よう実 √松下   作:レイトントン

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無人島サバイバル⑦

 次の指定エリアはH5が選ばれた。千秋たちと別れ、指定エリアを目指すが、今回は一之瀬たちのグループと指定エリアが重なっていたため、道中の課題を回りながらゆっくりと進んでいく。

 テーブルが異なっていても、同じ指定エリアが選ばれる場合もある。その場合、一之瀬・坂柳・神崎グループと龍園・葛城グループ、増員予定の椎名・神室グループと重なっているのであれば、俺は着順報酬よりも課題を優先する。

 他学年に着順報酬を取られる危険もあるが、そこは彼らの実力を信用しておくしかない。物資はこちらで譲渡すればいいし、課題の独占という手段も採っているしな。

 

 さて、上手く一之瀬らが着順報酬を得られたと情報を得たところで、オレもH5に到達。残念ながら着順報酬は得られなかったが、この周辺にも課題はある。一之瀬らと行動を共にし、課題の独占に貢献するとしよう。

 木に登り、一之瀬の特徴的なストロベリーブロンドの髪を森の中に見つける。

 

「一之瀬、神崎」

 

 声をかけ、樹上から降りると、2人は大層驚いた様子だった。しまった、高円寺に見慣れたウチのクラスならともかく、他クラスの生徒は木の上から人が降りてくるのは見慣れない光景だったか。

 

「綾小路……おまえ、木の上を飛び移って移動しているのか?」

「ああ。高円寺の真似だがな」

「あ、あはは……凄いや、綾小路くんと高円寺くんは」

「それは置いておくとして、ちょうど同じ指定エリアだったから、物資の譲渡と課題の独占のために、次の指定エリア発表までは行動を共にしようと思ってきた。構わないか?」

「うん、もちろんだよ。心強いね、神崎くん」

「……そうだな」

 

 神崎の様子はどこか落ち込んでいるように見える。歩くペースも心なしか遅い。

 思わず一之瀬に小声で耳打ちする。

 

「神崎は体調でも悪いのか?」

「さっきまでは別に普通だったんだけど……あ、いや、綾小路くんのことを嫌ってるとか、そういうんじゃないと思うけどね!?」

「……そうか……」

 

 嫌われているのか……ちょっとショックだ。

 いや、まだ断定はできない。たとえば神崎が一之瀬のことを好きで、2人きりの状況をオレに邪魔されたから落ち込んでいるだけだ。そうに違いない。

 ……どちらにせよ嫌われてないか?

 そうだ、神崎といえば。

 

「神崎。石上と話した。おまえに聞いた通りの男だったな」

「……先生のことでおまえに絡んできたのか?」

「まあ、そんなところだ。オレの父親を尊敬しているというのは本当らしい。神崎といい、息子のオレからすればあんなヤツのどこを尊敬してるのかはサッパリだが……まあ、家族には見せない面もあるということなのかもな」

 

 実際には、オレが家族扱いされているという事実はない。血が繋がっているだけの他人と言っても過言ではないだろう。

 顔を合わせたのも、人生で5回に満たない。

 父親を嫌うオレを見かねたのか、神崎は困ったように眉を落としながらも、あの男についてポツポツと語り始めた。

 

「先生は……先生は俺に道標を与えてくれた。力を持っていながら、それを使わないのは愚か者のすることだと。俺は幼い頃から塾に通い、空手の道場に通っていたから、学力も武力も、並の生徒より優れていた」

「しかし、それを持て余していたと?」

「ああ。パーティ会場で子供同士の口論を見かけた時も、仲裁することもなく傍観するだけだった。くだらない争いだとな。我ながら嫌な子供だったと思う。……それを正してくれたのが綾小路先生だ」

「想像が付かないな。本当にオレの知っている男と同一人物なのかと思うくらいだ」

「……それはないだろうな。おまえがあの人の息子だというなら、色々と納得のいくことがある。石上がおまえに興味を示したのもそうだ。あいつは敵でも味方でもないものには、基本的にとことん無関心なはずだ。綾小路があの人の息子だというなら、どちらかに傾くのも頷ける」

 

 力を試したい、という旨を伝えられたが……なるほど、敵意とは限らないというわけだ。

 

「俺はあいつと同じ学習塾に通っていたが、ついぞ興味を持たれることはなかったがな」

 

