文化祭だけはかなり見切り発車だったので番外編表記が残っています。書き直すか修正入るかもです。
また、完結設定から連載設定に戻しました。2年生編は無人島で終わらせようかな〜と思っていたんですが、続きを書きたい欲も出てきたので。
無人島サバイバルも、ついにひとつの境目である4日目を迎える。
オレたちも朝早くに起き、タブレットを起動して上位と下位のグループ順位を確認する。
龍園と葛城のグループは1位を獲得している。2年で課題の独占を行なっている上、2人は体力もある。龍園など、昨年の無人島試験では1週間を文字通りのサバイバル生活で乗り切った男だ。水や物資が豊富な今回は、あいつにとっては去年より体力的には楽かもしれない。
一之瀬と神崎、坂柳のグループは4位だ。しかし、3位の南雲グループとの点差はほとんどない。このまま課題の独占が上手くいけば、遠からず逆転できるだろう。
2位と5位は1年生の主力グループ。彼らも課題の独占を行い、オレたちと同じように得点争いに参加している。が、体力差は埋めがたいようで、僅差だが2年生が有利を取っているようだ。
一方、優勝候補と目されていた南雲たちは3位で、もう一方の主力グループは7位。3年Bクラスからは鬼龍院が単独で10位を獲っている。使える駒がひとクラス分少ないので、この順位も仕方ないか。桐山たち3年Bクラスの主力は9位となっている。
他に単独組としては、オレは8位、高円寺はなんと6位だ。単独では最も獲得した点数の多い高円寺。更に言えば、あいつはそれほど体力を消耗した様子もない。無尽蔵かに思える体力の持ち主だ。
下位の生徒たちは、予定通り退学しても良いように、あらかじめ退学打ち消し用のプライベートポイントと『無効』あるいは『半額』カードを持たされた生徒たちで固まっている。他学年も同様だろう。
今のところ、リタイアしたグループもなく、予定通り事は進んでいる。龍園たちのグループと一之瀬たちのグループ、そして椎名と神室とのグループを『増員』カードを使って合流させ、1位を獲得させる。
目論見通りいけば2年連合の1位は堅いだろう。
今日も課題と着順報酬で課題を稼ぎつつ、他グループへの物資供給を行っていく。
今日は坂柳クラスの森下、真田、田宮のグループと接触した。
「綾小路清隆。この暑い中、馬車馬のような働きご苦労様です。さ、早く勤めを果たして私たちにお水ください」
「森下さん、失礼ですよ。すみません綾小路くん。せっかく来てくれたのに」
表情を変えずに尊大な態度の森下藍。そしてそれを諌める真田康生。同じ敬語でも受け取る印象が全く異なる2人から声を掛けられる。Aクラスでもバランスの良い優秀な生徒たちだ。学力もB+とA、身体能力はC+。
特に真田は、精神面で動揺があったとはいえみーちゃんと中国語テストで引き分けた学力を持っている。恐らくみーちゃん対策で坂柳に仕込まれていたんだろうが、それにしても実行できるのは評価に値する。
「いや、構わない。森下の言う通り、これが今回の仕事だからな。こき使ってくれ」
「ありがとう、綾小路くん。私たちのグループも物資が尽きかけてたから助かったよ。集積所まではまあまあ遠いし」
4日目ともなれば、各グループの物資も底を突いてくる頃合い。そんな中物資を運んでくるオレを歓迎してくれる声は多い。悪い気はしないな。
もちろん、物資の受け渡しを担うのはオレだけではない。『先行』カードを受け取り物資を集積しておく、あるいは調理器具などを持っておき他グループに貸与する役割をこなすグループも存在する。
彼らはほとんど着順報酬も得られないが、1名を強グループに付けることでスルーの防止と到着報酬の獲得を行っている。それでも下位に沈むのは避けられないので、退学取り消しのためのプライベートポイントがあらかじめ与えられている。
