百合の間に挟まるつもりは毛頭ないんだが 作:とくめい
北方諸国最大の魔法都市オイサースト。
その名に恥じないらしく、大陸魔法協会北部支部はかなり大きな敷地面積を誇り、その関連施設も含めると町のほぼ二割が魔法関連を扱うというから驚きだ。普段は町の中心に位置している女神様の教会も、ここでは少しおとなし目な印象に見えてしまう。
当然のように魔道具を扱うお店も多く、その素材を買い取る業者も相当いるらしい。
「ねえ、やめよーよぉ」
今日は教えてもらった魔道具屋に行く日だ。片方の手を引っ張って駄々をこねる子もいるけどお構い無し。これは自分のためなのだ。
「カンネ。そんなに引っ張るな。トローペンのボロい服が余計ボロくなる」
「だって、ラヴィーネェ……髪切っちゃうって」
「本人が決めたんだから文句言うな」
そう。長い髪というのは魔道具としては使い道が多いらしい。特に女の子のモノは繊細で使い勝手が良いという。この話はラヴィーネのお兄さんから聞いたのでたぶん間違いはない。あと、ボロい服とか本当のこと言わないでほしいな。
「ドゥンケルハイトは俺の同期がやってる店でね。先代から代替わりしたばっかだけどそれなりに評判はいい。毛筆とかも扱ってるから需要もあると思うよ」
「わざわざ休暇に付き合ってもらって。ありがとうございます」
ラヴィーネの兄のうちの二番目、ツァーンさんにお礼をいう。
「妹たちの友人なら幾らでも」
歯がキラッと輝きそうな笑顔にラヴィーネが砂糖を吐きそうな顔してる。妹たち、という言葉はラヴィーネ以外にもカンネを指しているからだ。彼の奥さんはカンネのお姉さん。
だからカンネにとってもお義兄さんになるわけだ。
「ホントはフンダートも来るつもりだったんだけど、仕事が入ってね」
彼らは騎士として士官しているため、普段は仕事に出ている。街の警らは下位の衛兵たちの所属する領軍が行うけど、騎士団は適宜街の外の魔物とかを間引くのが主な仕事だ。そのため、戦闘用の魔法が使える魔法使いたちも多い。この辺が一般的なファンタジーと違うところだ。
この世界の魔法は武器を持ってたり鎧を着てたりすることでペナルティを負うことはない。
「武よりの魔法使いは便利使いされるからね。魔物討伐と聞いて行ったら魔族が出てきたなんて話も多いし」
「お怪我しないで下さいよ。お姉ちゃん、心配性だから」
「うん。まあ、大魔族とでも遭わない限り平気だよ、カンネちゃん」
ツァーンさんがフラグを立てようとしてる……ちょっと話をそらそうか。
「フンダートさんは、今は四級でしたっけ」
「そうだね。三級に上がるのも出来る筈だけど、騎士って意外と時間が取れなくてね。それに上がってもあまり恩恵は無いし。ちなみに僕は三級だよ」
にこりと笑って自分の力をアピールするツァーンさん。ラヴィーネの兄らしく見た目がイイねぇ。
今の話から、魔法が使えても騎士としてのプラスアルファは無いらしい。そして大陸魔法協会の方からも特典はほぼないのだとか。お金出して昇級試験を受けるのって、実はあまり意味がないのかも知れないと思ってしまう。
「四級以上の昇級試験はだいたい対人戦。三級の奴に四級が勝つことだってあるし、魔法って相性が多くを占めるから。お金が勿体ないから昇級しないって奴も多いよ。だから箔付けってところが大きいね」
ツァーンさんの返答に、オレは少し悩む。魔法使いの数が思ったより少ないのって、そういう体質だからなんじゃないかな? 恩恵が無ければわざわざ昇級試験なんか受けないっていうのも分かるし。
オレの思惑を見透かしたのか、彼は笑って頭を撫でてきた。
「大陸魔法協会は出来て五十年程度の歴史だ。その傾向が戦闘に特化した組織だから有名ではあるけど、実際は魔法使いギルドのほうが民衆には根付いている」
「そうなんだ」
ここに来て魔法使いギルドという名前が出てきた。
「魔法使いギルドっていうのは何なの?」
頭を撫でられながら、オレはそう聞いた。なんか、こういうのもいいな。
「勇者一行が魔王を討伐した頃から有る組織だよ。今では大陸魔法協会の下部組織って位置だけど、民間魔法とかの戦闘に依らない魔法を扱う人たちの集まりだ」
こちらはかなり浸透しているらしく、魔法の教育、事業の斡旋とかもしているらしい。なるほど。大陸魔法協会の会員数が少ない理由はこの辺りにもあったのか。
それにしてもツァーンさんは博識だ。見た目ガッシリとした体格の人なのにちゃんと勉強も欠かさない。文武両道とはこんな人を指すのかもしれないな。ちらりとラヴィーネを見る。
「……なんだ?」
「いや、別に」
ラヴィーネがふてくされたかのような顔をしてる。兄貴を取られたのが悔しいのかな?
