百合の間に挟まるつもりは毛頭ないんだが   作:とくめい

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最初はカンネ、次にトローペンとなってます。宿屋の娘というのは本作だけの独自設定です。大目に見てくだせえ(笑)


第五話

 朝の空気は大好きだ。なんというか清廉な感じがしてる。宿の前からは規則正しい箒の掃く音がしていて、薄暗い室内にも聞こえてきてる。

 

「おはよう、カンネちゃん」

「おはようございます、トマスさん。今日も早いですね」

「貧乏暇無しだよ。行商人は辛い」

 

 ウチの宿は北方諸国有数の大都市、オイサーストに向けて往来する人たちを中心に営業している。規模は小さいのだけど、それ故に常連さんしか泊まる人はいない。

 オイサーストへの観光をする人たちは門前宿へ行くし、お金を節約したい人たちならもっと安い宿とかもある。

 

「予定通りでしたら次は四日後ですか?」

「ああ。いちおう予約入れたから。じゃあ、頑張ってね」

「はい、いってらしゃいませ」

 

「あれ、もう出るのトマスさん」

「おお、トローペンか。うん、明日には手前の村まで着きたいからなぁ」

「んじゃ、厩からヨッホとベットを出してくるね」

「すまんの」

 

 表からトローペンとトマスさんの会話が漏れ聞こえる。もうすっかりウチの一員みたいになっちゃってるけど、実のところまだ一年くらいなんだよね。やっぱり、頭の出来が違うのかも。

 

「おう、帰ったぞ」

「おかえり、父さん。トマスさんがもう出るって。いま、トローペンがロバたち出してるって」

「そっか。んじゃ、手伝ってくるから。こいつ台所に運んでおいてくれ」

「分かったー」

 

 市場に買い出しに出てた父さんが帰ってくると、野菜を手近なテーブルに置いて表に戻った。こっちの布袋はお肉かな?  ともかく台所に運ばないと怒られてしまう。

 

「母さん、父さん戻ったよ」

 

 野菜の束を縛り付けた紐を持って台所に行くと母さんに声を掛ける。母さんは店の食事の仕込みの最中だ。

 

「あら、本人は?」

「トマスさんがもう出るから荷馬車の取り付け手伝いに行ったよ」

「トマスさんもマメねぇ。この時期はそんなに大きな利益も出ないでしょうに」

 

 置かれた野菜を紐解きながら母さんが言う。冬を越してすぐのこの時期は新鮮な野菜や肉類なんかも多くはない。大概は干し肉や漬け物だから日を跨いでも構うまいと何日か骨休めする人も多いのだとか。そんな人達に比べるとトマスさんはマジメなんだな。

 

「ここから山の方を行き来してるんだよね」

「そうよ。冬の間は山にも行けなくなるから、その前に色々と貯め込む必要があるの」

 

 私の問いに答えてくれる母さん。雪が降っても道が通れなくなる程ではないこの辺りと違って山の方は道が分からなくなるほどだという。

 

「おはようございます、ヴァナさん」

 

 洗い桶から水で手を洗うトローペンが母さんに挨拶をする。ラヴィーネと会話する時と違って、丁寧だし落ち着いてる。でも、アレの方が稀だとかなり前に気が付いた。

 

「だいぶ馬丁(ばてい)も板についてきたな。何なら給金も」

「それはご勘弁です。いちおう冒険者の端くれなんで」

「プライド高えなぁ」

 

 後から入ってきたのは父さんとそんな会話をするトローペン。彼女は冒険者というものに何故か固執している。その理由は分からないけど。

 

「私も、その方が楽できるからいいんだけどな」

 

 だから、こんなことを言ってみたりもする。

 

「カンネの仕事を取るわけにはいかないからね」

「あっそ」

 

 だから、彼女がしているのは単なるお手伝いだ。私とおんなじ。父さんや母さんに言われてやる訳じゃなく、自分から手伝ってくれる。

 

「それより。今日は学校無いだろ? 夕方まで採集行ってていい?」

 

 彼女が上目遣いにそう頼み込んできた。ちょっと狡いやり方だと思うけど、こうかはばつぐんだ。

 

「いいよ。トローペン一人居なくてもなんとかするし」

 

 実際、トローペンが来る前までは何とか出来てた……かな? あの頃はまだ接客とかしてなかったかも。とはいえ吐いた唾は飲み込めない。フフンと鼻を鳴らして胸を叩く。

 

「あらー、ほんとう? カンネ」

「頼もしくなったな」

 

 両親はニヤニヤと笑いながら言ってくるけど。こうなりゃ、仕方ない。

 

「やった♪ カンネ、愛してるぅ♡」

 

 背中を叩いてそう言ってくる。全くもう……。ラヴィーネとは違う意味で、厄介な子だよ。ほんと。

 

 

 

 

≫≫≫

 

 

 

 

