よう実 √松下   作:レイトントン

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2年次体育祭④

 今のところ、予定通り体育祭は進んでいる。オレ、須藤、高円寺は全種目で1位を獲得。洋介や三宅、千秋、堀北、小野寺といった主力の生徒たちも順調に得点を伸ばしている。また、牧田や前園といった運動能力に優れた生徒たちもまずまずの成績を残しているようだ。

 問題なくウチのクラスが1位となりそうだ。

 

 しかし、先日神崎を励ましたばかりだというのに坂柳、龍園のクラスが組んだのは痛いな。今回、一之瀬クラスが最下位となるだろうから、また神崎が落ち込んでしまうかもしれない。

 どうしたものかな、と考えつつ、フリースローの会場である第2体育館の方に移動する。既に坂柳も到着しているようだ。この競技も、ボールを放り投げるだけで済ませられる点で坂柳にはピッタリの競技だろう。

 

 鬼龍院、南雲も同様に参加している。また、宝泉はフリースローは肌に合わないと思ったのか、参加を見送っているようだ。代わりに男女混合のテニスダブルスに出ているらしい。須藤も参加しているが、格闘能力は劣っていても単純な運動能力なら須藤が上。小野寺との息も合っているし、正面からやりあえば須藤に分があるはず。

 

 まあ、向こうのことは今はいいか。まずはフリースローだ。

 

 ルールとしては、10本のシュートの成功率を競うという単純なもの。10本全て成功した生徒が複数いる場合は1本ずつ順番にシュートする。ただし、サドンデスは時間の都合上15本目までとする。

 

 要するに15本決めきれば敗北はない。最低でも引き分けになるわけだ。特に戦略も必要とならない。無論、こっそりボールに細工するなどの手はあるにはあるが、龍園じゃないんだ。体育祭くらいでそこまでする必要はないだろう。

 

「綾小路。今回はどうやら引き分けに終わりそうだな。俺もおまえもボールを外すことはないだろうからな。そうだろ?」

「プレッシャーをかけないでくださいよ、南雲先輩」

「それがプレッシャーを感じているやつの顔かよ」

 

 南雲はオレの顔をまっすぐ見つめて苦笑する。

 そんなに無表情だったか……千秋からもしょっちゅう、表情が動きづらいと言われてしまう。意識して表情を作ることもできるだろうが、南雲にわざわざそれをするつもりはない。

 

 フリースロー対決が始まる。

 ゴールは4つあり、参加者は10人。順々にシュートを撃っていく。

 一本目からシュート……どころかボールを上に投げることすら苦労している様子の坂柳を除き、スムーズに順番を回していく。

 

 3本、5本とシュートを撃っていくうち、どんどんと脱落者が出てきた。7本目が終わる頃には、残っているのはオレ、鬼龍院、南雲の3人となる。

 

「このままじゃ決着は着きそうもないな。残念だぜ」

 

 オレより先にシュートを決めたらしい南雲が、ボールを投げ渡してくる。それをキャッチした瞬間、微妙にボールの重さが変わっていることに気付く。試しにボールを突いてみると、やはり跳ね方に若干の違和感がある。

 こいつ、いつの間にやら道具を使ってボールの空気をこっそり抜いたな。オレの感覚が狂うように僅かだけ。やってくれるな……いや、南雲らしいといえばらしいか。

 

「すみません、ボールの空気が少し抜けてしまったみたいなので、新しいボールを貰えますか」

 

 オレの言葉を受けて審判はボールをチェックし、状態を確かめると新しいものに交換してくれた。

 ちっ、と南雲は悪びれもせず堂々と舌打ちする。

 

「このくらいの小細工は見抜かれちまうか」

「他の生徒にも影響が出ますし、こういうのはやめませんか」

「バレなきゃいいのさ」

 

 今まさにバレてるんだが……

 結局15本目までオレたち3人の中で外す者はおらず、同率1位という扱いになった。

 

