よう実 √松下   作:レイトントン

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修学旅行①

 充実した文化祭が終わり、気を抜く……というわけにもいかず、私たちBクラスは地道に勉強に励んだ。というのも、期末テストを安全に終えるため。加えて言うなら、期末テストの各クラス平均点の順位により、クラスポイントが変動する。上位を狙いに行くのは当然だ。

 期末テストの結果は、坂柳さんのクラス、一之瀬さんのクラス、私たちのクラス、龍園くんのクラスの順となった。順当、と言える結果だけど、私たちと一之瀬さんのクラスの平均点にはそれほど差はない。下位の生徒たちの頑張り次第では、次の試験でひっくり返ると思う。

 

 文化祭の結果と合わせて、現在のクラスポイントは

 

 坂柳Aクラス  1344

 堀北Bクラス  1200

 龍園Cクラス   872

 一之瀬Dクラス  835

 

 と推移している。

 一時的にAクラスを奪取できたとはいえ、坂柳さんのクラスは平均的な学力からしてもやっぱり強敵だ。またジワジワと離されてきている。

 一方、龍園くんと一之瀬さんのクラスはかなりの接戦を演じている。ちょっとした出来事でひっくり返る、まさにデッドヒート。

 けど、2人とも下位に甘んじて満足しているわけじゃないはず。その内、大きな特別試験で私たちか、もしくは坂柳さんのクラスに仕掛けてくると考えて良いはず。

 

「皆、期末テストご苦労だったな。今回、結果こそ下から2番目だったが今までにないほど高い平均点を獲得した。よくやった」

 

 茶柱先生からのストレートな褒め言葉に、皆嬉しそうに笑う。

 

「今日は期末テストの結果発表に加えて、おまえたちにやってもらうことがある。タブレットを見ろ」

 

 促されるまま、手元のタブレットに目を通す。クラスメイトたちの氏名、性別が記載されており、その隣に番号という項目のある図表が表示されている。

 

「その表の『番号』欄に1〜38の番号を振ってもらう。自分の箇所には『本人』と打ち込め」

「先生、番号はどんな基準で振ればいいんですか?」

「相手への評価だと思ってくれ。1に近いほど評価が高い。評価基準は己で決めて構わない。運動ができるから、勉強ができるから、はたまた話していて面白いから。どんな理由でもいい。また、自分たちのクラスだけでなく他クラスの生徒たちのリストもある。同じように番号を振ってくれ」

「でも、他のクラスの生徒となるとまるで話したことのない人もいますよ?」

「できる範囲で構わない。極論、知らない生徒の番号は適当に振ってもいい。ただし、この番号は学校がある目的で利用する。どうなっても自己責任だ。また振り分け中の私語雑談、端末の使用は禁止とする。1時間以内に実施しろ。時間を過ぎた場合は、この後の修学旅行の説明時間を削ることになる」

 

 あくまで現時点での自分の判断基準で振り分けを行う。そういうことだね。

 学校側がある目的で利用する、というのも意味深な言葉だ。文化祭も終わり、次の特別試験が来てもおかしくはない。それに大きな影響を及ぼす可能性を考えると、できる範囲では真面目にやっておいた方が良さそうだね。

 

 私は茶柱先生の指示に従い、番号の振り分けを開始する。

 振り分けの基準は、やっぱり能力順ということで問題ないと思う。主に学力、運動能力。コミュニケーション能力に特殊な技能を持っているかどうか。OAAの評価と近くなるだろうけど、そんなところかな。

 

 清隆くん、堀北さん、平田くん、みーちゃん、須藤くん……と順々に点数を付けていく。自分の中で、須藤くんの評価がここまで高くなっていることに驚く。ただ、よく考えてみれば意外ではない。運動能力は清隆くんや高円寺くんに次ぐし、勉強も最近は頑張っていて、クラスで半分以上の位置には常にいる状態だ。

 勉強や小野寺さんとの恋人関係を通して、精神的にも角が取れている。となれば、欠点はほぼない。

 

 その調子でクラスメイトたちに番号を振り終えて、他クラスの作業に移る。

 とはいえ、目立った生徒や、船上試験や混合合宿といった他クラスと同じグループになるような試験で一緒になった生徒以外、知っている相手はそういない。この辺は適当に振るしかないかな。

