2年生他グループに帯同しながら、私たちは課題の独占を図り、主力グループである一之瀬さんたちを迎える。
初めの3日こそ順調そのもので、4日目の順位発表の日には2年主力グループが1位になった。しかし、そこから3年生……いや、南雲会長が本気を見せ始めた。
彼は1年生を味方に付けていたようで、7クラス合同による人海戦術で私たちを圧倒した。
こちらも3年Bクラスとの共同を行い対抗するも、2クラス分の人数差は埋めがたい。ジリジリと引き離されていく。
7日目は雨天のため試験が中止され、翌8日には最終日は獲得ポイントが2倍になる処理が行われると学校側より発表された。
「ちっ。南雲のヤロウ、1年を従えてやがったとはな。負けている割に余裕のはずじゃねえか」
「こうなってくると、清隆くんに南雲会長を徹底マークしてもらって、課題への参加を妨害し続けるしかないかな。南雲会長との賭けには負けてしまうけど」
「結局そうなるか。クク、生徒会入りした下っ端を顎で使ってやるとするか」
龍園くんたち主力グループと話しながら、今後の対策を練る。こんなこともあろうかと、清隆くんには『半減』カードとクラス貯金を必要分渡してある。連続スルーで失点を続けて下位に落ちたとしても、退学することはない。
「松下さんはいいの? 綾小路くんが生徒会入りして」
「別に構わないよ。本人もデメリットは特にないって言ってたし。たまに生徒会室にお邪魔するかもだから、その時はよろしくね」
「あなたたちの場合『たまに』じゃ済まなそうなのが問題ね……毎日の間違いじゃない?」
堀北さんが苦い顔をする。そ、そんな頻度で押しかけるつもりはないんだけどな。
しかし、南雲会長を徹底的に妨害するのであれば、清隆くんのマンマーク戦略は避けられない。頑張ったのに罰ゲームのように生徒会に入れられたのでは清隆くんが可哀想だ。
お弁当を届けるくらいはしてあげたいところ。
「だが、綾小路が南雲に張り付けば、少なくとも課題の得点はほぼ完封できる。大きく勢いを削ぐことになるだろう」
「単独で強力な存在がいるだけで、ここまで戦略が変わるものだとはな……綾小路といい高円寺といい、Aクラスは羨ましいことだ」
葛城くんの言葉に反応するようにそう溢したのは、意外にも一之瀬さんのクラスの神崎くんだった。
いや、彼のことをそこまで詳しく知っているわけではないけど、一之瀬さんのクラスは皆、和気藹々と仲良く団結して試験に挑む生徒たちだと思っていたから。
こちらの視線に気付いたのか、神崎くんは失言だったとばかりに顔を青くする。少し大袈裟だ。別に、一之瀬さんに密告したりはしないのに。
「高円寺くんね……南雲会長にあまり離されていないのは、彼を止めるのにも戦力を差し向けているから、だよね」
「ああ。同様に鬼龍院先輩にもな。特定の個人にここまで戦力を割くことになるとは、さすがの生徒会長も想定になかったはずだ。我々もまだ負けたわけではない」
「よかったわ。普段邪魔ばかりの彼も、たまには役に立ってくれて」
「高円寺くん、普段は自由人だもんね。今回はどうやって協力を取り付けたの?」
「さあ……私には彼の考えがまるで読めないわ。その時の気分で動いているだけじゃないかしら」
一之瀬さんの質問に正直には答えず、堀北さんは順位表に目を落とした。
1位は南雲会長のグループ。
そこから少し点数を落として、1年生主力グループ、2年生主力グループと続く。その下にはなんと単独4位で高円寺くん、鬼龍院先輩と続く。妨害を受けながらこの点数は、改めて彼らの能力値の高さを窺わせる。
清隆くんは8位だ。何かトラブルでもあったかと心配してトランシーバーで連絡したけど、『大丈夫だ。ちょっと指定エリアをスルーし続けて失点しただけだ』となんでもなさそうに言った。
絶対ウソだよね……
まあ、清隆くんが無事ならいいんだけど、あまり秘密主義がすぎると心配になる。
と、私が彼氏のことを思い浮かべていると、坂柳さんからの連絡が龍園くんに届く。
「坂柳か。何の用だ?」
『面白いことが起こっていたので、情報共有をと思いまして。……どうやら、1年生が3年生から離反したようです』
「なんだと?」
トランシーバーからの音声はこちらにも届いている。1年生が離反?
