百合の間に挟まるつもりは毛頭ないんだが   作:とくめい

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第十七話

 あのオイサーストへの遠征からはや半年。秋の紅葉に彩られるナーベン周辺の森に、オレ達はいた。野外での魔力探知の研修である。

 

 

 魔力の探知とは、魔法使いにとって目であり耳であり、感覚すべてと言える。自分の視覚や聴覚、感覚すべてを超えたものに成り得るらしい。

 

 盲目でも魔法使いになれるし戦士として続けられる人もいるそうだけど、この世界は前世と違って魔力があるせいでいちいちバグった人を量産しがちだ。だけど、そこまでの精度を持ち得る人はやはり少数派らしい。

 

 この世界の生物や魔物は、必ずと言っていいほど魔力を内包する。それが極端に出ない個体も居れば、威嚇するように垂れ流しな奴もいる。

 

 そして魔力の放出量は危険度に比例する。強い魔力を持つものは強い個体であり、それを避けるのは生存術として成り立つし、獲物を狩る冒険者としても必須とも言える。

 

 さらに高次元の探知となると、使われた魔法の種類まで類推出来るようになるという。大抵の攻撃魔法は外部に魔力を放出するからだ。これを意図的に消すことは難しい、らしい。

 

 なので潜伏する時は攻撃魔法を使わない、というのが基本的な戦術となる。

 

 ちな、潜伏するための魔法というのも存在する。民間魔法にはそういった種類の魔法が数多く存在するそうだ。そういったものは当然のように魔力の放出を抑えることに特化してるけど、その他の感覚をも騙すようになっている。

 

 透明になったようになる、匂いを遮断する、音も静めてしまったり、存在自体を他の自然物のように偽装したりも出来る。

 

 ガサガサ。

 近くに先生が来ている。

 オレは息を殺した。

 

 

「見つけました。ラヴィーネさんですね」

「うえ~。せんせ、はりきり過ぎ」

 

 割と近くに潜伏していたラヴィーネが捕まった。木の茂みに隠れるのは基本的だけど、アイツは何も分かってない。

 

「ラヴィーネさん。さすがにそのドレスでは隠れるのは難しいですよ?」

「しゃーなしだよ」

 

 仕方ないと言ってはいるが、おふくろさんを説得し切れなかった段階でラヴィーネの失敗は確定していた。森に隠れるのにその青いドレスは目立ち過ぎる。魔力云々の問題以前だった。

 

「魔力の隠蔽はお上手でした。でもまだ抑えられると思いますので精進して下さい」

「へーい」

「では、みなさんと合流して下さい」

 

 そう言ってヴァルム先生は捜索を再開する。近くにいるオレ達を素通りして。

 

『あうあう……』

 

 俺の下から小さな声が聞こえた。

 

『もうちょい我慢して。レンゲちゃん』

『……はい』

 

 顔を赤らめて少女は返事をした。

 いつも通りの小さな声なので、周りにも響かないし、魔力の隠蔽も続行中なので先生に気取られてはいない……と思う。

 

 前世なら事案確定な状況だけど、今のオレは女の子なので、セーフ……だよな?

 

 オレが組み敷く形になっている少女はレンゲちゃん。二つ年下であり、背の低いオレよりも小柄な少女だったりする。

 

 薄い茶色の髪は地面に広がっていて、その(はしばみ)のような色の瞳は所在なさげにキョロキョロと動いている。

 

 なんとなくリスとかハムスターのような愛嬌のある子だけど、二つ年下ながらにオレたちと同じく六級にまで上がっているのだから才女といって差し支えないだろう。

 本が大好きでわりと図書室に入り浸っているのを知っている。

 

 そんな彼女の魔力は実のところラヴィーネやカンネに及んでいない。これは年齢的なモノが大きいだろう。

 

 それに隠蔽している今はそれも有利な要素だ。元が小さければ隠蔽する量も少なくて済むからだ。隠れるのは上手なようだ。

 

 オレ? 元々魔力が少ないので隠れるのは超得意。

 

 しかも今は泥を塗って、手足に枝葉も付けている。少々やり過ぎだけど、手を抜くつもりはない。

 

 移動していたんだけど、隠れてたレンゲちゃんに気付かなくて躓いてしまい、押し倒す形になったのだ。

 

 申し訳ないとしか言えないし、ビンタの一つも覚悟してたのだけど、彼女は特に怒ることもなく許してくれた。

 

『ごめん。服の汚れは後でなんとかするから』

『……ううん。べつに、いい。気にしないで』

 

 うん。いい子だな。ラヴィーネあたりだともっとふっかけてくるんだけど。

 

『そういうわけにもいかないよ。後でね』

『……うん』

 

 とりあえずこのままというわけにもいかないのでレンゲちゃんの上から退くと、周りを警戒する。

 

 ヴァルム先生の反応は遠くなってる……気がする。あの人、先生というだけあって色々と油断ができない。

 

 人の魔力はだいたい固有のものであって探知によって誰がどの辺にいるとかもだいたいは分かるようになる。特に毎日一緒にいるカンネとかよく知ってるラヴィーネとかはすぐに分かる。

 

 だけど、技術というのは日進月歩。

 

 魔力反応から個人が特定できると困る人間たちはそれを擬装する魔法をも編み出されている。さすがに個人の固有のモノを完全に真似するというのは普通は無理なんだけど。でも、知らない赤の他人にはなりすませられるわけだ。

 

 そしてそれを突破するための魔法も開発されてたりする。イタチごっこである。まあ、前世の世界でもこういう事は多々あったのでいちいち言うことでもない。

 

 ちなみに今はそこまで要求する研修じゃない。あくまで魔力の探知と隠蔽による発展型かくれんぼというところだ。魔力の隠蔽の重要性を理解しつつ楽しいレクリエーションにしようという先生の心遣いである。

