よう実 √松下   作:レイトントン

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第9話

 プールでのダブルデートから数日後。

 オレたち1年生は、豪華客船でのクルージングを楽しんでいた。

 2週間の旅行。ペンションと豪華客船での優雅な暮らしを楽しめるとのことだ。どうにもきな臭いが、楽しめる時には楽しんでおくのが吉。オレと松下は船内の様々な施設を回っていた。

 シアターで演劇を見たり、プールで遊んだり、高級スパを体験してみたり……

 これらが全て無料なのだから、学校も太っ腹なところがある。

 

 しかし、幸せな時間もそう長くは続かない。船内にアナウンスが流れる。

 

『間も無く島が見えてきます。是非デッキにお集まりください。大変有意義な景色をご覧いただけるでしょう』

 

「なんか変な言い回しだね」

「ああ。5月中間テスト前の茶柱先生を思い出すな」

 

 松下はすぐにピンときたようで、オレをデッキに引っ張っていく。

 他の生徒たちは船の施設を楽しんでいるようで、島の景色を見ている者はそう多くはなかった。

 島の周りをぐるぐると何周かした後、船は島に降りる。

 そこで、学年主任の真嶋先生より、本年度初の『特別試験』の開始が告げられた。

 

 学力テストや普段の生活態度だけでは、クラスポイントの差を詰めるにも限界がある。大量のクラスポイントを得るための、そして他クラスからポイントを奪うための特別な機会、というわけだ。

 

 大雑把なルールとしては、

・各クラスで1週間を無人島で過ごす

・300ポイントが与えられ、それを使用することで物資を買い揃えることができる

・試験最終日まで余ったポイントはクラスポイントに加算される

・毎日8時、20時に点呼があり、不在者1人につきマイナス5ポイント

 

 こんなところか。また、リーダーと占有という仕組みもあるようで、リーダーが島に点在するスポットと呼ばれる場所を占有すると、その場所の使用権を得る上に、一回ごとに1ポイントが加算される。占有は8時間で効力を失う。

 占有はリーダーの持つカードキーを、スポットに設置された端末に翳して行う。

 最後に、試験の終わりには各クラスのリーダーを当てる機会が設けられており、正解したクラスはプラス50、的中されたクラスはマイナス50のポイント移動が発生し、加えて的中されたクラスがスポットの占有で得たポイントは、全て失うことになる。

 逆に他クラスのリーダーを外した場合、そのクラスはマイナス50ポイント。確信を持てなければそうそう使えない権利、というわけだ。

 

 Dクラスの生徒たちは、早速ポイントの使い道について揉めていた。仮設トイレを設置するとかしないとか。正直、どうでもいい話だ。トイレくらいは設置してもいいと思うが。

 

「平田。少し相談がある」

 

 池、幸村と篠原が仮説トイレの設置、延いてはポイントの使用権について口論を始めた段階で、オレは平田にそっと耳打ちする。

 

「どうしたの?」

「松下と一緒に船から島の形状を眺めていたから、スポットと思われる場所は大体目星が付いている。他クラスに取られる前に占有に動きたい。オレがリーダーをやっても構わないか?」

「それは……いや、綾小路くんが言うなら、ぜひお願いするよ。こっちは僕がなんとかする」

「すまない、苦労かけるな」

「こっちだって、綾小路くんにはいつも助けられてばかりだ」

 

 きっと、平田は皆に意見を聞いてからリーダーを決定したかったことだろう。知らなかった、相談されなかった、ということは後から不平不満が出かねない。

 そこを飲み込み、俺の提案に乗ってくれた。クラスのまとめ役として、何がクラスの利益になるのかきっちり把握できている。

 

 オレは松下に指示し、茶柱先生からカードキーを受け取らせる。

 

「あとこれ、島の地図。簡単にだけど描いといたよ」

「ああ、助かる。拠点が決まったら、この辺りに戻って待っててくれ。オレもスポットの占有を終えたら戻る」

 

 松下からマニュアルの余白ページに描いたらしい島の簡易な地図を受け取り、こっそりとクラスの集まりを離れた。

 

 今なら他クラスももたついている段階のはず。船上で見た、スポットのありそうな地点を巡っていく。さすがにまだ誰もスポットの占有には動いていないようで、12箇所のスポットを押さえることができた。

