よう実 √松下   作:レイトントン

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豪華客船の夏休み②

 豪華客船での日々は過ぎていく。2日目はプールで夕方まで遊んでいたような形になった。1年生との交流もできたし、充実した休日だったと思う。

 3日目。私は恵たちとショッピングエリアで買い物を楽しんでいた。

 無人島サバイバル試験中は延期されていたけど、乗船した時には8月に入っていたから、毎月始めのプライベートポイントが支給された。それも、試験結果を反映した上でのものだ。

 

 私たちは現在925クラスポイント。ひとり92500のプライベートポイントが入ってくる。その半分はクラス貯金に回す……はずだったんだけど、

 

『無人島サバイバルは2週間に及ぶ過酷な試験だった。皆も頑張ったことだし、今月はクラス貯金なしで夏休みを満喫しよう』

 

 という清隆くんの提案により、今月は収入が丸々残っている状態だ。

 もちろん、無人島サバイバルで3位入りしたメンバーの報酬はクラス貯金に入れてもらったけど、堀北さん始めの面子は全員納得済み。

 

「綾小路くん、気前良いよねー」

「うんうん。無人島サバイバル頑張った甲斐があったよ」

 

 クラスメイトたちの士気は高い。清隆くんの飴を与えるタイミングは完璧だった。せっかくの豪華客船内で金銭に不自由をしていたら台無しだもんね。

 

「去年の豪華客船は全部無料だったけど、今回は違うもんね」

「そこはちょっと残念かなー。でも、去年と比べて随分大きい船だよね。全部の学年が乗ってるだけあるよ」

「遊ぶところ多くてありがたいよね。千秋と恵は昨日、彼氏とプール行ってたみたいだし?」

「あはは、ごめんごめん。次は皆で行こう!」

 

 ポイントを支払って借りれる、プライベートプールもあるみたいだし、まだまだ水着を着る機会はありそうだ。夏らしくていいね。

 ショッピングを楽しんでいると、遠目にある生徒の姿を見つける。声をかけようか、一瞬迷う。

 けど、結局話しかけにいくことに決めた。

 

「こんにちは堀北さん」

「あら、松下さん。こんにちは」

 

 挨拶を返してくる堀北さん。入学当初からは考えられないくらい、彼女は穏やかになった。

 お兄さんとの蟠りがなくなって、精神的な余裕が生まれたのだろうか。

 

「千秋ー、何してるの……ってあれ、堀北さんじゃん」

「軽井沢さん。佐藤さんに森さんも。皆でお買い物かしら。何か良いものは買えた?」

「うん、服とかコスメとかね。堀北さんも買い物?」

「いえ、私はさっきまで生徒会の業務だったの。今は部屋に戻るところ」

「えーっ、夏休みも生徒会ってあるの!?」

「しかも特別試験が終わったばっかりなのに……大変だね、堀北さん」

 

 寧々はともかく、入学当初は堀北さんとはソリが合わなかった(かなり穏当な表現)恵や麻耶も、堀北さん側の態度が軟化したからか普通に会話できている。

 彼女たちのそんな様子に、堀北さんは苦笑を溢す。

 

「たしかに重労働ではあるけど、やりがいは感じているの。私の2つ上の兄は、南雲会長の前の生徒会長だったし、同じ体験ができるのは貴重な機会だと思ってね」

「そうだったね。お兄さんに憧れて生徒会に?」

「もちろんそれもあるけど……今はクラスへの貢献と、自分自身の成長のため、というのが大きいかしら」

「堀北さんほどの人でも、まだ生徒会で努力しているんだね」

「もちろんよ。初めDクラスに配属されたことに、私は納得していなかった。けど、今はそれが妥当だったと実感しているわ。あなたの彼氏を見ていたら尚更ね」

 

 堀北さんは、1年生の時は清隆くんと隣の席だった。彼の実力を間近で見る機会だって多かったからね。

 私も、堀北さんにこれ以上水をあけられないように努力しないとね。同じようなことを考えたのか、寧々たちも真剣な顔付きだ。

 

「そっか……ね、堀北さんも良かったらこの後遊ばない?」

 

 恵の思わぬ提案に、私も、堀北さんも瞠目する。

 堀北さんも分かっているはずだ。自分は恵に嫌われていた、と。

 

「私たち色々言い合うことも多かったけどさ、堀北さんクラスのために色々頑張ってくれてるし……私たちだって上のクラスに行くために協力するつもりでいるからさ。何かあれば、お互い頼れる関係がいいでしょ?」

 

 少し照れ臭そうに言う恵の様子が可愛らしくて、私や寧々、麻耶は思わずにやけてしまう。

 

「ちょー、あんたらなに笑ってんのよ」

「そんなことないよ?」

「いーや、ゼッタイ笑ってるし!」

「……ありがとう。そうね、せっかく誘ってもらったんだもの。ご一緒させてもらえるかしら」

 

