協力型総合筆記試験の結果は、オレたちと坂柳のクラスではオレたちが、龍園と一之瀬のクラスでは一之瀬のクラスが、それぞれ勝利を収めた。結果、クラスポイント、そしてクラス順位が変動する。
坂柳Aクラス 1294ポイント
堀北Bクラス 1250ポイント
一之瀬Cクラス 885ポイント
龍園Dクラス 822ポイント
龍園のクラスが最下位に落ちた。が、これは龍園も織り込み済みだろう。生徒会選挙が最優先事項だったヤツにとって、一時的にクラスポイントが下落するのは致し方ないこと。
加えてプライベートポイントもほぼ底を突いたが、代わりに生徒会長という超強力なカードを手に入れた。
今や注目の的であり、Dに落ちたことなど気にする者はいない。また、龍園だけでなく一之瀬も注目を集めている。
一之瀬帆波は優等生だ。
運動神経は平均以上、勉学は優秀。性格は誰にでも分け隔てなく優しく、正義感が強く、仲間を何より大切にする。
そんな一之瀬が龍園と組んだことは、誰の目から見ても明らかで、そして多くの生徒には衝撃だったに違いない。
オレとしては、龍園と組むのは悪くない手だと思うが。
龍園の生徒会長就任から翌々日。冬休みに入り、千秋とケヤキモールでクリスマスデートをしていても、一之瀬や龍園に対する噂の声はそこかしこから聞こえてくる。さすがにクラスの垣根を超えてちょっかいをかけてくるような輩はいないようだが、あの後クラスメイトたちからは質問責めにあった様子だった。
「一之瀬さんが龍園くんと協力する、っていうのは正直予想だにしなかったよ。況して、一之瀬さんはあんな風に他の生徒を騙すような真似をするタイプじゃないし」
「前々から計画していたようだ。右腕の神崎の落ち着きようを見るに、一之瀬と神崎で組んだ戦略だったんだろう」
修学旅行の時には、既に龍園と組むことは決まっていたのだろう。神崎は一之瀬の方針で勝てるのか、ずっと疑問に思っていた。
その一之瀬が龍園と組む、という具体的な対応策を打ち出したとあれば、たとえ犬猿の仲だったとしても、あれだけの喜びようも頷けるというもの。
龍園を生徒会長にするため、組むに当たっての条件としては、プライベートポイントは確実だ。少なくとも2000万は要求されているはず。無人島サバイバルの報酬も込みで、その程度は龍園も確実に稼げているし、生徒会長のチケットを得るためには最低でもそれだけのポイントは要求されていると見た。
また、龍園の目的から鑑みて、一之瀬も計画に乗りたがるだろう。8億ポイント作戦は、実現するなら一之瀬の性格にはかなりマッチしている。なにせ、本来なら蹴落とすべき相手である他クラスにも手を差し伸べようとするお人好しだ。
敵クラスと争わずにクラス移動により、クラスメイト全員がAクラスに上がれる、となれば一之瀬は確実にその選択をする。これまでのプロファイルともなんら矛盾はない。
そうなると、龍園の考える、特別試験の変更案を事前に知ること。これも条件に含まれているはずだ。
ただ、今後の特別試験で龍園が一之瀬と協力するかは微妙なところだな。生徒会長になった時点で、龍園は特別試験の一部をコントロールできるようになったが、それでも8億を稼ぐのは相当な博打となる。
それが、今後も一之瀬と協力するとなれば、8億から16億に跳ね上がる。リスクはかなり大きい。協力は難しいだろう。
仮に龍園が来年の無人島試験で8億を稼ぎ、クラスの41名をAクラスに移動させたとする。
ウチか坂柳のクラスがAクラスとなり、クラスポイントが1500だったと仮定しよう。
大体80名×150000プライベートポイントで、ひと月で1200万ポイント。
ふた月で1人移籍させるのが限界だ。次の無人島試験が3年生の7月だとすると、残りは8ヶ月。毎月の収入だけでは全員を移籍させることは叶わない。