もう南雲会長たちには手を貸さないと?
「はっ、1年もなかなか面白い真似をしてくれるな。南雲相手に革命とは」
『それだけではありませんよ。どうやら、綾小路くんにまたしてもやられたようです』
「……どういうことだ、松下?」
「私も初耳なんだけど……聞いてみるよ」
私はトランシーバーで清隆くんに連絡を取る。
聞いてみると、どうやら1年Bクラスのリーダー八神くん、そして天沢さんを通して1年Aクラスのリーダー、石上くんと繋がっていたみたいで、1年生の半数を味方に付けていたとのこと。
1年CDクラスも単独ないし2クラスだけでは私たちに対抗できない。ABに促されるまま、2年生……正確には清隆くんと同盟を結んでいた。
1年生が一時的にでも南雲会長側に付いたのは、相手を油断させるため。2年生に組まれたら人数差で不利があることは、南雲会長も分かっていたはず。対抗策として最も手軽で強力なのが、1年生と組んで人数差をひっくり返すこと。だからこそ、南雲会長側から接触があるだろうことを清隆くんは読んでいた。
結果、南雲会長は他に大規模な戦略を用意していなかったみたいだ。
……清隆くんの秘密主義は今に始まったことじゃないけど、今回は随分な大ごとを隠していたものだね。指定エリアスルーの件もあいまって、ちょっとムッとする。
「清隆くん?」
『すまない。びっくりさせようと思ったんだ』
私の声色で怒っているのが伝わったのか、清隆くんは謝罪から入った。
「サプライズは結構だけど、私にくらいは話してくれてもよかったんじゃない?」
『ああ、悪かった。反省している』
「……まあ、知っている人間が少ない方が情報漏洩のリスクは少ないしね。分かってるよ」
声色が少し落ち込んでいるようで、清隆くんがよくよく反省しているようだと伝わってくる。
「シフォンケーキで手を打ちましょう」
『……なぜ敬語?』
「喋っている途中で、なんか上から目線で偉そうかなーと思って……」
『なるほど。分かった、腕によりをかけるから、楽しみにしておいてくれ』
私は皆の方に向き直り、清隆くんから聞いた内容を簡単に皆に伝える。
「……というわけだから、1年生とは同盟関係に……なにその顔」
「ええっと……」
「痴話喧嘩を見せられりゃあ、さすがの聖人一之瀬サマもタジタジか。クク、オレとしては綾小路の情けない声が聞けたのは中々面白かったがな」
しまった……皆の前で堂々と、何をしているんだ私は。顔が熱くなる。
「松下さんたちのコレはいつものことだから気にしないで頂戴」
「ちょ、堀北さん!」
堀北さんにまで呆れられるのは非常に心外だ。
「ともかく、これで人数差は覆ったな。南雲会長側は3クラスなのに対し、こちらは1年、2年の全体、そして3年Bクラスの9クラス。戦力差は実に3倍……負ける要素はない」
「うむ。1位は我々2年主力グループとして、2位には1年生のグループを入れる契約だそうだな。だとすると3位グループは……」
神崎くんに同意した葛城くんが言い淀む。
本来、私たちは1年生と組む予定ではなかったから、ここまで試験結果をコントロールできるだけの戦力が揃うと想定していなかった。
だからこそ、3位の枠を自由に決められるとなれば……火種になりかねない。
正直に言えば、私たちAクラスの理想的な試験結果は、2年主力が1位、高円寺くんが2位ないし3位を獲るというものだった。
高円寺くんの動きに関してはコントロールできないので関知しない、と2年全体での契約では決まっていた。他クラスも、高円寺くんの動きを制限するのは不可能で、そこで私たちAクラスに負担をかければ交渉が纏まらないと理解してくれたからだ。
実際には、高円寺くんは今回、1位を獲れば今後の学生生活での自由を保証される、と堀北さんと契約を結んでいた。実際、高円寺くんは現在、単独にして4位にまで浮上している。
