百合の間に挟まるつもりは毛頭ないんだが   作:とくめい

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続きました。
この街はオイサーストではなくて近隣の中規模の街、ということにしています。ラヴィーネの父が領主をしてる感じかな。

誤字報告、ありがとうございました〜。


第三話

 魔法学校に通う間にも生活はある。

 

 幸いなことに学費だけは免除されている身だけれど、ものを食べねば飢えて死ぬし、眠らなければやはり死ぬ。着るものがなければ寒さで凍え死ぬだろうし、水が飲めねば暑さに乾いてやはり死ぬのだろう。

 

 デッドエンドマニアでもない限り、御免被りたい話である。

 

 もちろん、オレだってそんなマニアじゃないし、ゲームならいざ知らず自分の命がかかってるリアルでそんな真似ができるほど、頭のネジは外れちゃいない。

 

 まあ、そんなわけで仕事に明け暮れる日々なわけだが、これが滅法めんどくさい。

 

 まず、俺達くらいの年齢のガキが働ける場所なんてそうそう無い。普通は家の手伝いとかするのが当たり前だ。

 

 そうでない奴が外に出て働くわけだけど大抵は商家とか土地持ちの農家とかに丁稚として契約するのが普通である。丁稚奉公は住み込みが基本であり、生活の中心はそちらになる。つまり魔法なんぞ習う暇など出来ないのだ。

 

 オレの場合は当然、その普通には当たらないので丁稚とかはしていない。ならば何なのかというとこういったファンタジー世界での一般的な職業ということになっていた。

 

「今日も一人かい?」

「おう、あいも変わらずぼっちだぜ?」

「悲しいねえ。衛兵の仕事がなかったら付き合ってもやるんだが」

「その気もねぇくせに言ってんなよ? 奥さんに言いつけるぜ?」

「けーっ! 可愛げねえなぁっ、行っちまえ」

「言われんでも行くよっ! 昼には戻っから」

「おーう」

 

 衛兵のおっちゃんとのやり取りも慣れたものである。この街の辺りは魔族の出現報告もなく、強い魔物も領軍が適宜間引いてくれているから比較的少ない。子供一人でも採集依頼なんかは簡単にできるのである。

 

 そう。

 今のオレは、冒険者。

 

 最弱なランクだし、武器はちっこいナイフしか無いけどれっきとした個人事業主だ。前世のオレは踏ん切りつかなかったけど、今生ではこれしか選択できなかったのだから仕方がない。前向きに受け取ろう。

 

 今日の依頼は薬草類の採集。とはいえ決まった量という感じではなく取れた分を買い取ってくれるという形のもので、正確に言えば依頼ではない。

 

「ザルバイ、十、ローズマリーン、八、バジリコム、十二……」

 

 この辺で取れるものはだいたい前世でも同じハーブ類である。セージ、ローズマリー、バジルなど地上に生えてる草の場合採取は楽だ。今回はシャベルは持ってきてないので生姜とかを見つけてもスルーしておく。場所だけは覚えておくけど。

 

 あらかた回収したら次は罠の方も確認する。大きな獲物は取れないけど小さい物なら持ち帰れるし、買い取ってもらえなくても最悪自分で処分できるし。

 

「お、かかってる」

 

 (ヴィーパー)だ。これなら薬屋の親父が買い取ってくれそうだ。噛まれないように気をつけて、と。革袋に入れて口を固く縛ればもう安心。

 

「今日はこの辺で……」

 

 と思った瞬間。ピンと来た。

 

 ……いるな。

 

 距離凡そ二十メートル、立ち木の向こう側に動く比較的小さな魔力を持つ生物。向こうもこちらに気付いたか、こちらに寄ってきた。

 

「魔力、変動なし。近接タイプか?」

 

 こちらの攻撃魔法のように魔力を打ち出してくる奴は、その際に揺らぎがある。対して近接攻撃が得意なやつはその揺らぎが少ない。これは体内に魔力を溜め込んで攻撃の威力を高めるためだ。こちらで言う身体強化の魔法に当たる。

 

 ちなみに、人族やエルフなどと魔物とでは魔力の反応が違うのですぐ分かるのだけど、魔族の場合は注意が必要になる、らしい。あいつらは偽装が上手いというのだ。まあ、外見を見れば一発で分かるらしいけど。

 

 どうもコイツは狼型の魔物のようだ。動きが早い。荷物をすっと降ろして腰に下げた杖に手を伸ばす。

 

『まだ実戦はいけませんよ』

 