 

 そんな形で、手早く空欄を埋めていく。余裕を持って終えることができた。

 制限時間終了数分前に茶柱先生から全員が入力終了した旨を伝えられ、続けて修学旅行の説明に入る。

 

 満場一致特別試験の投票結果として、3票が北海道に投じられた。行き先は北海道となる。

 

 修学旅行のスケジュールとしては、

 

 1日目  学校を出発→羽田空港→新千歳空港→スキー場到着、講習後スキー→旅館  

 2日目  終日自由行動

 3日目  札幌市中心街観光スポット巡り→旅館

 4日目 終日自由行動(条件あり)

 5日目 旅館を出発→新千歳空港→羽田空港→学校

 

 となるみたい。

 中学の時、京都に行った修学旅行よりかなり豪華だ。自由行動が2日もあるのは太っ腹だね。クラスメイトたちも大いに盛り上がっている。ただ、お金をどうするのかが気になるところ。さすがに外部でプライベートポイントは使えないでしょ。

 

「今回の修学旅行では特別試験はない。安心して旅行を楽しむといい……と言いたいところだが、無論当校の生徒として自覚ある振る舞いをするように。また、今回の修学旅行にはテーマがある」

「テーマ、ですか?」

「『敵を知り己を知れば百戦危うからず』だ」

 

 孫子の兵法がテーマとは、なんだか重苦しいね。

 須藤くんが本堂くんに、格言の意味を教えてあげる一幕を横目で見ながら、私は茶柱先生の言葉の続きを待った。

 

 なんでも、ウチのクラスだけでなく他クラスの生徒も交えて、団体行動のグループを組むということだった。

 2年生の生徒数は、現時点で157名。8名グループが18、7名グループと6名グループが1つずつ作られる。

 目的としては、クラス間闘争の影響で普段交流の少ない他クラスの生徒たちと交流の場を作るため。それも、先ほど作成したリストを参考にしてグループが組まれる。

 

 修学旅行中のほとんどの時間はこのグループで行動することになる。例外は宿泊施設くらいのもの、ということみたい。

 学生証端末も問題なく使用できるし、先ほど私が懸念したお金の問題は、出発前にプライベートポイントを現金に両替できる。

 また余ったお金はプライベートポイントに再度両替することができるとのこと。

 

 高円寺くんなんかは、現金2000万円を実家から調達してプライベートポイントに両替すれば、個人としてはクラス間闘争を上がったも同然だろうけど、学校側も当然、最初に両替したプライベートポイントの額を記録しているはず。それを超える額の両替は受け付けてくれないだろうね。現金をプライベートポイントに『戻せる』という表現からも、そう捉えられる。

 いくらくらい換金した方がいいか清隆くんに相談してみよう。

 

 しかし、お金のことが解決したら、また気になることが出てくる。修学旅行のグループ分けはどうなるのか。修学旅行のテーマを鑑みるに、清隆くんと一緒のグループになることはないかな……と思ってたんだけど。

 

 

「やったね?」

「はい」

 

 私の短い問いかけに、相変わらずの無表情で白旗をあげる清隆くん。修学旅行当日、私たちはバスの隣同士に座りながら、端末である表を見ていた。

 今回の修学旅行におけるグループ分けだ。

 

 第6グループメンバー

 A 鬼頭隼    神室真澄

 B 綾小路清隆  松下千秋

 C 龍園翔    伊吹澪

 D 渡辺紀仁   網倉麻子

 

 神室さんや伊吹さんとは顔を合わせたことがある。龍園くんとは度々話すし、渡辺くんは去年の船上試験で同じ牛グループだった。

 網倉さんとは面識はないけど、たしか一之瀬さんのクラスの中でも特に一之瀬さんと仲が良い女子生徒だったかな。OAAを見ると、一緒にいるのを何度か見かけたことのある顔だった。

 

 いや、そんなことはいい。

 問題は、清隆くんと私が一緒のグループになったことだ。

 清隆くんは、プライベートポイントで私と同じグループになる権利を購入した。グループ一覧表を確認した瞬間問い詰めると、秒で白状した。

 