 カンネのお許しも出たので、今日は少し遠征することにした。薬屋の親父の話によると、隣村の前あたりにある横道の先に、良い収集場があるそうだ。近辺の奴はあらかた取っちゃったから育成期間を置かないといけないので別の場所を探してたんだけど、渡りに船だった。

 

「ここか……えっと、リペット湖だっけ」

 

 別れた道は少しだけ勾配があって、なかなかに体力を削っていく。子供というのはやはり体力が少ないなぁ。ひいひい言いながら辿り着くと。

 

「おお……」

 

 山間にひっそりと佇むその湖は、かなり幻想的な風景を成していた。現世でもあまり出歩かなかった人間であったけど、東京の端にあるダム位は行ったことがあった。でも、これはそんなのとは全く違う……言うなれば大自然そのものだ。

 

「あれが言ってた村か」

 

 ここから右手周りに三キロ程行ったところに集落が見える。魔物に襲われたらそこまで逃げればいいと言われた。なんでも結界があるらしいのだ。村程度には無いものだと思っていたけど、大魔法使いフランメが存命中にあった村だとそれは残ってる事が多いという。おそらくそのひとつなのだろう。

 

 話にあった場所はそちらとは逆に左手周りに行った一キロほど。石像があるところの道を行った先だそうで。行ってみると確かに男が二人立っている姿の石像があった。

 

「一人はエルフで……こっちは僧侶、かな?」

 

 立派な体躯のエルフって、俺のイメージからはかけ離れてはいるけど……噂のフリーレンじゃないよな。あの人、女だって話だし。こっちの人もハイター、じゃないな。顎髭がカッコいいけどハイターって眼鏡かけてたらしいし。

 

「名前とか彫ってないのか……残したいのか残したくないのか分かんねえな」

「もう忘れ去られた英雄様じゃよ」

「えっ?」

 

 いきなり話を振られたから驚いた。見ると後ろにローブを纏ったお婆さんが一人。ていうか、魔力を感じなかったぞ。

 

「お前の歳だと一人でここまで来るのは難儀じゃったろう、トローペンや」

「しかもオレの名前知ってるし」

「……わしを忘れたのかえ。はあ……」

 

 なんか、お婆さんが落胆しちゃった。えっと、ええと。あっ

 

「お婆ちゃん先生?」

「……ま、ええわ」

 

 そう言うと、オレの前に歩み出た。何やら呪文を唱えると石像の周りの苔や汚れがみるみるうちに無くなっていく。

 

「お、おお……」

「『石像の汚れを落とす魔法』じゃよ。欠けた所を直したり、銅像には使えんかったりするがの」

 

 感動するオレを見ずにそう説明する。

 

「民間魔法に興味があるのか?」

 

 そう聞いてくるので、魔法なら何でも、と答える。オレにとってはこの世界、というより魔法自体が興味の対象だ。

 

「そりゃあ、貪欲じゃのう。フリーレン様のようじゃわい」

「フリーレン……て、そうだったの?」

 

 魔王を討伐した勇者パーティーの大魔法使いフリーレン。もう何十年も前の話だし、勇者ヒンメルの話は多いけどフリーレンの話はそこまで多くは伝わってない。たぶん、もう少し大きい図書館とかならそういう蔵書もあるかもしれないけど。

 

 ふむ、と笑ってお婆ちゃん先生はこちらを見る。なんだかイタズラでもしそうな顔だ。

 

「では、フリーレン様の好きだったという魔法を見せてやろう」

「ええっ? マジで?」

 

 彼女が何か呟くと、石像の周りの草が伸び始め…やがて花を咲かせた。

 それはどんどん広がっていく。

 

「わ、わああ……」

 

 気が付けば。湖畔の三分の一がお花畑のようになっていた。

 

「ふう……年甲斐もなく、はしゃいだわ」

「すげえ、お婆ちゃん、スゴいよ」

 

 このときはオレも、やはり年甲斐もなくはしゃいでいた。魔法の何たるかをまざまざと魅せつけられたような気がしたのだ。

 

 植物は芽が生えて花を咲かせるまでにそれなりの日数が必要だ。それがこんなにもたくさん咲かせるとか、魔法でないと有り得ない。

 

「いつかは教えてやるわい」

「うんうん、ぜひとも習いたいっ! できれば他のも教えてほしいな」

「五級試験に合格したらな」

 

 なるほど、五級か。いまのオレは八級だからけっこうすぐかもしれないぞ?

 

 目標が出来て喜ぶオレは、この後の悲劇を知らなかった。

 

 

 

 

 

「ぜんぶ、花畑になってるぅ……」

「ごめんて」

 

 薬屋の親父の言ってた採集場所は、お花畑に飲み込まれていた。

 

 ぐっすん(⁠´⁠;⁠ω⁠;⁠`⁠)




花畑にする魔法の被害者とか珍しい(笑)
今回はラヴィーネはお休みでした。
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