 先生の言葉が頭に浮かぶけど、相手の方は待ってくれない。これは正当防衛。仕方ない、仕方ない。

 

 覚えたばかりの一般攻撃魔法を起動。すでに標的はかなり近い。最短距離での軌道を設定する。茂みの中から飛び出すそいつは、大きな口を開けて飛び掛かってきた。

 

一般攻撃魔法(ゾルトラーク)

 

 小さな破裂音と共に、そいつは砕け散った。あとに残るのは霧散していく黒い霧状のものだ。

 

 ファンファーレは、無い。

 レベルアップを報せる声も、無い。

 

 ただ、初めて魔物を倒したという実感だけがオレにもたらされた。

 

『うえ?』

 

 そんな余韻に浸る暇は無かった。もっと多い魔物の反応があったのだ。数はかなり多いとしか言えない。こちらに向かって一斉に近づいて、というか突撃してくる。

 

『やべぇ、シクったか?』

 

 狼型の魔物は群れるやつが多いとか。そんなどこまで真似なくてもいいのにと思うけど、どうにも出来る訳もない。

 

『逃げよう』

 

 荷物を拾おうかと思ったけど、命には代えられない。そのまま放りだして一目散に逃走を始める。だが、所詮子供の足だ。狼と走っても勝ち目などあるはずもない。すぐに追いつかれてしまうだろう。

 

『どうせ逃げらんないなら、少しでも倒そう』

 

 全滅なんて無理だけど、多少減らせば街への被害も減らせるだろう。先生とか同期の友人とかの顔が目に浮かぶけど、そんな泣き言は後回しだ。

 

一般攻撃魔法(ゾルトラーク)

 

 手近の奴に打ち込む。距離とか軌道とかはほぼ省略。それでも身体の左半分を削り取って黒い霧に変じさせる。しかし、相手はもっと多い。この間と同じように多重起動を試みる。

 

「ガウッ」

「くっ」

 

 噛みついて来るのを避けたせいで起動に失敗した。もう一度やってる場合じゃない。咄嗟に左足で蹴り上げるけど、奴はさっと身を翻す。その間に後ろから別のやつが噛みついてきて、

 

「たあっ!」

「ギャウンッ」

 

 え?

 

 襲いかかってきた狼型が何故か倒された。周りの奴らも警戒して足を止める。そこへ「いけーっ」

 

「あぶなっ!」

 

 咄嗟に下に避ける。そのすぐ上を白い軌跡が通り過ぎ、狼型の魔物を撃ち抜いて、さらに後方の木々を薙ぎ倒す。

 

「ラヴィーネッ! きちんと狙え、当てそうだったぞ?!」

「だいじょーぶだよ、そいつなら避ける」

「そういうことじゃ、ないんだよなぁ」

 

 槍の人の後から何人かの鎧姿の人たちが走ってきていた。狼型の魔物は逃走しようとするけど、とんでもない速さで追い抜いてバッサバッサと倒していく。

 

「……よ。無事だったみてえだな」

「当てられそうだったから、礼は言わないぞ」

「恩に着せるつもりなんかねーよ」

 

 押っ取り刀で歩いてきたラヴィーネの手を借りて立ち上がる。

 

「しかし。間に合ったからいいけど、なんでこんな森の中にいんの?」

「採集だよ。お仕事、アルバイト」

「ああ。冒険者のか」

 

 置き捨てていた荷物を探しに行くときちんとあった。魔物は基本的に何でも食うからダメかと思ったけど、良かった。

 

「で? そっちはなに?」

「兄貴たちの間引きに付き合ってんの。ほら、一般攻撃魔法使えるようになったから試し撃ちだよ」

 

 いひひとでも笑いそうな顔をしてそう答えるラヴィーネ。確かまだ先生は許可してなかったと思うんですけどねぇ……まあ、藪蛇になりそうだから言わないことにした。

 

「その子は無事かい、ラヴィーネ」

「こいつは殺したって死なねーよ、アインス兄さん」

 

 一番背の高い槍の人がアインスか。てことはまさかツヴァイにドライとか?