「まったく……同じグループになりたかったのは私も同じだけどさ。クラスの皆にごめんなさいするよ」

「いや、クラスの皆には根回ししてある。千秋にはサプライズだったんだ」

「あれ、そうなの?」

 

 クラスの皆にも、同じグループになりたい人はいたはず。普通なら清隆くんの希望は、身勝手な意見だ。

 

「清隆くんはいつもクラスに貢献してくれているからね。清隆くんからクラスの皆に相談された時、僕含む何人かの提案で、修学旅行でくらい慰労すべきじゃないかってことになったんだ」

「綾小路くんが頭下げるなんて珍しかったしね」

 

 私たちの会話を聞いていたらしい、前の席の平田くん、恵からもそんな声をかけられる。

 

「綾小路のおかげで上のクラスになれた部分も大きいだろ。たまには良い思いさせてやらないとな。それに松下もメイド喫茶で頑張ってくれていたしな」

「必要ポイントも自費でなんとかするってことだった。それに、クラス移動チケットを売って手に入れたポイントもクラス貯金に入れてくれたことだし、反対する理由もない」

 

 三宅くんや幸村くんも、頼もしいことに清隆くんの味方のようだ。ありがたい。

 

「だから、2人は思う存分修学旅行を楽しんでよ」

「ありがとう、お言葉に甘えるよ」

 

 そういうことなら、なんの憂いもないね。いや、龍園くんと同じグループなのにはちょっと憂いがあるかもだけど。

 

 

 行く道では周りの席の生徒たちとトランプに興じながら時間が経ち、羽田空港から新千歳空港空港に到着すると、グループ分けの通りに固まり、指定された席のどこに座るか決めるよう指示を出される。

 私たちは第6グループ。茶柱先生の前に整列することになっている。

 早速、にやにやと笑う龍園くんが近づいてくる。

 

「クク、相変わらずの溺愛っぷりだな、綾小路。金を払ってまで同じグループにしてもらうとは驚かされる。まさか葛城を寄越したのはこのための資金調達だった、なんて言わねえよな?」

「金を払う? なんのことかさっぱりだ」

「とぼけっぷりも変わらねえな。その余裕の態度もいずれ崩してやるよ。まあ、その前にやることはあるがな」

「楽しみにしている」

 

 龍園くんの探りを上手くかわしていく清隆くん。一方、伊吹さんも清隆くんをじろりと睨め付けている。

 

「久しぶり、伊吹さん」

「……あんたの彼氏、何者? 元格闘技世界王者かなんか?」

「いや? そんな事実はないと思うけど……空手と柔道は習ってたらしいよ」

 

 この間のMMA優勝を受けてか、伊吹さんはそんなことを聞いてくる。格闘技に興味があるんだろうか?

 

「絶対その2つだけじゃないでしょ。まあいい。龍園じゃないけど、いつかぶっ倒すから」

「お、穏やかじゃないなあ。少なくとも修学旅行中は挑んだりしないでね」

「……ふん」

 

 分かっているのかいないのか。伊吹さんは鼻を鳴らして口を閉ざした。

 

「あ、渡辺くん。こっちこっち」

「あ、ああ。悪い」

 

 伊吹さんはひとまず置いておくとして、遠目からこちらを窺っていた渡辺くんに声をかける。隣には、ポニーテールに髪を結んだ黒髪の可愛らしい女の子、網倉さんが同じく少し気まずそうに歩いてくる。

 

「渡辺くん、久しぶり。船上試験以来かな。網倉さんとは初めましてだね、挨拶は全員揃ってからでいいかな?」

「うん、大丈夫。よろしくね、松下さん」

「よろしく。あとはAクラスの2人だね」

「もう来ているぞ」

 

 清隆くんの言葉に振り返ると、鬼頭くんと神室さんが合流していた。

 

「神室さん、鬼頭くん、こんにちは」

「こんにちは」

「……ああ」

 

 一応、挨拶は返してくれたけど、2人ともあまり口数が多い方じゃないのか、口を閉じてしまった。

 まずい。会話が弾むようなグループじゃなさそうだ。一之瀬さんのクラスの2人がいなかったら、匙を投げていたかもしれない。けど、私以外仕切ってくれそうな人いないな……私がやるしかないか。清隆くんに任せてもいいけど、とりあえず私から全員に声がけする。