 洞窟にもスポットがあったが、使えそうな場所だったので放置しておく。うちのクラスで使ってもいいが、チームワークが十分でないDクラスが、狭い洞窟内で揉めずに1週間の集団生活を送れるか、といえば疑問が残る。

 

 洞窟の前で隠れながらしばらく待機していると、男2人組が姿を現し、洞窟の中へと迷いない足取りで消えていった。

 

 あのスキンヘッドの男は、船の上で島の地形を観察していた。ここにスポットがあるとアタリをつけ、一直線に向かってきたんだろう。その割に、他のスポットも巡ってきたオレに遅れを取ったのは、彼らが2人組だからだろうか。

 

 オレは2人が洞窟に入ってから少し待ち、入り口に近付いて聞き耳を立てる。足音と彼らの会話が聞こえてくる。他に音を立てるものもない状況だ、洞窟内の音はきちんと聞き取れる。

 決定的な内容がオレの耳に入るのには、それほどかからなかった。

 

「葛城さん! 葛城さんの言った通りです、スポットですよ! 早速占有します!」

「待て、弥彦! 迂闊な占有は……遅かったか」

「え? ま、まずかったですか!?」

 

 そんな話し声が、洞窟内を反響して聞こえてくる。

 なるほど、カードキーを持つリーダーは弥彦という男らしい。会話内容からは葛城という男の方が上に見えたが、周りからもそう思われていることを踏まえた上での選任か。

 

「……いや、他のクラスに取られる前にスポットを占有するのは正しい行為だ。しかし、今の状況でそれを行うには多少のリスクがあった」

「り、リスクですか? この洞窟じゃ、占有するのを見られる心配はないと思いますが」

「弥彦、この洞窟の出入り口は一つだ。俺たちが洞窟から出てきたのを発見した他クラスの生徒がいたとしよう。俺たちが去ったあと、占有されている端末を見つけた。そいつはどう考える?」

「……ああっ、俺か葛城さんに、リーダーが絞られてしまう!」

 

 そう、この洞窟のスポット占有に関しては、1人ないし少人数で行うにはリスクが高い。まさにオレのように、洞窟の出入り口を張っている生徒がいる危険性だ。

 オレがここを占有しなかったのは、今のようにスポットの占有を優先したリーダーを把握するエサにするため。洞窟の出入り口は一箇所だし、見張るのには都合が良かった。弥彦という男は、占有用の端末の周りに人が隠れられる場所がない以上、リーダーが誰かバレる心配はないと思い込んでしまった。まんまと罠にかかったわけだ。

 洞窟のロケーション自体は、雨風を凌ぐことができ、しかも近くには塔と小屋、2つもスポットがある。拠点としては最適だ。クラス全員が集まってから占有すればリスクは排除できるが、今は試験開始直後。他のクラスに占有されるのを嫌い、その場で占有する可能性は十分にあった。罠を張った甲斐があったというものだ。

 

 葛城はカードキーを手にして洞窟の外に姿を現す、という涙ぐましい努力をしていたが、それも最早意味はない。

 こうして、オレはまずAクラスのリーダー情報を入手した。

 

 

 

 

「悪い、遅くなった」

「おかえり、綾小路くん」

 

 探索を終え、松下と合流する。

 歩きながら、ベースキャンプの候補地へと向かう。オレがリーダーである以上スポットの占有はできていないが、相応しい場所を見つけられたらしい。

 

「他のクラスに取られてないといいけどね」

「話し合いはどこまで進んだんだ?」

「綾小路くんがリーダーになることについては、割と皆納得してくれたよ。スポット占有にいち早く動いた、ってことが効いたみたい。話し合いで決めるべき、って意見の人もいたけどね。幸村くんとか」

「それは仕方ない。オレと平田で勝手に決めたわけだからな。後で謝るとするか」

「気にすることないと思うよ。ポイントが増えて感謝することになるのはあっちなんだしさ」

 

 とはいえ、謝っておいた方が幸村も溜飲を下げやすくはあるだろう。

 現状確認をしながら川を登っていくと、Dクラスの面々が出迎えてくれた。先頭にいた櫛田から声をかけられる。

 

「おかえり、綾小路くん、松下さん。スポットの占有はできた?」

「ああ。12箇所を占有できた」

「そんなに!? 船の上から島の形状を把握したって聞いたけど、そこまで分かるものなんだ?」

「いや、移動する中で偶然見つけたスポットもいくつかあった。それに、既に他のクラスに押さえられて、占有できなかったところもある。占有できたうちの2箇所はそこから近いし、見晴らしの良いスポットは他クラスに見つかりやすい。幾つかは今後も占有するのは難しいだろうな」