 自嘲気味に、神崎は呟く。神崎も優秀な男だと思うがな。こいつに興味を示さないとなると、石上の中の興味のハードルはかなり高そうだ。

 それきり、神崎は黙り込んでしまう。こいつも、クラスの事情を抱えていたり、オレへのコンプレックスだったりと、中々大変そうだ。

 

 一之瀬、神崎ともにどこか元気がない様子だったが、2年の代表グループである以上、点を獲ってもらわないことには始まらない。2年によって独占した課題を次々と受けさせていく。

 物資、得点、ともに大量に獲得していく一之瀬グループ。龍園グループとの合流が実施できるのは6日目以降となるが、この分なら得点が平均化されたとしても上位には入れるだろう。増員のカードも使用すれば、一気に高得点が狙える。

 

 ひとまず、明日の4日目が1つのターニングポイントと言えるだろう。グループ順位の開示。

 それらの情報を得た上で、他学年がどのように動くか。

 

「……綾小路くん、ぜんぜん息切らさないね」

 

 考え事をしながら歩いていると、一之瀬からそんなことを聞かれる。

 見れば、一之瀬も神崎も薄っすらと額に汗を浮かべ、少し息を荒くしている。課題のタイミング以外は歩きっぱなしだったし、配慮が足りなかったな。

 

「悪い、少し休憩しよう」

「ううん! ごめんね、そういう意味じゃないの。1年生の時のこととかOAAで分かっていたけど、綾小路くんの体力もケタ違いだなって実感したっていうか」

「一体何をすればそんな体力が身につくんだ……」

 

 神崎も空手を嗜んでいることから、そんな疑問を溢す。オレに向けてというよりは独り言のような呟きだし、スルーして問題ないだろう。

 

「私も気になるかも。どうなの、綾小路くん。何か秘訣とかあるのかな?」

 

 と思っていたが、一之瀬に拾われてしまった。さすが、よく周りを見ているな。

 

「そうだな……体はずっと鍛えていた。空手や柔道だけじゃない。水泳や長距離走、筋力トレーニングも、父に放り込まれた学校でずっとな」

「ひええ……そんな厳しいところだったんだ、綾小路くんの学校って」

「先生の指定する学校、か……興味深いな。俺も入学していれば、少しはおまえに近づけたかもしれん」

 

 それはどうだろうか。

 神崎がホワイトルームに来ていたとして、βカリキュラムはとてもこなせなかっただろう。

 

「あまり他人にオススメはできない場所だがな」

「しかし、そこにいた結果今の綾小路がある。それもまた事実だろう」

「確かにそうだ。父親は嫌いだが、オレにとっては、あの場所は別に悪いとは思わなかった」

 

 もっとも、今となっては戻りたくないという思いが強まってきている。困ったものだ。

 

 

 色々な話をしているうちに、次の指定エリアが発表された。一之瀬らと別れ、オレは次の指定エリアであるH4に向かう。

 相変わらず樹上をビュンビュンと跳んでいると、見知った生徒たちを見つけ足を止める。

 

「だからよぉ、俺にだって彼女くれーいるっての」

「春樹に彼女? 誰だよ」

「おめー、それはほら、あれだよ。秘密だ。彼女が恥ずかしがるもんだから。それよりよぉ、寛治は篠原と付き合い始めたんだろ、この裏切り者が!」

「いてててて! 何が裏切り者だよ! 彼女いるなら別に良いじゃねーか!」

「うるせー! 俺に彼女がいてもおまえに彼女ができることは裏切りなんだよ! なあ健!」

「お、おう。そうだな」

 

 最近、篠原と付き合い始めた池に嫉妬からかヘッドロックをかける山内。山内の理不尽な言葉を若干引いた目で見る須藤という、入学当初からだいぶ差のついた三馬鹿が騒ぎながら歩いていた。

 

 ……さて、指定エリアに急ぐか。

 

「あ! 裏切り者一号じゃねーか! 降りてこいよ!」

 

 ヘッドロックで一時的に止まっていたせいか、山内に見つかる。樹上のオレを見つけるとは、中々やるじゃないか。

 言われた通りに、おとなしく降りる。まあ、ちょうどいい休憩だ。

 

