よう実 √松下   作:レイトントン

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2年次体育祭①

 満場一致特別試験が終了した。

 クラスポイントが変動する。といっても、今回は坂柳Aクラスのみが抜きん出る結果となった。

 

 クラスポイント

 A坂柳クラス  1194

 B堀北クラス  975

 C一之瀬クラス 860

 D龍園クラス  772

 

 Aクラスの独走。1年の中盤を思い出すな。

 だが、橋本を切ったことで、改めて坂柳クラスの手強さを思い知った堀北クラスの生徒たちは、気を引き締め直したことだろう。

 満場一致特別試験も終了し、次の目標は体育祭となる。

 

 朝のSHR、満場一致特別試験の時とは打って変わって晴れやかな顔付きの茶柱先生が、教室に入り、さっそく次のイベント、体育祭について説明を始めた。

 特に須藤は、体力自慢としてはクラスに貢献できるまたとない機会。張り切りようも他の生徒と比べて明らかで、先生の説明を今か今かと待ち望んでいる様子だ。

 

「今年の体育祭は生徒会長である南雲の打診により、特殊ルールによる開催が決まった」

「特殊ルールって……去年とは違う体育祭ってことかよ、ですか? 先生」

 

 辿々しくも敬語で話そうとする須藤に好感を抱いたのか、茶柱先生は穏やかな笑みで肯定を返す。

 

「その通りだ、須藤。だが、体育祭である以上おまえの体力が発揮されることに違いはないから安心するといい」

「おう……じゃなくて、はい」

 

 須藤の様子に小さく笑うと、茶柱先生は続けて今年度の体育祭のルールを説明し始めた。

 

 体育祭概要

・開催時刻は9時から16時まで(12時〜13時は休憩時間)

・各クラスの各生徒は自らが選択した種目に参加し点を獲得、総合得点をクラス単位で競う

・生徒1人につき5点が開始時に与えられ、各生徒は異なる競技5種目の参加が必要となる。各種目への参加賞として1点が与えられる。

・6種目以降は1点を支払うことで参加可能であるが、参加賞の1点は入手できない。また参加出来る種目は1人につき最大10種目までとなる

・種目の上位入賞者には、種目ごとに決められた得点が追加で与えられる

・参加競技数が5種目未満で体育祭を終了した場合、その生徒の得点は無効となる

・エントリーした競技の不参加や棄権は、やむを得ない理由を除き2点を失う

・競技を終えた生徒は指定されたエリアで応援する

 

・最終順位によりクラスポイントが追加される。

 1位     150クラスポイント

 2位      50クラスポイント

 3位       0クラスポイント

 4位 マイナス150クラスポイント

 

 総合得点を競い合う体育祭。南雲の掲げる個人の実力を重視する、という言葉通り、昨年のようにクラス全体での参加競技というものはなく、個人がどこまで点を稼げるか、といった部分が大きいように見受けられる。

 また、実力のない生徒も在籍して競技に参加するだけで最初に与えられる5点、参加賞1点×最低参加5種目で5点。トラブルがなければ合計10点は与えられる仕組みとなっているようだ。

 クラス人数が40人の龍園、一之瀬クラスは最低でも400点は約束されており、坂柳のクラスとは既に20点の差が付いている。坂柳が体育祭に参加しない場合は30点もの点差になるな。

 

 また、一つの種目がグラウンドの真ん中で行われるような形式とは異なり、各地点で開催されている種目に個人個人で参加していくシステムとなっているということだ。

 場合によっては開催時間が重なり、物理的に参加のしようがない種目も発生し得る。

 

 競技には2つの種類分けがされている。

 基本競技:1人で参加可能な競技。全て固定報酬で1位には5点、2位には3点、3位には1点となる。また、それとは別で参加した生徒には参加賞の1点が与えられる。

 特殊競技:2人以上で参加可能となる競技。報酬が高く設定されており、参加したチームの生徒全員に等しく点数が与えられるが、人数の都合上拘束時間が長くなる

 

 基本競技は1位を獲っても5点しか貰えないようだ。10種目フルに出場し、全て1位を獲ったとして50点。参加賞の10点、最初の持ち点の5点の合計65点。そこから6種目以降の参加費用、1種目1点を5回マイナスすると、60点か。

 少々心許ない。全て基本競技で済ませるわけにはいかないようだな。

 

 勝てば150ものクラスポイントが得られる。去年の体育祭と比べかなり温情のある報酬だが、唯一最下位になった場合のマイナスは大きい。

 結果論だが、坂柳が橋本を失ったのは多少手痛いこととなったようだな。

 