「それでも十分だよ! 綾小路くんがリーダーで良かったよ。ね、皆?」

 

 櫛田がそう呼びかけると、クラスの面々は同意してくれた。が、さっきの松下の話のように、納得できていないやつもいるだろう。

 

「皆、相談もせず勝手にリーダーになることを決めて悪かった。せっかくスポットらしき場所を見つけたのに他クラスに占有されたら、と焦っていたんだ」

「全然良いよー」

「むしろ綾小路くん、リーダーに適任なんじゃない?」

 

 そんな声が聞こえてくる。幸村の方を見ると、彼もポイントを得られたという成果に納得したのか、特に文句はなさそうな様子だった。

 

「悪かったな、幸村。相談もせず勝手な真似をして」

「いや、クラスのためを思ってのことだろう。それに、俺は島の形状を把握するなんて考えもしなかった。正直、感心してるんだ」

 

 幸村は照れ臭そうに眼鏡をあげた。

 

 合流して早速、他の皆に隠してもらいながら川の端末にカードを翳し、スポットを占有する。

 これでこの川の使用権はDクラスのものだ。

 川の水も綺麗だし、生活用水での心配は必要なさそうだな。ポイントの節約にはうってつけの場所だ。

 

「良いスポットだろ? 俺が見つけたんだぜ」

「ああ。やるな、池。ここなら水の心配もいらないだろうな」

「だろ!? 綾小路からも女子に言ってやってくれよ。誰も飲もうとしないんだぜ!」

 

 なるほど、川の水を飲むのに抵抗があるってことか。まあ、綺麗そうに見えても細菌の心配はあるからな。女子の判断も間違ってない。

 

「池はキャンプやアウトドアに詳しいんだな」

「いや、別にボーイスカウトやってたとかではないぜ? ただ、昔はよく家族でキャンプに行ってて、川の水も飲んだりしたからさ。ここは上流だし、水源も綺麗だし、飲んでも問題ないんだけどな」

 

 池は実際にキャンプの経験があるらしい。無理に知ったかぶったような顔付きではなく、当たり前のようにそう話す。オレは知識でしか川の水の危険性については知らないからな。ここは経験者の言葉に従っておくのが吉か。

 川の水を手で掬う。刺すような冷たさが、夏の森の暑さの中では心地良い。そのまま、口元に水を運んだ。

 

「お、おい」

「……美味いな。凄く冷えてる」

「まあ、川の水だからな……って、綾小路は飲んで大丈夫なのかよ」

「池は平気だと思ったんだろ? ならきっと大丈夫だ」

 

 オレの目から見ても、水質に問題はなさそうだったしな。

 

「綾小路……」

「こんなに美味いのに、皆が飲みたがらないのは残念だ。まあ、女の子には抵抗があるのは分かる。飲んでみれば大したことはなくても、その一歩目が難しいのかもな」

「……確かに。俺、初めてキャンプしたときは色々我儘ばっか言ってたっけ。女の子ならなおさらだよな。……悪い綾小路、ちょっと行ってくる」

 

 池は何かに気付いたらしい。女子、特に篠原の方に近付いて、何やら頭を下げているのが見えた。篠原の方も、池に対して謝罪しているような様子だ。

 平田もいるし、これで問題はないだろう。

 

 ある程度、ポイントを節約する算段はついた。が、このくらいの工夫はどのクラスもしているはず。

 節約だけでは大きな差は出ない。だからこそ、肝心なのはスポットの占有とリーダーの的中。Aクラスのリーダーは押さえた。なら、後は少なくともBかCのどちらか、欲を言えば両方のリーダーを把握しておきたいところだ。

 

 Cクラスはまだまだ未知数なところが多い。須藤に罠を仕掛けてきたことからも、厄介な相手がいるようにも思う。対して、Bクラスはリーダーが一之瀬という、善性に溢れた生徒であることから、探りは入れやすそうだ。

 正々堂々の勝負なら、負けても文句を言わなそうな雰囲気だった。逆に、騙し討ちなんかの卑怯な手段は一之瀬は好まないだろう。もし会う機会があれば、あらかじめリーダーが分かれば遠慮なく指名させてもらう、と一言宣言しておくか。

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