よう実 √松下   作:レイトントン

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満場一致特別試験②

 メイド喫茶の店長を任され、博士たちの激論に付き合わされた翌日。ホームルームの開始時間、教室に入ってきた茶柱先生は少し顔色が悪い様子だった。

 

「先生、顔色が悪いようですが……大丈夫ですか?」

「ああ、すまない。大したことじゃないんだ、気にしないでくれ。……それよりも、次の特別試験の連絡を行う」

 

 洋介の心配を受け取りながらも、茶柱先生はそう告げる。

 特別試験。そのワードを聞いて、生徒たちが俄かにざわつく。体育祭や文化祭、中間に期末とスケジュールが詰まっているこの2学期、皆そういった事前説明のあったイベント事に関心を寄せていた、準備を整えていた段階での通達だ。

 

「体育祭や文化祭の準備もある中での特別試験……追加で策を立てるとなると、厳しい戦いになるわね」

「その心配はいらない。今回の試験は非常にシンプルで、かつ他クラスと戦う要素もない。自分たちのクラスだけで完結する試験だ。実施日も明日となる。なんならこの場でも実行できる程度には、簡単な仕組みとなっている」

 

 実施は明日、か。随分と急なことだ。

 

「明日おまえたちには『満場一致特別試験』に挑んでもらう」

 

 茶柱先生が示す試験内容は、彼女の言葉通り極めてシンプルなものだった。

 

・学校側が出す5つの設問に対し、クラスメイト全員で、完全な匿名のもと与えられた選択肢に投票する。

・満場一致とならない限り同じ設問が繰り返される

・満場一致で可決された課題は特別試験の可否にかかわらず実際に承認される

・出題される5問を5時間以内にクリアできればクラスポイント50を得る。クリアできなかった場合はクラスポイント300を失う

 

 課題実施の流れ

①課題が発表され、話し合いなしで1回目の投票を行う。制限時間は60秒。

②満場一致すれば次の課題に移り①へ。しなければ③へ

③10分間のインターバル。教室内を自由に移動し話し合いができる。教室外へは移動できず、手洗いの場合は試験官もしくは教師が付き添う

④60秒間での投票。話し合いは不可。60秒を超えた場合ペナルティの秒数が累積される。累積分が90秒を超えた場合退学

⑤投票結果発表。満場一致で次の課題に移り①へ。満場一致に至らなかった場合③へ戻る

 

 失敗した場合のクラスポイント300はかなり手痛いマイナスだ。しかし、試験の難易度的には妥当なところだろう。寧ろクリアして50のポイントを渡されるのはこちらが得をしすぎて怖いくらいだ。

 問題は、満場一致した内容はその通りになるというルールだろう。仮定の話であるなら迷いなく全員賛成で統一できるので、当然の措置といえばその通りだが。

 しかし、仮にも特別試験とされており、なおかつ他クラスへの干渉ができないとなれば、難しい判断を迫られるような意地悪な設問もあるかもしれない。

 まあ、このクラスには現状裏切り者はいないし、流れに逆らってクラスポイントを300マイナスに導くようなヤツはいないだろう。山内もおとなしく従うはずだ。

 

「課題内容については我々教師にも知らされてはいない。しかし課題の内容によっては難しい決断を迫られることもあるだろう。注意することだ」

「でも、失敗すればクラスポイント300がマイナスされるんですよ? それで一致しないことなんてあるんですか?」

「まあ、大抵の場合はないだろうな。だが、クラスを思うからこそ意見が割れるという場合もある。油断はしないことだ」

 

 なにやら実感のこもった言葉だな。

 

「また、この試験に関して選択肢を縛るような契約を結ぶことは禁ずる。金銭のやり取りも論外だ。他クラスだけでなく自クラスの生徒相手でも同じことであり、破れば退学処分になる可能性もあるので注意しろ。また、不正を持ちかけられた場合はただちに学校に申し出ること。解決に尽力することを約束しよう」

 

 クラスに裏切り者がいれば、甚大なダメージを生み出せるからな。ここを規制しようとするのは当然か。

 

「なお、今回の試験中はプロテクトポイントの効果も無効となる。プロテクトポイントを有する生徒がいるだけで公平な話し合いができなくなる可能性があるからだ。ただし、クラスポイントとプライベートポイントの支払いによる救済は可能だ」

 

 プロテクトポイント無効か。面白い追加ルールだ。

 

「特別試験中は学生証端末を含む通信機器をすべて回収する。外部との連絡を防ぐためだ。違反した場合もペナルティがあるので注意しろ」

 

 最後に茶柱先生が注意事項を述べて、ホームルームは終了した。

 その後の昼休み。今日は千秋と一緒に弁当を食べる日だ。千秋が作ってくれた弁当を受け取る。

 

「松下さん、綾小路くん。ちょっと来てもらっていいかしら。食べながらでいいから聞いて欲しいのだけど」

「ごめんね、お邪魔するよ」

「私も〜」

 

 堀北、洋介、軽井沢の3人が集まってくる。

 満場一致特別試験の対策会議だ。千秋もそれは当然理解しているため、文句を言うことはない。

 5人で人気のない場所に移動し、各々昼食を摂り始める。

 

