よう実 √松下   作:レイトントン

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豪華客船の夏休み①

 2週間にも及ぶ無人島サバイバルが終了した。長かった……今回は学年での協力体制があったおかげで、物資に困ることはなかったし、下位5組から遠ざかるためにもある程度のポイントは得ておく必要があったとはいえ、上位を無理に狙いはしなかったからまだなんとかなった。

 これがクラス単独での参加、自グループだけでサポートのない試験だったら脱落者すら出たのではないか、なんて考えてしまう。

 

 まあ、何はともあれ乗り越えられて良かった。

 さすがに無人島から戻って1日目は、疲れが取れず部屋で大人しくしている生徒が多かったみたい。私もその1人だ。

 

 同室の麻耶、佐倉さん、井の頭さんも同じようなものだった。

 

「あ゛ー、しんどっ」

「声おじさんじゃん」

「いや、本当ムリ……気が抜けたら一気に来たっていうか、一生寝れる気がする」

 

 そんなことをボヤいた麻耶は、少し目を離した隙に寝息を立てていた。

 

「佐倉さんは平気?」

「あ、あんまり平気じゃないかもです……」

 

 くた、とベッドから出られず液体のようになってしまっている佐倉さん。彼女の体力を考えれば、答える元気があるだけ頑張っていると思う。井の頭さんも寝てるし。

 

「松下さんは、まだ余裕がありそうだね」

「そんなことないよ。私もクタクタ。今日はゆっくり疲れを取らせてもらおうかな」

 

 平気なのは清隆くんくらいじゃないかな……

 高円寺くんは12日目には諦めてリタイアしたみたいだし、元気に溢れていることだと思う。

 

 というわけで1日目は寝て過ごしたわけだけど、2日目になると体力もだいぶ戻ってきた。

 同室の子たちはまだ疲れが抜けきらなかったみたいだけど、私としてはせっかくの豪華客船なんだから楽しみたいという思いがある。

 清隆くんにメッセージを飛ばすとすぐに返事がくる。デートのお誘いへの答えは、当然イエスだった。

 

 清隆くんと合流すると、彼は行きたいところがあると私をプールへと連れ出した。

 2日目ともなると、だいぶ人も増えてきているようだった。

 

「ちょっと3年生に呼ばれてな」

「まさか南雲会長?」

「いや、生徒会副会長の桐山だ」

「桐山さん……たしか3年Bクラスの人だよね」

 

 3年Bクラスとは今回の試験で協力関係にあった。南雲会長との差をこれ以上広げないためにもと、2年生側に極めて有利な条件で同盟を組んだのが桐山さんだったと聞いた。

 プールで桐山先輩の姿を探す。人は多かったけど、幸いすぐに見つかった。

 

「来たな、綾小路。それと、松下だったな」

 

 清隆くんの姿を認めた桐山先輩は、嬉しそうに近づいてくる。清隆くんが先輩と仲良く話している姿はあまり見たことなかったけど、仲良いんだね。

 こんにちは、と軽く挨拶をかわすと、桐山先輩は清隆くんに向き直る。

 

「よく南雲を降してくれた。おかげで、あいつの支配力にも翳りが出ている。クラスポイントの差は未だ絶望的ではあるが」

「いえ、ウチとしても今回の試験でさまざまなメリットがありました。堀北先輩からの言葉もありましたしね」

「堀北先輩……やはりあの人の慧眼には感服する。早い段階でおまえの実力を見出していたのだからな」

 

 堀北先輩、というのはウチのクラスの堀北鈴音さんの兄、堀北学元生徒会長のことだ。桐山先輩のことはよく知らなかったけど、堀北先輩のことをよくよく尊敬しているのは、発言からも伝わってくる。

 

「残された時間も少ない。これだけのクラスポイントの差をひっくり返す見込みは、はっきり言ってないが……それでも、抵抗を続けるつもりだ」

「ほう。おまえはとことんつまらない男だと思っていたが、南雲に逆らうだけの気概があったとはな」

 

 桐山先輩の言葉に反応したかのように、女生徒の声がする。

 

「鬼龍院先輩」

「やあ、綾小路。今回の試験結果は見たか?」

「いえ、詳細はまだですね」

「そうか。今回、私は7位で、君と高円寺ペアの6位の一つ下の順位だった。君の言葉通りだったな。南雲も9位だったことだし、私だけでなく3年最強の男も同時に倒してしまった訳だ。ますます君に興味が湧いたよ」

 

 むっ……こんな美人さんに興味が湧かれるような話をしていた?

