百合の間に挟まるつもりは毛頭ないんだが 作:とくめい
「
顔見知りの冒険者達に声を掛けられたオレだけど、それは討伐に参加するかというものだった。
「そろそろ討伐依頼にも参加したいだろうしな、て。返事はええよ」
ナーベンの冒険者ギルドではすっかり顔馴染みになったオレ。
当然、顔を合わせるうちに採集依頼を合同でやったりしていく仲間とかも出来てたりするけど、子供ゆえに討伐依頼には参加させてもらえてない。
この世界の成人は二十歳らしいけど、一人前と言われる年齢はもっと低く十五歳くらいである。
まだまだ一人前とは言えない年齢なので保護者のような人が必要になるわけだけど、そこを顔見知りの冒険者が声を掛けてくれたわけだ。一も二もなく返事をするさ。
「あなたがた。少し宜しいでしょうか」
「「「え?」」」
「わ……」
冒険者ギルド併設の酒場に、見たことのない女性が居た。
ローブに軽装という感じから魔法使いだとは分かる。歳の頃は二十歳……いや、少し若いかも。十七、八くらいかな。栗色の髪は長く、前髪はおでこを出して真ん中分けだ。
そして何より驚くことだが、背が高い。冒険者の男連中と比べても遜色ないほどだ。つまり大女である。
さらに云うと、ある部分も大きい。たわわに実っているというべきか、少し身体を揺するとそれがもの凄く目を引く。実際、冒険者達の視線はそちらに釘付けである。男って単純だなぁ。
「な、なんの御用でしょうか? お嬢さん」
「私も同行させては頂けませんか?」
おお。冒険者志望の女性とは珍しい。
冒険者というのは、一般的に言えば何でも屋だ。お使い、お手伝いから駆除清掃、行商の護衛とかもあるけど、基本的には何でもやる。例外的なのは非合法な活動くらいだけど、裏に回ってやってる連中もいる。
さすがにそういう連中とは関わらないようにしてるけど、一歩間違うと官憲に追われる羽目になることもある、ヤバめな仕事なのだ。
なので女性の場合、冒険者というのを選択することはあまり一般的ではない。魔法使いの資格を取っていても冒険者として活動してない子なんてざらにいるらしい。そういう子達はなんで魔法使いの資格を取るのか? それは単に自衛のためだろう。
身体能力的に男に劣る女性が魔物などが蔓延るこの世界で生きていくのはやはり辛い。だからこそ、魔法なのである。
それを踏まえて見るに、この女性は珍しい部類の人なのかもしれない。だって見た目すごい美人さんだし。生きるだけならそういうお店とかで働いてた方が楽そうだもん。
「あ、ああ。構わねえけど」
「ここでは見ない顔だね」
「私はメトーデといいます。出身は北部高原の先になるのですが、オイサーストまで所用がありまして」
「てことは船で来たのか」
確か北部高原の一部に通行制限が掛けられていて、さらに北に行くには海路しか無いという状況がもう三十年以上続いているらしい。
そのため、ここから西の海岸沿いにあるフルスウーファーは北側との玄関口になっている。
北側諸国の一部であるキュールは、その中でもまだ南側。更に北には帝国を含めて幾つか国があったりする。港町であるフルスウーファーはそこへ出入りする人や物資も集まり大きな街へと発展していた。
「オイサーストに用ってことは大陸魔法協会に?」
「はい。内容まではお話出来ませんが」
くすりと笑うメトーデに冒険者のリーダーが顔を赤らめる。独身男性には少々効きすぎな笑顔だ。このままではくっついて来るな。
オレはメトーデのマントをちょいちょいと引っ張る。
「?」
寛容なようでそれくらいでは怒らないようだ。オレを見ると、しゃがんで視線を合わせていた。子どもの扱いに慣れてる? オレは尋ねてみた。
「ねえ。なんで同行したいの?」
お使いでオイサーストまで来たのだ。 用が済んだら帰るのが当たり前で、寄り道はあんまりしたくないのが普通である。
なのに、いきなり会ったばかりの冒険者の仕事に同行するというのは、あまりにも怪しい。
何か別の意図が有るのではないか。そう勘繰られても仕方ないと思うのだ。
どうも色香にやられて
ここはオレが何とかしないと、ね。
オレの疑問に彼女は少し首を傾げ、逆にこちらに聞いてきた。
「あの……頭を撫でても宜しいですか?」
え、?
いま、なんと言ったのかな?
