よう実 √松下   作:レイトントン

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修学旅行④

 スキーを終えたオレたちは、スキー場に併設されたレストランで昼食を摂ったあと、再びスキーを堪能してから19時頃には旅館へ戻ってきていた。龍園が生徒会長になるのを企んでいるという興味深い話も聞けたし、千秋とやるスキーも面白いしと、この旅行も中々楽しめている。

 

 自由行動の時間はグループでの行動を学校側に強制されてしまっていたが、旅館ではその縛りはない。クラスメイト同士で行動する者も多いようだ。

 千秋の話によれば、網倉は一之瀬の部屋に向かったということだった。その千秋も、2日目の夜は軽井沢や森、佐藤たちグループの女子で夜を過ごす予定。

 オレも須藤や三宅、洋介と一緒に大浴場にいた。

 

「須藤、良い加減小野寺とのことは周りに言ってもいいんじゃないか。デートもしづらいだろ」

「まあ、俺もそろそろ良いんじゃねーかとは思うんだけどよ。下手に隠してた分、宣言するのもなんか妙な感じっつーか」

「それこそ隠さず堂々とデートでもしてればいいだろう。見つかったらそういうことだ、と相手に言ってやれば噂なんて勝手に広まる」

「それもそうか……けど、堀北には先に言っといた方がいいんじゃねえかなって気もするんだよなあああ」

「別にいいんじゃないかな? 堀北さんも須藤くんの告白を断ったし、何か言うことはないと思うよ。堀北さんの性格的にも」

 

 スキーでかいた汗を流しながら、須藤と小野寺のことについて話し合う。須藤も色々と悩んでいるようだが、公表した方が気が楽なのは確かだ。

 色々話した末、須藤も覚悟を決めたようで、修学旅行から戻ったら隠さず普通にデートをすることに決めたようだ。

 

「ところで、三宅くん。恵はグループで上手くやれているかい?」

 

 三宅と軽井沢は同じグループだったな。

 

「ああ、問題ない。積極的に他クラスの生徒とも話しているし、会話に入れないやつも上手くフォローしてくれている印象だ」

「そっか、良かった。須藤くんや清隆くんはどうかな」

「千秋との旅行は存分に楽しませてもらっている。龍園と鬼頭がよく揉めているが、特に問題はないな」

「それ問題ないって言えんのか……? まあ、綾小路なら大丈夫か。俺の方も特に問題ねえな」

 

 洋介はやはりクラスメイトたちが心配なようで、別グループのクラスメイトたちの様子を聞いてまわっているようだ。過保護な態度だとは思うが、性分だな。

 

「高円寺が他クラスの生徒に迷惑をかけていることだけは確かだ」

「それは……申し訳ないけど、僕たちにはどうしようもないかもね」

 

 さすがの洋介も高円寺のフォローは難しいらしい。スキー場で馬に乗っている姿も目撃したし、同じグループの生徒には同情する。

 

「ところで、一之瀬のクラスの生徒たちはどんな様子だ?」

 

 他グループの話も出たことだし、オレも気になっていたことを聞いてみる。

 

「一之瀬クラスの? 別に普通……というか、良い奴らだったぜ」

「気になることでもあるのか、綾小路」

「いや、体育祭以降Dクラスに落ちたからな。気落ちしているんじゃないかと思っていたが、渡辺も網倉もそんな様子はなかったから少し気がかりだった」

「体育祭からはもう2ヶ月くらい経つし、立ち直ったんじゃないかな?」

 

 洋介はそう分析するが、Dクラスに落ちた後初めて、他クラスと直接、かつ近い距離で接する機会だ。大抵の生徒が立ち直ったとしても、ひとりふたりくらいはまだ他クラスの生徒たちに敵愾心……まではいかずとも、警戒心を持って接する生徒がいてもおかしくはない。度々見かけた一之瀬はかなり気落ちしている様子だったしな。

 が、3人の様子を見るに、一之瀬クラスの生徒たちは特に他クラスへの敵意を持っている様子はないようだ。

 これは重症だな。神崎の意識改革だけでは間に合わないかもしれない。

 

「お? 綾小路、もう出るのか?」

「ああ。ちょっと考え事があってな。お先だ」

 

 そう3人に断って、先に大浴場を出る。

 ……しかし、3人に限った話じゃないが、オレが大浴場に入るとどうしても他の生徒から特定部位への視線を感じてしまい、ちょっと気になってしまう。なるべく人が少ない時間帯に入りたいものだ。

 

 

 翌日、オレたちは札幌駅近くのバス停に降り立っていた。学校側から通達されたのは、ちょっとした試験のようなものが実施されるということだった。今日の17時までの間に、学校側が指定した幾つかのスポットの内6箇所のスポットを回ること。

