百合の間に挟まるつもりは毛頭ないんだが 作:とくめい
誤字報告助かります。あまり推敲してないのバレちゃう(笑)
ナーベンとオイサーストの距離は徒歩にしておよそ二日の距離となる。
馬車という移動手段もあるがこれは貴族が移動するためのものなので除外される。(ラヴィーネは貴族令嬢だろう? と言われると確かにそうなんだけど本人は利用する気全く無い様子)
乗り合い馬車というのもあるけど、今回のように突発で動けるほど密には出ていないので今回は使えない。
行商人とかの荷馬車に相乗りさせてもらう手もあるけど、人数が多過ぎて断られる可能性が高いし(それに十代の子供三人とかやかましくて嫌がられるだろう)
そうなると徒歩しか手はない。
そんなわけでうちら三人は一級魔法使いのブルグ兄貴と街道を歩いていた。
「兄貴、さっきの魔法凄かったスね」
「アニキ、その外套中二臭くてかっけえっス」
「お、お兄ちゃん、ステキ♪」
「俺はお前らの兄貴じゃねーっ!」
外套をすっぽり被るとほとんど顔が見えなくなるけど、言葉から照れてるように伺える。元男だったオレが言うのだから分かる。男はチョロい。
けど。実際、彼の実力は今の俺達よりは遥かに高みにあると言って違いはなかった。
空からやってくる魔物の攻撃を的確にいなしての一般攻撃魔法。オレ等という足手まといが居る事などどうでもいいという戦いぶりはさすが一級魔法使いだと思わせた。
まあ、その中身は女の子にもてはやされていい気になってしまうくらいに純朴なんだけど。
「カンネ、お兄ちゃんはあざとい」
「え、そ、そうかな?」
「うん、オレもあざといと思う」
カンネの方も少し照れてるみたい。
「うち、お姉ちゃんしかいないから。お兄ちゃんて言ってみたかったんだ」
カンネにとっては憧れのワードだったようだけど、ラヴィーネは苦そうな顔をして答える。
「兄貴なんて居ても嬉しかねーぞ?」
「いっつも構ってくれるじゃん」
「あのな。みんないっぺんに来るときはまだいいんだ。一人ひとり順番に来ると面倒くせーんだよ。終わったら最初のが戻ってきて、ずっと終わんねーんだよ」
兄の構って永久機関か。確かにウンザリするかもしれない。それでもカンネには羨ましいのだろう。
「トローペンは? 兄弟とかいないの?」
「いたよ」
そう答えたら、何故かしんと静まった。
「おい、バカ」
「ご、ごめん」
ラヴィーネが小突いてカンネが謝ってくる。ああ、気を遣わせたかな。
「アニキと妹が一人ずつ」
淡々と語るその言葉に感慨はなにもない。事実を述べただけだ。
でも、心根がやさしい人って居るんだね。
「おしゃべりはその辺にして野営の準備をするぞ」
あと一時間もすると日が落ちる。この季節は夜になるとかなり冷え込む。火を炊いて暖を取らないといけない。
とはいえ準備するには少し早い。会話を中断させるためにそう言ったのだ。やはり、アニキは優しい。
「へーい」
「あ、こっちに水場があるよ」
「んじゃ、ちょっくら行ってくるわ」
カンネとラヴィーネが水を確保しに行くようだ。ならこちらは野営地の作成だ。
背嚢から取り出すのは二〜三人用のテントだ。もっとも前の世界のやつみたいなのじゃない。ポールは木だし幌は麻を二重に重ねただけのもの。
「ここがいいと思う」
「ラジャー」
ブルグのアニキの意見に従って、設置場所を決める。組み立てて、ペグを打って固定。アニキも手伝ってくれたので早く済んだ。
「あれ? アニキは?」
「俺に構うな。テント無しでも平気だよ」
そう言うと少し離れた所に石を組み始めた。簡易型のかまどだろう。野営にも慣れてるらしく、簡単に組み上げてしまう。
「そんじゃ、こっちも用意しますか」
背嚢から取り出すのは小型の鍋とフライパン。スキレットなんて上等なものではなくただの鉄で出来たものだ。でも、カンネの所に厄介になってる間もメンテは欠かしていない。
「トローペン、お前、料理すんの?」
「そりゃ出来るよ。宿屋でだってたまにやらせてもらってるし」
賄いだけど。けど、評判はいい。今日は小麦粉もバターもあるし、シチューにでもしてみるか。
カンネの背嚢から野菜類を取り出す。親父さんたちが持たせてくれたものだから問題ない。手元の水筒の水を使って洗っているとアニキが近寄ってきた。
「洗えばいいのか?」
「うん」
すると何か呟いた。
「おお?」
『
両手に持った野菜を水流が包み込む。いちおう泥とかは払ってあるけどまだ細かい土汚れがあった根菜なども瑞々しく洗われていた。
「すげー」
「民間魔法だ。少し学べば手洗いくらいは出来る」
こういうのを惜しげもなく見せてくれるのは有り難い。ヴァルム先生もお婆ちゃん先生もなかなか見せてくれないからね。
「俺は水属性があるからこの程度の洗い物ならすぐにできる」
