百合の間に挟まるつもりは毛頭ないんだが   作:とくめい

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第十一話

 食事も終わって就寝。すぐに寝るのは体に良くないとは言うけど、野営なんかで起きている理由は不寝番くらい。火とか魔物とか、場合によっては人間も害になる事もある。盗賊なんて人の生息圏には必ず出るからね。

 

「本当にいいの?」

「構わん」

 

 言葉少なに薪をペキリと折って火へと放り込むブルグ。朝まで交代もせずに不寝番をするというのだ。それは気にもなる。本人曰く『徹夜なんていつもしてる』……なんか一級魔法使いって、ひょっとしたらブラックなんじゃないだろうか?

 

 まあ、攻撃手段も一般攻撃魔法くらいしか無いオレ等が居ても役には立たないとは思うけど。

 

「おい、トローペン早く閉めろ」

「あ、ああ」

 

 ラヴィーネの言葉にテントの入り口を閉じる。とはいっても隙間あるから一筋のゆらゆらとした明かりが中をうっすら照らしてる。

 

「くかー……」

「カンネ、寝るのはえーな」

「いつもだよ」

 

 寝落ちした彼女を部屋まで連れてくのはオレの仕事だったりする。健康的で大変よろしい。

 

「明日には着くかな?」

「どうだろ?」

 

 先ほど飛んできたゴーレム鳥(隕鉄鳥(シュティレ)みたいな形)に、ブルグが報告をしていたようだ。大きな街は、普通は夜に入る事は出来ない。よほどの緊急要件なら別だろうけど。

 

 なので、夜にかかる場合は前もって野営してしまうのが普通なのだとか。確かにそれならお金も浮くし。

 

「ま、こういうのも悪くないな」

 

 ラヴィーネはそう言うと毛布を被り込む。カンネの方を向くのは当然なんだろうけど、オレに対する気遣いでもあるのかも。もぞもぞと毛布を巻き付けてこてんと横になる。

 

 前世でキャンプの経験は無かったけど、この時代のそれは少しランクが落ちてるのは分かる。隙間から入ってくる風とか、下からの冷気とか。いちおう毛布は敷いてるけどじんわりと染み込んでくる冷たさはなかなかに効くな。

 

「……」

 

 気が付くと、二人の寝息が安らかになっていた。起きて表に出ると、空は薄っすらと明るさを帯びてきていた。

 

「早いな」

「毎日のクセでね」

 

 実際、朝は早いのだ。宿の準備とかあるし。そういう宿の娘(カンネ)の方はと言うと起きてこないのだが、まあ、旅の疲れだと思おう。

 

 ブルグはというと、昨日と変わらない姿勢でペキリと薪を折って入れていた。飽きないのかな?

 

 オレが手荷物を持って離れるとドコに行くと聞かれた。

 

「しょんべん」

「あんまり離れるなよ」

「あいよ」

 

 カンネ達が見つけた水場というのは川で、少し行った先に有るらしい。その前にこの辺で用は足しておこう。ちなみに詳しく描写するつもりはないからね(笑)

 

 それから水場を目指す。離れるなとは言われたけど、まあ魔力の探索とかはするだろうから問題はないと思う。

 

 川は幅五メートルくらいの小川で、流れは意外と早い。雪解けの水もあって増水してるのかも。こんな所に突き落とされてカンネ良く無事だったなぁ。

 

「さて、と」

 

 服を手早く脱いで手拭いを水に浸してからごしごしと身体を擦る。石鹸とかは高級品だからなかなか買えないんだよな。前世はずいぶん快適な暮らしをしてたんだな、とこういう時はつくづく思う。水がもう少し温かいなら頭から被りたいんだけど、そうもいかないのでやはり手拭いで拭っていく。

 

「いい加減、長いよな」

 

 いつもは纏めてるんだけど、解くと背中の辺りまで届いていた。

 オレは面倒だから切りたいんだけどカンネが勿体無いとか言い出すから切れてないんだよね。

 

 そこまで考えて、人の髪って売れるんだよな。そう考えると勿体無いか。売れる先を確保してからの方がいいよな、やっぱり。

 

 

 オイサーストならそういう需要もあるかも知れないし。道具屋とか行けばいいのかな? ぼんやりそんな事を考えてたら、気が付くのが遅れた。

 

 バッサバッサ。

 

 すぐ隣に、大きい鳥が降りてきていた。周りをキョロキョロと見てから、川に顔を突っ込んでガフガフと水を飲んでいる……これ、魔物だよな。魔力反応がそれっぽいし。

 

 なんでオレを無視してるのかは知らないけど。ひょっとしたら魔力が少な過ぎて人間に思われてない可能性もある……のか?