 グループ全員での記念写真がスポットを巡った証明となる。また、スポットごとに得点が設定されており、全スポットの合計値が20点以上であればグループの全員に30000プライベートポイントが支給されるというもの。

 

 単に自由に歩き回るのもいいが、こうした指定された目標通りに行動するのも悪くない。

 しかし、上手く6箇所のスポットを回りきれなかった場合、翌日の自由行動は取り消しとなり旅館で勉強会をする羽目となる。

 

「高得点のスポットを含めたルートでは移動時間がかなりシビアになる。オレは近場のスポットをゆっくり楽しんでポイントは捨てる方針を取りたい。皆はどうだ?」

 

 先んじてそう伝えるが、反論はない。龍園は選挙に向けて3万を獲りにくるかと思っていたが、そうはしなかった。

 それよりもオレの行動を観察する方向に舵を切っているということか。

 

 そんな訳で、ゆっくりとスポットを回りながら札幌の街を観光することが決まった。

 まずは最寄りの札幌市時計台を目指してグループで歩く。他のグループも同じ考えが多いようで、周辺には高育の生徒たちの姿が多く見られた。

 

「おや、神室真澄、鬼頭隼。あなたたちは綾小路清隆や龍園翔たちと同じグループだったのですね」

 

 オレたちのグループは、クラスリーダー2名、側近が4名とかなり目立つようで、遠目に見ていた生徒が多い。しかし、この森下は空気を読まないタイプだからか、平気で話しかけてきた。

 

「どうですか、情報収集は進んでいますか」

「人聞きの悪いこと言わないでよ。別に、普通に修学旅行を楽しんでるだけ」

「この修学旅行のテーマは事前に説明されていましたし、龍園翔は分かりませんが綾小路清隆が気分を害するとは思えません。どんどん突っ込んじゃいなよ、ユー」

「……人には触れられたくない部分もあるだろう」

「そこはホラ、上手く避けてくださいよ。地雷原の上を軽やかにステップ踏むのを拍手しながら眺めてますので」

「無茶苦茶言うわね……アンタが踊りなさいよ、そこまで言うなら」

「ダンスは苦手なんですよ。私がやったら地雷系ならぬ地雷起爆系女子になってしまいます」

 

 自由人というか、奔放な森下に坂柳の側近である神室も鬼頭もタジタジなのは少し面白い。逆にこっちが坂柳クラスの内情、その一部を見せてもらっている状況となっている。

 

「お久しぶりです、綾小路清隆。松下千秋も」

「こんにちは森下さん。相変わらずグイグイ来るね」

「夏休みもそうですが、修学旅行などの特殊な場であれば浮かれていたと言い訳も利きそうかなと思いまして」

「いや、おまえそれが素だろ」

「旅行先でしか素が出せない、シャイなガールなんです。旅の恥は掻き捨てと言いますからね」

「いや、たまに会って話す時もそんな調子だよね?」

 

 ツッコミ所の尽きない変人。森下の印象は変わらない。

 

「アンタ、お守りはどうしたの」

「真田康生ならグループの皆と話していますよ。他クラスの生徒ともスムーズに仲良しになれて羨ましいです」

 

 森下は真田と同じグループだったな。無人島でも見たし、意外と良いコンビ……というと真田が大変かもしれない。

 というかお守りで通じ合うな。真田が可哀想だろ。

 

 時計台に着き、指定されたスポットで集合写真を撮っていく。その最中、森下が千秋にそっと声をかけているのが見えた。

 

「松下千秋。これから少し神室真澄、鬼頭隼と私で綾小路清隆に少し聞きたいことがありまして。3分ほど借りていいですか?」

「私が一緒だとダメなの?」

「別に構いませんよ。あなたのためにはならないと思いますが」

 

 森下はそう忠告じみたことを言うが、これから聞かれる内容には予想が付いている。別に千秋に聞かれて困る内容でもない。千秋はオレの性分をよく分かっているからだ。

 千秋とアイコンタクトを取り、付いてきても問題ないことを伝える。

 

龍園たちからそっと離れるように、神室、鬼頭、森下とオレ、千秋は陰となっている場所に移動した。

 

「それで、聞きたいこととはなんだ? 地雷を踏みかねないなら心の奥にしまっておいてほしいところだが」

「私は地雷起爆系女子なので、単刀直入に聞きましょうか。綾小路清隆は意図的に橋本正義を退学させた。間違いありませんか?」

「そうだ」

 

 それは神室の目の前で坂柳にボイスレコーダーを返してもらった時点で分かりきっていることだ。即答で返す。

 

「……何故だ? おまえにとっては、橋本は満場一致では使えずとも、他の試験では有利に使える駒となったはず。何故退学に追い込んだ?」

「フェアじゃないと思ったからだ。裏切り者の厄介さは顕著だからな、この学校では特に」

「ウチのクラスのため、ってこと? 悪いけど、アンタがそんなお人好しには見えない」

「疑り深いな。オレの正体がどうとか、オレの本心だとか。そんなに気になることか?」

「アンタはあたしたちのクラスがAで卒業するために、最も高い壁となる存在よ。そりゃ気にするでしょ」

 