特別試験で更に億単位のプライベートポイントを稼ぐことはできないだろう。学校側を出し抜くだけでも、ルール設定にはかなり気を遣う必要がある。それを二度も通すことができるかと言えば否だ。少なくとも、二度目は徹底的にマークされるはず。
8億ポイント作戦は一度しか使えない上、そもそもの成功率も低い大博打。それを二度実行することを龍園はしないだろう。
……いや、意外とする可能性もあるか。ギャンブル好きそうだし。
「一之瀬の思い切った戦略だった。俺は評価する」
「ふーん? 私は、一之瀬さんにしては早計だったんじゃないかと思うな。龍園くんに生徒会長の座を与えるんだから、もちろんタダじゃないんだろうけど。一之瀬さんが龍園くんより得をするようには思えないよ」
「千秋は龍園のことをかなり高く見積もっているようだが、一之瀬の能力も相当に高い。龍園も油断はできないはずだ」
一之瀬はクラスの和を保つのにかなりエネルギーを持って行かれているからな。この学校のことだ、クラスメイトからの相談事は絶えないだろう。
一方、龍園はそもそも相談を受けるようなタイプじゃない。持って来られたとしても突っぱねるだろう。その辺のクラスメイトに割いているリソース量の差も、現状の一因ではある。
「龍園が有利だろうことには同意する。それを差し引いても、一之瀬は現状、沈む一方だったクラスの立て直しのため、当面の資金と将来情報を得られる機会を手に入れたはずだ」
「確かに、ポイントを持ってるだけで取れる選択肢は増えるもんね」
特に、一之瀬のようにクラスメイトを切り捨てられないリーダーにとっては、2000万ポイント、退学取消しの権利を持っているのといないのとでは動き易さが段違いだ。思い切りの良い戦略も取れるようになる。
まあ、元々一之瀬のクラスも2000万は貯めていただろうが、その枠が一つ増えるだけでも戦略の幅はかなり広がる。
「一之瀬のクラスは現状最下位。そこを抜け出すために彼女に出来る、最大限の一手だとオレは思う」
「……一之瀬さんのこと評価しすぎじゃない?」
「他意はないから安心してくれ」
千秋は多少不満そうながらも、分かってるよ、と笑ってくれた。
まあ、一之瀬や龍園のことは今は良いだろう。今はクラスのことより、クリスマス会だ。
オレ、洋介、須藤、三宅と彼女たちでクリスマス会を開くことになっている。デートついでにプレゼント交換のためのプレゼントを、千秋と共に買いに来た形だ。
オレは千秋を家電量販店に連れてきていた。
「清隆くん、家電買うつもりなの?」
「ああ。気になっているものがあってな……ああ、これだ」
オレはその機材の前で足を止める。
以前からやたら気になってはいた。ヨーグルトメーカーという電子機器だ。
なんでも、牛乳とヨーグルトを混ぜ合わせて機械の電源を入れておくことで、ヨーグルトを自分で作成できるスグレモノ……らしい。
自分でもやってみたいところだが、セールにより3000円代で買えるものもあり、プレゼント交換にはちょうど良いかもしれないと思ったのだ。高校生のプレゼントに関して金銭感覚を掴めていないので、高いのか安いのかは分からないが。
千秋に渡したプレゼントよりはかなり安価だが、交換用のプレゼントならこんなものだろう。
「ヨーグルトメーカーね……」
「自分用も含めて2台買おうかなと思ってな。R-1ヨーグルトを無限に密造できるし」
「いや言い方!」
R-1ヨーグルトって高いからな……ヨーグルトメーカーを使うことで自分で増やすことができるのは極めて魅力的だ。
ヨーグルトに合う蜂蜜やバナナ、フルーツグラノーラなども適当に購入しつつ、ヨーグルトメーカー、種となるヨーグルトと牛乳も購入する。
千秋も交換用のプレゼントを購入したようで、クリスマス会に向けた準備はバッチリだ。
◆
洋介たちとのクリスマス会を終え、冬休みはあっという間に過ぎ、新学期が始まってしばらく。
