よう実 √松下   作:レイトントン

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2年次体育祭⑥

 体育祭が終わり、クラス移動チケットを付与された後。オレはある男たちと密会していた。

 

「クク、あの単細胞が1位を獲ったらどうしようかと思ったが……きっちり押さえたようだな、綾小路」

「まあな。計画を話せば須藤も協力してくれただろうが」

「あいつのオツムも最近はマシになってるそうだな、信じられねえが。加えて身体能力が学年2位とくりゃ中々の戦力だ。ウチに寄越してもいいんだぜ?」

「おまえにそこまで評価されるとは、須藤も出世したな。だが須藤はウチの主戦力だ、くれてやるわけにはいかないな。それに、冤罪事件の件もあるし素直におまえに従うことはないだろう。クラスの仲も深まっているしな」

「軽い冗談だ。ほらよ、送金したぜ。確認しな」

「……ああ、確かに」

 

 龍園から送られてきた500万のプライベートポイントを確認する。

 

「500万で駒1つ増やせるなら悪くねえ。それもウチに足りねえ学力を足せるってんだ、中々の買い物だったぜ」

「そうか。ならオレの方の送付も済ませよう」

「……確認したぜ。この目でキッチリとな」

 

 クラス移動チケットを譲渡する操作を済ませる。

 

「どうだ、届いたか? 葛城」

「……ああ。俺はこれで龍園のクラスに移動する。それで良いんだな」

「クク、歓迎するぜ葛城。精々働いてくれよ? 坂柳を倒すためにもな」

「無論だ。そのための移籍なのだからな。それに坂柳だけではない。綾小路、おまえには恩があるが龍園のクラスに移籍する以上、戦う時には容赦はせんぞ」

「無論だ。全力でかかってこい」

 

 葛城の言葉に応じる。

 と言っても、葛城もオレに感じている恩義は大きいだろう。まずは坂柳クラスを狙うはず。

 ひとまず目標には一歩近づいたと言って良いだろう。 

 

 

 体育祭の報酬が判明した放課後。

 昼休みに南雲から呼び出しを受け、宝泉に絡まれ、ついでに鬼龍院にまで勝負を挑まれることとなり辟易していたところに入った、更なる面会の申し出。

 しかし、届いたメッセージの差出人が予想通りの名前だったため、気を取り直して会いに行く。

 

 校舎裏の目立たないスペースで待っていたのは、Aクラスの葛城だった。

 

「綾小路。まずは呼び出しに応じてくれて感謝する」

 

 初めに礼を述べるだけ、南雲より好感が持てる。あいつはいきなり呼び出しておいて遅かったな、とか言ってきたからな。

 

「構わない。葛城からの呼び出しとは珍しいな。用件は体育祭のことか? それとも文化祭のことか?」

「前者だ。……こんなことを頼むのは恥を知らない奴だと思われても仕方ないとは分かっている。だが、頼む。俺に学年最優秀賞を譲ってはくれまいか」

 

 ぴっしりと、90度に近い形で頭を下げられる。

 内容に予想は付いていた……というより予定通りだが、ここまで深々と頭を下げられるとはな。真面目な葛城らしいと言えばらしいか。

 このまま断れば土下座すらしそうな勢いだ。この男にそこまでさせる気はない。

 

「頭を上げてくれ葛城。勝ちを譲ってほしいなんて、おまえらしくもない。……クラス移動チケットか?」

「……やはり、おまえには見抜かれるか。その通りだ。俺はもはや、坂柳の下には居られない。ヤツの下に付くくらいなら、他クラスに移動するか退学した方がマシだ」

「橋本の件か。満場一致試験での坂柳のやり方が気に入らないようだな」

「クラスを裏切った橋本を切るのは理解できる。だが、騙し討ちのような真似をしたことはやはり許せるものではない。過去には弥彦も同じやり口で退学させられているからな」

 

 坂柳も嫌われたものだな。まあ、橋本を排除する時に葛城を騙し討ちしたということだし、仕方ないか。

 まあ、そうなると分かっていて橋本の裏切りをリークしたのはオレなんだが。

 

「なるほどな。おまえ一人で2000万を貯めるのはまず不可能だ。となれば、今回のような機会を逃すまいとする気持ちは理解できる。それに、オレや須藤、高円寺がいる以上おまえが最優秀賞を獲る可能性は限りなく低いからな。だが、おまえにクラス移動チケットを渡してオレになんの得がある」

「俺の所有するプライベートポイントを全て支払おう。貯蓄は220万程だ。僅かだが、もう片方の報酬200万は上回る。さらに、おまえのクラスに移動した暁には、おまえの指示に全て従うと誓おう」