 

「さて! 全員揃ったみたいだし、まずは席順を決めようか」

「男女分かれて座る……で、いいかな?」

 

 網倉さんが途中から勢いを失いつつも、私に視線を送って問いかけてくる。私が清隆くんの隣がいいと主張すると思っているのかも。

 でも、バスでの移動くらい別の席で全然構わない。

 

「うん、それでいいんじゃないかな」

 

 男女ともに反対意見は上がらない。

 

「じゃあ女子は……どうしようか」

「別に、どこでもいい」

「私も」

 

 ツンツン2人組の神室さんと伊吹さんに視線を向けるも、そんな風に突っぱねてくる。それが一番困るんだけどね……

 私と網倉さんが隣同士になったら、私たちは盛り上がれそうだけど、この2人会話とかしなさそうだしなあ。

 

「網倉さん」

「うん、分かってる。私としては松下さんの隣が良かったけど……放っておけないよね」

 

 良かった、網倉さんは意図を察してくれた。一之瀬さんと仲が良いだけあって、ぼっち少女2人を放っておかない優しい子だった。

 結果、私と神室さん、網倉さんと伊吹さんが隣り合うことになった。

 

 男子の方も、割とすぐに決まったみたいだ。他のグループは……まだ決められていないのか、ガヤガヤと少し騒がしい。

 

「他グループはまだ決まらないみたいだし、とりあえず軽く自己紹介させてもらうね。Bクラス、松下千秋です。別のクラスではあるけどこの5日間と言わず、旅行が終わってからも仲良くしてくれると嬉しいな」

「皆さんご存知、綾小路清隆だ」

「こら、もっとちゃんと自己紹介しなさい」

「千秋の彼氏です」

「そういうことじゃなくて!」

 

 確かに皆さんご存知かもしれないけども。

 

「夫婦漫才は結構だ」

 

 まさかのツッコミが鬼頭くんから入った。よほど珍しかったのか、神室さんが驚愕に目を見開いている。

 

「……Aクラス、鬼頭隼だ」

「神室真澄」

 

 注目を集めたこともあって、ごほんと咳払いをすると、鬼頭くんから挨拶に入る。その流れで、同じクラスの神室さんも短く名前だけ名乗った。

 

「お、俺はC……じゃない、Dクラスの渡辺紀仁だ。よろしく」

「渡辺くんと同じクラスの網倉麻子です。楽しい旅行にしようね」

 

 緊張気味の渡辺くんと、落ち着いた様子の網倉さん。渡辺くんは頼りなさそうだけど、このメンツでは比較的話しやすそうで良かった。網倉さんはもっと助かる。他の女子が伊吹さん、神室さんと寡黙気味だからね。

 

「……」

 

 伊吹さんは、龍園くんに『アンタから名乗りなさいよ』と言わんばかりの視線を送っている。龍園くんはそれに気付いているだろうに、にやにやと笑っているままだ。

 やがて伊吹さんはため息を吐いた。

 

「Cクラス、伊吹澪」

「俺の自己紹介なんざ要らねえだろ。時間の無駄だ」

「あんたねぇ!」

 

 自分にはさせておいて、と伊吹さんが突っかかる。

 

「ま、まあまあ伊吹さん。確かに龍園くんを知らない人はいないだろうし」

「あんたの彼氏だってそうでしょうが!」

「自己紹介をしていないのはおまえだけだ、龍園。和を乱すような真似をするなら粛清する」

「はっ。1年半も時間があって敵の大将も知らねぇようなボンクラに名乗る名前はねえんだよ。それに、粛清だと? おまえにできるのか?」

「まあ待て、2人とも。一応、ここは公共の場だ。騒がない方がいい。そろそろ他のグループも話し合いが終わり始めたみたいだしな」

 

 龍園くんと鬼頭くんの間に入り、仲裁する清隆くん。その実力は知れ渡っているから、火花を散らしていた2人も敵愾心を収めた。

 

「す、すげえ……」

 

 唯一、子犬のように怯えていた渡辺くんは清隆くんを見てしきりに感心していた。

 しかし、他クラスのリーダーが2人に側近が1人となると、彼が今回、このグループで一番可哀想な人かもしれない。

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