 そんなやり取りを見ていた堀北さんは、優しい笑みを浮かべて、私たちに付いてくると決めてくれた。

 

「わ……堀北さん、そんな顔するんだ」

「柔らかい表情だと、改めてその……」

 

 麻耶たちが言い淀むのも分かる。凄い美人だよね、堀北さんって。普段はクールで厳しそうな印象だから分かりづらいけど。

 堀北さんも伴い、5人でカフェに入る。普段パレットなどをよく利用している私たちだけど、豪華客船のカフェは英国式のアフタヌーンティーが楽しめる、いつもと雰囲気の違うものだ。無人島に着く前に初めて入った時の麻耶や恵の慌てようは少し面白かった。

 私も焦っていたけど、友人が慌てるのを見ていると冷静になれた。

 

「このカフェともあと少しでお別れかあ」

「学校に帰ってからもこんなお茶したいよね。ケヤキモールに新しいカフェできないかな」

「どうかしら……一応、生徒会でこんな意見があったと報告してみるわ。でも、テナントの誘致には色々と手順が必要だし、できるとしても私たちの在学中は難しいかもね」

「そんなあ」

「今のうちに楽しんでおきましょう」

 

 しかし、生徒会の権限は凄いな、と聞いていると改めて思う。ケヤキモールのテナントにまで口出しできるなんて。まあ、実現するかは知らないけど……

 

「そういえば、生徒会には龍園くんも居るんだよね? 彼はちゃんと仕事しているの?」

「一応ね。ただ彼、頭は良いけど事務仕事は苦手みたいね。そこだけでいえば、1年生の八神くんの方が優秀かもしれないわ」

「八神くんね。昨日一緒に遊んだよ。運動神経もよくて生徒会役員か、できる後輩だよね」

「へえ、そんな子いるんだ。イケメン?」

「うん、童顔なタイプかな」

「へぇー、今度紹介してよ!」

「オッケー」

 

 寧々の言葉に迷いなく了承する。まだ確定じゃないけど、清隆くんを見る目に違和感を覚えた身としては、八神くんに彼女ができるならこれ以上の対策はない。

 

「八神くんや龍園くん、南雲会長もお仕事だったの?」

「ええ、生徒会総出でね」

「え、もしかして特別試験あったりするの?」

 

 恵が眉根を寄せて問いかける。しかし、堀北さんは苦笑して否定した。

 

「先生方も言っているから断言するけど、もう夏休み中に特別試験()ないわ。生徒会でイベントを開催する予定だから、その準備ね」

 

 なるほど……夏休み中に試験はなくても、生徒会主催のイベントはあるってことか。

 明言することはできないけど、このくらいのヒントは出してくれるあたり、堀北さんはやっぱり友好的になってきているように思う。

 

 

 数日後、堀北さんの匂わせた通りに生徒会主催の宝探しゲームが開催される旨が、全校生徒の端末にメール送信されてきた。

 

 本日10時から実施で、参加は自由。男女問わず1名から参加可能、参加費には10000プライベートポイントが必要とのこと。

 メールが来た直後、私は清隆くんに『一緒に行こ!』とメッセージを打っていたんだけど、先を越されてしまったみたいで『一緒に行かないか』とメッセージが届いた。悔しいー。

 もちろんオーケーの返事をした。

 

 会場に着くと、かなりの人数の生徒が集まっている。少なくとも全校生徒の半数はいるんじゃないだろうか。

 そこで、生徒会長である南雲先輩から全体へ挨拶がされた。なんでも、無人島サバイバルが過酷なものだったし、学年での対立が発生する内容だったので、親睦を深めるためのレクリエーションが企画されたのだそうだ。

 

 内容は、船内に設置された二次元コードを端末で読み取ることで、5000〜100万までのプライベートポイントを獲得できるというもの。全100枚ある中で、読み取れるのは1枚のみ。しかも受け取るまで金額は分からない。これはかなり運の要素の強いイベントだね。

 参加費は1万だし、運が悪いと損をするけど5000ポイントなら許容範囲かな。

 

 また、今回のイベントはペアで参加することができ、ペアの場合受け取った報酬はそれぞれ満額もらえるとのこと。もし100万ポイントの二次元コードを読み取れば、ペアひとりひとりに100万ずつ入る。

 

 加えて、運要素ばかりでなく、謎解きにより位置が分かる二次元コードもあるみたいだ。参加者に、地図に謎かけが書き込まれた紙が渡される。

 ただ、親睦を深めるイベントで、この謎を解いた人が100万ポイントを貰えるようでは顰蹙ものだ。それほど高額の二次元コードじゃなさそうだね。

 せいぜい5万か10万ポイントのコードかな。これより、見つかりづらい位置のコードを読み込んだ方が良さそうだ。

 

