百合の間に挟まるつもりは毛頭ないんだが   作:とくめい

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感想に奮起されて書きました(ゲンキンな筆者)


第二話

 一般攻撃魔法。

 『人を殺す魔法(ゾルトラーク)』という魔族の賢老クヴァールが開発し、人類がそれを解析したという少し特殊な経緯を持つ魔法だ。

 

 それまでの一般的な攻撃魔法とは何だったのかは知らないけど、近代の魔導書には必ずと言っていいほど記されている。

 

 曰く。使いやすくて軌道もかなり自由度が高く、かつ威力も申し分無い。一般防御魔法という対になる魔法が無いと防ぐことも容易ではないなどかなり鬼畜な仕様である。え、これ必須科目やん。これ覚えないと絶対不利になるやつやん。

 

「ダッセェーッ! それがゾルトラークかよ?」

 

 ラヴィーネの嘲笑を含んだ声が校庭に響き渡る。

 

「だいたいなんだ、その構え? 杖で出すのが普通だろ? なんで両手使うんだよ?」

「うるせえなぁ、オレの美学だよっ!」

「はぁ〜? びぃがぁくぅ〜?」

 

 目を平たくして煽るラヴィーネ。まるで前世で見たスパイ一家の子どものようだ……腹立つなぁ。

 

「はどーけんっ!」

 

 気合一閃。オレの構えた両手の間には白い輝きが集まる。見ろ、カッコイイじゃねえかよっ! かめはめ波でもいいんだけど、どっちかと言うとオレはストII世代。波動コマンドから発射されたそれは勢いよく……いきおいよく……なく。地面に落ちてジュッと消えてしまった。

 

「おいおいおい。三メートルも飛んでねえじゃねえか。ゾルトラークってこんなショボいもんだったっけか? ああ?」

 

 腹を抱えて笑い転げてるラヴィーネ。他の連中も何だかこみ上げる笑いをなんとか堪えてるようにも見える……あ、カンネもか。

 

「あの、トローペンさん。我流に挑むのは構わないのですが、まずは杖を使って基礎的な撃ち方を修得しましょう」

「は、はい……」

 

 先生に言われたのでしぶしぶ杖を取り出す。

 

 今のオレの杖は学校からの供出品であり、貸与されているだけのものだ。大陸魔法協会の監修で造られた必要最低限、かつ低コストで作られている物なんだけど、それでも、十代の子供に買えるような代物ではない。

 

 某映画の魔法使い達が使う杖に酷似してるのは強制力なのか、無駄を削ぎ落としていった故の相似性なのかは判断に迷うところだ。

 

一般攻撃魔法(ゾルトラーク)

 

 的に向かって杖を振るい、術式を起動する。何度も本を通して覚えた術式が杖を通して構築されて魔法陣を描き出す。いつ見ても綺麗だと思うけど、それに見惚れてはいられない。

 

 的に向かい正確に真っ直ぐ射抜く軌道を脳内に描き出す。杖がそれを受け取り、魔法陣に造られた光の玉にその情報を渡す。これでこの術は的に向かって放たれる形になる。

 

 ここまでは容易だから、もう一つ出してみよう。先のを維持したままだけど、魔法陣を出すことは出来た。

 

「え?」

 

 同じように軌道を描く。こちらは捻って後ろから射抜く形にしてみようか。動かない対象だから演算も容易と見えてすぐに終わる。

 

「ちょ、ちょっとトローペン?」

 

 あとは術式開放。同時に当てるにはあとのを先に撃つべき? ならそうしよう。二つの魔法陣から連鎖的に光弾が放たれる。

 

 尾を引く軌道が曳光弾のようにカッコいいけど、オレの趣味じゃないな。やっぱりおっきい玉が飛んでくほうがロマンあるじゃない?

 

 スパァン

 

 的である木の板はなんの抵抗もなく砕け散る。前後から同時に着弾したせいか的は木っ端微塵である。

 

「こんな感じで、いて」

 

 振り返ったら先生がコツンとゲンコツをくれてきた。

 

「まだ多重起動は教えてませんっ 事故が起きたらどうすんですか?」

「す、すいません……」

 

 ぷりぷりと怒る先生はとても怒ってるようには見えない。けど、まあ謝罪はしよう。

 

「なんだアイツ……」

「二つ同時に、しかも一つは曲射とか」

「ただのケンカバカじゃなかったのか」

 

 いまケンカバカって言った奴、四の字固めな。

 

「でも、素晴らしい精度でした。実戦で使えれば中々に対処が難しいでしょうね」

 

 先生は叱っても褒める所は褒めるらしい。いい先生だなぁ。前世の教育関係の人間たちは爪の垢煎じて飲んでほしい……いや、よく考えたらご褒美でしかないかもな、やめとこ。

 

「みなさんも頑張ってくださいね。一般攻撃魔法は現代の攻撃魔法の基礎とも言える物です。きちんと覚えましょうね」

 

 先生はそう言うと、みんなにも実技を促した。ラヴィーネやカンネもきちんと撃つことが出来てる……のか? ラヴィーネのは真っ直ぐ突き抜けて飛び過ぎだし、カンネはふらふら動いてペコン、と当たってる……逆に制御が難しくない、アレ?

