よう実 √松下   作:レイトントン

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協力型総合筆記試験・生徒会選挙②

「良かったの? 一之瀬さんの提案受けて。一之瀬さん超有利じゃない?」

 

 一之瀬さん、龍園くんと別れて、私と清隆くんは生徒会長の候補者となった堀北さんの後を歩いている。

 堀北さんの足取りに迷いはない。

 

「ええ、まともにやり合うなら一之瀬さんは強敵ね」

「その言い方……まともにやり合わない、ってこと?」

「龍園くんが一之瀬さんの条件を受けてあっさり承諾した。彼が彼女と正面から戦うはずがないでしょう? 同じ手を私たちも使えば良い」

 

 龍園くんが講じて来そうな手を、堀北さんは既に読んでいる、ということだ。

 

「今回禁止されているのは『プライベートポイント』による票の購入よ。なら、別の交渉材料で票を貰うのは違反ではないわ」

「なるほど……特別試験の結果や情報、物で釣るとか?」

「そんなところでしょうね」

 

 たしかに、それなら契約違反とはならない。物に関してはちょっとグレー寄りではあるけど、龍園くんなら平気でやるだろう。

 

「それに、コネクションのあるクラスは龍園くんが指定したところだけではないわ。天沢さんのいる1-Aは、綾小路くんの指示があれば私に投票してくれるはず。これでウチ、1-Cと合わせて118票。3-Bは桐山副会長が龍園くんのことを良く思ってないから、交渉次第で票が得られるでしょう。まあ、一之瀬さんを優先するかもしれないから微妙なところではあるけど……だからまずは南雲会長と交渉するわ」

「数少ない40票丸々残ったクラスだしね。坂柳さんのクラスはどうする?」

「彼女はウチと順位争い中の相手よ。私が生徒会長になれば不利になる。それより、下位クラスのリーダーが生徒会長になった方が得だと考えるでしょう。交渉が難儀しそうだから後回しよ」

 

 堀北さんは来た道を戻り、南雲会長の下へ向かうつもりみたいだ。ただ、問題が一つある。

 

「南雲会長への交渉材料はあるの? プライベートポイントはもちろん、南雲会長が協力するだけの条件なんてそうはないと思うけど」

「ふふ、人が悪いわね松下さん。あなたも分かっているでしょう?」

 

 にや、と堀北さんが私たちの方へ振り返る。いや、主に清隆くんの方へと。

 

「あー……」

「おまえ……オレを売る気か」

「悪いけど働いてもらうわよ、綾小路くん。南雲会長はことあるごとにあなたに勝負を申し込んでいる。私に投票して無事選挙に勝てたら、無条件で1回勝負する。これなら南雲会長も食いついてくるはず」

 

 普段清隆くんは南雲会長との勝負を渋りがちだ。南雲会長は清隆くんが勝った時のために、ポイントなりなんなり色々と用意する羽目になっている。

 それが無条件で勝負を受けるとなれば、交渉の材料としては十分かな。

 

「まったく。勝手に彼氏を売らないでよね」

「ごめんなさい松下さん」

「おい、謝る相手が違うだろ」

 

 清隆くんのツッコミを華麗にスルーして、堀北さんは南雲会長との交渉に向かった。一方、私たちには1-Aと交渉してくるように指示される。

 いつの間にか選挙に協力する流れになってしまったけど、仕方ないか。

 

 堀北さんと別れて1-Aに向かう。一夏ちゃんは清隆くんを慕っているし、私ともそこそこ仲が良い。とはいえ、そこからクラスメイトたちを説得できるんだろうか。

 彼女のクラスのリーダーは石上くんだ。彼は清隆くんとはいずれ勝負してみたいと無人島サバイバルで宣言していたと聞く。協力してくれるかは微妙なところ。

 

「あ、綾小路先輩に千秋先輩」

 

 ズケズケとした物言いから、クラスで浮いていると嘯く一夏ちゃんだけど、気にした様子はない。私たちが顔を見せると、ぱっと花の咲いたような笑顔を見せた。

 