 

 たしかに、プライベートポイントに加えて葛城が完全に指示に従うようであれば、クラス移動チケットを渡すだけの価値が生まれる。

 葛城は十分なメリットを提示してくれた。だが、それはオレが求めているものではない。

 

「オレが坂柳のような戦略を執るとは思わないのか? オレはクラス内投票で裏切り者の櫛田を容赦なく切り捨てた」

「裏切り者がいてはクラスの戦いは極めて不利となる。当然の措置だ。坂柳が橋本を切ったことも、戦略として必要だったと理解はしている。やり方に異議があるだけだ。おまえが坂柳のように無為に他者を傷付けるとも思えん」

「無為でなければ傷付けるかもしれないぞ」

「……仕方のない場合もある」

 

 よほど坂柳の下に居たくないようだな。

 

「分かった、条件次第だがおまえにクラス移動チケットを渡そう」

「……すまない、綾小路。必ずおまえの下で、それに見合った働きをしてみせる」

「いや、葛城には他のクラスに移動してもらう」

 

 葛城の顔が強張る。

 

「まさか……俺を通して他クラスから情報を抜き取ろうというのか? なんて恐ろしい戦略を考える男だ……」

「いや、そうじゃない。確かにそれは強力な一手だがな」

「なに? なら、なんの目的があるというんだ。おまえや、おまえのクラスには何の得もないだろう」

 

 葛城は不審感を隠そうともせず問いただす。葛城の言う通りだ。

 これはオレに利を求めての行為じゃない。

 

「葛城。おまえはクラス間の戦力差をどう考える」

「……どういうことだ」

「そのままの意味だ。どのクラスがAに上がりそうか。あるいはDに落ちるか。他の2クラスはどんな位置に着くか。おまえはどう思っている」

 

 話の流れを切り、投げかけられる質問。ふざけていると思われても仕方ないが、葛城はこれが必要な問いかけであると感じ取ったらしい。

 しばし考えを整理し、口に出す。

 

「……まず、最も強力なクラスは綾小路、おまえのクラスだと考える。学年最強の男、綾小路清隆を筆頭に、平田、堀北、松下、王と優秀な生徒たち。高円寺や須藤といった、癖があるが際立った能力を持つ者も多い。不良品呼ばわりされていたのが信じられない戦力だ。下位の生徒たちにはまだ不安があるようだがな」

「続けてくれ」

「次点は坂柳のクラスだろう。平均的に生徒たちの実力が高いのもそうだが、直に接したからこそ分かる。坂柳は頭脳戦においては、おまえ以外に匹敵する生徒はいないだろう。龍園ならばあるいは……といった程度か。その龍園のクラスは山田をはじめ身体能力こそ優れた生徒が多いが、学力面に大きな不安を抱えている。一之瀬のクラスはバランス型だな。欠点がない。ただ、おまえのクラスと逆で、際立った生徒がいないところが急所といえるだろう」

 

 的確な分析だ。坂柳のクラスだけでなく、きちんと他クラスの戦力も把握していた。やはり葛城は優秀な男だ。

 

「オレも同じ意見だ。このままいけばオレたちのクラスが勝つだろうな」

「それならば、俺を加えれば盤石となるのではないか」

「別におまえがいなくとも、結果に違いはない。勝つのはオレだ」

「……はっきり言ってくれるな。悔しいが、それに反論するだけの実績を俺は持ち合わせていないな。おまえは常に俺たちの学年で最強の実力を示し続けてきた。恐らく、今回の体育祭もそうだろう」

「ああ。だが、独走しすぎるのも問題だ。他クラスが協調する事態になっては、オレも危ういかもしれない」

 

 実際、無人島サバイバルのような試験では多勢に無勢。それ以外にも、4クラスで戦う試験で他の3クラスに組まれては数で押し潰されてしまう。

 

「なるほど……坂柳のクラスの戦力を削りながらも、他クラスの戦力を上げ拮抗させる。また、坂柳に反発した俺という存在を他のクラスに所属させることで、少なくとも坂柳とは同盟を組ませないよう立ち回らせるつもりか」

 

 葛城はオレの少ない言葉から、自分なりに結論を出した。

 オレが葛城に読み取ってほしいと考えていた内容とピタリと一致している。

 

「だが、外様の俺が意見したところで他クラスのリーダー連中が考えを変えるとは思えんぞ」

「潜在的に忌避感を植え付けるだけでも十分だ。坂柳クラスの戦力は削れているわけだしな」

 

 しかし、葛城が察してくれた戦略は、オレの本意ではない。

 オレの本意はもっとシンプルだ。

 独走していてはウチのクラスの生徒たちの、延いては他のクラスの生徒たちの成長が見込めない。

 