このまま行けば理想の通り、高円寺くんが3位以内に入ることもあるかと思っていたけど……
「元々、私たちの契約では1位を2年主力とすること、綾小路くんが3位以内に入らないことが条件だったはず。なら、あとは自由競争で構わないはずよね?」
「それは南雲会長たち、そして1年生と接戦となると想定していたからだ。2位、3位は他学年に取られるだろうとな。だがこれだけの戦力が集まったのなら、話は変わってくる。3位もBCD連合のグループとしたいところだ」
「随分勝手な言い分ね。1年生が私たち2年生に協力することになったのは、ウチの綾小路くんの功績よ。そう考えたら、自由競争なんて言わず、3位は私たちに譲るのが筋じゃないかしら?」
「馬鹿言ってんじゃねえよ。そもそも綾小路が1年に提示したのは学年全体での同盟だろ。俺たちが協力しなけりゃそもそもヤツも1年を引き込めなかったはずだ。違うか?」
「だとしても、南雲会長に勝てるのは綾小路くんが1年生を味方に引き込んでくれていたからよ。彼の功績を考えれば妥当な提案だと思うけれど」
犬猿の仲の2人が噛みつき合う。それはある意味でよく見る光景だったけど、今回は龍園くんの側に援護が入る。
「……俺は龍園に賛成だ。元々、これ以上おまえたちAクラスに離されないための同盟だった。南雲会長に負けては元も子もないので協調したが、それを飲み込んだのはおまえたちが1位を譲ると申し出たからだ。単独3位を取られては、クラスポイントの差は50程度しかない」
無人島サバイバルの1位報酬のクラスポイントは、清隆くんから渡された試練カード込みで450。BCD3クラスで分ければ150クラスポイントとなる。
3位は100クラスポイント。クラスポイントで見れば、他クラスとはそう差は付かない。
「プライベートポイントに加えて、プロテクトポイントだってあなたたちのクラスは獲得するはずよ」
「だとしてもだ」
神崎くんは私を……正確に言うなら私の持つトランシーバーを盗み見た。
それだけで理解する。神崎くんは、清隆くんを強く意識しているようだ。
1年最後の選抜種目試験で、一之瀬さんたちのクラスは、龍園くんのクラスに敗北してプロテクトポイントを剥がされている。プロテクトポイントがあって初めて私たちと対等に戦える……そんな風に考えているのかもしれない。
「プライベートポイントでも得をする。プロテクトポイントも得る。その上でクラスポイントまで差を付けたい? 随分と強欲ね。過度な欲は身を滅ぼすわよ?」
「……だとしたら、どうすると言うんだ。今更同盟を破棄でもするつもりか? 違約金を払う余裕があるのか?」
「ビタ一文払うつもりはないわね。私たちは契約を破ったわけじゃない。勝手に契約条件を上乗せしているのはあなたたちでしょう?」
「まあまあ、2人とも落ち着いて」
口論に近くなってきた2人の間に割って入る。
私は堀北さんを抑え、神崎くんは一之瀬さんが宥めている。
「堀北さんの言い方は強かったけど、契約条件に3位のことはなかったのは本当だよね」
「ああ、確かにな。だが、おまえたちのクラスが3位になることだって、条件の上乗せという点では同じことだろ」
「平行線だね。なら、間を取って2年全クラスの大グループを3位にするのが一番収まりがいいんじゃないかな」
かなりの譲歩を口にする。
ここで争って、仮に私たちAクラスが離反、1年生との同盟も解消なんてことになったら、南雲会長の独走が再度始まってしまう。それは連合側も受け入れ難いことのはず。
「……坂柳。俺は松下の案を飲むべきだと考えるが、おまえはどうだ」
『ふふ。私に意見を求めるとは、どういった心境の変化でしょう、葛城くん』
「答えろ」