 彼女には、既に石上くんに選挙のために話を通しておいてほしいとメッセージを送ってある。待っていてくれたみたいで、石上くんを連れ出してきた。

 石上くんとの交渉は特に問題もなく進み、プライベートポイントの代わりに特別試験の情報の提供で手を打ってくれた。かなり安い条件だと思ったけど、どうやら石上くんも清隆くんとの勝負を望んでいるらしく、私にこっそり清隆くんを誘導するように求めてきた。

 大人気だな、私の彼氏。

 私がお願いすれば多分清隆くんは了承してくれるだろうから、事後承諾にはなるけどオーケーした。

 

 堀北さんの方の交渉も上手くいったみたいで、これで堀北さんへの票は118票。清隆くんの負担は2倍だ。

 

 全校生徒の数、つまり全体の票数が440であることを考えると、確実に勝利するには221票が必要。ただ、現実的には難しいだろう。一之瀬さん、龍園くんも当然票固めに奔走している。

 一応、あと大体ひとクラス分の票を獲得できれば、全体の3分の1の票を獲得することにはなる。龍園くんはともかく、それで一之瀬さんを超えられるかは微妙なところかも。

 

 

「千秋。今回の選挙は千秋と堀北に任せる。代わりに、特別試験のための勉強会に注力することにする」

「うん、分かった。たしかにそっちも大切だもんね。堀北さんのサポート頑張るよ」

 

 千秋にはそのように告げて、オレは洋介たち特別試験の対策班に合流する。

 今回の選挙は堀北や龍園、一之瀬がどのように成長したのか見守るには丁度良い機会だ。オレはあくまで駒の一つとして、交渉のダシに使われるくらいの関わり方に留めるとしよう。

 

「清隆くんが勉強会に参加してくれるなら心強いな。普段、部活前の生徒たちは堀北さん主導で勉強を見ていてくれていたから、選挙期間はどうしようかと思っていたけど」

「じゃあ、俺が部活前の時間の勉強会に入るとするか」

 

 といっても、時間のある時にたびたび講師役を引き受ける機会はあったし、参加するクラスメイトたちにも抵抗はないようだった。

 堀北に代わり、クラスメイトたちの勉強を見ていく。

 

「綾小路くん、ここ教えて!」

 

 積極的に質問してくれるのは、佐藤や井の頭といった生徒たち。対して、池や山内、本堂といった面子はいまいちやる気がなさそうだ。

 最近の堀北は丸くなったからな。どうせなら顔の良い女に教えられたいのだろう。

 

「なるほど、こうやって解くわけかあ。難しいな、やっぱあたしたちじゃ力になれないかも……」

「そんなことはない。それに、今回の試験は巻き返す大きなチャンスだ」

 

 学力評価の低い生徒の頑張りが、勝ち負けに直結する。なにせ学力Eなら、1問解いただけでオレが5問解いただけの点を獲得できるわけだからな。

 

「佐藤たちの活躍で勝敗が決まる。期待してるぞ」

「うわ、プレッシャーえぐ」

「頑張れ。勝敗はおまえたち次第だ。ここで勝てれば一気にAクラスに近付くぞ」

「ちょ、わざとやってるでしょ!」 

 

 バレたか。

 

「だが実際、今回はオレにできることはこの勉強会くらいしかない。試験時の対策も、堀北のハンドサインで十分だろう」

 

 堀北は既に、特別試験の対策を考えていた。勉強が得意な生徒とそうでない生徒を交互に配置し、得意な生徒が後続の生徒に交代の間際、ハンドサインでどの問題を解くべきか伝える、というもの。

 問題を眺める時間、どの問題を解くべきか考える時間を短縮できるのは大きなメリットだ。加えて、ハンドサインを送る側が送られる側の得意不得意をきっちり把握できていれば、更に正答率は上がるだろう。

 

 ハンドサインなのは、口頭での伝達は違反行為と明記されているからだ。筆談や端末の画面に関しては、ルールへの明記はないがアウト寄りだろうな。

 『問題の解答に関してヒントや答えを書き残す、口頭で伝えるなどの行為は違反』

 とされている。など、というのが曲者で、端末の画面を見せる行為もその範疇に含まれる公算は大きい。また、待機中、交代前の会話も禁止だとのことだ。要するに、カンニングが疑われる行為は行わない方が賢明というわけだ。