2年生ももう1月半ば。もうすぐオレたちも3年生となる。この一年はだいぶ好きにやらせてもらってきたな、と振り返る。一年の時には千秋とAクラスに上げる契約もあり積極的に動いていたが、今年ちゃんと働いたのは無人島サバイバルくらいのものだろう。
それ以外は千秋とメイド喫茶をしたり、体育祭でスポーツを楽しんだり、修学旅行をエンジョイしたりと、だいぶ楽をさせてもらっている。
それで現在、僅差でBクラスなのだから、クラスメイトたちもよく頑張っている。
そんな感慨を抱いている時に、新たな特別試験の通達が茶柱先生より届く。先生より伝えられた特別試験の名前は『生存と脱落の特別試験』。
「生存と脱落? ぶ、物騒な試験名だなぁ」
池が思わず呟く。全く同意見だ。
ルールとしては、
・2年生全体で行なわれる。
・実施日は来週の金曜日。週明けの月曜までにクラスのリーダーを決める必要がある。
・各クラスは特定の順番に攻撃側、防御側に分かれる。例えば、A→B→C→D→Aの順に攻撃、防御側が入れ替わる。一周を1ターンとする。
・攻撃側は学校が用意したジャンル別の問題を防御側に出題し、防御側はそれに解答する。課題内容は学力を基本としたものからサブカルチャー、芸能など多岐に渡る。問題には1〜3の難度が存在し、難度を上げるには、難度を一つあげるにつき得点を1ポイント支払う必要がある。
また、攻撃側は防御側から解答者5名を選んで出題する。ただしリーダーは指名できない。解答者が問題を答えられなかった場合、一名につき1ポイント得る。
・防御側はリーダーの指名により、1ターンに5名の生徒をプロテクトすることができる。プロテクトした生徒が攻撃側に指名された場合、問題に正解した扱いとなる。攻撃側の指名後3分以内にプロテクト対象者を指名する。しなかった場合はランダムとなる。
防御側の生徒が問題に正解した場合、一人につき1ポイントを得る。
・防御側の各生徒は全16のジャンルのうち最大3つを事前に除外することができる。
・3回不正解となった生徒は脱落、以降指名の対象とはならない。脱落者1名につき1ポイントをマイナスする。
・10ターン経過後、攻撃側防御側を逆向きにしてもう一度10ターンを繰り返し、合計で20ターン実施する。
・報酬は1位のクラスがクラスポイント+100。2位、3位がマイナス50、最下位はマイナス100に加え、脱落者の中から1名退学者を選出しなければならない。
・試験中、問題の解答時以外は学生証端末などの使用が許可されている。
最下位になった上で脱落者ゼロとは考えづらい。負けたクラスからは退学者が出る試験、そう考えていいだろう。
本来なら仲間想いの一之瀬は、クラスメイトを守る動きを強制される不利な試験となるところだが、龍園との交渉で手に入れたであろう潤沢なプライベートポイントがあれば、その実力を遺憾無く発揮できるはず。
逆に龍園はクラスメイトたちの学力で不利か。学力以外にも様々なジャンルがあるとはいえ、学力が低いと分かっている相手にわざわざ芸能やサブカルチャーで攻める事もないだろう。
逆に、そこを読んで上手く攻撃側の指名にプロテクトを被せられれば、勝機が見えてくるかもしれないな。
坂柳はこうした読み合いではかなり強い。本人の攻撃的な性質もあり、防御側が振り回される光景は想像に容易い。
が、これらはあくまで4クラスが別々で行動した際の話。
この試験で他クラスと組むことができれば、一気に有利になる。それを行わせないための措置が、1位以外はクラスポイントがマイナスになるというペナルティだろう。
自分で動くか、千秋や堀北に任せるか。考えていると、端末のメッセージ着信音が鳴る。
差出人は、一之瀬。件名は『特別試験について』。
動き出しが早いな。
オレは一之瀬に千秋と堀北を話し合いに参加させる旨をメッセージで送信した。
お久しぶりです。
別作品を投稿していたためだいぶ期間が空いてしまいました、申し訳ない!
次話は3年生編1巻が出るまでに投稿したいですね