『そうですね、ここで争って同盟が破棄されても損ですし、これが通れば我々は再度Aに浮上する。今度はプロテクトポイントさえ伴ってです。断る理由はありませんね』
まずはBクラスが納得してくれた。
坂柳さん、葛城くんともにBに落ちた時はクラスメイトからの非難だってあったはず。Aの地位を取り戻せるのであれば、それを優先したいと思うはずだと考えたけど、間違っていなかったみたい。
まあ、坂柳さんは清隆くんを評価している節があるから、清隆くんの功績に対する賞賛の意味もあるのかもしれないけど……彼女としてはフクザツな気持ちだ。
「おいおい、自分たちがAに上がれるからと、それを俺たちにまで強要するんじゃねえよ」
『私たちは『便乗』カード1枚を余分に渡すことを強要されたと思っていましたが、記憶違いでしたか?』
「……ちっ」
坂柳さんのクラスがこちらに付いた以上、2対2。その上、1年生との同盟の主導権はこちらにある。
龍園くん、神崎くんも渋々と従った。神崎くんが折れれば、一之瀬さんは元々4クラスグループの3位入りに賛成だったようで、あっさりと条件を飲んだ。
「さて、そうすると問題は……」
「高円寺くんだね」
現在、単独4位。
もちろん、9クラスの物量にはさすがに敵わないと思うけど……彼も大概怪物だからね。南雲会長封じに人員も割かなきゃいけないし。
「おい、綾小路。おまえのクラスの問題児だ。おまえが責任を持って抑えろ」
『あいつはオレにもコントロールできる存在じゃない。普段の様子を見ていれば分かるだろう。……しかし、3位はともかく2位に食い込まれでもしたら、1年生との信頼関係はズタボロだ。それは避けたい』
「……ってことは」
『高円寺はオレが抑えよう。代わりに南雲の相手はおまえたちに任せる。あいつ相手によそ見をする余裕はないだろうからな』
高円寺くんを清隆くんが抑える。
怪物じみた彼をどうにかできる人は、清隆くんくらいしかいなさそうだし、適任だと思う。でも、問題が一つ。
「南雲会長との勝負はどうするの?」
『試験順位か。あれは元々負けても構わない勝負だし、高円寺次第だがそっちをなんとかするアテもないことはない』
清隆くんはそのアテというのを話し始めた。
……そんなに上手くいくものなのかな?
『五分五分だな。高円寺の思考回路はオレも掴みきれていない。どちらかと言えば、おまえたちの南雲封じの方が結果に直結するはずだ』
「でも、上手くいけば両方の問題が解決するね」
今はまだ高円寺くんは泳がせると言う清隆くん。仕掛けるのは12日目だそうだ。
どちらも学年トップクラスの実力者……その直接対決を見てみたい、そして彼氏を応援したいところだったけど、それを飲み込み、2年生連合で改めて南雲会長を封殺するための人員編成を話し合った。
◆
12日目までは、以前までと同様に物資の運搬に努めた。
上位は1位が2年主力、2位が1年主力、3位がなんと高円寺。4位が2年4クラス同盟となり、5位に桐山グループ、6位に鬼龍院が付けている。
南雲グループは7位だ。それも、鬼龍院までとはかなり差が付いている。人海戦術で指定エリアまでの歩きやすい道を塞ぎ、また周辺の課題はそのほとんどを先んじて独占した。
それだけの集中砲火を受けてなお、かろうじてランキングに載っているのだから、南雲も大したものだ。
1、2年連合は上手くやってくれた。南雲はもはや片付いたと言っていい。
だとすると、残るはあの男だ。GPSサーチを駆使して、高円寺の居場所を把握したオレは彼のもとへ急ぐ。しかし、向こうもオレと同じく樹上を猛スピードで移動している。追い付くのは容易ではない。
だが、この試験の性質上、必ず足を止めるタイミングがある。課題の参加だ。