 

『に、逃げるべき、か?』

 

 相手が攻撃してこないなら、今のうちに逃げた方がいいかも。でも、下手に動くと気取られる可能性もある。

 

 どうする? 悩んでいると鳥の魔物が向こうに顔を向けた。そこに、光弾が数発撃ち込まれる。まるで炸裂弾のように弾け飛ぶ鳥の魔物。

 

「伏せろ、トローペンっ!」

 

 その言葉に逡巡する筈もなく水辺に倒れ込む。冷たいけど仕方ない。その上から襲いかかる別の鳥の魔物の鉤爪がすぐ上の空気を切り裂いていく。そこに居たら、オレは既に絶命していたかもしれない。

 

「せいっ!」

 

 そこに飛びかかるブルグの姿。不動の外套がひらめいて、まるで冥府からの死神が襲いかかるように視えた。彼のごく至近距離からの魔法が、鳥の魔物の身体を貫くとその体は素早く黒い霧となって消え去った。

 

「大丈夫かっ?」

「う、うん。平気だよ」

 

 そう答えると無事を示すようにガッツポーズを取るオレ。不思議なことにこの世界でもこのポーズは同じ意味を宿しているらしい。

 

「……」

 

 だけど、ブルグはというと。

 何故かあんぐりと口を開けて、顔を赤らめていた。

 

「お、お、おまえ……」

「へっくしっ!」

 

 何も着てないんだったっけ。

 

 

 

 

 

 

≫≫≫

 

 

 

 

 

「……お前。自分が女だって事は先に言っといてくれ」

「……言わなかったっけ?」

 

 ブルグが頭を抱えてそう呻いていた。

 ……どうでもいいから、言わなかったかもしんない。ま、しゃーなし。

 

 沸かしたお湯でお茶を飲んでるところに、ラヴィーネとカンネも起きてきた。

 

「早いね、トローペン」

「おはよ」

「おはよう」

 

 するとブルグは二人にも矛先を向けてきた。

 

「おい。トローペンが女だって、なんで言わなかったんだ」

「あれ? 言わなかったっけ?」

「あー……確かに言ってない、かも」

 

 ラヴィーネとカンネも、そんな感じだ。二人にとっては当たり前過ぎる話なので言う必要すら無かったという事なのだ。

 

「だいたい見ろよ。こんな長い髪の野郎が居るかよ」

 

 ラヴィーネがまだ結んでない髪を持ち上げてそう言った。それはそう。だからこそ、オレも切りたいと言ってる理由だし。

 

「む、結んでるから……その分からなかったんだ」

「ポニテなんだから分かれよ」

「いや、ラヴィーネ。ポニテじゃない。チョンマゲだ」

「あれはチョンマゲなんてもんじゃねえ。ただのポニテだ」

 

 ラヴィーネは頑として譲らないが、オレとしてはチョンマゲだと思ってやっているのだ。……まあ、やり方知らないから適当に結んでるだけなんだけど。

 

「そもそもこんな顔立ちの野郎が居るか。どー見てもメスじゃん」

「メス言うなし」

「そうだよ、ラヴィーネ」

 

 カンネが近寄ってきてハグしてくる。背が小さいというだけでオレを妹扱いするのだけど、年齢的には同い年だ。まあ、悪い気はしないけどね。

 

 ともかく。

 この手の勘違いはよくある。

 最近だと引っ越してきたばかりのレンゲちゃんとかも俺のこと男だと思ってたらしいし。ナーベンの街の人もどれくらい知ってるのか一度聴き取り調査してみたほうがいいかもしれない。

 

「はあ……もう分かった」

 

 そう言って彼は不動の外套のフードを被った。

 

「一時間だけ寝る。その間に朝飯でも身支度でもしておけ」

 

 やはり少しは眠るらしい。

 朝は昨日のシチューの残りとパンで済ませればいいし。すると、カンネが髪を櫛で梳き始めた。

 

「ちゃんと手入れしてるみたいだね」

「しないと、うるさいじゃん」

 

 毎日植物油を少し混ぜた水で洗ってはいるのだ。石鹸無いからごわつくけど、あの魔法を掛ければさらさらになるので特に問題は無かったりする。

 

 するとカンネはオレの髪を束ね始めた。

 

「お、おい」

「たまにはおそろにしよ?」

「ええ……」

 

 オレにそういうのは似合わないんだけどな。ラヴィーネを見ると、少し面白そうな顔してる。

 

「いーんじゃね? ポニテがツインテになるだけだし」

 

 いや、だから、ポニテじゃねえって。

 

 

 

≫≫≫

 

 

 

「最初からその格好なら、俺は勘違いしなかった」

「オレが悪いみたいに言わないでくれる?」

 

 悪ノリしたラヴィーネが、自分の替えのドレスをゴリ押ししてきた。

 

「もうずっとこのままでイイよぉ♡」

「今日はそのままで居ろよ」

「そうだな。少しは大人しくなるだろ」

 

「ええ……」

 

 

 黒髪ツインテールに、少し甘めのドレスとか。冒険者に或まじき装いになっていた。

 

「オレのキャラじゃないのに……」

「似合ってんぞ」

「うんうん」

「ゼーリエ様に会うまでそうしてろ」

 

 多数決とは、非人道的である。




AIちゃんにツインテのバージョンも、作ってもらいました。

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