 

「やあ、僕はツェーン。二番目の兄だよ」

「可愛いね、君。僕はフンダート。三番目の兄さ」

 

 ……捻ってきたな。十と百か。山本五十六の話を思い出したぞ(笑)

 

 それはともかく、お礼くらいは言わないと。ラヴィーネはともかくこの人たちが助けてくれたのは確かだからね。

 

「助けてくれて、ありがとうございます」

 

 ぺこりとお辞儀をする。彼らは素直をそれを受け取ると、一緒に帰ろうと言ってくれた。断る理由もないし、同行することにする。

 

「にしても一人で来てんのかよ。危ねーなぁ」

「自分の稼ぎだからね。これで食ってるんだし」

「今度から付き合ってやるよ。兄貴たちといると出番少なくてよ」

 

 そう言うとお兄さんたちは手を広げて諦めた様子だ。それはそうだろうね。大事な妹を怪我させたくないんだろうし。

 

「君はトローペン、だったかな?」

「はい。三つ目柳の宿屋でお世話になってます」

 

 彼らは知っているだろうけど、一応自分から話す。アインスさんが頷いて言ってくる。

 

「今日は運が良かったけど、採集だけなら森の中まで来る必要はなかったんじゃないかい? 間引いているとはいっても魔物はすぐに出てくるからね」

「実は、罠を仕掛けてまして」

「君、罠とか仕掛けられるの?」

 

 ツェーンさんが驚いたように言う。オレのいた所ではみんな普通にやってたのだけど、どうもここでは猟師の仕事らしい。ところ変われば、ということだろうね。

 

「蝮とか危ないよ? 毒があるんだから」

「平気ですよ? 頭を押さえちゃえば噛めませんから」

 

 蝮の入った袋を見せるとフンダートさんがオドオドした様子で言ってくる。なかなかに個性的な人たちだ。

 

「なあ、その口調やめね?」

 

 ラヴィーネが口を尖らして言ってくるので、返す刀でこう言った。

 

「え? おめえにはしてねえだろ? オレはTPOを弁えてんだよ」

 

 すると、少し嬉しそうな顔をするラヴィーネ。あれ? お前ひょっとして、ぞんざいに扱われる方が好きなの?

 

 

 

 

 街まで帰ると、そこで彼らとはお別れ。オレは採集したものを換金してこないといけない。

 薬草類は冒険者ギルドの窓口でいいけど、こいつだけは薬屋の親父のトコまで持ってかないといけない。毒は毒消しに、その身は滋養強壮に良いとされてるのでけっこう実入りはいいのだ。

 

「お、なかなか生きが良いじゃねえか」

「苦労したんだぜ? 少しくらいはイロつけてくれてもいいんだぜぇ?」

「ばっかやろう。そこまでじゃねえよ、ほれ」

 

 銅貨が四枚。なんだかんだと一枚オマケしてくれてんだから人がいいねぇ。

 

「毎度、親父! 愛してるぜぃっ!」

「そういうこと、ぺらぺら言うんじゃねえぞっ!」

 

 薬草類の分を足すとこれで銅貨八枚。今日は肉が食べられそうだ。

 

「ただいま〜」

「おかえり、トローペン」

「おかえりなさい」

 

 三つ目柳の宿屋に帰ると、宿のご主人と奥さんが出迎えてくれた。ここの屋根裏部屋が今の家である。

 

「はい、今日のお家賃」

「はい、ご苦労さま」

 

 銅貨四枚を奥さんに手渡す。二階の個室だと三倍はかかるのだけど娘の使っていた屋根裏ならとこの値段で供してくれている。ありがたい話だ。

 

「おーい、帰ってんでしょ? そろそろお昼始まるんだからぁ」

「おっと、いけない」

 

 手早く着替えてから階下の手洗い場で手や足の泥を落とす。タオルで水を拭いながら厨房に入るとカンネが待っていた。

 

「お昼までに戻るって言ってたじゃん。お掃除大変だったんだからね」

「悪い悪い。悪いお嬢様に引っかかっちゃってさ」

「ラヴィーネに会ったの?」

 

 怪訝そうに聞いてくるカンネ。安心し給え、百合の間に挟まる野暮はしないさ。

 

「魔物の間引きしてる兄ちゃんたちのお供だとさ。あいつ、魔法使ってたから先生に告げ口してやろうと思ってね♪」

「あらぁ〜、それはいいわね〜」

 

 途端に鼻歌交じりに機嫌が良くなるカンネ。そちもワルよのう。

 

「さあさあ、お店開けるからね」

「「はーい」」

 

 奥さんが扉を開けると、昼飯に飢えた野郎どもがどかどかと入ってくる。

 

「いらっしゃいませー♪」

 

 宿屋、三つ目柳、お昼の部の開店である。

 




カンネの給仕服は残念ながらメイド服じゃありません。まだ子供なので普通の平民服っぽい感じです。
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