 他の種目も1位を獲り続け、プールで千秋たちと合流する。

 男女混合、400mメドレーリレー。

 4人で100mずつを泳ぐ。順序としては、背泳ぎ→平泳ぎ→バタフライ→自由形という形となる。

 ウチの割り振りとしては、千秋→オレ→須藤→堀北となっている。

 平泳ぎはおそらく最も泳げる者が多い泳法だが、それ故に技術には大きな差が出る。ホワイトルームではあらゆる泳法を教えられていた都合上、平泳ぎも体得しているからな。だからこそオレが泳ぐことになった。

 

 第1泳者千秋がスタートする。背泳ぎで最も大切なのがターンの瞬間だ。壁の5m前にある浮きを確認し、千秋はうつ伏せに移行。そのまま回転動作に入り、壁を力強く蹴った。

 完璧と言っていい動きだ。

 

 そのままの勢いで千秋は泳ぎ続ける。ただし先頭泳者が運動部である2つの組にはさすがに速度で劣り、3位。十分だ。

 千秋が壁にタッチした瞬間、オレの足はスタート台から離れ着水する。

 

 水泳部でもないのに平泳ぎに当てられるのは、数合わせか力不足な生徒が多い。案の定オレはぶっちぎりで1位を獲得し、須藤に回した。

 

「須藤くーん、頑張れー!!」

 

 オレたちの練習に付き合ってくれた小野寺が、プールサイドから大声を張り上げる。その声を受けて、須藤のスピードがぐんと上がった。分かる、分かるぞ須藤。彼女の声援は力になるんだ。

 後続を突き放し、須藤は堀北へと繋ぐ。最終泳者としての自覚も十分な堀北は、見事1位で自由形をクロールで泳ぎ切った。

 

「おっしゃあ! やったぜ皆、小野寺!」

「お疲れさま! 須藤くん速かったよ!」

 

 小野寺も彼氏を祝福する。オレは千秋の方に目を向けた。

 

「千秋、いい泳ぎだった」

 

 あと、学校指定の水着も可愛いぞ。そう言おうかと思ったが、なんだかマニアックだと思われそうだったのでやめておく。

 

「ありがとう、清隆くんも平泳ぎめちゃめちゃ速かったよ」

「そうだよ! 綾小路くん良い加減部活決めなよ、水泳部にさ。日本一目指そう」

「小野寺、悪いけど綾小路は渡せねえぜ。こいつはバスケ部の最終兵器だからな」

「もう2年も半ばを過ぎてるし、大会には出られないんじゃないか?」

『捩じ込む!』

 

 そこでシンクロするな、スポーツバカップルめ。

 

「なんにせよ、これでオレたち4人に20点追加だ。ウチのクラスの学年1位はほぼ揺らがないだろう」

「高円寺くん含めて全競技1位が3人いるしね。油断は禁物だけど、戦略ミスはないよ」

「怪我だけ注意だな。小野寺、須藤のことよく見ておいてやってくれ」

「ラジャー!」

「おいおい、俺は犬かなんかかよ。大丈夫だって、バスケのこともあんだから無茶はしねえ。それに、俺一人が無理しなくてもおまえらがいるだろ」

 

 その通りだ。須藤だけが無理をする必要はない。全員で点を取ることが重要だ。無論、主戦力たるオレや須藤がある程度の点を取ることは求められるが、現状の働きで十分お釣りがくる。

 

 さて、体育祭もそろそろクライマックスだ。オレもMMAに向かうとするか。

 

 

 最後の種目、MMAはトーナメント制で行われるようだ。2分3ラウンド。一回戦、準決勝、決勝と最大3回戦うらしい。

 参加者はオレ、南雲、宝泉、八神。そして四人の3年生だ。南雲の策略か。自分と当たる相手の体力を少しでも削ろうという狙いだろう。

 しかし、肝心のオレと一回戦で当たるとは不運だな。

 MMAのファイトショーツとオープンフィンガーグローブを着用し、手を開き閉じる。感触はなんら問題ない。

 