物資不足となったグループはそこに立ち寄り、缶詰や携帯食料、水を貰えるわけだ。
ただ、オレは龍園より直々にこの物資集積所の利用を禁じられている。『おまえには不用だろ』とのことだ。とはいえ、課題で得られる物資にも限界があるからな。龍園の言葉は無視して必要とあらばここに寄り、物資を各グループに届けに行くわけだ。
「ねえ、綾小路くん。松下さんはどうしてる?」
おずおずといった様子の田宮から、千秋について聞かれる。
「田宮は千秋が気になるのか? 話しているところは見た記憶がないが」
「うん、直接会話したことはないね。3月の選抜種目試験、フラッシュ暗算では松下さんと私の差で負けちゃったから、こっちが勝手に意識してるだけだよ」
なるほど。千秋をライバル視しているわけだ。随分と見る目のある奴だな、田宮は。
「着順報酬はあまり取れていないようだが、課題では着実に点を稼いでいるようだ。3年も交ざったビーチフラッグスでは1位を獲っていた」
「そう……私も頑張らないと」
ぐ、と拳を握って気合いを入れる田宮。千秋を健全にライバル視してくれるのは彼氏としても嬉しいところだ。順位も近いクラスだし、良い競争相手になってくれるかもしれない。
「彼女自慢ですか、綾小路清隆? ただでさえ暑いんですからお熱いのもほどほどにしてください」
「そんなに言われるほどか?」
「ええ。普段から常にベタベタくっついている上、この無人島サバイバルでも、試験だというのに松下千秋とイチャコラしているとの目撃証言が多発しています」
この無表情でイチャコラとか言われるのはなんだか面白いな。
しかし、関わりの薄い同学年の生徒からも突っ込まれるとは……無人島ではそこそこ大人しくしていたつもりだったんだが。
「綾小路くんは入学当初から松下さんとお付き合いしていたんですよね。噂はいつも聞いていました。どういった経緯でお付き合いを?」
「ありがたいことに、千秋の方から声をかけてくれた。オレは入学当初、目立ちたくなかったから勉強や運動は手を抜いていたんだが、プールの授業なんかで鍛えているのがバレたみたいでな。それで興味を持ってくれたらしい」
「へえ。じゃあ、松下さんから告白したの?」
「そうなるな」
真面目な坂柳クラスの生徒たちだが、やはり高校生。こういった話題には食い付きが良いな。
「興味深いですね。綾小路清隆は話している限りでは恋愛に無関心なように思えましたが、松下千秋の話をする時だけは嬉しそうに見えます。表情は変わらないのに」
「表情が変わらないのはおまえもだろ」
「私は良いのです。無表情キャラで売っているので。その点で言えば、学年トップの成績を誇る綾小路清隆とキャラが被っているのは私にとっては死活問題と言えるでしょう」
「どこも被ってないから安心してくれ」
「いや、確かにどっちも無表情かも」
森下との議論に、田宮が口を挟んでくる。
確かに、オレも表情を作るのは得意ではないが、森下のような変人とキャラが被っているとは心外だ。
わいのわいのとオレと森下のキャラ被りについて女子らが盛り上がっている最中、真田からそっと声を掛けられる。
「綾小路くん、良ければこの試験が終わった後も、森下さんと仲良くしてあげてください」
「仲良くって……真田は森下の母親か何かか?」
「い、いえ。そんなつもりではないのですが、森下さんはこう、ズバズバ物を言うタイプなので、クラスでは特異な立ち位置なんです」
それは、クラスで浮いてるってことか……
「森下さんが、ここまで楽しそうに話す姿はあまり見かけないものですから。競い合うライバル同士ではありますが、綾小路くんさえ良ければ」
「まあ、仲良くした覚えはないが、さっきみたいな世間話で良いなら構わない」
