猛攻。そう呼ぶに相応しい攻撃の嵐がオレに襲いかかる。
最も当たってはいけないのはもちろんスタンガンだが、持っているのが八神と天沢の2人である以上、ここは心配する必要はない。
四方を囲まれる中で月城レベルの猛者に狙われては、避けきるのは困難だ。回避ルートを八神に潰され、避けきれなかった月城の拳を腕でガードする。
鈍痛が骨まで響く。
続け様に放たれた司馬のハイキックと天沢のスタンガンを転がるようにかわしながら、隙を見て包囲を抜け出す。
体勢を立て直すが、その間に八神が回り込んでおり、再度オレの逃げ道を塞いだ。
「大したものですね。4人がかりだというのに、一度の接触で倒しきれないとは思いませんでした」
「あなたたちが様子見していたからじゃないですか?」
「こちらを観察する余裕まであるとはね」
月城は手を叩いて賞賛を表す。
どこまで本気か分からないが、4人がかりで仕留めきれないとなってはプライドに傷が付いていてもおかしくはないはず。しかし、月城の顔に焦りや動揺は見えない。ポーカーフェイスな男だ。
さすがに、この実力者含む4人に四方を囲まれては攻撃を貰ってしまう。幸いなのは、刃物の類を使ってこないことか。
まあ、彼らの目的はオレを連れ戻すことなので、初めから除外している可能性ではあるが。
しかし、相手側にスタンガンがある以上、動きを止めたら終わりだ。相手は1人がオレを抑え、諸共にスタンガンを浴びせれば勝ちだからな。
「それにしても、てっきり最終日、生徒たちの疲労が最も溜まっているタイミングで仕掛けてくるものとばかり思っていました。まさか6日目にして仕掛けてくるとは」
「不思議ではないでしょう? 6日目はGPSサーチも解禁される。最速で動くなら悪くない日程では?」
「学校側は6日目以前からGPSの反応を拾えるでしょう。無人島でのこれほど大規模な試験。サーチと違い常に生徒たちのGPS反応、バイタルサインはモニタリングしているはずです」
「そのくらいは見抜かれますか」
見抜くもなにも、学校側が生徒の位置や健康状態を把握していないわけがないからな。月城も冗談半分で口にしただけだろう。
「襲撃を本日にしたのは八神くんの発案ですよ。最終日に仕掛ける、というのはいかにも分かりやすいですからね。そこに合わせてコンディションを整えさせては、不確定要素が増えてしまう。明日は雨天ですし、試験が動かないタイミングで体力を回復されるよりは、今仕留めてしまった方が良いということです」
八神の方へ視線をやると、にやりと笑みを見せる。よほど自分の成果を誇示したいらしい。
「勝ち目がないことは理解できたでしょう。いい加減に子供じみた抵抗はやめて、大人しく父上のもとに戻りなさい」
「勝ち目がない、ですか。一度やっただけだとまだどうなのかハッキリしないので、もう一度来てみませんか?」
「おや、君らしくないですね。挑発してこちらを警戒させ、攻撃の手を緩めさせようとしたのでしょうが……そんなハッタリは通用しませんよ」
「月城理事長。もうこれ以上、長引かせる必要はないでしょう。気絶させて船に乗せた方が手っ取り早い」
司馬が月城に呼びかける。
もう少し引き伸ばしたかったが、せっかちな男もいたものだ。まあ、このくらいで良いだろう。
オレは月城たちの背中側に腕を回し、手を動かしてサインを出す。
その様子を見て、月城は目を細めた。武器の類を取り出すのかと警戒しているのだろう。
「いいでしょう。……これにて君の学生生活は終わりです、綾小路くん。私としても残念ですよ。もう少し楽しめると思っていたのですがね」
「八神、天沢。合わせなさい」
「はい」
「はーい」
月城、司馬、天沢、八神が十字を描くように、四方からオレに向けて疾走する。
オレは……動かない。月城の方を向いたまま、動かない。
「何を——」
オレの意図が読みきれない月城だったが、ここで止まれば連携が崩れる。そうなれば、司馬はともかく八神や天沢は各個撃破される恐れがあると踏んだのだろう。