オレもそうだが、高円寺のような単独で参加する生徒の得点稼ぎは、着順報酬よりも課題による得点がメインとなる。単独で参加すると着順報酬が得られたとしても、7人で構成される主力グループが同じ順位で着順報酬を得た場合、6点もの差が生まれる。
それを埋めるため、高円寺はその高い能力をフルに発揮して課題を荒らし回っているわけだが、それももう終わりだ。
課題は高円寺の得点源だが、同時にヤツを封じる策の一つともなる。
「……ほう? 君の策略だね、綾小路ボーイ」
初回で気付かれるとはな。
オレと高円寺、そして2年生の何人かは、課題の会場で立ち尽くしている。
参加人数が定員に満たず、開始時刻まで課題の開始が待たされている状態だからだ。
「気付くのが早いな」
「君は松下ガールのこと以外では合理的だからねぇ」
課題への参加申請を行なった以上、それが終了するか、参加をキャンセルをしないことにはその場から動くことはできない。
1年、2年に連絡し、高円寺の参加する課題は定員を埋めないように指示した。
こうすることで、通常なら参加枠が埋まったところで申請が締め切られ、即座に課題が開始するところを、高円寺は常に課題の開始時刻まで足を止める必要が出てくる。
課題の参加受付時間はまちまちだが、平均で60分程度はある。また、得点が多く、参加枠の多い課題ほど参加受付時間が長く設定されている傾向にあるようだ。
通常であれば、参加受付時間など気にする必要はない。自由競争であれば勝手に枠は埋まるし、今回のように各学年による独占が発生しても同じことだ。
だが、高円寺のような単独参加の生徒の得点を抑えたい場合、高円寺が参加する課題の枠を埋めずに放置することで足止めができる。
これが複数人グループであれば、手分けして課題に参加することもできただろうが、単独の高円寺には無理な話だ。いかに超人といえど、体は一つしかない。
今回の課題は走り幅跳びで、参加受付時間は60分。
高円寺も、このままたっぷり60分待つことはできないだろう。次の指定エリア発表までは90分もない。この間を課題一つないし二つで潰していては、1位など取れるはずもない。
「ふふ。仕方ないね。ティーチャー、私はこの課題、参加をキャンセルするよ」
単純な身体能力では高円寺に分があるだろうから、この課題を抑えられたのは幸運だった。
高円寺は先生にキャンセルを告げ、オレに意味ありげな視線を送ってきた。オレの挑戦を受けると、そういう意図だろう。
この時間潰し戦法によって、高円寺が参戦できる課題の数は大きく減った。
参加できるのは、現地に到着した時点で得点と水が貰える『競争』の課題と、人気がなく受付時間が迫っている課題、そして高円寺が今向かっている課題と同じ条件のものくらいだろう。
すぐにその考えに至るだけの柔軟な思考力、あるいは直観力はさすがとしか言いようがない。
「っ、高円寺、綾小路!」
3年Dクラスの生徒が、オレたちを見て苦虫を噛み潰したような顔をする。
高円寺は、大半の課題を諦め3年生が独占を試みる途中の課題を狙うよう切り替えた。
3年生はオレたち1、2年連合と比べて人手不足だ。3クラスで9クラスに食らいつくためには、高円寺1人のわずかな足止めのために、複数の駒を得点にもならない課題に拘束させておく余裕はない。高円寺が参加していると分かっていても、駒を自由に動かせるようにするため、課題の枠はすぐに埋めに来る。
だが、そう簡単に得点を伸ばさせる訳にはいかない。可能な限り妨害していきたいところだ。
3年生が独占を試みていたのは数学テストの独占。学力で言えばオレは高円寺を上回っていると言えるだろう。
高難易度の問題を高円寺がどうするかだが……
結果が発表されると、オレは満点、高円寺は95点。ワンツーフィニッシュとなった。
僅かではあるが、高円寺の得点を抑えることに成功する。数点とはいえ、チリも積もれば、だ。