「何か対策は考えているのか?」

「そうね、明確なリーダーは決めた方が良いと考えている。あなたはやりたがらないだろうから、私がやるわ」

「それが良い。洋介と軽井沢はサポートに回ってくれ」

 

 洋介も1年の初めからクラスを纏めてきた信頼があるが、厳しい決断をすることには向いていない。堀北の方が適任だろう。

 

「そうと決めたからには、2人は堀北の方針に逆らわないこと。いいな?」

「うん。分かったよ。けど、怖い言い方だね」

「まあな。場合によっては、洋介が容認しがたい判断を迫られる場合だってある」

「えっ、綾小路くんはもう課題の内容にも予想が付いてるの?」

 

 軽井沢は目を見開いて驚いた。

 

「いや、確信を持っているわけじゃない。だが、プロテクトポイントの無効という追加ルール。これは生徒が退学する可能性のある設問が出ると白状するようなものだと考えている」

「たしかに、そうでなければ不要なルールだよね」

「そんな設問が出なかったら出なかったで、それが一番なんだがな。まあ救済用のポイントもあるし、そこまで心配することではないかもしれないが」

 

 洋介も軽井沢も、納得したように頷く。

 ただ、今回に関しては無人島サバイバルで得たプライベートポイントもあることだし、救済が可能だ。万に一つも退学者が出ることはないだろう。

 

「そうね、余程のヘマをしない限りはペナルティは被らないと考えているわ。ただ、不確定要素がある」

「高円寺くんのこと?」

「ええ。彼の動きが読めない……いえ、読めないだけならまだよかった。今回に関しては、彼は意図的に私たちに逆らう可能性があるわ」

「無人島サバイバルでの賭けの結果……一回だけ試験に協力させる権利、だね?」

 

 千秋が言うと、堀北も頷く。

 千秋の言葉通り、高円寺と堀北は無人島サバイバルで賭けをし、結果、高円寺を一度だけ特別試験に全面的に協力させるという権利を得た。

 行使できるのは堀北か洋介、千秋のいずれか1人。タイミングを見て使用してもらうことになる。

 

「え? それがどう今回の試験と繋がるの?」

「始めはわざと満場一致しないように選択肢を選ぶのよ。そうすれば、私たちは高円寺くんに協力を要請する権利を使用せざるを得なくなる」

「ええっ! そんなのズルくない!? だいたい、そんなことして権利を使わなかったら、300ポイントマイナスになるんだよ!?」

「高円寺くんはクラス順位にも興味がないみたいだからね……ほんと、厄介な相手だよ」

 

 千秋も頭を悩ませる。

 しかし、高円寺に関しては心配する必要はない。

 

「問題ない。次の試験、高円寺は協力せざるを得ない」

「それは……どうしてかしら」

「先ほどの話と関係してくる。おそらく、今回の試験、誰かを退学させる選択肢を選ばせる設問がある可能性は高い。高円寺もそれは感じ取っているはずだ」

 

 クラス順位に興味はないが、退学は避けようとしているようだからな。茶柱先生のしたプロテクトポイント無効の話については、耳聡く聞いているだろう。

 

「たとえば、極端な例だが退学者を1人選ぶか、クラス全体の所持プライベートポイントを全て失うか選ぶ。そんな設問が出たとしよう」

「うわ、エゲツな……」

「退学者がでなければ、全プライベートポイントという大きな負債を負う。とはいえ、何の責任もない生徒を選ぶことは推奨できない。だが、直前でわざとクラスの和を乱した存在がいるとすればどうだ? そいつになら犠牲になってもらおう、と考える生徒が出てもおかしくはないんじゃないか?」

「そ、そんなのは駄目だよ! いくら高円寺くんが身勝手だからって、プライベートポイントと引き換えに退学させるなんて……!」

 

 洋介が勢いよく立ち上がる。

 そうだ、おまえはそう言うだろうな。

 

「ああ、その通りだ。しかし、心理的に高円寺を切ろうと考える者が出てもおかしくはない。加えて、高円寺は権利を行使された場合、試験には全面的に協力し、堀北たちの指示に従う必要がある。自分を退学させようという選択肢に抗うことはできない。逆らえば契約違反でどの道退学だ」

「駄目だ……それは駄目だよ、清隆くん!」

 

 強い目で、洋介はこちらに訴えかけてくる。千秋と軽井沢は心配そうにオレたち2人の間で視線を泳がせている。しかし、心配は要らない。

 堀北が洋介に反論しようとしたのを手で制し、話を続ける。

 

「と、ここまでのことは高円寺なら簡単に考え付く。退学させられるリスクがあるのに逆らうほど、あいつは馬鹿じゃない」

「え……」

「大丈夫だ、洋介。高円寺ほどの頭脳があれば、退学のリスクは避ける。おまえの心配は杞憂でしかない」

「あ……そ、そうだね。……ごめんよ、清隆くん。僕はつい……」

「いや、こっちこそ心配をかけるような言い方をした。退学者が出たら、おまえが一番心を痛めると分かっていたのにな。悪かった」

 