「ありがとうございます」
真田は少しほっとした表情で礼を言う。
クラスメイトのことをよく考えているようだな。その優秀さと言い、どこかウチのクラスの平田や一之瀬クラスの浜口に近いものを思わせる。
坂柳クラスの潤滑油とも言える生徒。それが真田という男なのかもしれない。
そんな実感を伴いながら、真田たちと別れ改めて今日の方針を立て直す。
4日目は特に重要な日のひとつだ。
今日から大グループが解禁される。課題の独占には今まで以上の意味を持つ。
しかし、ここで戦況に変化が起きた。
「……なるほど」
坂柳からトランシーバーで報告を受ける。
オレは急ぎ最も近場の、グループ増員権が報酬となる課題の現場に向かった。
が、その課題はすでに締め切られている。……1年生と3年生によって。
「遅かったな、綾小路」
「南雲先輩」
3年生の群れの中からこちらに歩み寄り、ぽん、と馴れ馴れしくオレの肩に手を置いてくる南雲。その表情はまさにしたり顔というやつだ。
「1年生と組んでいた、というわけですか」
「3年で俺の支配下にあるのはC、Dクラスだけだからな。ひとクラス分の不利がある分は1年生と組むことで補わせてもらったわけだ」
大人しくしていた割に余裕を持った態度だったのは、これが理由というわけだな。
しかし、南雲も我慢の利かない男のようだ。4日目にして、自分のグループの順位が一番上になかったことに我慢ならなかったらしい。
たしかに、大グループをいち早く組める、また2年生が大グループを組むのを妨害するという点で見れば4日目にして1年生との共闘を明らかにするのはひとつの手ではある。それにしてももう少しバレないようにやればいいものを。
南雲の自己顕示欲の高さが窺える。
「ちなみに、どんな条件で組んだんですか?」
「1年生主力グループの2位入りだ。俺たち3年が協力してやればそのくらいの順位操作はできるからな」
「1年生は体格差がある分、オレたち2年と真正面からやり合っては分が悪いですしね。一方で、ハンデとして上位入りした際に貰える報酬がオレたちより多い」
「分かっているじゃないか。だからこそ俺たちが1位、1年生が2位でも揉めることなく交渉を纏められたわけだ」
「1年生と3年生が接触していた情報は掴めませんでした、さすがですね」
「心地いいもんだな、澄まし顔のヤツから負け惜しみを聞くってのは」
1年生と3年生の交渉については、2年生の他の誰も把握していないことだったはずだ。坂柳クラスの情報収集要員である山村をはじめ、見つかりづらい何人かで3年生の主要メンバーの監視は行なっていた。そこで尻尾が掴めなかったということは、無人島に入ってから初めて協力関係を持ち込んだのだろう。
「大グループ作成の課題の独占はさせないぜ。1年と俺たちで組めば人手は倍。たとえ桐山たちと2年生が組んでいたしても7クラス対5クラス。人数差で俺たちが勝つ」
そこまで読まれていたか。
桐山は南雲のこれ以上の独走を防ぐべく、オレたち2年生に協力を申し出てきていた。2年主力グループが1位を獲ることなど、こちらの出す条件に同意してくれたので、断る必要もなかったからな。
「しかし、人数が勝っているとはいえ比率は5対7ですよ。課題の独占を封じるのは不可能なのでは?」
「まあ、それについてはその通りだな。おまえたちをビビらせようとしたジョークさ。だが、こちらが有利なのには変わりはない。見てな、綾小路。おまえを生徒会に入れて馬車馬のように働かせてやるよ」
「それは構いませんが……」
「なんだ、もう敗北宣言か? ちょっと期待ハズレだったかもしれないな。だが、手を抜くことはしないぜ。次はもっと大事なものを賭けさせてやるよ」
こいつ……学習しないのか?