 種目の中でも、もっとも開催時間の遅いものだけあり、ギャラリーの数は今までで一番多い。リングの数は2つ。向こうでは3年生と宝泉が向き合っているが、3年生の側は顔が真っ青だ。そう長くはかからないだろう。

 

 オレと南雲がリングに上がる。

 

「南雲くーん! 頑張ってー!」

「生徒会長ー!」

 

 3年生から黄色い声援が上がり、南雲は片手をあげて応えている。南雲は好きそうだな、こういう演出は。

 オレの方も、友人たちがさまざまに声を上げてくれている。それは良いことだが、なにより大切なのは彼女の声援だ。

 周囲を見渡し、千秋の姿を見つける。

 

「清隆くん、ファイト!」

 

 よし。

 

「満足したか? ほんとに彼女想いな男だよおまえは」

「それほどでもないですよ。時間をかけても仕方ありませんし、始めましょう」

「風情ってもんが分からないやつだな。まあいい」

 

 オレと南雲が向かい合う。レフェリーが離れ、カンカン、と短くゴングが鳴る。

 

「行くぜ綾小路」

 

 南雲は両腕を上げながら接近してくる。ボクシングの基本的な構えだ。その勢いのまま、左手のジャブ。それなりに速いが見えている。パーリングでいなし、後退する。

 南雲のことだから深追いしてくるかと思ったが、思いの外冷静でステップを踏んだままこちらの様子を窺っているようだ。

 

「どうした? 攻めにこないのか?」

 

 南雲は得意げにステップで動き回り、オレを挑発する。無駄に体力を消耗するぞ。

 しかし、次は宝泉、決勝は八神とやり合うことになる。南雲にばかり時間をかけていられないか。

 

 オレはノーガードのまま南雲に接近する。さすがに想定外だったようで一瞬戸惑う南雲だったが、すぐに気を取り直しオレを沈めにかかる。

 左ジャブ、そして右ストレート。いわゆるワンツーと呼ばれるボクシングでは基本にして最も重要な動き。それなりの速度だが、南雲の技量では単調でもある。身をかわして左、右と拳を避け、腕が伸び切ったタイミングでこちらの左フックが、南雲のこめかみに入った。

 

 衝撃で倒れかけたところを追撃する。左手で南雲の体を押さえ込み、右手で顔面へ何発か当てると南雲の体はリングに沈んだ。レフェリーに止められ、KOとなった。

 

「うおおおおおお!」

「やるぜ綾小路!」

 

 結構刺激的な場面だったためか、歓声は女生徒よりもむしろ男子生徒から上がっている。

 1ラウンドでのKO。南雲も弱くはなかったが、体格に優れた方じゃない。筋力、技量ともにオレを下回っている以上、元よりオレに有利な勝負だった。

 

「やるじゃねえか綾小路」

 

 リングを降りると、既に3年生を伸して試合を終えたらしい宝泉から声をかけられる。こうしてみると、やはり高校1年生とは思えない体格をしている。こと格闘技においていえば、南雲よりよほど厄介な相手といえるだろう。

 

「脱いだのを見てすぐに分かったぜ。てめえ、やっぱ普通じゃねえな」

「そうか? オレはどこにでもいる一般的な男子高校生だ」

「それは滑っただろうが、つまんねえネタを天丼すんじゃねえよ。そんな仕上がった筋肉付けてるやつがどこにでもいてたまるかってんだ。……まあ、向こうにはいるみてえだがな」

 

 宝泉は、八神の方を見て呟く。全くノーマークだったろうに、制服を脱いだ姿を見て考えを改めたのだろう。八神の体も相当に鍛え上げられているからな。

 

「決勝はヤツか。宇都宮以外に俺をちっとは楽しませてくれそうなのがいたのはラッキーだったな」

「宇都宮?」

「1年Cクラスのカスだ。何かと俺に突っかかってきやがる。ま、それなりに楽しめそうなヤツではあるが、おまえほどじゃねえさ。今回は逃げやがったみてえだしな」

 

