!」
「おー!」
こうしてビーチフラッグスの課題が始まる。
参加者は男女各8人だが、一対一のトーナメント制。
まずは1年生、白鳥という生徒。宝泉らと同じDクラスながら、学力がAという優れた生徒だ。だが、身体能力はそれほどでもない。あっさりと勝利を収める。初めてやる競技で、大したことのない相手だったのは助かった。
3年生たちは南雲、桐山が順当に勝利を収めていた。やはり最初の反応、そして立ち上がるまでのスピードが最も重要な要素のようだ。
次の相手は桐山。彼はOAAの数値が全てB+以上というかなり優秀な生徒だ。学の下で生徒会としての仕事に入念していたことだし、油断は禁物か。
パン、と先生が電子式のスターターピストルを鳴らす。その瞬間、オレは腕の力で上半身を起こし、その勢いのまま振り返る。砂場で走るのは普段と勝手が違うものの、さして影響もなく余裕を持って勝利。
「分かってはいたが、去年の体育祭で堀北先輩に勝った脚力は健在だな」
「桐山先輩もお見事でした」
「世辞を言うならもう少し上手くやれ」
ビシ、とデコピンを食らう。痛い。
「俺に勝った以上、南雲を止めるのはおまえの役目だ。1位を獲れよ、綾小路」
「もちろん、そのつもりです」
「負けたことだし、俺は他の課題に向かわせてもらおう」
敗退した桐山は、グループの仲間を伴ってビーチから去って行く。
さて、次は南雲か。南雲のOAAは全てがA以上。数字上は完全に桐山の上を行っている。
無論、OAAがそいつの全てとは言わないが、桐山と比較すると大抵のスペックは南雲が上。また、桐山と大きく異なるのは卑怯な手や小狡い手を使う点だ。
ウチの学年で言うなら、桐山は一之瀬や葛城のような正道を行くタイプ。南雲はオレや龍園のような邪道タイプと言える。
そう言った意味では、南雲の戦略は読みやすい。
今回気を付けるべきは接触事故と砂による目潰しといったところか。ビーチフラッグスのルールには詳しくないが、フラッグを取り合うという競技の性質上、多少の接触事故はどうしたって起こり得ることだろう。砂だって、全力で浜を蹴れば舞い上がるのは必然。言い訳は幾らでもできるだろう。
「頑張って、清隆くん」
途中、声援に紛れて千秋の声が耳に入る。
無事1回戦を突破した彼女は、これから決勝が始まるこちらの応援をしてくれていた。軽井沢や森も声を上げている。
千秋たちの声援を心地良く受け取っていると、パンと開始の合図が鳴った。思索の途中であっても、オレの体は反射的に最適な動きを再現し、上体を起こす。そして、砂による目潰し対策として、南雲と反対側に体を捻ってフラッグ正面側を向く。回転中、パサ、と後頭部に砂の感触。やはり目潰しを仕掛けられていたか。
そのまま、南雲を置き去りにしてフラッグへ向かう。
この時点で目潰しの危険はなくなった。前を走る相手に、砂による目潰しは不可能だ。
滑り込み、フラッグを掴み上げる。ただ、今回はそこで止まらず、ぐるりと一回転して、その勢いのまま前進する。
背後からベシャ、と砂に飛び込んだような音が聞こえてくる。振り返ると、勢い良くオレに飛びかかってきたらしい南雲が砂浜に自らの形を写し取っていた。
あー……
「ナイスガッツです、南雲会長」
「……そっちこそ、やるじゃないか綾小路。俺の方は最後の最後足を滑らせちまったが、次はこうはいかないぜ? まあ、厚意は受け取っておいてやる」
意地でも負けを、ついでにオレに飛びかかろうとしたことを認めようとしない南雲は、差し出したオレの手を取る。そのまま引っ張りあげて起こしてやるが、顔面まで砂塗れだ。ちょっと面白い。
さて、男子側の競技は全て終わったことだし、オレは彼女の活躍を目に焼き付けるとするか。
もちろん、横目で常に観察はしていた。女子部門は着替えに時間が掛かった分、開始時間が男子部門より遅かった。今は2回戦、千秋と3年女子の山中だ。山中はさして運動神経の優れた生徒ではない。2回戦まで残れたのもくじ運だろう。千秋は余裕で勝利する。
「千秋、頑張れ」
精一杯の大声で叫ぶが、どうやらオレは声を張るのが得意ではないらしい。周りの熱狂に包まれ、音がかき消されてしまう。このままじゃ千秋に声は届かないか……
と思っていたのだが、彼女はこちらを向くや、笑顔で手を振ってきた。聞き取れていたのか? いや、タイミングがたまたま合っただけか?
ともかく、彼女はうつ伏せになってスタート地点で待機する。対戦相手の女子生徒も同じ体勢だ。
先ほどまでと打って変わって、場が静まり返る。試験に関わる競技の開始を妨げたとあっては、学校からなんらかのペナルティが科せられる可能性もゼロじゃない。
やがて、パン、と乾いた音が響く。
千秋は素晴らしい反射神経で跳ね起き、最小限の動きでターンする。そうなれば、千秋の足は学校の女子の中ではかなりのものだ。3年女子は追い付くことができず、千秋が勝利した。
「やった! 千秋勝ったよ、綾小路くん!」
「ああ。良い走りだった」
「カップルで1位とか、なんか良いなぁ」
軽井沢や森とも喜びを分かち合う。千秋も良い友達を持ったな。
海の水で砂を落とした千秋が、こちらに歩み寄ってくる。
「よく頑張ったな、千秋」
「ありがとう!」
弾けるような笑顔。全力疾走の興奮がまだ抜けていないようだ。良いものを見れたな。
「ナイス千秋! これで私たちも6点追加だね!」
「水も手に入ったし、追加でご飯も貰えるし、最高だよ」
女子3人でハイタッチを交わしている。森の言う通り、追加報酬は水に加えて、選択できる菓子類や肉、保存食がある。量的には保存食を選ぶべきだろうが、菓子類や肉といったものを口にすれば、ストレスの緩和が期待できる。
ホワイトルームという環境を知っているオレからすればなんでもないが、普通の高校生が無人島でサバイバル生活を送るとなれば、かかる負荷は相当なもののはず。
「3人とも、オレの追加報酬も持っていけ。そうだな、火を起こさなくていいし菓子類にしておくか」
「えっ、そんな、ダメだよ!」
「そうそう、いくらなんでもそれは……」
「貰えないよ〜」
「遠慮するな。オレは体力もあるし、得ようと思えばいつでも飯は調達できる。3人ともこの暑い中では、オレより少ない体力をどんどん奪われてしまうぞ。貰えるものは貰っておけ」
3人はまだ悩んでいる様子だったが、無理やりに押し付ける。
「ああっ。ごめん、ありがと綾小路くん!」
「もう、過保護すぎるよ。私たちだって赤ちゃんじゃないんだよ? 自分のことくらい自分でできるから」
「悪い。千秋たちのためというより、オレが心配しないためだと思ってくれ」
「そう言われちゃうとなあ……でも、貰ってばかりは悪いから、何かしらの形で返させてね?」
「しんどくなったら会いにいくから、その時は助けてくれればいい」
「もちろん。けど、今の聞いたら大丈夫そうだなって思っちゃった」
千秋の言葉に、軽井沢と森も頷いている。信用ないな……いや、ある意味信用されているのか。