百合の間に挟まるつもりは毛頭ないんだが   作:とくめい

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前回の続きです。魔法学校の才女、エーレちゃんのお話しです。


第七話

「ヴァルム先生もお変わりなく」

「エーレはずいぶん変わりましたね。もうすっかりレディですよ」

「そ、そんなことありません」

 

 エーレは恐縮しているようだけど、普段接している子どもたちと比べても大人びた印象に見えた。この歳ですでに五級魔法使いとなっていたことも含めて、大きく成長していた。それは魔力量を見ても明らかで立ち昇るそれはすでに自分と同程度と呼べるものだ。

 

 それに思うところがあっても、顔に出さないのは大人としての節度だった。

 

「聞いてますよ。オイサースト魔法学園初等科では首席だったそうですね」

「座学だけです。実技などはまだまだ未熟でして」

 

 実のところ、座学というのは環境によるところが多い。レルネン一級魔法使いの孫娘となれば魔法史、歴史、言語学などの蔵書に触れる機会も多いはず。根が生真面目なエーレなら伸びて当然なのである。

 

「それでも立派です。暫くしたら追い抜かれてしまいますね」

 

 それは自嘲に聞こえたかもしれない。エーレは少し俯き、顔を上げると共にかねてからのお願いをしてみた。

 

「ヴァルム先生。オイサーストに戻ってくれませんか?」

「エーレさん……」

 

 ヴァルムは元はオイサーストにて教鞭を振るっていた。二年ほど前にここに赴任することになったのだが、エーレとしては納得出来なかった。

 

「それは無理なのよ。バンデ導師だけでは学校は回らないし」

「そもそも、そんなに要員が少ないのが問題なのです」

 

 大陸魔法協会は各地に魔法学校を設立し、新世代の魔法使いの育成に力を入れている。だが、その教員と呼べる導師格の持ち主が圧倒的に足りてないのが実情だ。

 

 導師が少ない理由は単純に魔法使いの矜持ゆえであった。魔法使いは自らの術を研鑽し、高めていくことを目的とする者が大多数だ。だから後進を育てる、という感覚の持ち主は少し異端なのである。

 

「私だって魔法使いとして自らの技を高めたいという思いはあります。だから他の方々の気持ちも分かるのです」

「むう……」

 

 新しい魔法使いの育成とは、自らの時間を削っているようなもの。エーレとて後輩から指導を懇願されていい顔をしなかった事も多い。その煩わしさ故にヴァルムに戻ってほしいと思っていたのかもしれないと、自らを恥じ入るエーレであった。

 

 その様子にヴァルムはくすりと笑ってしまう。素直な子供の感性は、やはり彼女にはとても微笑ましく思えてしまうのである。

 

「私はやっぱり子どもたちに教える事が好きなようです。ここでも楽しい子どもたちに会えましたし」

「……そうですか」

「かと言って、エーレさんの事をないがしろにするつもりはありませんよ? 何か困ったことがあればいつでも相談に来て下さい」

「せんせーっ!」

 

 そこに、扉を開けて飛び込んでくる者がいた。エーレもヴァルムも突然のことに驚いた。

 

「あれ? お客さん?」

 

 当の本人はあっけらかんとしていた。黒髪を高い位置で纏めたチョンマゲスタイルに、黒い瞳。快活な男の子のようにエーレには見えた。

 

「トローペンさん、いつもノックをしてからと言ってるでしょう?」

「メンゴメンゴ♪」

 

 茶化した謝罪にカチンときたエーレは立ち上がって彼に近づく。なんかこちらを睨んでいる女の子にトローペンは少しだけたじろいだ。

 

「レディのいる部屋にノックも無しにズカズカと入り込むとか、無礼打ちされても文句言えませんわよ?」

「だから謝ったじゃん」

「謝罪に誠意がありませんわっ」

「ええ……めんどくさ」

 

 エーレは、今はレルネンの実家である貴族の邸宅に厄介になっている。日頃から礼儀作法には厳しく躾けられてる身からすれば、このような奔放なのは許されざる事であった。

 

「……いいですわ。魔法勝負といきましょう」

「え?」

「だ、ダメですよエーレさん」

 

 ヴァルムは止めるがエーレの方はというと止める気はなく。

 