 千秋も将来的な目標があるし、最終的にオレたちのクラスをAにするつもりなのは変わらない。だが、堀北、龍園や坂柳といった生徒たちの成長を見たいという気持ちもオレの中で確かに存在する。

 

 だから、坂柳のクラスと龍園のクラスで大きな差が開いている現状、戦力を均すために葛城を移動させようと考え付いたわけだ。

 

 葛城は自分の意思でオレに頭を下げに来たと思っているようだが、それは違う。

 橋本という裏切り者を削り、なおかつそこで坂柳と葛城が再度衝突するだろうことは予想が付いていた。だからわざわざ橋本の裏切りをボイスレコーダーで記録し、坂柳に渡した。

 満場一致特別試験で橋本が動いたのは偶然だが、橋本の裏切り癖ならいずれはオレに接触しにくることは目に見えていた。遠からず同じ事態になっていただろう。

 

 クラス移動チケットが手に入る可能性が最も高いのは、前年の体育祭で優勝したオレ、ないしオレのクラスの須藤や高円寺と見るのは必然。葛城がオレに頭を下げるのは決定事項だった。

 葛城がオレを選んだんじゃない。オレが葛城に選ばせた。

 

「葛城。おまえには龍園のクラスに移動してもらう」

 

 恐らく予測はしていたのだろう。葛城の眉根が寄る。

 

「……龍園は承知するのか?」

「これから聞くさ。だが、龍園にもかなり利益のある話だ。学力面で不足した戦力を補えるわけだからな」

「そうか……いや、分かった」

 

 本当は龍園にはもう話を通してある。が、ここでオレがあらかじめ龍園と話を付けていたとあっては、葛城に要らない疑念を持たれかねないからな。

 

 葛城としては一之瀬のクラスの方が良かったのかもしれないが、文句は言わないようだ。まあ、クラス移動チケットを用意してもらう手前、葛城のように真面目な性格では、文句など口が裂けても言えないだろう。

 オレとしては、葛城と龍園は実はそれほど相性が悪くないと見ている。葛城はリーダーもできるが、本質的には補佐役なタイプだ。龍園に正面から意見できる胆力もある。

 

 それに、葛城が一之瀬クラスに入ったところで、立て直しは利かない。彼女のクラスには、もっと大幅な変革が必要だ。そちらの準備はあまり進んでいないが、種は植えてある。

 

「クラス移動チケットはおまえに送付する。プライベートポイントで権利を買えば可能なはずだ」

「む……しかし、それでは俺の報酬では足が出る可能性もあるのではないか?」

「龍園からもプライベートポイントは貰うことになっている。心配は不要だ」

 

 実際には南雲との賭けで譲渡可能とさせるわけだしな。龍園からは500万プライベートポイントで有能な駒1つを増やせるということで合意済みだ。

 無人島試験である程度資金は貯まっていることもあり、龍園も即決してくれた。葛城からオレに龍園クラスの情報が渡らないように、スパイ行為防止の契約も決めてある。

 

 坂柳と龍園のクラスはこれである程度、戦力が均衡してきた。あとは一之瀬のクラスの底上げだな。

 種が芽吹くかどうかは分からないが、いよいよともなれば荒療治も必要となるだろう。

 

 

 こうして、葛城を龍園のクラスに押し付け戦力の均衡を図ったわけだが、目論見は上手くいった。

 

 体育祭の結果も出て、クラスポイントが付与される。

 

 1位 堀北Bクラス  +150

 2位 龍園Dクラス  + 50

 3位 坂柳Aクラス     0

 4位 一之瀬Cクラス -150

 

 同時にクラス順位も変動する。

 

 A 坂柳クラス  1194

 B 堀北クラス  1125

 C 龍園クラス   822

 D 一之瀬クラス  710

 

 一之瀬クラスが最下位落ちした。加えて、坂柳クラスとのクラスポイント差は実に484ポイント。文化祭で一之瀬クラスが躍進し坂柳クラスが落ちたとしても、300近いポイント差があるままだ。

 一之瀬もそうだが、神崎のメンタルが心配だな。だが、考えようによっては悪くない結果とも言える。最下位に落ちたとあれば、クラスメイトたちも多少は危機感を覚えるはず。

 修正の手間も少しは省けるというものだろう。ポイント差も相当なものだが、まだ手遅れというほどじゃないしな。

 

 さて、まずは文化祭。その次は修学旅行か。

 ……茶柱先生に色々と頼んでおかないとな。




文化祭は番外編でやったので、次回からは修学旅行編に入ります。
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