 手を差し出すと、洋介も安心したようにその手を取った。

 女子3人もほっとした様子だ。

 

「恵たちも、ごめんね。騒ぎ立ててしまって」

「へーきへーき。そこも洋介の良いところだと思うし」

「そうよ。あなたの下だからこそ安心できる、という生徒も多いわ」

「厳しいことは鬼の清隆くんがやってくれるからさ、平田くんは皆に優しくしてあげてよ」

「誰が鬼だ。千秋、あとで覚えてろよ」

「きゃーこわーい。助けて恵!」

「綾小路くん……あとでリボン付けて部屋に置いとくから、遠慮なくお仕置きしちゃってね」

「ちょっ、裏切り者!」

 

 そんなやり取りで、どうにか緊迫した空気は霧散した。洋介も笑っている。

 

「ただ、洋介は優しすぎるからな。高円寺が、洋介に甘えて逆らおうとする場合もあるだろう。その場合は洋介も、高円寺に強く言ってやれ。『こっちには君を強制的に協力させる権利がある。これを行使すればどうなるか、君なら分かるよね』とでも言ってやるといい」

「なるほど……たしかに、僕も退学させることに賛成しているように見せかければ、ますます高円寺くんは反発できない。うん、分かった。もしもの時はやってみるよ」

 

 洋介も納得してくれたようで良かった。堀北も、高円寺のことで頭を悩ませていたのがスッキリしたようで、心置きなく満場一致特別試験に向かえそうだ。

 

 ……高円寺が今回、退学のリスクを考えて逆らわない可能性は高い。そこに嘘はない。

 しかし、何事も絶対じゃない。高円寺なら、洋介が自分を退学させることに心から賛成することはないと分かっているだろう。

 もし、高円寺が逆らってきた時には、それ相応の対処をする必要はある。それこそ、退学という措置ですら。まあ、洋介にも言ったように高円寺は馬鹿じゃないし、いざとなればオレが洋介を説き伏せてでも切ることを理解している。そんなことは起こらないだろう。

 

 洋介たちと別れ、千秋と2人で歩く中。

 

「……平田くんの手前ああ言ったけど、清隆くんならいざという時、高円寺くんを切るよね」

「もちろんだ。容赦するつもりはない」

 

 千秋は、オレのことをよく分かってくれている。元々、どこか似た考え方を持っていたしな。波長が合っていると言える。

 

「うん、安心した。でも、良いの? せっかく一度だけ協力させる権利を得たのにさ。無人島サバイバルではそのために他クラスに1位をあげちゃったくらいなのに」

「それなりの投資をしたのは事実だな。だが、かけた費用に目を向けて無駄な投資を続けるわけにはいかない。埋没費用(サンクコスト)にこだわっていては利益は上げられないからな」

 

 高円寺を抱え込むことで今後も不利益を被るようなら、切ることが不可欠となる。回収できない費用に目を向けて投資をやめられないようでは、費用は嵩む一方。いわゆるコンコルド効果というやつに陥ってはならない。

 

「だが、経営者となる高円寺ならその辺りもよく理解しているだろう。下手なことはしないはずだ。オレのことはある程度認めてくれたようだしな」

「それって、無人島サバイバルのことで?」

「ああ。将来私の下で働かないか、と声をかけられた」

「え、高円寺くんって高円寺コンツェルンの御曹司だよね。その下でって……すっごく良い待遇なんじゃないの?」

「さあな。下と言ってもどこまで下か分かったものじゃない。普通に系列の子会社で新卒待遇かもしれないぞ」

 

 まあ、わざわざスカウトしてそんなことはないだろうとは思うが……

 しかし、卒業後はあの男を排除し、ホワイトルームの全権を握るという目的がある。どのような待遇であれ、今のところ高円寺の下で働くつもりはない。

 

「でも、高円寺くんに認められているなら、もっと良い待遇の可能性もあるよね? いいなあ」

「千秋は海外の一流大学に進学して、大使館から国連へ……っていうのが卒業後の目標だって言ってなかったか」

「うん。ちっちゃい時から外国語は習っていたし、語学が活きる仕事が良いかなって。英語は問題ないし、みーちゃんから中国語も教わってるしね」

 

 国連職員か。立派な目標だ。

 ……そう考えると、ホワイトルームを支配したとして、オレ自身は社会的な身分を得るわけではないのがもどかしいな。学習環境は大切だが、あの男と同じく無職となっては千秋に顔向けができない。

 高円寺の提案がアリに思えてきた。

 

「でも、まあ目標はもう一つあるわけで……」

「もう一つ?」

「えーっと。清隆くんのお嫁さんとか?」

 

 ちょっと疑問系にして誤魔化しながら、それでも千秋は顔を赤くする。

 可愛らしい彼女の様子に、オレは思わず口付けをする。

 

「ちょっと……恥ずかしいよ……」

「今のは千秋が悪い」

 

 こんな可愛らしい彼女のヒモになるわけにはいかない。千秋のためにも、婚姻届の職業欄を埋められるようにはしておかなくては。

 社会的立場を獲得すべく、ホワイトルームを手に入れた後に、高円寺の提案を受け入れることも視野に入れておこう。

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