千秋のことを言っているんだとしたらもう一度分からせてやる必要があるかもしれない。
いや、オレに勝てる、オレの実力が想定ほどじゃないと判断したからこその言葉か。
「では、オレはオレでできる限りのことはします」
「ははは、頑張れよ綾小路。どう足掻いても3位入りすら厳しいだろうがな」
南雲は勝ち誇ったような台詞を吐いて立ち去っていった。アレを言うためだけに近付いて来たのか……随分と余裕だな。
この日から、無人島サバイバルは学年ごとの戦いでなく学校を二分する戦いへ様相を変えていく。
1年生の協力を得た南雲は勢いに乗っていた。大グループを作成し、増員カードの効果も併せて着順報酬も順調に得ていき、5日目が終わる頃にはあっという間に1位に躍り出る。
一方、数で上回られた2年生たちも抵抗を見せ、龍園ら主力グループの大グループ作成に成功。2位に着けている状態となっている。1年生の主力が3位と、学年順に並んでいる状態だ。
南雲が1年生との契約を履行するためには、ここから2年主力グループへの妨害が入るものと考えて良いだろう。
無人島に入ってからの契約なので口約束ではあるだろうが、南雲の生徒会長という立場上、口約束とはいえ反故にしては信用に関わるからな。
さて、こっちはこっちで、千秋が狙われかねないというなら手を打っておく必要がある。
オレはトランシーバーを手に取り、忠犬に連絡を取った。
◆
6日目。ここでも試験において重要な要素が解禁される。GPSサーチという機能だ。
得点を1消費することにより、無人島の全生徒たちの位置を確認できる機能。試しに一度使用してみる。
タブレットの地図上に、全校生徒約400人分ものピンが立つ。壮観だな。拡大しなければとてもではないが把握しきれない。
このGPSサーチ機能は、2年他クラスとの契約により3位以内に入れないオレにとってはかなりありがたい機能だ。12日目までしか上位クラスの順位は確認できないが、万が一上位3位以内に入っているようならこの機能により得点の調整ができる。
もし最終順位3位以内に入っていた時は、各クラスに違約金を払うことになっている。それは避けねばならない。まあ、この機能がなかったとしてもやりようはあったが、手段が多いに越したことはないだろう。
「さて……」
オレは指定エリアに導かれるまま、島の北部を目指す。しかし、違和感。
さきほどからやたらと指定エリアが北へ北へと進んでいる。地図上にはビーチがあるようだが、GPSサーチの結果を見るに島の北端側にはほとんど生徒がいない。
……指定エリアが操作されているということだろう。恐らく、現在オレのタブレットには正しい指定エリアが表示されていない。
千秋たちは他グループとともに課題の独占に動いている。この多人数でいる中で、月城たちが手出しすることはできない。
また、今回の試験で1位を獲る必要もない。
憂いは何もない。オレは淡々と無人島の北端、I2を目指す。
美しい白い砂浜。青い海。生徒たちの喧騒もなく、波の打つ音だけが響いている。同じ白でも、ホワイトルームとは随分と違うものだ。
千秋と一緒に来たかった。
まあ、毎年無人島試験はあるようだし、また来年、この島に来れるのを祈っておくとしよう。
「随分と気の抜けた顔ですね、綾小路くん」
歩く先に立っている男から声を掛けられる。相変わらずにこやかな表情の月城。そして、唇を一文字に結び真面目な顔付きの男。
「そちらの方は?」
「1年Dクラス担任、司馬先生です」
「どうも。2年Aクラス、綾小路清隆です」
「……聞いていたよりもユーモアに溢れた男のようだな。のんきに自己紹介とは」
「司馬先生も月城理事長側の人間ということでよろしいですか?」
「ええ。2対1です。卑怯だと思いますか?」
「いえ。白々しいとは思いますが」
そう口にした瞬間。
背後からの2つの影が、オレに襲いかかる。身をかわし、スタンガンを持った2人の腕を取ると月城の方に投げ飛ばす。
下が砂浜ということもあり、2人はすぐに起き上がると月城たちのところまで後退した。
「ふふふ。よく気が付くものですね。波の音や会話で足音など聞こえていなかったでしょうに」
「オマケにGPSサーチ対策で腕時計まで壊していたようですからね。気付いたのはたまたまですよ。天沢と八神……彼らがホワイトルーム生というわけですか」
「やっほー、先輩。そういうわけだから、ごめんね?」
「綾小路……あんたを始末する日が遂にきた」
天沢はひらひらと手を振り、八神は口の端を吊り上げる。
「2対1だなんて白々しい。大人は嘘吐きですね、月城理事長」
「全ての大人がそうというわけではありませんがね。目的のためには、時に嘘を吐くことも厭わない。少なくとも私はそうして生きてきました」
「教育に悪いですね……」
「この学校でも、嘘や謀略が必要になることはいくらでもあるでしょう。大なり小なりはありますが、世間というのはそんなものです。ホワイトルームが潔癖すぎるだけかと思いますよ」
これは中々面白い知見だ。
しかし、全く嘘のない環境などあり得ないだろうしな。確かにそうかもしれない。
ホワイトルームは自らの成績が全てで、それしかなかった。ある意味では純粋培養の世界だったのかもしれないな。
「さて。では改めまして、4対1です。いかに最高傑作の君といえど、この戦力差は覆し難いのではないでしょうか」
「そうかもしれませんね」
オレは思ってもいないことを口にした。