「また、昨年綾小路が最高成績者となりプライベートポイントを得たように、今回もクラスの順位だけでなく個人報酬も存在する」

 

 茶柱先生より発表された個人報酬に、クラスの皆はざわめく。

 

・個人報酬(学年、男女別)

 1位 200万プライベートポイント、もしくはクラス移動チケット(使用期限:3月末まで)

 2位 100万プライベートポイント

 3位  50万プライベートポイント

 

 去年と比較して200倍のプライベートポイント。これだけでも驚愕だが、皆の視線は『クラス移動チケット』その一文に集約されている。

 使用期限があるようだが、AとBに大きな隔たりのある3年生については、喉から手が出るほど欲しい権利だろう。

 オレは挙手して茶柱先生に質問する。

 

「先生、このチケットというのは現物なのですか?」

 

 ぴく、と茶柱の眉が上がる。周囲からのざわめきも強まる。オレがクラス異動を目論んでいるのか、まさかといった考えが過っているのだろう。

 しかし、その後続く質問で彼女らも安堵の表情を見せる。

 

「いいや、学生証端末に送付される電子チケットとなる」

「他者への譲渡は可能なのでしょうか?」

「不可能だ。……誰かに与えるつもりだったのか?」

「いえ、ちょっと聞いてみただけです。ありがとうございます」

 

 その後、茶柱先生から追加で競技参加に関する説明を受ける。

 

 体育祭開始前から公開されるもの、当日に公開されるものの2種類があり、専用アプリによる予約ができるとのこと。

 本日の22時から予約が解禁され、全学年で早い者勝ちとなる。本番の1週間前までキャンセルが可能。

 ただし、キャンセルは3回までしかできないらしい。予約締切は本番2日前までで、それまでに5種目に参加予約をしていない場合、自動的に空いている種目に割り振られるとのことだ。

 事前予約が必須となるわけだな。

 

 また、須藤ならバスケ、洋介ならサッカーというように過去一度でも部活に所属していた生徒は、関連種目に参加できないそうだ。

 オレは体験入部だからセーフだろう。

 

 キャンセルについても、3回までという制限があるのは他クラスにとっては足枷となるだろう。オレや須藤、高円寺とは極力同じ種目に参加したくはないはずだ。

 

 

「ねえ、清隆くん。何か企んでる?」

 

 ホームルームも終わり、隣の千秋からそんなことを問われる。周囲に視線をやる。気付けば、クラス中の視線が集まっていた。先ほどのクラス移動チケットに対する質問に対する発言だろう。

 

「3年生は南雲のクラスに移動したがっているだろうし、200万よりもっと高値で買ってくれるかもしれないと思っただけだ」

「うわえぐ……」

「聞こえてるぞ軽井沢」

「つーか、もう学年1位を獲った気かよ、綾小路。今年は負けねえぞ」

「学年1位となるかは分からないが、オレも競技は全て1位を獲る予定だ。高円寺はどうだ?」

「ここ最近は先立つモノが必要でね。私も君と同じさ、清隆ボーイ。まあ、私は全て基本競技で済ますつもりだがね」

 

 わざわざレベルの低い他者に合わせに行くつもりはないらしい。まあ、参加した全競技1位ともなれば、入賞は確実だろう。少なくとも50万プライベートでポイントは手に入れるつもりのようだ。

 オレは何種目かは千秋と組むつもりでいる。高円寺を越えるのは確実だろう。

 

「あなたたち、まさか参加競技を被せるような真似はしないわよね? 分かっていると思うけど、他のクラスに勝つのが最優先よ」

「ああ、勿論だ。須藤、高円寺も、構わないな?」

「おう」

「私は好きなようにやらせてもらうよ。君たちが私を恐れて避けるというなら、好きにすればいいさ」

 

 須藤は高円寺の発言に青筋を立てて怒っているが、まだ我慢できているようだ。

 

「オレは特別競技で荒稼ぎさせてもらうとしよう。千秋、頼むぞ」

「はーい」

「俺だってそうさせてもらうぜ。なあ、小野寺」

「へっ!? あ、ああうん! 組もう組もう!」

 

 こいつら、付き合っているの隠してたよな?