月城は止まる選択をしない。違和感を覚えたまま、それでもオレに向かってくる。
そんな月城の攻撃を、オレは真正面から受け止めた。
「馬鹿な」
さすがの月城も、思わずそう溢す。あり得ない行動だ。
本来、オレが取るべき選択肢は回避一択。なぜなら、四方を敵に囲まれている状態では、1人の攻撃を受け止めたとしても、足が止まった瞬間袋叩きにされてしまうからだ。
悪手も悪手。故にこれは、月城の想定外となった。
月城の思考が止まった一瞬を突き、カウンターでの肘打ち。みぞおちを狙った結果、彼は膝から崩れ落ちる。
この後、オレは三方向からの連撃になすすべなく倒される。……無策だったのなら。
「ぐうっ!?」
司馬の短い声とともに、どさりと砂浜に倒れる音。
振り返ると、天沢と八神がスタンガンを司馬に押し当て、気絶させているところだった。
天沢はにやりと笑い、オレにピースしてくる。オレも親指を立て、ナイスだとサインする。
「よくやった」
「えへへ。綾小路先輩に褒められちゃった。いいでしょ、拓也」
「なっ……自分だけの手柄みたいに言うなよ、一夏。僕だって……」
「もちろん、八神もよくやったな」
「っ、はい、綾小路先輩!」
きらきらと目を輝かせて、八神は元気よく返事をした。数週間前とは真逆の反応だ。
「……これは、やられましたね。天沢さんはともかく、八神くんまで手懐けているとは」
「手懐ける、とは心外です。以前の僕が間違えていただけですよ。綾小路先輩ほど優れた方は他にいません」
八神が恍惚とした表情で語らう。以前の僕、とはオレを憎悪し殺意まで向けてきたことを指している。
「だから前から言ってたじゃん。綾小路先輩は尊敬すべき人だ、って。それを他人を崇拝するだなんて、軟弱だなんだって言っちゃってさ」
「悪いな、一夏。そこに関してだけは僕が全面的に間違っていたよ」
「彼の憎悪を崇拝に書き換えるとは……改めてあなたの恐ろしさが身に沁みますよ、綾小路くん」
月城も、八神の言葉で理解したらしい。
オレが八神を洗脳したという事実を。
◆
無人島サバイバルの事前説明がなされた数日後。南雲に生徒会室への呼び出しを受けた後、オレはまた別の人物に呼び出されていた。
天沢一夏。ホワイトルーム生を自称する、1-Aの女子生徒だ。
場所は体育館の柔道場。こんな場所に呼び出されて、穏やかじゃないことが起こる気しかしない。少なくとも色恋沙汰ではないのは確かだ。
体育館に向かい、柔道場の扉を開ける。放課後はいつも柔道部の誰かしらが特訓しているはずだが、人影ひとつない。
「今日は柔道部は校外に出ている。邪魔は入らない」
背後からギィ、と鈍い音。扉が閉じる。その前に立っているのは、オレを呼び出した天沢ではなく、新学期直後のパートナーを組む筆記試験でオレの相方となった、八神拓也だった。
予想通り、天沢を使ってオレを呼び出したのは八神だったか。外には天沢もいるようだな。外部の人間を中に入れないための見張りか。
「天沢を使って呼び出して、オレに何の用だ、八神」
「それが分からないおまえじゃないだろう」
「予想が間違っている可能性もあるかと思ってな」
「……話は単純だ。おまえを殺して、僕があそこで1番の存在になる。そして先生に認められる」
先生。つまりは綾小路篤臣、オレの父だ。
あの男はホワイトルーム生や、神崎など財界人の子息に自分のことを先生と呼ばせ悦に浸っているらしい。元政治家、つまり今は無職のくせに、プライドだけは一丁前な男だ。
「だいたい予想通りではあるが、殺すとは物騒だな」
「安心しろ、凶器を使うわけじゃない。ただこの手で縊り殺すだけだ」
「何も安心できる要素がないな……」
しかし、襲撃場所に選んだのが柔道場とはな。ある意味正解を引いたが、オレに真正面から勝てるつもりでいるのだろうか。
ホワイトルームでどれだけ過酷なカリキュラムをこなしたとしても、あの場所でオレを超える存在が生まれるはずがない。