 じーっと清隆くんを見つめると、肩を抱き寄せてくる。そんなことじゃ誤魔化されないんですけど。でも、とりあえず身を任せておく。

 

「さて、桐山。今回の試験、南雲たちAクラスもクラスポイントは得られなかったが、それはBクラスも同じだ。差は縮まっていない。それでも諦めないと?」

「ああ。今回の試験で、南雲は2年生たちに完敗した。幸い、俺たちも彼らに協力していたことだし、実質南雲に勝ったといっても過言じゃない。クラスメイトの士気も高められるし、南雲の支配体制に不満を持つCDクラスや、なんならAクラスの生徒からも味方が出るかもしれない」

 

 南雲会長は、間違いなく3年生で最も優秀な生徒と言える。OAAや生徒会長という立場、圧倒的な点差で独走しているAクラスがそれを物語っている。

 でも、私も知っているくらい悪い噂もある。今回、3年生から大量の退学者を出したのもそうだ。強引なやり口には付いてこれない人もいる、ってことだね。

 

「なるほど。まあ、精々頑張りたまえ。私はクラス順位などには興味がないし、静観させてもらおう」

「それはいつものことだな。気が変わって協力するつもりになったら、いつでも言え」

「ふふ。綾小路の影響か? 君からそんな言葉が出るとはな。良いだろう、気が向けば協力してやるさ。気が向けばな」

 

 短い会話からでも分かる。この鬼龍院と呼ばれた先輩は、どうやら桐山先輩のクラスの高円寺くん枠らしい。

 そんな彼女は桐山先輩との話を終えたからか、清隆くんと、そして肩に手を置かれる私に目を遣る。

 

「君が松下千秋か。綾小路と男女の付き合いをしているという。私は鬼龍院楓花。3年Bクラスだ」

「はじめまして、鬼龍院先輩。私を知っているんですか?」

「自分の彼氏の知名度は知っているだろう。綾小路清隆の名を知らない生徒は、もはやこの学校に存在しない。その彼女も、当然知っている者は多いさ。君たちはよく一緒にいるようだからな」

 

 確かにそうだ。自覚が足りていなかったかもしれない。

 

「先輩として忠告しておこう。気を付けることだ。綾小路本人を倒すのが極めて困難なら、君を狙うと考える者がいてもおかしくはない。……とはいえ、飛び抜けた怪物というわけではないが、君も優秀なようだ。注意さえしていれば、多少のちょっかいなら躱せるだろう」

「……肝に銘じます。ご忠告どうも」

「ふふ。良い返事だ」

 

 雰囲気のある先輩だな。鬼龍院先輩か……

 

「おまえがそんなに後輩思いだとは知らなかったぞ、鬼龍院。ついでに同級生思いな鬼龍院になったりはしないのか?」

「ふはっ、桐山。おまえも面白いことを言うようになったな。良いだろう、次回の試験くらいは同級生思いになっても面白いかもしれん。何かあれば知らせるといい」

 

 鬼龍院先輩はそう言うとサングラスをかけ直し、再度ビーチチェアで寝始めた。

 一方、協力を取り付けた桐山先輩は静かにガッツポーズを取っている。私たちのクラスで言うなら、高円寺くんが協力するようなものだとすれば、その喜びようも頷ける。

 

「綾小路、松下、助かった。おまえたちのお陰で、また鬼龍院が協力してくれそうだ」

「そんな、私たちは何もしていませんよ。桐山先輩が上手く鬼龍院先輩とコミュニケーションを取った成果じゃないですか」

「だが、おまえたちがいてくれたから心に余裕を持てた部分もある。正直に言えば、今回の試験のように綾小路が鬼龍院を焚き付けてくれれば御の字と思ってはいた」

 