高円寺に付いて課題の妨害を続ける。
誰も参加していない、あるいは1、2年の参加する課題は時間潰しを受ける。3年も固まりだしたので、高円寺が参加申請をする前に課題の独占が成功するケースが増えていく。
稀に課題に参加できても、オレの妨害が入る。
とすると着順報酬しか選択肢が残っていないが、高円寺が1位を獲得すると、2年主力も同様に1位を獲る。これだけで6点差が付いた。
せっかくやる気を出してくれたところ悪いが、今回高円寺の出る幕はない。
「どうやら今回ばかりは、1位を獲ることは困難なようだね」
やがて高円寺も、この包囲網を突破するのは極めて難しいと認めたようだ。
「ついでに3位以内も諦めてくれると助かる」
「回りくどいねえ。率直に『諦めろ』と言ったらどうだい?」
「……そうだな。高円寺、今回はオレの作戦勝ちだ。諦めろ」
「いいだろう、今回は負けを認めようじゃないか。……退屈な学校かと思っていたが、君には少しだけ興味が出てきたよ。清隆ボーイ」
「それは光栄だな。だが、負けを認めた以上、契約は履行してもらう。内容は覚えているよな?」
「当然だとも。堀北ガールに契約書も用意されたからねえ。心配せずとも約束は守るさ」
これで、高円寺を一度だけ強制的に協力させるという、極めて強いカードが堀北クラスの手に入った。
「さて、1位を獲る必要もないとなると、この試験にも飽きてきたねえ」
試すような視線を受ける。高円寺の言いたいことは分かっている。
「ずっとおまえについていたから、指定エリアのスルーが続いてポイントがかなり減ってしまった。高円寺、千秋から聞いていたおまえの提案を受け入れよう」
無人島サバイバルが発表された当日、後を尾けさせていた千秋は、高円寺から伝言を受け取った。
『私を綾小路ボーイのグループに入れる気はないか』と。
高円寺も期待はしていなかったのだろう。だが、大勢が決した今、その提案を受ける意義が出てきた。
高円寺と大グループを組むことで、得点が平均化され、ポイントを落としていたオレも再度上位に復活する。
そして、高円寺は去年の無人島試験のように悠々とリタイアし、一足先に豪華客船で疲れを取るというわけだ。
リタイア者が出たグループに着順報酬は得られないが、南雲の動きを抑えている今、過度な得点は必要ない。課題によるもので十分だ。
「欲しい言葉をくれてほっとしているところだよ。アフターケアまで万全とは、有能な男だね。どうかな、清隆ボーイ。卒業後は私の下で働かないかい?」
「なかなか楽しそうな申し出だが、将来設計はまだ白紙なんだ。検討させてもらう」
高円寺は肩を竦める。この男のことだ、今の言葉が嘘だということも見抜いているのだろう。
オレは腕時計のペアリングを起動し、腕を上げる高円寺のものと重ねる。大グループの結成が承認された。
……もし、ここでオレと高円寺が本気で試験に挑んだら、1位を獲れるだろうか。
無意味な仮定。くだらない妄想が頭をよぎるが、その可能性について考えを巡らせそうになったところで、高円寺から声をかけられる。
「さて、私はそろそろ船に戻らせてもらおう。さらばだ、清隆ボーイ」
「ああ。またな高円寺」
高円寺はオレの挨拶に笑みで返すと、森の中をもの凄いスピードで消えていった。
◆
最終日にも、特に問題は発生しなかった。
15時に試験が終了する。最後の指定エリアは初期地点付近に集められていたようで、そこから船までの移動は容易かった。
無人島の方々に散っていたこともあり、生徒たち、特に1年生と2年生は互いの無事を祝い、喜び合っている。オレはといえば、島中を駆け回り様々なグループと接触していたせいで、誰に会っても久しぶりという感じがしない。