 

 ハンドサインなら伝えられる内容も知れている分、見つかりづらい上にいくらでも言い逃れができる。

 

「オレなんかより佐藤たちが頑張る方がずっと勝利に近づいていく」

「はぁ。結局地道に勉強するしかないかあ」

「学生の本分ってやつだ。受け入れるんだな」

「ちぇー」

 

 実際、成績下位の佐藤、池、本堂、山内、佐倉あたりの活躍は大いに試験結果に関わってくる。

 彼ら彼女らの正解、不正解の傾向を今のうちに把握しておくとする。それを堀北らに共有すれば、かなり勝率は上がるだろう。

 

 そんな目的を持ちながら勉強会を終える。

 疲れ切ったクラスメイトたちを労いながら、オレは千秋にメッセージを送る。選挙活動の進捗の確認だ。

 

 どうやら3年生との交渉は難航しているようだ。桐山は一之瀬に入れる可能性が高いということで、交渉を後に回したが、懸念通りに一之瀬への投票で話が纏まっているらしい。CDクラスには龍園の手が回っていたとのこと。ただ、堀北は南雲との交渉には成功したようだ。

 これで堀北の票は157票。高円寺は除外したとしての話だ。

 龍園が3年CDクラスの票を得たなら、1年Bクラスの票も合わせて131票。一之瀬は110票(鬼龍院を除外)。

 残るは坂柳のクラスの票か。実に37票。もし龍園に投票したとすれば、その合計は168票。堀北を超える。

 

「楽しそうですね、綾小路くん」

 

 ベンチに座りメッセージを打っていると、隣に坂柳が座ってくる。

 

「まあな。堀北も龍園も、一之瀬も。それぞれ面白い成長を遂げていると感じている」

「ふふ、綾小路くんにとって彼女らは目をかけている生徒、といったところですか。未熟な人たちですが、それゆえに成長を見守るのが楽しい、という気持ちは分からないでもありません。ですが選挙にばかり気を取られて、私との勝負に手を抜いてほしくはないですよ?」

「手を抜いているつもりはないが、今回はおまえに不利な条件だからな。これでおまえとの上下が決まるとは思ってない」

「おや、既に勝っているかのような口ぶりですね」

「ああ。今回はな」

「……ふふ、まあ、たしかに私も今回、あなたを妨害する手も取れないでいる。クラスメイトの皆さんには頑張ってもらいますが、総合点で不利な以上、勝てる可能性はそう高くない」

 

 坂柳もそれを認められないほど子供じゃないか。

 今回の特別試験はすることがほとんどない。オレの興味は選挙に向いている。

 

「坂柳はどこに投票するんだ?」

「一之瀬さんに投票しようと考えています。堀北さんに実権を握らせては私たちに不利になるかもしれませんし、龍園くんが生徒会長というのも似合わないので」

「坂柳にしては素直な判断だな」

「まあ、あまり興味もありませんから」

 

 生徒会長が誰でも関係ない、ということか。

 坂柳の言葉が真実なら、龍園が堀北の票を超えることはない。

 

「ふふ。それよりも、最近綾小路くんは私のクラスの生徒と仲が良いようですね。森下さんや神室さん、鬼頭くんの口から、綾小路くんの名前を聞くことが増えました」

「森下はともかく、神室や鬼頭からもか? 修学旅行で一緒になったくらいしか接点がないが」

「綾小路くんは今まで以上に警戒すべき相手だと言っていましたよ」

「それ、仲が良いと言えるのか……?」

 

 多分、森下に植え付けられた疑念からの言葉だろう。橋本を退学に追い込んだのは事実だしな。

 

「橋本くんを退学させたのは、私の意思だというのに、心配性な人たちです」

「橋本がいなくなって、不便はないか?」

「ええ。逆に、お友達以外の優秀な生徒に目を向ける良い機会になりました。それこそ森下さんなど、変人ではありますが鋭い人ですね」

「変人なのはほんとうにその通りだな」

「やはり仲が良いようですね」

 

 まあ、坂柳のクラスの生徒の中では話す方ではあるな。

 その後しばらく、お互いの修学旅行での動向などを話しながら過ごした。

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