 それは建前だろう。

 オレが坂柳からボイスレコーダーを受け取った時、神室は明らかに動揺していた。橋本に対して裏切りによる嫌悪感はもちろんあったのだろうが、やはり1年以上共に側近としてやってきた仲だ、仲間意識くらいは芽生えるか。

 橋本が退学させられたことに対して、真相……というには大袈裟だが、納得いく答えを知りたい。そんなところだろうか。恐らく、鬼頭も同じ考えだ。

 

「他に理由があると思うか? そもそも、橋本の件だって向こうから話を持ちかけられなければ起こらなかったことだ」

「それは……」

「なら、葛城康平の件も偶然ですか?」

 

 言い淀んだ神室に代わり、森下がそう問いかける。

 

「葛城? あれはあいつがクラス移動がしたいと交渉してきたから、それに乗っただけだ。単に200万を得るより、葛城に売った方が得だったからな」

「それは当然のことです。葛城康平が実直な性格である以上、あなたにクラス移動チケットを求めるのにそれ以上の利益を提示しないはずがない」

 

 この程度の誤魔化しも通用しないか。森下は想像以上に鋭いな。何を考えているか分かりづらい表情といい、やり辛い相手だ。

 

「私が言いたいのは、橋本正義の裏切りを告発すれば坂柳有栖はそれを処断する。満場一致という試験の特性上、その過程で葛城康平を騙すような手が取られる可能性が高い。結果、葛城康平には坂柳有栖に対して更なる拒否感が生じる……体育祭でクラス移動チケットが報酬となったのは偶然でしょうが、あなたが一連の流れを全て読み切った上で口火を切ったのではないか、ということです」

「なるほど、面白い考察だな。だが事実とは異なる。どちらも偶然だ」

「そうでしたか。それは失礼しました」

「ここまで突っ込んどいて引き際あっさり過ぎない!?」

 

 千秋が思わずツッコンでしまっている。オレも同意見だ。ここまで言っておいて引かれては逆に気持ち悪いな。

 いや、これも森下の狙いか。オレが意図して仕組んだことを認めないと見て、追求を不完全燃焼で終わらせることで、神室と鬼頭の心にも疑念を植え付けた。あえて神室、鬼頭も話に呼んだのはこのためか。

 

「やり手だな。1年の時おとなしかったのが不思議なくらいだ」

「坂柳有栖に任せておけば問題ないと思っていましたが、綾小路清隆は想像以上に優れていると分かりましたから。まさか一度抜かれるとは思っていませんでした」

 

 森下もAクラスで卒業する意思はあるようだ。

 真田といい、坂柳のクラスにはまだまだ面白い人材が多くいるようだ。この旅行を通してもっと他クラスの生徒に目を向けてみるのも面白そうだな。

 元々そういう趣旨であることだし。

 

 

 3日目の自由行動は、その後も恙無く進んでいった。スポットを巡るという性質上、他グループの生徒と顔を合わせる機会も多く、当初懸念していたよりは多数の生徒たちと触れ合うことができた。

 

「ねえ、綾小路。ちょっと格闘技の相手してくんない」

「……旅行中、しかも市街地だぞ。無理言うな」

「別に今じゃなくて良いわよ。雪の上なら投げられても怪我しづらいし。アンタも足滑らせたら蹴っ飛ばせるかもしれないし」

「そりゃあ良い案だな。俺も噛ませろよ、伊吹」

「勘弁してくれ。ペーパーシャッフルの時のこと、根に持っているのか? あれはおまえらが仕掛けてきたことだろ」

 

 伊吹は真剣そうな顔でオレに再戦を申し込む。恐らく体育祭でも挑みたかったのだろうが、MMAや空手、柔道は男女で分けられていたからな。となれば、オレに挑むには私闘しかないわけだ。学校内では滅多にない機会。旅行中、それも同じグループであれば尚更か。

 

「龍園のことは無視していい。アンタの実力がどんだけなのか、一対一でやり合って測りたいだけ」

「……ルールを決めて立会いも付けた上なら」

「おっけ。じゃあ旅館に帰ったら、よろしく」

 

 戦闘狂め……

 龍園も楽しそうににやにやするばかりだ。こいつも見物しに来るんだろうな。

 

 ちなみに結論から言えば、オレは右腕のみで伊吹を完封した。伊吹は悔しそうにしていたが、オレとの実力差はまだ埋め難いと理解したようで騒ぎ立てるようなことはなかった。龍園にはまた、オレに関する情報をひとつ渡すような形になった。

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