ホワイトルームの教育に関しては、このオレが一番良く知っている。
「分かった。この学校の先輩として、そして4期生の先輩として指導してやる。かかってこい」
ネクタイを緩めてそう挑発すると、獲物を目の前にした猛獣のような勢いで、八神はオレに向かってきた。
しかし、次の瞬間には彼は柔道場に仰向けに倒れていた。合気道の一種だ。
βカリキュラムで習得した技術だが、八神は何をされたかまるで理解できなかったようだ。
「がっ……!?」
「柔道場で仕掛けてきたのは正解だったな。コンクリの上なら頭が割れていた」
まあ、こちらとしては殺す気はないので、コンクリの上だったらそれはそれで別の方法で鎮圧していたが……
ただ、今回手加減はしても容赦をするつもりはない。オレは倒れた八神に蹴りを入れるモーションを取る。八神は慌てて飛び起き、距離を取った。
「これが全力じゃないだろう。凶器は使わない、なんて言っていたが、遠慮はしなくていい。使っても、おまえがオレに勝つことはない」
「舐めるなよ! たしかにおまえのスコアは驚異的だった。だけど、僕がおまえに劣っていると思ったことはない!」
再度、八神が向かってくる。しかし、その牙がオレに届くことはない。
向かう度柔道場に転がされ、何十回と繰り返す内に、八神は肩で息をし始める。
ホワイトルーム生なら、まだ体力は残っているはず。が、八神は憔悴し切っていた。
精神的に追い詰められている証拠だ。
「なぜだ……どうして。僕は、僕は一番にならなきゃいけないのに!」
自らを鼓舞するように叫ぶ八神。オレはその言葉を耳聡く拾い上げる。
「一番に? おまえほどの実力なら、5期生では一番だったんじゃないのか」
ぴく、と八神の動きが一瞬止まる。しかし、直後には再度オレに襲いかかってきた。
「ああ、そうさ。僕は5期生で一番だった……だがそれじゃダメなんだ」
「なぜだ」
「教官たちは僕に見向きもしない。綾小路清隆はもっと凄かった。綾小路清隆を目指せ。そう嘯くばかりで、僕を見ようとしない」
「なるほど。それでオレを憎悪していると」
「そうだ。ホワイトルームには成功例が1つあればいい。それ以外は見向きもされない。価値がないんだ。おまえをその座から引き摺り下ろす。そして僕が無価値でないことを証明してやる!」
八神の考え方が見えてきた。
相当なコンプレックスを抱えている。当然だ。自分がどれだけ努力し、優秀な成績を残しても褒められることがない……つまり満たされることがない。
乾き切っている。砂漠で水を求めるように、自分が認められるということに飢えている。だから、さきほどのオレの言葉、特に『おまえほどの実力なら』の一節には特に反応を示した。
使えるな。
八神の心の隙が見えてきたところで、オレは準備に取り掛かることにした。
まずはオレには絶対に勝てないことを理解させる。
仕掛けてくる八神の腕を取り、畳に叩きつける。
「どうした、その程度か?」
「があああああッ!」
ケダモノのような雄叫びを上げる。面白いほど簡単に挑発に乗ってくる。それだけオレのことを憎悪していたということか。身に覚えのないことでこれだけ憎まれるとは、ホワイトルームの教官連中も厄介な真似をしてくれたものだ。
しかし、声量で実力差が覆るわけはない。
何度も何度も……およそ数十分にも及ぶ攻撃をすべて捌いてやることで、八神にはどうあっても正面からは敵わないと印象付けた。
「はあっ、はあっ……綾小路ィ!」
「八神。はっきり言ってやるが、おまえがどれだけ優秀でもオレとは格が違う。おまえ自身、本当はもう分かっているだろう」
「うるさい!」
また無様に転ぶ。
八神の瞳には涙さえ浮かんでいる。
今、八神は絶望の中にいるのだろう。
どうして勝てない。このままでは自分は無価値な人間になってしまう。しかしそれを解決する方法なんてない。
「おまえはオレには勝てない」
覆しようのない事実を突きつけられ……八神はついに膝を折る。
「…………僕は……僕は……おまえには……!」
ぼろぼろと涙を流して蹲る。