 鬼龍院先輩が清隆くんに興味が湧いたっていうのは、そういうことだったんだね。以前にも桐山先輩により引き合わされて、清隆くんが鬼龍院先輩と順位争いを提案した。だから今回の試験では本気で臨んだ。

 それを再現したかったから清隆くんを呼び出した……そういうことか。

 

「お役に立てたなら良かったですよ。今回、オレたちは南雲に完勝しました。より狙われることもあるでしょう。もし何か動きがあれば、お知らせ願えますか」

「もちろんだ。綾小路も、また機会があれば鬼龍院のやる気を出してやってくれ」

 

 じゃあな、と桐山先輩は片手をあげてプールから立ち去っていった。

 

「さて、先輩たちとの話も終わったし、プールで遊ぶか」

「清隆くん、ビーチフラッグスの時も遊びたがってたもんね」

「無人島の時から楽しみにしていた。洋介たちも呼ぶか。皆でバレーでもするとしよう」

 

 清隆くんは平田くんと恵、須藤くんと小野寺さん、三宅くんと長谷部さんを呼び出した。男子4人はクラスでも運動神経が良い人たちで、話す機会も多い。私と恵は元から仲が良いし、小野寺さんとは去年の無人島試験以来たびたび話す仲だ。長谷部さんとはあまり話したことはないけど、この面子で呼ばれたということは、三宅くんと良い仲なのかもしれない。

 長谷部さんはあまりグループでの行動をしない、一匹狼なタイプだと思っていたから、来るのは意外だった。大きい胸を気にしているのか、ラッシュガードを水着の上から着ている。恵も着ているけど、理由は違う。

 

 長谷部さんはあまり運動神経の良い方じゃないみたいだけど、清隆くんと私、三宅くんでチームを組めばちょうど良い塩梅だった。

 なにしろ、相手には須藤くんと小野寺さんというウチのクラスでも有数の運動能力を持つペアがいる。

 ほぼ互角の勝負となった。

 

「いやー、俺もバレーは専門じゃないけどよ。やっぱうめーな綾小路」

「須藤こそ。やっぱりジャンプ力が違うな」

「そりゃ、バスケットマンだからよ」

 

 わいのわいのと話していると、3人の生徒がおずおずとこちらへ近づいて来る。

 

「あれ、一夏ちゃんに翼ちゃん。八神くんも」

 

 私の呼びかけに、3人はそれぞれ挨拶を返してくる。

 

「誰だ?」

「1年生だよ。清隆くんと同じ中学の天沢さんに、パートナーを組んだ八神くん。宝泉くんと一緒に交渉した七瀬さんだね」

「ああ、あの時の。久しぶりだな」

 

 須藤くんも交渉のテーブルに立っていたけど、宝泉くんにばかり注意が行っていて、あまり翼ちゃんのことは覚えていなかったみたい。平田くんの説明を受けて、ようやく思い至ったようだ。

 

「はい、須藤先輩。あの時は宝泉くんが失礼しました」

「別におまえのせいじゃないだろ、気にすんなよ。ただ、1年と勝負する試験があったとき、あのヤローには容赦しねえぜ」

「それは、もちろんです。ですがありがとうございます」

 

 そんなやり取りを横目で見ながら、私たちは一夏ちゃんたちと向き合う。

 

「八神くんは両手に花だね」

「あはは、他の1年生から恨まれないですかね」

「生徒会に入るくらい優秀で可愛い女の子2人連れて……ってなったら、そりゃ恨まれるでしょー」

「そんなあ。助けてください、綾小路先輩」

 

 小野寺さんの弄りを受けて、八神くんは清隆くんに助けを求めた。

 

「大勢に紛れていれば注目も薄れるだろうし、八神たちも一緒に遊ぶか。皆、構わないか?」

「おー」

「良いんじゃない?」

「もちろん、歓迎だよ」

 