「よう、三人とも」

「綾小路じゃねーか。木の上を移動って、ターザンかよおまえは」

「誰だ?」

「知らねえのかよ……まあいいや。綾小路からもなんとか言ってやってくれよ。俺が篠原と付き合い始めたからって、春樹のやつ嫉妬がすげえんだ」

「はぁー!? 嫉妬なんてしてねえし! 俺には可愛い彼女がいるし!」

 

 嘘だな。普段観察している限りでは、山内の周りに女の影はない。

 恐らく、オレよりも山内と親しい池と須藤も同じように思っていることだろう。

 

「はぁー。ったく、綾小路は入学早々裏切りやがるし、俺らで同盟組んでたと思ったら寛治も彼女作りやがるし。裏切り者共がよぉ……なあ、健!」

「お、おう。そうだな」

「へへっ。悪いな、健。ひと足先にこっち側に来させてもらったぜ」

「お、おう。そうだな」

「綾小路先生ぇ、デートスポットとか夜のアレコレとか、色々ご指導お願いしますよぉ」

「くそぉ、裏切り者共めぇ! 健、俺らは一生トモダチだよなぁ!」

「お、おう。そうだな」

 

 池は三下のように手を擦り合わせているし、山内は須藤と肩を組み出しているし、須藤の目は死んでるし、もうめちゃくちゃだ。

 

 しかし、山内らを裏切った覚えはないが……それで言うなら『お、おう。そうだな』ばかりの須藤だって……

 そう思って横目で須藤の方を見ると、彼はそんなオレに首を振っている。ああ、まだ冬休みに堀北に振られたのと、その後猛アタックに折れて小野寺と付き合い始めたのは秘密なのか。

 彼女がいるのをオープンにしているオレや池より、よほど裏切り者ではないだろうか。

 

 ……山内。おまえの周りは、おまえの言う裏切り者だらけのようだぞ……

 

「綾小路、おまえも指定エリア目指してたんだろ? どこだ?」

「オレはI4だ」

「へえ、俺らH4だし隣じゃんか。どこから移動してきたんだ?」

「H5だな」

「なにぃ、なんてHな野郎だ」

 

 ぶっ飛ばすぞ。

 はっ、いかん。発言がくだらなさ過ぎて思わず手が出るところだった。オレをここまで苛立たせるとは、やるな山内。

 今度から相手への挑発は山内に任せるか……?

 

「せっかく今日最後の指定エリアが近いんだし、終わったら合流しねえか?」

「そうだな、夜はテントの設営くらいしかすることもない」

「よっしゃ。色々アドバイスくれよな」

 

 池はオレと千秋のデートを参考にする気満々のようだ。試験はどうした……と言いたいところだが、彼らの仕事は上位を目指すことじゃないからな。多少は雑にもなるか。

 

 オレは指定エリアに到着し、課題を1つこなした後で須藤たちに合流した。

 彼らはすでにテントを設営し終え、火を焚いて魚釣りの準備を整えている。

 

「ほら、綾小路も釣ろうぜ」

「釣りか……初めてやるな」

「おっ、マジか。なら俺も綾小路に勝てるかもしれねえな。寛治、俺の分の竿も用意してくれ」

「ったく、しょーがねーな……餌くらい自分で付けろよな」

「だってミミズとか触んの気色悪ぃじゃん」

「おまえ釣りする資格ねーぞ……ほらよ」

「サンキュー。綾小路、釣った数で俺が勝ったら女の子紹介しろよ」

「彼女はいいのか?」

「い、良いんだよ。寛容な彼女なんだよ!」

 

 それは寛容とは言わないと思う。

 オレは須藤の分の竿を借りつつ、池に指導してもらいながら、山内と釣りに励む。闇の中にポチャ、と糸の先に付けた餌が沈み込んでいくのは、不気味でもあり、どこか落ち着くような気もする。

 

「……で、綾小路先生」

「先生はやめてくれ」

 

 あの男がチラついて腹が立つ。

 

「なら師匠。釣りのコツ教えたんだから、こっちにはデートの秘訣を教えてくれよ。やっぱさ、初デートは上手くやりてえじゃん? そんであわよくば……ぐへへ」

 

 下衆な笑いを見せている池。山内はぐぬぬと悔しそうにしているが、対照的に横でオレたちの釣りを見物する須藤は興味深そうだ。自分も小野寺とのデートに参考にするつもりなのだろうか。