懐かしいな。ホワイトルームでは飽きるほど見てきた光景だ。
心の折れた者の態度。心の隙間に入り込むには相応しいタイミングだろう。
「ああ、勝てない」
「ッ——」
「しかし、おまえはホワイトルーム生の中では、最もオレに近い存在だと言える」
「……なに?」
涙も収まりきっていない状態で、しかしオレの言葉に顔を上げる。
「八神、お前は優秀だ。オレは4期生としてβカリキュラムを受けてきた。最も過酷と言われるカリキュラムだが、それを受けるにあたり、当然オレの同期には脱落者が大量に出た」
βカリキュラムに最後まで付いてこれたのは、志郎だけだ。雪やその他の有象無象は、その過酷なカリキュラムを前に次々にホワイトルームを去っていった。
「βカリキュラムを受けてホワイトルームを去るだけだった有象無象とは比にならない。おまえは特別だ、八神」
「……おまえにそう言われたところで——」
「なら、誰に言われたら納得する。ホワイトルームの教官か? オレの父親、綾小路篤臣か? 八神。こう言ってはなんだが、あんな連中の評価なんてなんの価値もない」
「馬鹿な、あの人に認めてもらうことが僕たちの存在理由だ。ホワイトルームの成功例……それが、それだけが価値のあることだ」
「いいや違う。八神。おまえはオレのスコアを超えるため、血の滲むような努力をしたはずだ。一朝一夕では、先ほどのような身体能力や特別試験で見せた学力は身に付かないだろう。もう一度言う。おまえは特別だ、八神」
「……僕が、特別?」
呆然と、オレの口にした言葉を反芻する。
「そうだ。おまえは特別だ、八神」
「僕が……」
「考えてもみろ。ホワイトルームから出てオレと戦うまで、自分に匹敵するような相手が他にいたか?」
「……いいや、いなかった」
「そうだろう。それだけおまえは特別で、優秀だ。だというのに、教官連中やあの男はおまえを認めようとしない。いったいなぜか? それはおまえを満足させないためだ」
本当の理由は、オレと比較していたからだというのは八神の言葉からも分かっている。しかし、ここはあえて捻じ曲げた真実を八神の頭に植え付ける。
「自分たちの都合で、おまえほど優秀で特別な存在を冷遇する。そんなやつらにおまえほどの男が忠誠を誓う必要はどこにもない」
「け、けど……」
「八神。オレの下に来い」
反論を許さず、それを口にする。
「オレはおまえのように有能な男を冷遇したりはしない。オレがおまえを認めてやる。もっと高みに連れていってやる。おまえはそれに相応しい男だ」
オレが吐く言葉のひとつひとつが、乾き切り、なおかつオレに粉々にされた心に浸透していく。さながら、砂が水を吸収するかのように。
単純なやつだ。こんな言葉だけでここまで堕ちるとはな。
生まれてから満足に褒められたこともないのだから、仕方ないことなのかもしれないが、それはオレも同じだ。
そういう意味では、ホワイトルームの教官たちが彼らをオレと同じように成功例として扱わなかったのも、ある意味正しかったのかもしれない。こう簡単に洗脳されるようでは、ホワイトルームの外の世界では生きていけまい。
教育方針のせいだろうとは言いたくなるがな。
「もちろん、おまえの言いたいことも分かる。あの場所に未練があるのなら、この手を取らずとも構わない。しかし、一つだけ断言できることがある。ホワイトルームが、あの男がおまえを認めることはない」
八神がどれだけ優秀だろうと、ことホワイトルームの基準で言うなら、オレ以上の存在が生まれることはないからな。
「僕は……僕は……」
己の価値を、ホワイトルームの成功例となることでしか見出せないという八神は、狼狽えるように声を震わせる。
まだ迷っている様子だ。そんな八神に、ダメ押しの一言をくれてやる。
「だが、オレと来るなら……オレがおまえに価値を与えてやる」
自分を無価値と思い込んでいる八神だが、そんなことはない。オレからしてみれば、十分過ぎるほどに利用価値がある。
