よう実 √松下   作:レイトントン

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協力型総合筆記試験・生徒会選挙③

 終業式の前々日、オレたちは特別試験に挑んでいた。坂柳のクラスとの直接対決だ。

 堀北の采配により、オレはトップバッターを任されることとなっている。坂上先生の案内の下、解答用の教室に一人、入室する。

 部屋の真ん中には机と椅子が。そして、数枚の問題用紙、解答用紙がそれぞれ用意されている。

 着座してしばらく経つと、坂上先生より開始の合図が出される。オレは問題用紙を表にし、ざっと全体の問題に目を通した。

 

 ……想定より難易度が高めだな、今回の試験は。

 ざっと問題を読んだが、やはり成績下位の生徒が何問も容易に解けるような難易度にした場合、下位クラスの勝利が確実になってしまうためだろう。

 オレは難易度が極端に高いもの、そして引っ掛け問題を潰し、オレの次の順番である池が得意な問題を記憶。ハンドサインで繋ぐ。

 これでオレの役割は終了だ。することの少ない、楽な特別試験だった。

 

 待機中も私語や問題の共有はできないので、おとなしく試験終了まで待つこととなった。

 やがて最後の生徒、山内が死にそうな顔で戻ってきたところで茶柱先生より試験終了の合図が出された。

 一気に気の抜けたクラスメイトたちは、各々グループで話し始めている。千秋も、軽井沢や森、佐藤と試験内容について話しているようだ。

 

「綾小路くん。少し顔を貸してもらえるかしら」

「ああ。選挙のことだろう?」

「あなたの所感を聞かせてほしくて」

 

 堀北に連れられ、校舎の外に向かう。

 

「投票は明日だろ。このタイミングでオレに意見を求める意味があるのか?」

「ないわね。強いて言うなら精神を落ち着かせるためかしら」

「明日には答え合わせができる。おまえは堂々としていればいい」

「……やっぱり、あなたには結果が見えているの?」

「あくまで予想でしかない」

「教える気はないのね」

 

 ふう、と小さくため息を吐く堀北。髪もだいぶ伸びてきて、もう肩までかかるだけの長さになっている。

 もう学に心配されないだけの実力を有しているのは間違いない。今の堀北なら、この選挙も乗り越えられるとオレは確信していた。

 

 

 特別試験が終わり、翌日。終業式の前日に、生徒会長選挙の投票、結果発表が行われる。

 朝のHRの時間を使い、各候補者の演説を体育館で聞く運びとなっている。

 堀北も一之瀬も、よく言えば真っ当な、悪く言えば当たり障りのない内容の演説を行う。

 しかし、龍園。この男は違った。

 

『演説なんてもんが必要か? おまえたちはもうどこに投票するか決めているだろ。やるだけ時間の無駄だ。散っていいぞ』

 

 形式上の演説も行わず、上から目線の発言。これには会場からも不満の声が続出した。特に宝泉のクラスからはブーイングが響く。

 教師らも明らかに龍園に非があるためか、静粛を求める声にも力がない。

 ここは形だけでも演説した方がいいと思うが、ある意味龍園らしいといえばらしいか。

 敵対する候補者に対し選挙を放棄したと思わせる効果もなくはないが、オレとしてはリスクの方が大きいように思える。

 

 そんな波乱もあった中で、オレたちは教室に戻り早速投票が行われることとなった。クラスメイトたちは当然、堀北に投票していくのだろう。もちろん、オレもその流れに逆らうつもりはない。たとえ結果が分かっていたとしても。

 

「集計結果は今日中に出される。6限を再びHRとし、そこで結果発表と新任生徒会長の挨拶を執り行う」

 

 今年の生徒会長交代は時期が遅かったので、業務の引き継ぎは順次行うとして、生徒会長の席は当日中に譲る。今日、新しい生徒会長が着任することになる。

 

 ホームルームが終わると、オレの端末に着信が届いた。八神からだ。

 電話に出て、報告を受け取る。想定通りだ。

 

 1日の授業を淡々とこなしていく。特別試験も終わり気の抜けている生徒も多いが、生徒会選挙の動向に気もそぞろな者もいる。

 

「落ち着かないか、堀北」

「……ええ。今回、龍園くんが随分おとなしかったのが気になってね。3年CDクラスを引き込んだのは流石だった。けれど、なぜわざわざ生徒数の少ないクラスを優先して引き込んだのか。その答えが見つからないでいる」

 

 3年CDクラスは南雲により生徒を多く退学に追い込まれたクラス。それぞれ生徒数は26人、24人とかなり少なく、票集めの際は優先順位を後回しにされるような数しかいない。

 

「単に計算違いだった、ということは恐らくないはずよ。龍園くんは過小評価できる相手じゃない」

 

 以前の堀北だったら、龍園を侮ったまま思考を放棄していたはずだ。だが、まだ龍園の思考には追いつけていない。龍園もまた成長している。

 

「わざわざ生徒数の少ないクラスを引き込んだ。デメリットは見えている。ならそのメリットはなんだ?」

「……明日は槍でも降るのかしら。あなたがヒントをくれるなんて」

「多分快晴だろう。オレはいつでも心優しい男だからな」

「熱でもあるの? 保健室に行ってきたら? ……というのは冗談として、3年CDを引き込むメリット。そうね……」

 

 顎に指を当てて考え込む堀北。

 