 須藤のヤツ、興奮しすぎてそれを忘れて小野寺に声をかけてしまったらしい。慌ててフォローする小野寺だが、大半の生徒は今ので須藤との関係を察してしまっただろう。もうオープンにすればいいのに。

 

 そんなことを考えていると、学生証端末にメッセージが届く。

 確認すると、南雲からのものだった。

 見なかったことにできないか? と一瞬思ったが、スルーした方が後々面倒そうだ。

 内容は、昼休みに呼び出し。ほぼ間違いなく、体育祭で勝負しろ、という内容だろう。

 そんなことを考えながら過ごしていると、あっという間に昼休みになる。オレは呼び出しに応じ、南雲の待つ生徒会室へ向かう。

 その途中。

 

「よぉ、綾小路センパイ」

「宝泉。珍しいな、声をかけてくるなんて」

「用ができたんでな、こっちから赴いてやったわけさ」

 

 がし、と馴れ馴れしく肩を組んでくる宝泉。端からみればカツアゲでもされるように見えるんだろうな。

 助けを呼んでみようか……いや、道ゆく生徒たちは視線を逸らしている。誰も助けてくれそうもない。オレがヘコむことになるだけだろうしやめておこう。

 

「今度の体育祭、面白え種目があんだわ。ほらよ」

 

 そうして宝泉が端末を開き見せてきたのは、MMAという種目。総合格闘技か。打撃、組み技、寝技、投げ技の使用が認められる競技だ。

 空手、柔道の種目もあるようだが、宝泉はこちらを選択したらしい。格闘技とは、よく学校が認めたな。去年、龍園と一之瀬のクラスで行われた選抜種目試験では空手や柔道があったというし、それに影響されてのことかもしれない。あるいは、月城がオレの実力を測るため、もしくは退学に至らせる策を講じるために用意していた種目なのか。

 一応、参加条件としては男子のみとはなっているようだが、階級制はないようだ。審判の確保も容易じゃないので仕方ないかもしれないが……だいぶ危険だとは思う。性差しか考慮していない辺り、学校側はあまりこの競技に明るくないらしい。

 

「この競技で俺と勝負しろよ、綾小路」

「なぜそんなことを望む?」

「理由なんざねえよ。強いて言えば、てめえが気に食わねえ。どっちが上かハッキリさせてえってとこだ」

「そうか、考えておく。今は南雲に呼び出されている。種目は違うだろうが、おまえと同じ要件だろうな」

「あ? 俺が先約だろうが」

「日本はまだ年功序列の精神が根強いからな。一応おまえという先約があると伝えはしておくが、どうなるかは未知数だ」

「なら俺も連れてけよ。無人島でボロ負けした情けねえ生徒会長サマに直談判してやるさ」

 

 それはややこしくなりそうだからやめてほしいんだが……言っても聞きそうにないな。

 オレと宝泉、珍しい組み合わせで廊下を歩く。

 

「宝泉、この学校には慣れたか?」

「なに先輩風吹かしてんだよ気色悪い」

 

 いや辛辣すぎるだろ。普通に傷付くぞ。

 

「まあ、悪くはねえぜ。おまえを潰すって目的もあることだしな。2年には龍園もいる」

「龍園を知っているのか?」

「地元じゃ有名だったぜ。直接やり合う機会はなかったがな。なあ、MMAに龍園も引っ張ってこいよ」

「話は振ってみるが、本人次第だな」

「けっ、あの腰抜けは逃げるだろうよ。そうならねえようとっ捕まえてくれっつってんだ」

「考えておく」

 

 そんなことを話しながら、生徒会室に辿り着く。中からは既に南雲と誰かがいるのか、話し声が聞こえる。

 ドアをノックすると、入れ、と南雲の声がかかる。

 

「失礼します」

「遅かったな、綾小路……と、おまえは……宝泉和臣、だったか?」

「邪魔するぜ」

 

 どか、と空いている席に座る宝泉。南雲の目が細まる。

 

「綾小路。随分とガラの悪い後輩と付き合っているんだな?」

「宝泉のクラスとは、年度始めのパートナーを組む筆記試験で組んだんです」

「なるほど、元Dクラスとして同じ立場だった不良品を指導してやったわけだ」

「勘違いしてんじゃねえよ。例の試験の関係上、成り行きってやつだ。誰がこいつの指導なんざ受けるかよ」

「その割に、無人島サバイバルでは2年の下に降ったようだな」

「怒ったか? そのせいでズタボロにされたもんなぁ、生徒会長サマよぉ」

 

 ピリ、と空気が張り詰める。

 なんというか、この学校にはケンカ腰で話す生徒が多すぎるな。オレの周りに多いだけか?