言葉を飲み込んだ八神がオレを見る目に、もはや憎悪など欠片も残ってはいない。むしろ晴々とした視線がオレを貫いている。
そして、差し伸べられたオレの手を取った。
こうしてオレは忠犬
◆
「あなたは4対1だと言いましたが、実際に2対3だったわけです。天沢もオレを尊敬してくれているようですから、あっさりこちらに着いてくれましたよ」
「なるほど。そして今や私は孤立無援というわけですか」
勝ち目がないのは月城の方だった。不意打ちで八神と天沢に襲い掛かられては、月城はともかく司馬の方は確実に仕留められる。
「6日目にして仕掛けるよう、八神くんに誘導させたのも作戦の内だったのですか?」
「ええ、思ったよりも早く南雲会長が仕掛けてきたので。月城理事長からも同時に仕掛けられたら厄介なので、早めに対処しておきたかったんです」
「やってくれますね、私を前座扱いとは。しかし、演出家なものですよ、綾小路くん。初めから勝っていたというのに苦戦するような真似をして」
「びっくりさせようと思いまして。どこかで聞いたんですよ。『サプライズはデートの基本』だと」
千秋と付き合う中で、オレにも悪戯心が芽生えたというわけだ。
「ふふふ……まったく、子供とは面白い成長を遂げるものです」
月城の言葉に敵意はない。彼は両手を挙げて降参の意を示した。
「参りました。君の勝ちです、綾小路くん」
「随分あっさり認めるんですね」
「引き際を誤るほど愚かではありませんよ。最高傑作である君に加え、ホワイトルーム生が2人……司馬先生の倒れた今、私が仕事をこなせる可能性は極めて低い」
この状況では月城に勝ち目はない。それはその通りだ。
しかし、それ以前に月城は本気でオレを退学に追い込もうとしていたのだろうか。そんな疑念が頭をもたげる。
理事長という立場を使い特別試験のルールに干渉すれば、もっと容易に、かつ徹底的にオレを追い込むことができたはず。
それだけじゃない。オレの中で最も大きくなっている存在……千秋を狙うことだってできたはずだ。
「天沢さん、八神くん。君たちは命令に逆らった。失格の烙印を押されるでしょう。もはや君たちに戻る場所はありません。この学校から去るも留まるも、好きにしなさい」
「……あんたに言われるまでもない。僕は、僕を認めてくれるこの人に着いていく」
「あたしもあたしも。まあ、月城さんとのやり取りもそれなりに楽しかったよ?」
「ふふ、それは良かった」
オレの思考を遮るように、月城が天沢と八神に声をかけると、2人はそのように返した。
月城はどこか満足そうだ。
「さて……そろそろタイムリミットのようですね」
月城とオレは、遠目にビーチに着いた船の存在を認める。茶柱先生、真嶋先生が慌てた様子で降りてきている。
冬休み、月城から接触を受けたオレと坂柳は、両クラスの担任に一部の事情を打ち明け協力を依頼した。半信半疑ではあったものの、茶柱先生はオレの担任として、真嶋先生は正義感のある学年主任として要請を受けてくれた。
八神と天沢にあらかじめ呼ばせておいたが、ちょうどいいタイミングでの到着となったようだ。
2人が月城に近づき、彼を詰問する。
しかし、月城は2人に対しては強気に「何もなかった」と強弁する。司馬もスタンガンによる気絶から早くも立ち直り、本調子ではなさそうながらも月城に追従していった。
「では、八神くん、天沢さん、そして綾小路くん。改めて、試験を頑張ってくださいね」
オレを捕らえられなかったにもかかわらず、月城はまるで堪えた様子もなく、薄い笑みを絶やすことはなかった。
思うところのあったオレは、思わず声をかける。
「月城理事長。この試験が終了した後、お時間をいただけますか?」
茶柱先生、真嶋先生がギョッとした顔でこちらを見る。月城は敵であると2人には伝えていた。こちらから会おうと提案することに、理解が及んでいないようだった。
しかし、月城はそうでなかったようで、相変わらず穏やかな笑みを浮かべたまま、分かりましたと一言だけ応えた。