 

「ラヴィーネさんは少し注力する魔力量を少なめにしましょう。カンネさんは的をきちんと定めて下さい」

 

 ふむ。自分的には分からなかったけど、そういうところで差が出るのか。さすが一般攻撃魔法……奥が深い。

 

「魔導書に書かれている事を覚えるだけでは魔術は使えません。自身の魔力量やそこに注力する魔力量、魔術を成すための情報なども大事です。今は動かなくて簡単に壊れる的ですが、実戦ではより素早く、硬い目標などもありえます。その辺りを考えて、習熟していきましょう」

 

 先生の言葉に頷く生徒たち。オレも勿論頷いておく。そうだよな、魔族が動かないわけ無いし、木の板なんかより硬いだろうし。

 

「的が無くなるまでは続けましょう。トローペンさんはこちらへ」

「え」

 

 呼び出しかよ……振り向くとラヴィーネが悪い顔していた。ちなみにカンネの方は『どんまい』って言ってるみたい。

 

 

「トローペンさん、気持ち悪くはないですか?」

「え?」

 

 呼び出された部屋で、先生はそんな事を言ってきた。

 

「特には」

「……少々失礼しますね」

「わ」

 

 そういうと先生は衣服のお腹を捲って胸のあたりを触ってきた。

 

 こ、これってイチャラブ案件?

 ……な訳ないか。どう見てもお医者さんの触診みたいだし。

 

「……おかしいですね」

「な、何がです?」

 

 なんか怖いこと言い始めた。

 なんか病気とか患ってたの?

 

「そ、それはどういう……」

「いえ。先ほどの並列処理から相当量の魔力を使ってるのではと思ったんですけど……」

 

 どうやら魔力量を測っていたらしい。そう言えば最初にもやられたっけ。あの時はおばあちゃん先生だったから気にもしてなかったけど。

 

「というか魔力量少ないですね、トローペンさん」

「ああ、そうですね」

 

 そう言われたのも覚えている。確か『魔法使いになるには最低限な量しかないのう』って言われたもの。

 

「まあ、魔力量は歳を重ねると増えていきますからね。頑張っていきましょう」

 

 先生は取り繕うように笑みを浮かべる。それは地元の村でも言われたことだし、理解もしていた。

 

『お前に魔法使いなど務まるものか』

 

 脳裏に浮かぶ影を、塗りつぶす。

 思い出してもいいことなぞ無い。オレは薄ら笑いを浮かべて答える。

 

「魔力量ってどうすれば増えるんでしたっけ?」

「そうですね。一番良いのは魔術を使う、事ですね。体内の魔力は減ることで外界から取り込みやすくなります」

 

 これも最初に習ったことだ。

 

「あとは瞑想ですね。内面と向き合うことで体内の魔力を感じ取ると、それを刺激に外界からの取り込みも促進されます」

 

 瞑想か。これも実践済みではある。だけど、オレの魔力量は一向に増えてないようである……難儀なことだ。

 

「あとは時間ですね」

「時間……」

「ええ。先ほども言いましたけど、歳を重ねる事で魔力量は増えていきます。人の身では難しいのですが、百年以上生きたドワーフとかエルフの方などは相当量の魔力を保有しているとか聞きます」

 

 この世界では歳を経た存在が強くなるのか。ならばまだ、十年近くしか経ってないオレが弱いのも当然なんだろう。

 

 そして、それは他の連中含めての話でもある。ここで学んでいる連中は人族しかいないし。

 

「でも、卑下することはありませんよ? 大陸魔法協会の一級魔法使いの方々は殆どが人族です」

「つまり、そこまで登り詰めることも出来る、という事ですね」

「その通りですっ」

 

 つくづく、いい先生だなぁと思う。明らかに気落ちしてる子供にここまで心を砕いてくれるなんて……聖女かな?

 

「聖女かな?」

「わ、私は魔法使いですよ?」

 

 あ、声に出てた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうしました、ヴァルムさん」

「院長先生」

 

 院長先生であるバンデ導師は大陸魔法協会での二級魔法使い。既に六十を超えた老齢の割にしっかりとした歩調です。でも、最近は私にばかり授業を任せてしまうのが困りものです。私自身ももう少し研鑽する時間が欲しかったりもするのですが……

 

「いえ、トローペンさんの事で少し気になりまして」

「トローペン……ああ、あの童子(わらし)かね」

「今日は一般攻撃魔法の実技だったのですが……」

 

 私は疑問を聞いてみました。あの子が一般攻撃魔法を並列起動、並列処理を行っても魔力切れを起こさなかったことを。

 

 すると導師は少しだけ笑って答えます。

 

「そりゃ減っとったのだろ?」

「ええ……?」

 

 私なにか言い間違えたかな?

 

「ふぉ、ふぉ。狐につままれたような顔しとるの」

 

 にこやかに笑う姿はとても優しく、この方こそ聖母なのではと思ってしまうほどです。まあ、魔法使いなので聖母とは呼べませんが。

 

「認識できる所が減ってなかっただけじゃわい」

「は?」

 

 意味が少し分かりません。

 

「大魔法使いフランメがその弟子フリーレンに授けた秘伝を、お主は知っているか?」

「いえ……秘伝なんでしょう? 私なんかが知り得るはず無いじゃないですか」

「じゃろうなぁ……」

 

 そして、導師は杖をついて部屋を出てしまいました。

 

「なんなのよ……」

 

 窓の外を見てみると。

 

 ラヴィーネさんに関節技を掛けるトローペンさんが見えました。ああ、ああ、砂だらけに……。女の子なんだからもっと気を遣うべきなんでしょうけど……

 

「まだまだ子供だしね」

 

 あ、ひっくり返りました。




ヴァルムさんとバンデ導師は、地方名からの流用です。
あと、魔法に関しての解釈や考察などはけっこう適当な想像が入ってます。
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