 

「宝泉は次の体育祭、オレとMMAの種目で勝負したいそうですよ」

「ほう? 綾小路に挑もうってのか? 随分と無謀なもんだな」

 

 おまえもだろ、と口を挟みかける。危ない危ない。露骨なツッコミ所を作らないでほしいものだ。

 

「は、腕っぷしで俺に勝てるヤツなんざ存在しねえよ」

「綾小路の身体能力をOAAで見ていないのか?」

「てめえこそ、俺の力を知らねえで好き放題言ってくれるじゃねえか。綾小路の前にてめえから潰してもいいんだぜ?」

「……といった具合なので、次の体育祭、とりあえずMMAには参加しようと思います」

 

 このままでは煽り合いで日が暮れる。オレは話を終わらせるために、宝泉との勝負を受ける方針に舵を切った。

 早く帰りたい。

 

「ふふ、そこの1年生の挑戦を受けるのなら、当然私の挑戦も受けてくれるわけだな? 綾小路」

 

 ここで口を挟んできたのは、宝泉と南雲の煽り合いをオレと同じく白けた目で見ていた一人……鬼龍院だ。

 さすが、割って入ってくるタイミングが上手いな。そう言われては、鬼龍院の挑戦も受けざるを得ない。

 

「構いませんよ。でも、さすがにMMAではないですよね?」

「ああ、腕力では正直、おまえに勝ち目はないだろうからな。そうだな……フリースローなんかはどうだ?」

「構いませんが、そんな専門的な競技で大丈夫なんですか?」

 

 身体能力では性差でオレに分があるのは分かるが、バスケ経験の有無がかなり大きな要素となるような競技だ。しかも相手を妨害できる類の競技ではない。

 

「構わんよ。こう見えて私は器用でね」

「分かりました、そうしましょう」

 

 幸い、ウチのクラスにはバスケ部2年生エースの須藤がいる。フリースローについて指導してもらえば負けはないだろう。

 まあ、先ほど優勝争いをするといった旨の話をした手前、受けてくれるかは怪しいが……難しそうならネット上で動画を見るなり、小宮や誰かしらバスケ部の先輩の手を借りるなり、手は幾らでもある。

 

「南雲会長はどうされますか?」

「俺をもののついで扱いか? 大きく出たな、綾小路。まあいいさ。俺は一種目で勝負を決めようなんて思っちゃいない。最低限参加が必要な5種目全部で勝負しろ」

 

 今までの話聞いてた?

 思わずそう問いかけそうになる。

 

「あの……MMAとフリースローは……」

「あ? そんなもんキャンセルだキャンセル」

「ほう?」

「おいおいおい、調子に乗りすぎなんじゃねえか会長さんよぉ」

「ちっ、分かった分かった。ただし、両方の種目に俺も参戦させてもらうぜ。良い機会だ、格の違いを教えてやるよ鬼龍院、宝泉」

 

 いや、鬼龍院とフリースローはともかく、宝泉とMMAはさすがに南雲が不利じゃないだろうか。

 

「勝手なことを……まあいい。綾小路のついでに君も倒してやろうじゃないか」

「はっ。前菜くらいにはなってくれよ、生徒会長」

 

 2人も南雲に負けるつもりはないのか、南雲の参戦を受け入れたようだ。

 こんな話をしておいて、今夜22時からの予約が取れませんでした、なんてことになったら面白いな。

 

「じゃあ南雲会長とは……200m走とかでいいですか?」

「随分とスタンダードな種目じゃないか。だが、正面からやり合うには適さないだろう。ここはテニスシングルスにしようぜ」

「テニスですか」

「なんだ、不満でもあるってのか? 言っておくが俺の専門分野って訳じゃないぜ」

 

 本当かどうか疑わしいものだ。中学時代の南雲のデータもない。まあ、南雲が経験者だったとしても問題はないだろう。体育祭まで期間はある。その間にテニスに触れておくとしよう。

 

「なら、私もテニスに参加させてもらう。文句はないな?」

「当然俺もな。元々テニスはダブルスでも出る予定だったんだ、両方制覇させてもらうとするぜ」

「好きにしろよ。綾小路、おまえが2人に負けるようなら俺の不戦勝ってことにするからな」

 

 勝手なことばかり言うな、この生徒会長。

 

「南雲会長が誰かに倒された場合は、逆にオレの不戦勝でいいんですね?」

「ああ。そんなことはあり得ないけどな」

「分かりました、お手柔らかにお願いしますよ」

 

 じと、と3人から『どの口が』と言わんばかりの視線を受けた。

 そんな形で、今年の体育祭では3人との勝負をこなすことになるのだった。




次回更新は1週間後くらいになります。
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