 

「ネットとかで検索しないのか?」

「もちろん、してるに決まってんだろ! カラオケで密室、2人は急接近! とか、ボウリングで体を動かして、ハイタッチで距離を縮めるとか、映画鑑賞で楽しく語り合うとか、デートスポットはいくらでも出てくんだよ。でも、そこで何話したらいいかとか、相手が何したら喜ぶかとかさあ、そういうのってあんま出てこねーんだよな」

「それはそうだろうな」

「え?」

「何をしたら喜ぶかなんて人それぞれだろ」

「元も子もないこと言うじゃん……」

 

 がっくし、と池は項垂れる。

 ある意味当たり前で、デートをするなら何より大事なことだ。

 

「もちろん、一般的に適切な行動というものはあるだろうな。どこかで『デートはサプライズが基本だ』とか聞いた覚えがある。だが、オレもその辺りはよく知らないぞ。千秋が初彼女だからな」

「な、なら綾小路は松下とのデートの時、どうしてんだよ」

「相手が何をしたいか、どうしてほしいと思っているのかを考えている。千秋の視線や過去にした会話、千秋の性格や好みを考慮して行動する、その程度だ」

「すっげえ難しくないか、それ」

 

 思わず、と言った様子で須藤も口を出してくる。しかし、そう難しいことではない。

 

「見ず知らずの人間が相手ならそうかもな。だが、おまえたちは1年間、同じクラスで過ごしてきたんだ。池は篠原と話す機会も多かった。篠原が何が好きか、何に興味を持っているかは、よく分かってるんじゃないか?」

「うーん……」

 

 池も必死で頭を絞っている。

 そうだな、篠原の性格から考えると……

 

「さっき挙げたデートスポットで言うなら、映画館が良いかもな。篠原は恋愛話が好きみたいだし、普段の言動を見るに共感力の高いやつだ。恋愛映画を一緒に観て、感想が同じならどんどん語り出していくと思うぞ」

「恋愛映画かあ。俺、アニメの映画とか、マーベルの映画とかばっかり観てっからなあ……感想同じになるかなあ」

「そこは合わせておけ。自分がそう思わなかったとしても頷き続ける。くれぐれも相手の意見を否定するな」

 

 誰でも映画を観ての感想を否定されて良い思いはしないだろう。篠原なら特にだ。池と感想が食い違い、言い争いになる光景が目に浮かぶ。

 

「なるほどな……映画か……」

「あと、おまえはよく篠原と口論していたよな」

「ちょ、やめろよな。素直になれない時期もあったっつーか、黒歴史っつーか」

「なら、少し甘えてみるのも手かもしれない。たしか、篠原は料理部だったよな」

「お、おう。よく知ってるな。俺も正直忘れかけてたぜ」

「寛治、いくらなんでもそりゃねーぜ。彼氏としてどうなんだよ?」

 

 須藤は呆れ顔を隠そうともせずツッコミを入れる。

 

「う、うるせーな。で、それがなんだよ?」

「篠原の作った料理が食いたい、と頼ってみろ」

「はあ? デートって男が女に奢るもんじゃねーの?」

「その通りだ。この試験の後、帰りは船の上だし料理なんてできるわけもないしな。だが、実際に作ってもらうのは別の機会でいい。料理に自信があるやつが自分の料理を食べたいと言われるだけで、悪い気はしない。しかも、それが普段ツンケンしていた彼氏からの言葉なら尚更だ」

「ツンケンっておまえ……」

「池は篠原の料理を食べたことはあるのか?」

「まあ、一応……料理っつーよりバレンタインのチョコだけど。手作りのやつ」

「なら、初デートの時は必ずどこかでチョコレートのスイーツを一緒に食え。そしてこう言うんだ。『これも美味いけど、篠原の作ったチョコがまた食いたい』。絶対に喜ぶぞ」

「な、なるほど……ちょ、メモらせてくれ」

 

 釣り竿を離してメモし始める池。大袈裟なやつだな……

 須藤が慌てて池の竿を取り、釣りを続行する。……と見せかけてこちらをチラチラと盗み見しながら聞き耳を立てているようだ。なんだかんだ気になるらしい。

 

 こうして恋バナを交えながら、三馬鹿と一緒の夜は更けていくのだった。

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