「……私は今回、南雲会長と石上くんのクラスを優先して交渉相手に選んだ。それは人数が多いクラスだから。私たちのクラスは1人が退学している分、味方に付けるのは極力人数の減っていないクラスが望ましい。龍園くんは私が3-A、1-Aと交渉したがることを読んでいた。加えて、私か一之瀬さんと競合した場合、自分が不利だとも」

 

 龍園と一之瀬、堀北。仮に同じ条件でどちらに票を入れるか選べと言われたら、まず龍園は選ばれない。

 

「だから、競合の起きる可能性が低いクラスを引き込んだ」

「正解だ」

「……けれど、それで選挙に負けていては意味がないわ。龍園くんには、ここから票を逆転させる手段があるというの……?」

 

 堀北は悔しそうに歯噛みする。

 

「あまり考え込む必要はないさ。もう投票は終わった。結果が覆るわけじゃない」

「……そうね。あなたも、今回の選挙にはノータッチと言っていたし。投票が終わった今だからこそヒントをくれたんでしょう」

「まあな。それに、結果はすぐに分かる」

 

 やがて6限が訪れる。

 再びオレたちは体育館に集められ、朝行われた投票の結果が発表される。

 

 しん、と体育館の中は静寂に包まれていた。これからの結果発表を聞き逃すまいとする生徒たちの意思が感じ取れる。そんな静けさ。

 重圧すら感じるような空間の中に、壇上から足音が響く。生徒会長である南雲だ。生徒会のメンバーは皆、選挙の候補もそうでない役員も全て壇上に上がっている。

 

「全校生徒の皆さん、お集まりいただきありがとうございます。生徒会長の南雲雅です。この度、次代の生徒会長を選出する選挙にご協力いただき、重ねて御礼申し上げます」

 

 堂々たる佇まい。南雲も、曲がりなりにも生徒会長という立場を1年守り続けてきたのが分かる。

 その後も長々と自らの代の生徒会による1年間を振り返る言葉が続く。

 

「……この結果発表を持ちまして、正式に生徒会長の任を降り、次の会長に業務を託していくことになります。ぜひ私の後に続く生徒会長にも、輝かしい功績を残していただきたいと思っています。それでは、前置きはこのくらいにして、投票結果の発表に移りたいと思います」

 

 南雲は学校から支給されたタブレットをタップし、それを確認する。どうやら今の今まで、南雲ですら選挙の結果は聞かされていなかったようだ。

 その結果を見た南雲は、僅かに眉根を寄せた。

 

「……最も多くの票を獲得し、次の生徒会長になったのは……

 

 

 獲得票数282票で、一之瀬帆波さんです」

 

 一之瀬に対し、大きな拍手が送られる。それは一之瀬に投票する予定だったクラスの生徒たちも、負けた堀北に投票した生徒たちも同じ。違うのは、龍園に入れるはずだったクラスの生徒たちだ。

 

「……まさか」

 

 千秋は驚愕に目を見開いていた。驚いたのは、一之瀬の勝利にではない。その得票数にだ。

 

「これだけの票……龍園くんの票も全て一之瀬さんに集約した、ってこと?」

「間違いないだろうな。龍園は恐らく獲得票数0。自分を含め、票は全て一之瀬に投じた」

「それは、一体……」

「すぐに分かる」

 

 壇上では、名前を呼ばれた一之瀬が南雲に代わりマイクの前に立っていた。

 

「皆さん、投票ありがとうございました。新しく生徒会長に就任した一之瀬帆波です。私なんかが生徒会長に選ばれるなんて、非常に光栄です」

 

 南雲は生徒会長を降りたと宣言し、一之瀬が新たな生徒会長となったことが通達された。それはつまり、既に生徒会長としてのバトンタッチは終えていることを示している。

 だからこそ、一之瀬のスピーチは、聞く者の考えとは全く逆の方向へと舵を切る。

 

「ですが……私などに生徒会長が勤まるとは、正直思えないんです」

 

 弱気な発言。聴衆のざわめきが大きくなる。

 一之瀬の言葉にいの一番に反応したのは、先ほどまでマイクを握っていた南雲だった。

 

「な、何を言い出すんだ帆波。おまえはこの1年、生徒会役員として十分にやってきたじゃないか」

「はい、南雲会長や桐山副会長、他にも優秀な役員たちに助けられながら、なんとかやってこれました。でも……今、私はクラスのリーダーとしての役割、生徒会役員としての役割、それらの両立が難しいと感じてるんです。まして会長なんて」

 

 まさか、この生徒会長就任という場でそんなことを言い出すとは欠片も思っていなかったのだろう。南雲の顔にも焦りが生まれている。

 

「なら、どうするつもりだ? おまえが辞めたら、生徒会長の席は空白になる」

 

 静かに聞くのは、桐山。一之瀬に投票するのを決めた役員だ。一之瀬のことを、この1年で信頼していたのだろう。

 それが分かるからか、一之瀬も小さく顔を歪ませる。が、すぐにそれを振り払い、迷いを捨てた。

 

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 独り言のように何気なく述べたのは、生徒会選挙の実施を決めた生徒会室での南雲の言葉。

 壇上の役員たちの顔色が変わる。

 唯一、あの男を除いて。

 

「私は、私に代わる次の生徒会長に——龍園翔を指名します」

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