 清隆くんからの呼びかけに、そんな声があがる。

 

「しかし、そうすると後一人いないのが惜しいな。6対6でちゃんとしたバレーになりそうなのに」

「なら、俺で良ければ交ぜてくれよ」

 

 三宅くんの呟きに同調するように、タイミングよく声をかけてきたのは、坂柳さんのクラスの橋本くんだった。

 

「橋本くん?」

「よぉ、久しぶりだな平田、軽井沢。綾小路に松下も。選抜種目試験では負けちまったけど、俺もそこそこバレーはできるぜ」

「そういえばそうだったな」

「良いんじゃない? 人数足りるし」

 

 髪をくるくる巻きながら、どうでも良さそうに長谷部さんが呟いた。しかし、皆同じ意見だったみたいで、特にトラブルもなく橋本くんが参戦する。

 

 初めは全員で1ゲームして、その後メンバーを入れ替えて3対3のミニゲームを繰り返しながらプールで過ごした。

 

 

「ふう……」

「良い動きだったぞ、八神」

「あ……ありがとうございます、綾小路先輩! 先輩こそさすがです、あのツーアタックは読めませんでした」

「ここぞというタイミングまで取っておいた甲斐があった」

 

 八神くんは清隆くんに凄く懐いているみたいだ。褒められてとても嬉しそうにしている。天沢さんも同じなのか、私はー? と清隆くんに絡み、同じように褒められていた。

 

「いやー、さすが2-Bの運動能力トップ集団だ、付いてくのがやっとだぜ。ここに高円寺も加わることもあるんだから、恐ろしい限りだな」

「ああ、そういえば橋本は高円寺と混合合宿で同じグループだったな」

「おいおい、そんなことまで覚えているのかよ綾小路。ろくに絡みもなかっただろ?」

「いや、遠目に橋本の活躍を見かけてな。高円寺に不満を持ったグループメンバーを上手く纏めているようで、感心していたんだ」

 

 清隆くんから褒められて、橋本くんはやたらと嬉しそうだ。まさか男が好み……いや、そういう感じじゃないな。

 それはどちらかといえば、八神くんの方が近そうだ。正確に言うと、清隆くんを見る目に熱があるような気がする。

 さっき褒められた時も、無人島サバイバル開始前の説明会ですれ違った時も感じたんだよね……私の勘違いならいいんだけど。

 

「まあよ。高円寺はさすがにコントロールできなかったがな」

「それはそうだろうな。あいつはオレでも理解不能な存在だ。もし高円寺をコントロールできるやつがいるなら、今ごろ引き抜いているところだ」

「マジか? それは、クラスの利益になるから、ってことだよな?」

 

 引き抜いて、のところで、橋本くんは過剰に反応する。もしかして橋本くんは……

 私の視線に気付いたのか、橋本くんははっと我に返る。

 

「なんてな、びっくりさせんなよ。引き抜きとか、そんな簡単な話じゃないだろ?」

「本気だ。高円寺をコントロールできるなら、2000万なんて安いくらいだ」

「はは、そんなやつを見つけたら教えてやるよ」

 

 そんな形で話を切り上げて、橋本くんは手近なところにいた三宅くんに絡みに行っていた。

 

「ねえ、清隆くん……」

「前々から接触はあってな。今回カマをかけてみたが、やはりそういうことらしい」

「坂柳さんが不満なのかな」

「さあな。龍園にもちょっかいを出していたみたいだし、そういうヤツなんだろう」

 

 ちょっと嫌なものを見てしまったな。

 坂柳さんのことは別に好きってわけじゃないけど、もし私がリーダーになって、橋本くんみたいな人が下にいたら……かなり落ち込むと思う。

 敵ながら、少し坂柳さんのことを応援したくなっている自分に驚いた。

 でも、またAクラスに上がるためには、坂柳さんを倒さなくてはならない。私はぱち、と自らの頬を叩いた。ちょうどバレーの順番が回ってきたことだし、気分を入れ替えるとしよう。

 

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