 

 常なら普通の子供と同程度魔力量しか無いオレは、隠蔽によってほぼ小型の虫くらいになっている。

 

 このくらいの魔力になると全身から出てる魔力のオーラはほぼ見えない状態になる。

 

 ラヴィーネが気味悪がってたけど、それでも完全には消せてないのだ。魔力の隠蔽がどれだけ大変なのかがよく分かるけど、こんな程度でも先生の魔力探知には引っ掛かってないようだ。

 

 先生はあくまで生徒を基準に探知しているからそれ以下のオレに気付かない。でも、みんなが先に捕まってしまえば探知の精度を上げてくるだろう。一番頑張った人にはご褒美があるので是非ともそこまでは粘らないと。

 

 

 

 

≫≫≫

 

 

 

「あとはトローペンさん……だけど」

 

 レンゲさんを連れてキャンプ地点まで戻ると、ラヴィーネさんが伝言を伝えに来た。

 

「トローペン、帰ったって」

「え?」

「なんか用事があるって」

「そ、そうだったんですか」

 

 トローペンさんの魔力が全然分からなかったのですが、居ないというなら納得です。

 魔力探知の感度を上げても虫とかが多い森の中ではどれがそれかは分かりません。

 

 それに、そこまで魔力を隠蔽出来る子はそうは居ないでしょうし。

 

「じゃあ、撤収しましょう」

「え」

 

 待たされてる子どもたちに号令を掛け、ナーベンへの帰路につきます。領軍の間引きのおかげで魔物にはあまり遭いませんが、夜となると話は変わってきます。

 

 護衛役の冒険者の方達にも声を掛けます。

 

「帰りますので準備をお願いします」

「おう。てか、全員集まったっけ?

 黒髪の坊主(トローペン)が居ねえみたいだけど」

 

 冒険者のリーダーの方がそう言ってきます。彼女、やっぱり男の子に見えてるみたいですね。

 

「トローペンさんは先に帰ったらしいです」

「あ、そうなんだ」

「アイツ、斥候役向きだよな」

「体ちっこいし、動きは早いし。ウチのと交替してほしいくらいだよ」

「おま、言うてはならんことを」

 

 冒険者の方々はパーティーらしく、気安い会話をしています。実際今日は魔物の出現もなく、緊張する場面もなかったのですからやむを得ません。

 

「あの、せんせい……」

 

 そこへレンゲさんが声を掛けてきました。控えめな性格なのか、声が小さくて少し聞き取りづらいですが、真面目で将来有望な生徒です。

 

「あの、トローペン君、居ないです」

「トローペンさんは急用で帰ったと、ラヴィーネさんから聞きましたけど」

「え……?」

 

 レンゲさんは怪訝な顔をしています。どういうことでしょうか?

 

「隠れてたときに彼とぶつかって、服を汚しちゃって。いいって言ったけど、そうはいかないって。後でって話をしたんです」

 

 いまいち要領を得ませんけど、どうやら終わったあとに会う約束をしていたそうです。……これは妙ですね。

 

 自由奔放なわりに義理堅い彼女は約束事の類は守ります。もう一度ラヴィーネさんに問い質してみましょう。

 

「ラヴィーネさん」

 

 集合場所に居るラヴィーネさんはいつもと違って挙動不審です。カンネさんも不思議そうにしています。

 

「ラヴィーネさん。もしかして……」

「ゴメン、先生。トローペンが帰ったのって、ウソだったんだ……」

 

 だろうと思いました。よく考えたら、勝手に帰るなんてあの子がするとは思えません。帰るなら帰るできちんとスジを通すはずですもの。

 

 とはいえ、時刻もかなり押してますし。冒険者の方々に生徒の引率をお願いしましょう。

 

 

「それならオレ等が探すよ」

「アイツとは知らん間柄じゃねえしな」

「それにオレ等が生徒の引率とか出来ると思う?」

 

 ……確かに、そうですね。

 ここは彼らにトローペンさんの捜索をお願いしたほうがいいかもしれません。

 

「では、お願いします」

 

 

 

 帰りの行軍中、ラヴィーネさんはもの凄く気落ちしていました。トローペンさんが見つからない事を気に病んでいるのでしょう。

 

「もし、アイツになんかあったら、どうしよう……」

「辺りに魔物の反応はありませんでしたし、きっと大丈夫ですよ。あの子なら、寝ちゃってたとかあるかもしれませんよ」

 

 出来る限り良くない事を連想させないようにします。子どもたちがパニックにならないようにしないと。

 

 街に帰り着いたら子どもたちを解散させて、私は学校に行きバンデ導師に報告をしました。

 

「ふえ? あの童子なら帰って来とるよ?」

「ええ?」

「正しくは、まだ帰ってる途中、みたいだがね」

 

 バンデ導師はどうやら広域魔力探知を行ったようです。冒険者の人たちと一緒にこちらに向かってるとのことで、私は胸を撫で下ろしました。

 

「あの童子は分かりづらいから無理もないじゃろ」

「私じゃ、ほとんど分かりませんでしたよ」

 

 

「なんの、わしにだって隠蔽した時は分からなかったのじゃから。そらそうだ」

 

 五キロ以上離れた場所を広域魔力探知したと簡単に仰ってますが、普通の人には無理ですよ。

 

 

 しばらくして。トローペンさんはちゃんと戻ってきました。

 

 なんでも、途中で眠くなって寝入ってしまったとのこと。冒険者の方々が見つけた時は魔力探知をしても分からない位にカモフラージュしていたとのことです。……そんなのじゃ、やっぱり私には見つけられませんよ。

 

 色々と不勉強な所を自覚させられた野外研修でした。

 

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