「カンネも水属性なんだって。覚えたら洗い物が楽になるかな?」
「それはやってみないと分からん。属性が同じでも得手不得手が出るのが魔法だ。皆が同じ結果を出せる訳じゃない」
そういうものなのか。
同じ属性でも効果に差が出るという話は聞いたこと無かったけど、よく考えたら属性に関する魔法はまだ使ったこと無かったよ。
魔法のことはともかく、今はメシだ。皮を剥いた野菜を均等に切り、根菜のヘタや皮は鍋に入れておく。
「『火種を点ける魔法』」
焚き付けに使う枯れた枝葉に魔法を使うと小さい火花が散って、火が灯る。火打ち石でも出来るけど魔法使いは常に魔力を使っておく必要がある。それに、まあ楽だしね。
「手際が良いな」
「そう? あんがと」
褒められるのは嫌いではないけど、少し照れくさくもある。何せ前世分の記憶もあるので、これくらい出来て当たり前なのだ。なんとなくズルをしてる気分にもなるし。
鍋の野菜クズを炒めていく。この鍋はちゃんとシーズニングしてあるから油が染み込んでいるので少しでもいいのだ。水筒の水を流して煮出す。少し色が付いてきたら野菜クズを拾い上げる。本当はザルと鍋で濾すんだけど、それは出来ないからね。
適度に切った干し肉と、採集で取り置きしてたハーブなんかを放り込む。干し肉は塩気が強いけど臭味もあるのでそれを防ぐためにもハーブは必須。何種類か混ぜてあるので、使うときも楽ちんだ。鍋に入れて煮込んで、竈から外しておく。
スキレットに野菜を並べ炒めていく。玉ねぎ多め。そこにバターを切り分けてから小麦粉を少しずつ加えていく。焦げ付かないようにゆっくり炒めて、徐々にミルクを足していく。全体がねっとりしたら火から降ろして鍋をまた掛ける。
鍋に切った野菜(じゃがいもとか人参)を加えてひと煮立ちさせる。
ここまでやってるとラヴィーネ達が戻ってきた。というか、遅くない?
「さぶさぶっ!」
「火だー、あったか~い」
いや、なんでお前らズブ濡れなの?
ほらブルグも固まってるでしょ。
「カンネが水浴びしたいとか言ってさぁ」
「アンタが突き飛ばしたんやろがいっ!」
「いやあ、いいところにお尻があったから。つい」
ああ、いつものか。
「まだ夜は寒いよ? そんな恰好で大丈夫?」
「着替えくらいは持ってきてる」
とか言いつつ上を脱ぎ始めたラヴィーネ。おーい。
「ら、ラヴィーネェ」
「ん? 別にガキなんだから見られても問題ないだろ?」
うん、まあ。オレやカンネはぺったんこだけど、お前はちょっと膨らんでるよね。色々とマズくない?
「ブルグさんも居るんだし」
そう、それ。それが言いたかったんだ。ちなみにオレも元は男だったけど、もう既にその感覚は忘れてたりする。なので、特に感想はない。
ブルグはというと、後ろを振り向いていた。外套も被ってその上から耳を塞いでいる……わりとシャイなんだね。
「ちょ、ちょっと周りを警戒してくる」
と言って立ち去ったりもする。ブルグさん、マジ紳士。
「今のうちに着替えておけよ。濡れた服はこっちよこしな」
かまどの傍なら乾きやすい。ちょっと木を組んで紐を通して、これで掛けやすくなるだろ。
「うん。ありがと、トローペン」
「嗅ぐなよ?」
ラヴィーネは少し捻りすぎ。カンネの素直さを見習え。背嚢からタオルを取り出して二人に放ると受け取った二人がテントに入って身体を拭き始めた。
ラヴィーネ達の服を紐に掛けて……あ、さすがに下着はマズイかな?
仕方ない。
オレは懐から取り出した魔法の本を開く。表題も何も無いこの本にはなんか知らないけど魔法の題名と詠唱だけが記載されている。確かその中に……
「あった」
ええと……
『安らかなる日々を求めし者は、まず風体を検めよ。着古した衣服は清貧の証ではあるが、清潔を忘れてはならない。衣は己の内面を映し出す鏡と知れ――清冽なる風』
呪文を唱えると周りに風が巻き起こる。とは言っても普通の風ではないので火が消えることはない。手に持っていた二人の肌着の水分を素早く吸い取って乾かしてくれた。
「これでよし」
実は厄介になってる屋根裏部屋でもこれで衣服とかは乾かしている。替えも少ないから、仕方ないね。
ちなみにこの魔法。着ている服には使えない。なので替えのないオレは部屋で使うしかないのであった。
――あ。
「クンクン」
うん、オレも少し臭う?
後で水浴びてこようかな。
「おい」
そこへ、血相を変えてブルグが戻ってきた。
「今、魔力反応が……」
「あ、それオレっす」
「え? なんだ……そうか」
魔力の反応に気付いて戻ってくれたのか。さすが、一級。子どもの引率とか言っててもきちんと仕事をしてる。
「そろそろ出来るよ」
さて。今日のクリームシチューは、どうかな?
「あ、もう乾いてるー」
「サンキュー」
……掛けてたのも乾いたか。意味無かったじゃん。