………ハァ、ハァ。
チキショー、何でこんなことに………。
ぜ、全部アイツの所為だ!
………こうなりゃアイツに全部の罪を着せてやる………!
【1月1日 午前9時4分 地方裁判所 被告人第1控室】
「……………」
法廷係官が二人、部屋の前で目の前の壁を見つめている。
俺もそれを眺めながら会ったことの無い依頼人をソファに座り今か今かと待ち侘びる。
「緊張、してるか?」
そんな中、俺の心中に気付いたのかキチンとした黒スーツに襟にはキラリと輝く天秤が刻印されたバッチ。
ワックスで整えたのか、オールバックが輝くの男が声を掛けて来る。
「所長………」
「ビックリ、今日がお前の初の裁判だからな」
………俺の名前は日造一(ヒヅクリ ハジメ)。
親しい人からは何故かビックリと呼ばれている。
目の前の男、雛菊一成の雛菊弁護士事務所で今年から働く事になった弁護士の卵と言う奴だ。
「緊張するのは分かるが、被告人の前では抑えろよ」
「は、はい………」
そう。俺は今日、ある事件の被告人を弁護する弁護士としてここにいる。
「で、でも俺で大丈夫なんですかね………?新米弁護士が殺人事件の弁護なんて」
「受けたモンをごちゃごちゃ言っても仕方ねぇだろ」
でも、つい昨日の事だから操作なんて碌にできてないし………。
「もう駄目だぁ!」
不安に押し潰されそうな俺が今日一番の溜息を吐くと更に不安に押し潰されそうな声が部屋の中に響いて来る。
振り向いてみれば、これまた何とも駄目人間が居酒屋のエプロンを来ていると行ってもいい様な男が涙ながらに入って来る。
「弁護士さんよ!ちゃっちゃと俺を有罪にして死刑でも何でもかっくらわせてサッパリ死なせてくれぇ!」
「えぇ!?」
こっちは無罪を勝ち取る為に弁護をする為に来てるのにいきなり有罪にしてくれと宣う男。
「と、とりあえず落ち着きましょうよ矢張さん!」
………矢張政志。俺の、依頼人だ。
俺は矢張さんを宥めてソファへと座らせる。
「殺人の犯人にされるし彼女には振られるし俺の人生は至れり尽くせりだぁ!」
「それを言うなら踏んだり蹴ったり、ですね」
とにかく、裁判が始まるまでに彼には聞いておく事がある。
「あの………本当に殺してないんですよね?」
「当たり前だぁ!」
泣きじゃくられながらそう言う矢張さんに俺も所長もお互いの顔を見合わせて頷く。
「ビックリ………。この裁判、負けられねーぞ」
「誰のどんな裁判だろうと元より負けるつもりはありませんよ」
「いい返事だ」
こうして俺は、被害者と被告人のリストしか入っていない資料に目を通すのだった。