なんか固まってたら肯定の意と取られたのか、右手を伸ばして頭を撫でてきた。
「うふふ……」
「……」
うお……。
このひと、すごい撫でるのうまい。
なんとも柔らかく、優しい撫で方に少し陶然としてしまった。
「はっ!」
手を払って距離を取ると、彼女は残念そうな顔をしていた。
「な、なんで撫でるん?」
「えーと、かわいかったので♡」
ええ……
子供相手とはいえ、初対面の奴の頭なんて撫でないと思うんだけど。
若干の不安を抱えて、オレ達は冒険者ギルドを後にした。
ここから北に少し行ったところにある村が目的地。今からなら夜には着くはず。
一人だけ歩幅が狭いオレが足を引っ張るのは当然であったけど、リーダーも他のみんなもそれは言及してこない。何故ならば、行軍速度は落としてないからだ。
「毎度見てるからだけど、楽そうだな。それ」
「意外と魔力喰うんだぜ?」
「俺等にゃ分かんねぇからな」
みんなの横をすいすい動いてるオレ。歩いている人特有の揺れもない。足が地面に着いていないのだから当然だ。ホバークラフトの如く進んでいるオレの魔法、『
ドム・トローペンと言ったらホバー移動でしょ。というわけで開発に注力していたんだけど、ようやく形になったのだ。
足の下の空気をクッションのようにして、移動は背中の真ん中の辺りから防御魔法から抽出した術式を使ってみた。
アイドリングだと人の歩く速さ程度だけど、最大で時速六十キロくらいまでは出せる計算だ。もっとも、オレの魔力だと数秒程度しか持続できないし、ぶつかったら人身事故(自分が)なのでそんな事はしないけどね。
「ここ、柔らかくて良いですね」
「あの、メトーデさん。足元の空気層はあんまり触らないでね」
ここは見えない風船のような形で保っている。実際のホバークラフトとは違うのだ。メトーデさんがぽよぽよと触るくらいでは壊れないとは思うけど、強度実験とかはまだなのだ。
両足の下にバランスボールを付けたような状態と言えば分かりやすいかもしれない。最初はよく転んだけど、それも暫くすれば慣れてしまった。
実はこの魔法、学校の連中には見せてはいない。どこからか漏れてまたオイサーストまで呼ばれるのは御免被りたいのだ。オイサーストに行くのは構わないんだけど、あのゼーリエって人がどうも苦手なのである。
ちなみに、あの魔法は正式に『
まともに使えるのは今のところオレとゼーリエだけらしいけど、大陸魔法協会の魔導書として正式に所蔵されることにもなったそうだ。
「私にも使えますかね?」
「両足別々の玉で玉乗り出来るなら可能ですよ?」
「……すこし、難しいかもですね」
メトーデさんは眉間にシワを少し寄せてからそう答えた。確かにムズいんだよね。でも慣れるとすいすい動けてしまうのだから便利なのだ。魔力消費もああは言ったけどそこまで酷いわけじゃないし。
「……」
横を歩くメトーデさんがこちらをじっと見てくる。な、なんだ?
「いえ、何でもありません」
いや。何でもないって感じじゃなさそうだったけど。
「! 前方五十、
「林の向こうか」
「村人らしい反応もある。急ぐぞ!」
冒険者達がフレッサーを見つけた。戦闘開始だ。オレは推力を上げるとみんなより先行する。
「足止めだけでいいぞ」
「りょーかいっ!」
フレッサーと戦うのは初めてだし、オレだって無茶はしたくない。村人に接近されないように牽制して、時間を稼ごう。
「ごいっしょ、しますね」
「え?」
先行したはずのオレの横を、いつの間にか並走していたメトーデさん。よく見たら、足が地面についてない。
「メトーデさん、空、飛べたんだ」
「いちおう、三級魔法使いなので」
飛行魔法が使えるなんていいなあ。子供の頃に抱いて飛んでもらった記憶が懐かしい。戦闘が終わったら、頼んでみようかな?
まばらな木立を抜けた先に、大きめの獣が二匹いた。逃げ遅れた農夫のおじさんがすぐ傍にいるけど、彼らは気にした様子もなく畑に頭を突っ込んでお食事してる。
「オレが牽制するからメトーデさんは農夫の方を回収して」
「……分かりました」
少し間があったのが気になるけど、オレが大人を抱えるとか無理なんよなぁ。オレは腰紐から杖を取り出すと詠唱を始めた。