百合の間に挟まるつもりは毛頭ないんだが   作:とくめい

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今回は主人公は出ません(笑)


第六話

「バンデ様、ご機嫌麗しゅう存じます」

「おやおや。すっかり淑女になりましたなぁ、エーレや」

 

 老魔法使いの家を訪ねてきたのは、昔の知り合いとその孫娘。この街の領主の孫娘と同じくらいの歳だと思われた。

 

 少し濃い目の茶色の髪をつやつやと輝かせているのは若さの現れか。老境の身にすれば眩しかろうというものであった。

 

「息災なようで安心したよ。せめて返事の鳥くらいはちゃんと送ってくれんと気になるだろう」

 

 そして、その知り合いの方はと言うとやや痩せ型な身体を揺らしている。この家に来ると必ずこのロッキングチェアを所望するのは相変わらずの子供っぽさであった。

 

「お主より年若いのじゃから死ぬわけなかろうて。変わらず気が小さいのう、レルネン」

 

 にやりと笑って、嘯く老婆。瞳にはいたずら好きな輝きが見て取れる。老爺の方はと言うと、やれやれと頭を振った。

 

「人が心配してるのに、畏れ入るな。エーレ、お前はこうはなるなよ?」

 

 そう言われた孫娘は、にこりと笑って老婆の背中に回り腕を絡ませる。

 

「あら、私の目標はお二人ともなのよ? 真似をするのは当然なのですが」

「こりゃ、エーレのほうが上手じゃのう」

「まったく……」

 

 ふたりとも、年若い子供には甘いのであった。

 

 

 

 

 

 

「エーレの様子はどうじゃね?」

 

 バンデは紅茶を啜りながらそう聞く。エーレを街に送り出してからするのだから内密な話なのだろう。

 

「ああ。すっかり……とは言えん。だが、魔法を学ぶという目標が出来たおかげか前向きになってるようだよ」

 

 レルネンの言葉も落ち着いている。エーレは幼い頃に自身の両親を魔族に殺されている。ふらりと現れた魔法使いがいなければ、彼女もこの世には居なかったはずだ。

 

 レルネンの実家が引き取って育ててはいるが、そもそも平民の血の入った子ではある。魔法使いとして身を立てる事を選択したのは当然であるし、それによって自らを奮起している。

 

「魔王が死んでも魔族との諍いは減らないのう。難儀なことじゃ」

「なればこそ、お主も現役の復帰を考えてみてはどうだ?」

 

 

 レルネンの言葉に、バンデは黙り込む。脈無しなのは分かってはいたが、事あるごとに聞いているのはその素質を買っているからだ。彼女も数多くの魔族を屠る実力を持っている。確かに人族にしては高齢だが、レルネン自身よりは十も下なのだ。

 

「ゼーリエ様も気にしておられた」

「なんと言っておられたのだ?」

「『後進を育てるならより高みの者を育てよ』と」

 

 レルネンはゼーリエの言葉をそのまま伝える。心酔する師の言葉を勝手に改変するなど彼がするはずはない。

 

「……あの方も変わりなさそうじゃな」

「我らより遥かに昔からそうであった方なのだからな。変わりはすまいよ」

 

 レルネンの緩やかな肯定に、バンデは言葉にすることにした。

 

「わしはあのやり方は好かん。それは知っておるじゃろ」

「存じてるよ。昔からね」

 

 バンデは二級魔法使いである。それもかなり優秀な。レルネンはそう理解している。

 

 そして、あえて一級魔法使いへならなかった事も理解していた。それは大陸魔法協会の創始者であるゼーリエとの確執が原因であった。

 

「戦いのみが魔法使いには非ず」

 

 大陸魔法協会は戦闘の技術を指針に判定をしている。これは創始者のゼーリエの意向だからだ。

 

「魔王との戦いの頃の洗練された魔法使い」を追い求めるその姿勢が戦闘狂として目に映る彼女には、受け入れられなかった。

 

「ゼーリエ様は思慮深く、寛容だ。お前の考えもある程度は理解しているはずだよ」

「そのために、若い魔法使いたちが命を散らしたとしても仕方がないのかい? 一級魔法使い選抜試験で死んだ連中にもそう言ってほしいさね。魔族と戦って死ぬならまだいい。体面は立つからの。しかし、たかが試験じゃぞ? 後進を育てるつもりなら、作物を間引くような真似はせんだろうが」

「それも分かるが、な。私は師を尊敬している。その理念も、いつかは必要なことだったと思われるようになる」

「戯れ言じゃな。人とエルフでは感性が違うぞ」

「それでもだよ」

 

 

 この辺りのことは何度も話してきて、未だに双方ともに折れることはない。レルネンはゼーリエへの信仰のために、バンデは己の信念のために。

 