やがて生徒たちの船への引き上げが済み、19時。夕食のため船内のレストランに生徒たちが集められ、久方ぶりの豪勢な夕食にありつけていた。
下位5グループの生徒たちには、あらかじめ学校側からペナルティが課される旨が通達されることになっていた。1年、2年の各クラスには通達を受けた者はいない。下位5グループは3年だったということになる。
ということで、なんの憂いもなくクラスメイトたちは食事を楽しんでいた。
「他クラスにポイントを譲る形にはなったが、退学者が出なかったのは幸いだった」
「うん。皆が無事で良かったよ。クラスはBに落ちるかもしれないけど、大量のプライベートポイントも含め、得られたものも多かった」
「クラスが落ちても、また上がればいい。俺たちならそれができる……そうだろ、綾小路」
洋介の言葉を受けて、幸村がオレに呼びかける。こいつも、入学当初と比べて精神的に余裕ができた。
一度Aクラスに上がったことにより自信が付いたのだろう。このクラスにはそれだけのポテンシャルがあると認識した。幸村は初めDクラスに配属されたことに強い不満を持っていたからな。
「ああ、その通りだ。また皆で協力していこう」
幸村に応えただけで、特に全体へ呼びかけたつもりはなかったが、そこかしこから『おおーっ』とオレの言葉に同意する声が上がる。
やがて、教師陣から今回の試験結果が発表される。
まずは下位5グループ。予想通り、いずれも3年生のグループだった。しかし、南雲もまさか敗北するとは予想していなかったのか、退学回避に必要なポイントを渡していなかったらしい。3名グループが5つ、15名が退学することになった。
ただでさえ下級生に完敗した上、これだけの退学者を出した。下手をすればCDクラスが桐山率いるBクラスに付く可能性もある。
3年の南雲一強時代も終わりかもしれないな。
続いて、上位3グループの発表。
1位は龍園や一之瀬、坂柳のいる2年主力。
2位は石上や八神ら、1年4クラスの合同グループ。
3位は堀北や伊吹、柴田ら2年4クラスの合同グループとなった。
2年生のクラスポイント増減としては、堀北Aクラスが3位報酬で25クラスポイントを獲得、その他のクラスが1位、3位報酬で175クラスポイントを獲得した。
結果、2年生の各クラス順位に変動が起きる。
A坂柳クラス 1044
B堀北クラス 925
C一之瀬クラス 810
D龍園クラス 722
坂柳クラスがAクラスに返り咲く。それも、約1年振りにクラスポイントが1000を超えてのことだ。
一之瀬、龍園クラスも上位への差を詰めてきている。未だかつてないほど、クラス間の差はなく拮抗している状態と言えるだろう。
加えて、他3クラスにはプロテクトポイントも1点ずつ付与されている。
坂柳クラスはリーダーの坂柳に付与された。一之瀬クラスはリーダーである一之瀬に、そして龍園クラスは龍園ではなく椎名に付与されたようだ。
一之瀬、龍園は1年のクラス内投票でプロテクトポイントを手に入れている。2点は不要ということか。しかし、龍園が主力グループに入れた上にプロテクトポイントを付与するとは、椎名は龍園からかなり認められているらしい。
読書家であり、また映画館での試験説明会で見せた鋭い一面を考慮すると、体力自慢の多い龍園クラスにあって貴重な頭脳派なのかもしれない。龍園が生徒会に入ったこともあり、クラス運営の方針に変化が起こっているようだ。
各クラスでプロテクトポイントを所有しているのは、
坂柳クラス 坂柳
堀北クラス 堀北
一之瀬クラス 一之瀬
龍園クラス 龍園、椎名
となる。
プロテクトポイントという強力な武器を他クラスに渡したが、高円寺の協力は、使い方次第でこれらの差をひっくり返すだけの効果を発揮するだろう。
その権利は千秋と堀北、洋介に委ねている。ぜひ上手く活用してほしいものだ。