〜現場での出来事〜
「俺、事件の日もあそこでバイトしてたんだ」
「何時から何時までですか?」
「晩の七時時から十一時までだったかな」
「なるほど………。それで、バイトをしていたアナタはどうしたのですかな?」
「んで、客も髪尾の兄ちゃんだけだったし、大将に借金について話した訳よ」
「客の前でそんな話を?」
「まぁ、兄ちゃんなら別にいいかなぁて」
「(いい訳がない………)」
「んで、俺は言ったのよ」
「もう少し利子を減らしてくれって………聞き入れちゃくれなかったけどな」
「ち、因みにどれくらいの利子だったんですか?」
「トイチ」
「と、といち?」
「おやおや、若い弁護士さんはトイチも知らないようですな」
「ビックリ、トイチっつーのは10日で一割って意味だ」
「つまり、被告人の借金の一割が10日で増えると言うことです。分かりましたか、弁護人」
「は、はぁ………」
「んで、また仕事に戻ろうとしたその時だよ!大将がすっ転んじまってよ」
「すっ転んだ?」
「そりゃもう店が揺れるくらいにな」
「それは………揺れた店に問題があるんじゃ」
意義ありィ
「大工さんのせいにしてはいけませんな弁護人」
「いけませんぞ弁護人」
「(何故か怒られた………)」
「キッチンで俺が使ってた刺身包丁が腹に突き刺さったんだ!」
「因みにどれくらい刺さったんですか?」
「結構深かったな。刃が見えないくらいに」
「………ビックリ。コイツはチャンスかも知れねーぞ」
「え?」
バン
「裁判長、今の証言を追加してもらいたい」
カン
「分かりました。証人は証言をそう付け加えるように」
「刃が見えないくらい深く突き刺さってたぜ」
バン
「それは本当ですか!」
「え?あ、あぁ。間違いねーよあんまし血も出てなかったし」
「分かりました。では、その状態を見てアナタはどうしましたか?」
「そりゃ………」
「俺携帯持ってなかったし店にも電話が無かったから近くの公衆電話までひとっ走りって訳」
「ひとっ走りですか」
「年の割に結構走ったから筋肉痛なんだよ今」
「そ、そうですか………(四十でそれは嫌だな………)」
《証拠品ファイル》
・弁護士バッチ
これが無いと誰も俺を弁護士とは認めてくれない。
・黒杉泰三の解剖記録
死亡時刻は、12月30日。
午後10時から11時の間。
腹部を刃物で刺された事による失血死。
刺し傷には別々の刃物で刺された痕跡あり。
・刺身包丁
刃渡り30センチメートルほどの包丁。
被害者の血と被告人の指紋が検出。
・現場写真
腹部を刺された被害者がカウンター側の棚にもたれかかる様に倒れている。
腹部には刃が見える刺身包丁が突き刺さっている。
・黒杉泰三のノート
お金を貸した人間の名前とその金額が書かれてある。
矢張政志 50000
………………
・救急への通報履歴
10時5分 髪尾斬人
10時8分 矢張政志
《人物ファイル》
・雛菊一成(45)
俺の尊敬する所長。
・矢張政志(40)
今回の依頼人。
やけにだらしないような気がする。
居酒屋黒杉のバイト。
・黒杉泰三(52)
今回の被害者。
居酒屋黒杉を経営していた。
・亜内文武(68)
ベテランのようだが貫禄は感じない。
・髪尾斬人(39)
美容師。
平凡そうな人。
「刃が見えないくらい深く突き刺さってたぜ」
意義あり!
バン
「矢張さん!もう一度確認します!本当に刃が見えなかったんですね!」
「お、おう。だからやばいと思って五分くらい突っ走って公衆電話に」
「しかし、可笑しいんです。現場写真を見れば被害者に刺さった包丁は刃が見えている」
意義ありィ!
「そ、それは被告人が包丁を一度抜こうとしたからで」
意義あり!
「問題はそれだけじゃありません!先ほども言った通り被害者はハサミでも刺されているはずです!しかし、被告人の話ではハサミは刺されていない!」
「ぎ、ぎゃぁぁぁぁぁ!!!」
ザワザワザワザワ
カンカンカン
「静粛に!静粛に!静粛にしなさい!これはいったい………どう言うことですか弁護人!アナタはどちらかが嘘を言っていると言うのですか!?」
〜嘘を言っているのは?〜
・被告人が嘘を吐いている
・証人が嘘を吐いている。
・どちらも嘘は付いていない
「………いいえ、裁判長。二人とも嘘は言っていません」
異議ありィ!
「な、何を言い出すのかと思えば!明らかに証言が矛盾している被告人が嘘を吐いているに決まっている!」
カンカン
「べ、弁護人!いったいどう言うことなのか説明してください!」
「救急の通報履歴を見てください。被告人は先ほど五分くらい走ったと言いました。と、するならば事故が起こったのは十時三分頃です」
「そ、そうなりますね。……………あ、あぁ!ま、まさか!」
「そう。髪尾さんが通報するまで二分の空白があります」
バン
「事件はこの空白の二分で起こったのです!」
「ひ、日造君!あ、あ、アナタは………証人、髪尾斬人さんを告発するつもりですか!」
「え!?」
「不安がんなビックリ」
「(どうなんだ?俺は髪尾さんを………)」
・告発する
・告発しない
バン
「べ、弁護側は証人、髪尾斬人さんを………告発します!」
ザワザワザワザワ
カン
「な、何と………この様な光景をまた見ることになるとは」
カット!
「カットカットカット!何なんですかさっきから!ボクは善意でここに来た第三者なんです!何にこの言いようはあんまりじゃないですか!」
「つまり、貴方は弁護人の告発を否定すると?」
「あ、当たり前です!裁判長、証言させて下さい!ボクが犯人ではない理由を!」
「よろしい。では証言をお願いします」
〜ボクが犯人でない理由〜
「ボクが犯人だって?とんでもない!………確かに、通報時間に空白があるかもしれません。でもそれは目の前で起きたことに唖然としていただけなんです!そもそも、ボクには彼を殺す動機がない!」
「ど、動機、だって!?」
「ふ、フフフフ。確かに、証人には動機がありませんなぁ」
「確かに、動機がないのであれば証人が犯人とは言えませんね」
「グッ」
「それでは弁護人、尋問をお願いします」