 レルネンは紅茶で喉を湿らす。少し熱が入ってしまった。我ながら子供じみてると思うが、それもまた自分なのだ。それに、久しぶりに会う旧友である。仕方ないのだろうと諦めることにして、話を変える。

 

 この街にやってきた理由は他にもある。返信用のゴーレムが戻ってきて伝えた用件である。

 

「はあ……繰り言をしても始まらんな」

「そうじゃね。詮無いことに時間をかけるのは無駄じゃ」

 

 バンデは懐から紙の束を取り出した。一目見れば分かるが、それは魔導書だった。たとえ一つの魔法しか書かれていなくても、それは魔導書である。

 

「これを見てみぃ」

「うむ……」

 

 テーブルに置かれたその書をレルネンは受け取ると読み始めた。すると、怪訝な顔をする。

 

「バンデよ、何だ、これは」

「魔法だよ」

 

 さも当然といった風情のバンデだが、レルネンの方は悪い冗談を聞かされた気分である。

 

「『光を纏う剣の魔法(リヒッシュベーア)』のようだが、書式がおかしい。なぜ一般攻撃魔法(ゾルトラーク)の書式が組まれている? あと、この部分……防御術式をなぜ刀身に込めるのか。しかもよく見れば内向きに展開してるだと? 防御なら外に向けるのがスジだろう。理解出来ん」

 

 つらつらと問題点を挙げるレルネン。さながらレポートにダメ出しをする教授のようだ。

 その様子を愉しげに見遣るバンデに気付き、咳払いをする。

 

「まさかお前が作り出したのか?」

「それこそまさかさ。そんな熱意はもう涸れとるよ。そりゃウチの学生のもんさね」

「学生……何級だ?」

「今は七級。ようやく初歩の術を扱えるようになったヒヨコじゃ」

 

 それを聞いて、ふむぅ、と唸るレルネン。九級は魔導書などの魔術文字の読み書きが必須となり、八級は魔力の基礎的な運用法が課題となる。

 

 七級となって初めて魔法と呼べるものが扱えるようになるのだが、この魔法はそのレベルの者が書いたとは思えない箇所も多い。

 

 そもそも魔法の作成が出来るようになるには魔術文字の文法や法則などを理解せねばならず、これは五級より先にならねば大陸魔法協会では教えない事になっている。

 

「よもやお主、教本類を無断で貸してはおるまい?」

「貸したとしても、理解出来なきゃこんなものを作れるもんかい」

「それは、そうだな」

 

 それに、これは魔術の何たるかを学んできた者のやり様ではない。かなり出鱈目に組んだ、たちの悪い冗談のような代物である。

 

「こいつを作った奴はナイフにこの魔法を付与して、輝く長剣を作り上げたそうだ」

「?……ナイフを、長剣に?」

 

光を纏う剣の魔法(リヒッシュベーア)』にそんな効果はない。アレは実体を持たない魔物を近接攻撃する時に使うものである。刀身は光るけどそれが伸びる訳はないのだ。

 

「見たのか? お主」

「ああ。試し斬りでこのくらいの丸太を真っ二つにしていたよ」

「……!」

 

 バンデが手を広げて示した大きさだと太さ二〜三十センチ程はあろう。そんな丸太を切り裂くなど、あり得るはずがない。鋸や斧で断つのでも、それなりに時間も手間の掛かるのだから。

 

「ちなみに、其奴の体躯は?」

「エーレより小さいかね」

 

 ならば膂力を持って切断しているわけではあるまい。というか、エーレよりも小さい……子供ということか。

 

「……私も見てみたいな」

「アレも忙しい身らしくての。明日の学校で良いなら」

「構わんよ。どうせ二、三日は逗留するつもりだ。領主殿にも挨拶に行かねばならんし」

「家を継がせたのに貴族の(しがらみ)はついて回ると難儀じゃのう」

「まあ、別件もあるのだがな」

 

 近日中には発表される事だが、とある遺跡の調査にここの長男を推挙したいという話が出ている。相手は貴族の子息であるため調整役として彼が選ばれたのだ。

 

 実のところ、今回の用向きはそれがメインだったわけだが。彼にとってはついでのようなものだった。

 

「そうじゃ、返信用のゴーレムも持って帰っておくれ」

「……何羽かは残しておいてくれ」

 

 彼が送ったゴーレムは、もう二十体を超える。筆無精な旧友なのだ。

 

「置き物としてはなかなかかわいいのじゃが、隕鉄鳥(シュティレ)の鳥小屋みたいになっておってな」

「ちゃんと返してよ……」

 

 旧友はふぉっふぉっと、笑う。

 その姿は変わっても、若い頃と変わらぬ喜びをもたらしてくれる。

 

 紅茶を飲みつつ、そう思うレルネンであった。

 




ばあちゃんじいちゃんの会話だけとか脇役書きたいにしてもやりようはあるだろとツッコまれそうではあります。

加筆修正しました。
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