百合の間に挟まるつもりは毛頭ないんだが 作:とくめい
「いっつもそうやってさぁっ!」
「なんだよ、やるのか? 五秒で泣くぞ? お前が」
「泣かしてやらぁっ!」
あー、また始まったよ。
オレはなるべく無視しようとしていた。こいつらに関わるとだいたい面倒なことになるのは分かりきってるからだ。周りの連中もオレを見るな。俺は板書に忙しいのだ。そういうのは教師の領分なんだから。
「あの、トローペンさん」
「オレは忙しいので」
ペンにインクを付けてせっせと紙に文字を書き写す。あいにくと貧しい村の出なので文字を習ったのはここに来てからだから覚えるのが大変なんだよ。まあ、勉強自体は嫌いじゃなかったのは幸いだったね。おかげさまでなんとかついていけてる訳だし。
「あいでっ!」
「ほらほら。ボディがお留守だぜ?」
「ガチで殴んな」
「握りこぶし作っといてそれはねーなぁ?」
あちらはヒートアップしてる模様。なんとも
「ローロー、と見せて裏拳っ!」
「う、うぐっ、ぐはぁっ」
コンビネーション全部食らうとかセンスねえなぁ、アイツ。というかヤツの方がガチ過ぎるのか。ああ、解説とかしてる間に書かないと。ええと、『だい、まほうつかい、ふらんめ、の……』
「こんのぉっ!」
「うおっ?」
倒れたところからタックルか。まあ、読まれてたみたいで躱されたけどいい選択だ。マウント取ればだいたい勝ちだからな。だが、逆に言うと……
「あめえっ!」
「ぐおっ!」
上から潰されてのバックマウントになるんだよなぁ。ああなると返すのも難しいんだ。
ちなみに周りのガキ共は賭けはやってない。最初から勝敗は分かりきってるからだ。それに先生の前と言うのもあるけど。
「いったぁっ! と、取れるぅーっ!」
「ほらほら、降参かぁ?」
両脇のおさげを掴んでのキャメル・クラッチ。あれは痛いな。若いうちは腰とかのダメージはたいしたことないけど、髪とか皮膚とかの痛みは変わらない。人を痛めつけるやり方をよく理解してる。
「トローペンさん、お願いですぅ」
「後で講義を追加でお願いします、ロハで」
「なんでもいいですから、早く」
まあ、しゃあないか。
オレはペンを置くと椅子から立ち上がる。こきりこきり、と首を回す。周りの連中もこちらを見てどよめき立った。オレを怖がるように見えるけど、実のところそうではない。ただ単に物好きなだけだ。
「お、やんのか?」
「お前は相変わらず狂犬みたいだな? もう少しオレを見習って大人しくしとけって」
ヤツに向かってそう煽る。単純なせいかすぐに手を離して立ち上がる(「いてっ!」)
「お上品なのは顔だけだろ? お前もこっち側だろうが」
「そいつはお前にも当て嵌まるなぁ。お貴族様のご令嬢なんだから」
アイツの禁句を言う。
それを言った奴はたいてい地に沈んでいたからだ。股間を押さえて蹲る奴、泣きべそかいてしまう奴などなど様々だった。
「吠えやがったな?」
「きゃんきゃん♪」
「てめえっ!」
一気に間合いを詰めてくる。こちらを挙動を警戒しつつも攻める時は躊躇しない。いい格闘家だとは思う。
「だが定石どおり」
「なっ!」
机に飛び上がりそこを足場にしてのダイビングボディプレス。ここではルチャリブレとかプロレスとかの概念はないので相手は『何をした?』みたいな顔してる。ここでの格闘はだいたい殴る、蹴る、分かり易い関節技くらいだ。宙を飛んで体当りしてくる奴は飛行魔法で失敗して突っ込んでくる、言うなればミスとか事故とかいうものであり、自分からそんなことするバカはいない(ブーメラン)
「おうっ!」
奴の顔面に胸から当たる。あばらが折れることもなく、一緒に倒れ込む。すかさず地面を蹴って体制を整え奴の腕を取る。そしてすかさず肘固めに移った。
「いだだだっ!」
「ギブ?」
「誰がっ!」
「あっそ」
体重を掛けてやるとすぐに思い直してくれた。さすがにあとに残るダメージは与えたくないからね。
「いーだだっ! ギ、ギブ。参ったぁっ!」
パンパンと奴が床を叩くとオレは手を離して素早く距離を取る。一回、離した隙に飛び掛かってきた事があるからね。残心て大事。
「また負けちまったー。なんだよあの動き、ずりぃなぁ」
「避けないお前が悪い」
こっちでは飛び技を敢えて受けるなんてお約束は無い筈。避けられると不利になるのはこちらなんだから。
「そんな変な戦い方はお前しかしないからなぁ。つい見ちゃうんだよな」
まあ、そうだろうとは思ってた。最初の飛び蹴りの時もドロップキックの時も綺麗に決まったし。たぶんコイツの悪癖なんだろう。
「うわああん」