「君たちは七級だったかな?」
「はい、そうです」
「そのくらいの頃は勝手に上がってくからいいんだけど、五級から先は昇級試験がある。任意だから自分で望めば一級だろうと試験を受けることは可能だ。だけど」
そこまで言ってから立ち止まり、オレ達をみまわす。
「試験には必ず危険が伴うし、級が上がると危険度も増す。一級選抜試験なんかは毎回何人かの人死が出るのは当たり前になっている。だから、受ける時は慎重に。魔法は決して、安易に使ってはならないものだからね」
「「「はい」」」
先達の有り難い訓示である。
オレ達ははっきり返事をした。
「そういえば今年は一級魔法使い選抜試験のある年だったよね?」
カンネが思い出したかのように言う。ラヴィーネがそれを受けてツァーンさんに聞いた。
「ああ、そうだな。兄貴達は受けんの?」
「いや?」
「なんだよ、面白くねぇ」
「さっきも言ったけど、安易に試験を受けるわけにはいかないんだ。それに今回の一次試験の試験官はゼンゼらしいし」
ゼンゼ……あのモップみたいな人か。髪の毛凄いけど、あの人も魔力量は凄かったし。やっぱりキツイ試験をするのかな?
「平和主義者って云うけど、前回も前々回も一人も通過出来てないからね。受けるだけムダだって訳知り顔の人間は言うよ」
一人も死んでないって言うのは良いことだけど、と言葉を締めるツァーンさん。なるほど、厄介お姉さんだったか。そんな雰囲気もあったからなぁ。
「ちなみにその訳知り顔の人間がコイツだ」
「いきなり来てなに言ってんだ?」
扉を開けて出てきた人にいきなりな事を言うツァーンさん。黒髪に少し癖っ毛の青年は少しだけ笑みを浮かべてそう答えた。
「僕の友人、リヒターだよ。この子が用があるらしくてね」
「お客さんなら喜んで。お前は帰れ」
「相変わらず冷たいねぇ」
そんな事言いつつ店の中に案内してくれるリヒターさん。歳の頃は同世代っぽいけど、リヒターさんのほうが貫禄がある。お店を切り盛りしてるせいかもしれないね。
ドゥンケルハイト魔法雑貨店は、オイサーストの旧市街よりの辺りに居を構えていた。店の中はきちんと清掃されているけど、どことなくレトロな感じ。すぐに分かる魔道具から使い道のわからない魔道具まで、色々と取り揃えてあるようだ。
「少し待てばお茶が出てくるから店の中を見ていなさい」
「長居するつもりか?」
「せっかく来たんだ、お茶くらい飲ませてよ」
「全く……」
と言いつつ、店の奥に引っ込んでいくリヒターさん。なんだかんだ文句言うけど、結局いいひとってやつだね。やれやれとか似合いそう(笑)
「これ、見てみろよ」
ラヴィーネがなんか持ってきた。なんか前世で見た事あるような形のペンだな。
「万年筆?」
「お、知ってやがったか」
このファンタジー世界にあるとは思わなかったけど、前の世界では廃れてしまった筆記具だ。
とはいえオレも昔は持っていたな。ボールペンより使いづらいけど、味があるんだよね。
「でもな。これは」
くるんと反対側を向けると、なんとエルフの女の子の絵が描いてあった。なんともはや、こんなところにまでオタグッズがあるとはね。人間の文化って似てくるもんだなぁ。
「で、これを……」
そう言うとラヴィーネは火種の魔法を使って万年筆を炙り始めた。
「お、おい。壊しちゃうよ」
「大丈夫、大丈夫」
ラヴィーネは勝手知ったるという感じで炙り続けている。ほんとに大丈夫かぁ?
「わ、わたしっ! 向こう行ってるね」
「カンネ?」
そしたら、カンネが店の奥に行ってしまった。ラヴィーネはと言うと、初心だね〜と笑ってる。
もしかして。
「どうでぇ。これを見せたかったんだっ!」
温め終わったラヴィーネが見せたのは、思った通り半裸のエルフの女の子の絵だった。というか、エルフの子にしてはおっぱい大きくない?
「エログッズかよ……」
「だっはっはっ……あれ? ウケてない?」
そういうのは前世に置いてきちゃったからね……まあ、人間の文化って詰まるところ、一緒なんだよねってコトか。
原作と違ってリヒターと会っちゃってますw
かつて温泉土産で一斉を風靡したアレを見た子供たち
ラヴィーネ 中年オヤジ
カンネ ウブ
トローペン 枯れてる……
なお、エルフの絵はどっちにも似てません(爆乳なので)