 清隆くんと端末を通してペア申請をすべく、参加受付を行う。

 

「あ、一之瀬さん」

「やっほー、二人とも。参加受付ね。はい、1万ポイント振込確認しました。二人でペアを組むでしょ? 相変わらず仲良しだね」

「まあね。受付は一之瀬さんが?」

「参加者も多いから、手分けして参加受付してるんだよ。龍園くんも向こうで受付してるけど、2年Dクラスの生徒以外は近寄り難いみたい」

「龍園が受付か。想像しづらいな」

 

 清隆くんの言葉に促され、私も龍園くんが参加受付をしている姿を想像してみる。

 

『学生証端末より1万プライベートポイントをお支払いください。……参加を受け付けました』

 

「げほっ、ごほっ!」

 

 咽せた。

 

「笑いすぎだ、千秋」

「だって……敬語の龍園くんとか、笑うでしょ」

「龍園にバレたら殴られそうだ」

「その時は守ってね?」

「もちろんだ」

「はーい後ろつかえてるからイチャイチャはどいてからにしようねー!」

 

 一之瀬さんにツッコまれて、参加受付を終えた私たちは列からズレることにした。

 後ろの3年男子生徒、多々良先輩から凄い目で見られていた。清隆くんが。

 

「……こういう場合は、千秋がオレのことを守ってくれ」

 

 同じことを思ったらしい清隆くんがそんなことを口にして、また咽せてしまった。笑いのツボ浅いのかな、私。

 

 しばらくして全員の受付を終えると、本格的にイベントが開始となった。豪華客船は広いけど行ける範囲も限られており、またこの人数だ。スタート地点も探索範囲なので、どんどん調べが進んでいく。

 

「スタート地点に実は高いポイントがあった、っていうのもいかにもそれっぽい配置だよね」

「ああ。もしかしたら30万のコードが1枚くらいあるかもな。だが、この分だとここで探すのは骨が折れそうだ」

「うん。とりあえず、スタート地点からある程度離れたところを探してみようか」

 

 そんな話をしながら、豪華客船の廊下を歩いて行く。イベント参加者らしい生徒が装飾品の周囲を目を皿にして探し回っている様子を見かける。

 

「綾小路清隆、松下千秋。あなたたちはどこを探すんですか?」

 

 そんな様子を見かけたからか、声をかけられる。フルネームで呼び捨て。どこか高圧的な感じもあるような、しかし清隆くんと私を呼ぶその声には気やすさがあるような。

 

「えっと……」

「おや、そういえば松下千秋とは初対面でしたね。森下藍と言います。坂柳有栖のクラスメイトです。あなたたちを追い抜いてAクラスに返り咲きました。ブイ」

 

 無表情でVサインをしている森下さん。

 なんというか……個性的な人だ。

 

「清隆くん、友達なの?」

「ああ、無人島サバイバルで少し話した。面白い奴だろ」

「個人的には綾小路清隆の方が面白い人間だと思いますが……」

「いや、おまえの方が圧倒的に面白いから自信を持った方がいい」

「いやいや」

「いやいやいや」

 

 その『面白い』には『変人』という意味が多分に込められていそうだ。清隆くんと森下さんで『面白い人(へんじん)』の称号を押し付け合っている。

 

「あの……森下さんがすみません」

「わっ!?」

 

 突然、思ってもいない方向から声をかけられて、私は少し跳び上がってしまった。

 振り向くと、申し訳なさそうな顔で肩を落とす女の子がいた。凄いな、全然気配を感じなかった。

 

「ごめん、気付いてなくて。あなたは……」

「山村美紀と言います」

「私、松下千秋。山村さんもAクラスなの?」

「はい、森下さんのクラスメイトです」

 

 この子も坂柳さんのクラスメイトか。ということは、入学当初からAクラスだったわけだし、この子も優秀なんだろうな。

 パッと見は地味でおとなしめな女の子、って感じではあるけど。

 

「山村美紀と私のペアで宝探しに参加しています。参考までに、学力トップの綾小路清隆がどこを探すのか見てみようと思いまして。そしてあわよくば二次元コードを横取りしようと思いまして」

「いや正直すぎるでしょ!」

「はっ、口を滑らせました」

「や、やっぱり横取りは良くないですよ、森下さん。ここはおとなしく自販機の下でも探しておきましょう」

 

 自販機の下か……ありと言えばありかもしれない。小銭探ししているみたいで、周りに見られたくはないけど。

 

「この調子で、先ほどから山村美紀の自販機推しに辟易しています」

「自販機の何が悪いんですか……! 落ち着くじゃないですか。夜でも明るいですし、コンプレッサーの低く振動しているような音も、私の心を癒してくれるんですよ……」

 

 あ、この子もちょっと変な子かもしれない。

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