と、今度は俯いてた方が叫びだして教室から出ていってしまった。まあ、コレもいつものことか。
「トローペンさん、」
「あー……はい」
諦めたように返事をするオレ。先生はみんなに机を直して勉強の再開を告げる。
「悪いな、トローペン」
「お前が言うなよ……」
悪びれない笑顔でこちらを見るアイツ。どうにも憎めないんだよなぁ……すごい問題児なんだけど。顔がいいせいか。そうだな、きっとそうだ。
オレは飛び出していった奴を見つけるために町をうろつく。とは言っても居場所は幾つか見当は付いている。
もう何度も同じやり取りを繰り返してるからなぁアイツら。飽きもせずによくやる。オレなら一回で飽きる自信あるよ。
「お、いたいた」
今日は橋の下か。割と近くて助かった。べそべそと泣いてる横にそっと座る。いつものように愚図々々と愚痴を言うかと思ってたら。
「……」
「……」
なんか、抱きつかれた。
いや、よせ。
オレは百合の間に挟まるつもりは毛頭ないんだ。
「ト、トローペンんぅ……」
「な、なんだ?」
う……可愛い女の子の涙で潤んだ瞳って、破壊力ヤベえな。ヘビー級レスラーのミドルキックみたいだ。いや、くらった経験はないんだけどな。
「あたし……アイツに勝ちたいよぅ……」
ああ、なるほど。
オレに対する好意とかじゃなく、奴への憎しみからの行動なわけね。オーキードーキー。了解した。そうだよな、そんなわけ無いよな。非モテ歴十ん年だったこのオレが、異世界に来たからってモテる理由は無いんだよな。知ってた、とっくに。敢えて言えば今生の人生でも、今までの十年間でモテたことは無かったし。ま、適齢期の奴が一人も居なかっただけだけど。
まあ、ともかく。
今は落ち込むコイツを励ます事が先決だ。そうしないと遅れた分の授業を先生が執り成してくれなくなるかもしれないから。コイツの精神衛生上の問題ではなく、自分のためである。そんなだからモテナイだと? それは真理かもしれないが、オレには大事な目的がある。そのためにはモテるとかモテないとかは些事なのだ。それにそういう出会いはもっと後に起こる……はずだ。たぶん。
ともかく、オレは意を決してこう言った。
「暴力で勝つのはスジが違うだろ」
「……」
「オレ達は魔法を習うためにここに来ている。なら、勝つなら魔法で勝て」
そう。
オレの目的とは、魔法を学ぶこと。
歴史に名を残す大魔法使いフランメとか、魔王殺しの勇者パーティーで有名なフリーレンとかとはいかなくても。
せめて魔族と戦って勝てるだけの力を得たい。
「お前もそのつもりで来たんだろう?」
「……うん」
「なら、きちんと学べ。揶揄するような輩を相手にするな。最後に勝てばそれでオッケーだ」
オレの胸に顔を埋めて泣いていた彼女は、ようやく顔を上げてくれた。
「わかった。がんばる」
「おう」
少しだけ勿体無いかな、とは思う。けっこう可愛いんだよな、コイツ。行こっ、と立ち上がって手を差し出してくるので手を借りて立ち上がる。オレよりも少し高い彼女は、ふわりとした笑顔を見せていた。
「先生、怒ってないかな?」
「心配してるだろうけど、怒ってはいないよ」
オレを差し向けるくらいだ。むしろヤツの方が絞られてるに違いない。
「ぐぎぎぎ……」
先生の『苦痛だけを与える魔法』によってもだえ苦しむ姿は、貴族令嬢とは思えないほどのモノだった。有り体に言うと殺虫剤喰らって虫の息のGみたいである……ちなみにこっちにもいるんだよな、G。しかもでっけえの。初めて見た時恐怖で死ぬかと思ったよ。
規定の授業の後に、先生はちゃんと講義を追加してくれた。
「でも、先生。あんな魔法があるならなんで授業中に使わなかったんです?」
「ああ、それはですね」
先生によると、一定範囲の者全てにかかってしまうものだからだそうだ。「そういうの、自分で調節って出来ないもんですか?」と聞いたら「先生はそういうの苦手でして」と返された。細やかな気配りが出来そうなのに、魔法は大雑把なんすか……どっちが素なのか気になるなぁ。
「それにしても驚きです」
「何がです?」
「もう基礎の文法まで覚えてしまった事です。来た時は全く出来なかったのに」
まあ、その辺はね。前世での経験というかなんというか。モノを学ぶことに抵抗は無いから、すっと入ってきたんだよ。それとも、この身体の地頭がいいのかも。
「ということは、ついにオレも解禁でしょうか?」
「ええ。来週からはみなさんと一緒に魔法の授業に入れますよ」
「ヒャッホーウッ♪」
──こうしてオレは、魔法使いとしての第一歩を飾ったのだった。
思いつきで書きましたw