 OAAを記憶から掘り返す。たしか、フルネームは宇都宮陸。学力B72、身体能力A87と、ともに優れた数値を持つ生徒だったはず。

 宝泉とは因縁があるようだが、今回の参加は見送ったか。宝泉は逃げたと見なしたようだが、オレはむしろ警戒度を引き上げる。

 

 今回のMMAには、オレ、南雲、宝泉、八神と学年問わず一定の実力者が集まっている。組み合わせ次第だが、上位入りや宝泉との対決が叶わない可能性はそれなりにある。

 きちんとそうした損得勘定を弾き出した上で参加を見送ったというなら、OAAの数値以上に厄介な男と言える。

 

 しかし、宝泉の発言から考えるに、普段は突っかかってくる宇都宮の性格は直情的なもののはず。にも関わらず今回に限り理知的な判断を下したというのなら、考えるべきはブレーンの存在。

 1年Cクラスには有能な指揮官がいる。そうとも捉えられる。

 どちらにせよ、留意しておくか。

 

 3年生同士の試合は特に見るべきところもなかった。

 八神はオレを意識しているのか、左フックからの右のショートアッパー、ストレートで相手の意識を刈り取っていた。相手のレベルには見合わない、華麗な技だ。女生徒から黄色い声援が上がっている。

 

「はっ、キャーキャー騒ぎ立てやがって。猿かっての」

「自分が女から声援を貰えないから嫉妬とはな。噂の宝泉も女にはモテたいか」

「ああ?」

 

 挑発に宝泉が振り返る。その先にいるのは見知った男。龍園だ。

 

「てめえ、龍園だな?」

「そういうてめえは宝泉だろ? OAAで見ちゃいたが、実物を見るとマジでゴリラだなぁ」

「そういうてめえはヒョロガリじゃねえか。俺と勝負するのが怖くてこの種目から逃げたんだろ? 雑魚が」

「はっ、ゴリラと殴り合う趣味はねえんだよ。てめえらが争ってる間に他の格闘系の種目はこっちがいただいたぜ」

 

 見れば、龍園の後ろに控える山田アルベルトは柔道着を着ている。柔道の1位は山田か。

 

「セコい真似しやがるな。おまえはいつもそうだ、俺との戦いを避け続けた腰抜け」

「望むなら相手をしてやってもいいが、俺の前にこいつに勝ってみろよ。無理だろうがな」

 

 ぽん、と馴れ馴れしくオレの肩に手を置く龍園。こいつ、宝泉避けにオレを利用するつもりか。たしかに真正面からやり合っては龍園の圧倒的不利だが……やはり強かな男だ。

 

「はっ。たしかに綾小路は普通じゃねえみてえだが……俺に拳で敵うヤツなんて地球上に存在しねえんだよ」

「そりゃ楽しみだ。精々粘れよ、宝泉。やられ様を観戦しててやるからよ」

「死ね」

 

 中指を立てる宝泉、肩を竦める龍園。武力なら宝泉に分があるが、龍園はそれを軽やかにかわす。

 龍園が背を向けて去ろうとしていく。そんな中で、山田はオレの方を向くと拳を突き出してきた。

 突然のことに少し驚いたが、オレも同じように拳を突き出して合わせる。

 山田はこくりと頷いた。オレもそれに応える。

 

「何してるアルベルト。行くぞ」

 

 山田は龍園に付き従い、その場を立ち去る。

 

「分からねえな。あいつはまあまあやるだろ。龍園みてえな雑魚に従うなんてよ」

「いずれ分かるさ。それより宝泉、次はオレとおまえの試合だ。全力で来い」

 

 オレも宝泉にそう挑発してやると、龍園の時とは違い心底嬉しそうに口元を歪める。

 

「いいぜいいぜ。俺はてめえみたいに正面からぶつかってくるヤツを叩きのめすのが大好きなんだよ。ルールがあるのが惜しいが、打撃投げ締めなんでもアリだ。どっちが上かはっきりさせようぜ!」

 

 こいつも、南雲に近い欲求を抱えていたようだ。即ち、自分の全力を出せる相手を渇望していた。

 それを受け止めてやるのも先輩の務めか。

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