「お、魔法でやるのか? 面白え♪」

 

 トローペンに至っては待ってましたと食い付いていた。

 

「ご安心下さい、先生。わたくし、模擬戦闘では負けたことありませんの」

「そんなことは聞いてませんよ……」

 

 また少し胃が痛くなってきた気がする、ヴァルムだった。

 

 

 

 

 校庭に作られた四本の柱で区切られた場所。この中で使われた魔法が外へ飛び出さないようにする結界であり、学生の使う魔法程度では壊れることはない。

 

「十二メートル四方で、高さは四メートルまでカバーしてるわ。そこから出れば魔法の効果は消えるけど、場外負け。あとは降参といった方の負けね」

「一般攻撃魔法とかガチに当てるとヤバくない?」

「この中では威力は半減されるから……まあ、大丈夫でしょ」

 

 一般的な模擬戦というのは攻撃魔法に対して防御魔法を展開してその技巧を比べるものだ。よって、相手を屈服させる事を前提としたものではない。つまりこれは決闘に近い。

 

「ちなみに属性魔法とかも同じよ。きちんと半減されるけどね」

「属性魔法……?」

「え」

 

 エーレがヴァルムの方を見る。彼女は首を振っているのを見ると、さすがにマズイかもと思い直す。

 

『属性魔法知らないって七級じゃない。五級の私が本気でやったら……』

 

 属性魔法とは属性に応じた元素(エレメント)を操作する魔法であり、現代においては主流の攻撃魔法となっている。これは防御魔法に対してより効果的であるからだ。一般攻撃魔法よりも効果的に防御魔法を打ち崩せるので、対魔法使い戦に於いては定石ともなっている。

 

「それじゃ、やってみよーぜ!」

「減らず口が止まらないのは褒めてあげる」

 

 エーレは魔法使いの杖を取り出す。ヴァルム先生が強硬に止めないのなら、それはやっても良いという証左でもある。尊敬する師に対し馴れ馴れしい態度をする小僧に制裁を加えるのは当然の権利だと彼女は確信した。

 

「はあ……まあ、やってみて下さい。はじめっ」

 

石を弾丸に変える魔法(ドラガーテ)っ!!」

 

 開始早々、エーレは自身の最大の魔法を放つ。周囲に落ちていた石ころが浮き上がる。

 

「お、石礫ってやつか?」

「そんな甘いもんじゃ無いわよ? しっかり防御してなさいっ!」

 

 エーレが杖を振ると浮いていた石が爆発的な勢いで弾け飛ぶ。トローペンが展開していた防御魔法にガンッとぶつかると体ごと揺さ振る。

 

「わっ? すげえ威力」

「まだまだいくわよっ!」

 

 浮いていた石はおそらく十個程度。それがいっぺんに放たれる。

 

「うわっ、と」

 

 たまらず避けるトローペン。石弾は下の地面に突き刺さり土煙をあげた。

 

「あら、反応いいわね」

「うひゃあ……マジで殺す気?」

「腕の一本くらいで勘弁してあげるわ」

 

 エーレとしてはそこまでするつもりはない。だが、駆け引きというのは大事である。舐められるのはよくない。

 

「額を地面にこすり付けて謝罪なさい。そしたら許してあげる」

 

 あくまで上から威圧する姿勢を崩さないエーレ。それを見て、トローペンはにやりと笑った。

 

「そんなのはゴメンだね」

「そ。なら、痛い目を見なさい」

 

 浮かんだ石が左右に広がるとそこから高速で撃ち出される。

 

「げぇっ?」

 

 一方向から撃たれるのとは理由が違う。各々違う角度からの攻撃に、防御は追い付かない。バチンッと左の足に当たる石礫にトローペンは顔を顰めた。

 

「くっ……」

「結界の中だからこそ、その程度で済んでるのよ? 外だったら骨が折れてたかもね」

 

 その言葉は本当かもしれない。トローペンの左の腿には赤黒い痣ができていた。

 

「さ、降参なさい。これ以上痛い思いはしたくないでしょ?」

 

 痛めつければ折れるはず。そう思っていたのだが、エーレの思惑は外れた。

 

「冗談じゃねえ。せっかく面白くなってきたってのに」

「え?」

 

 トローペンは杖を構えた。一般攻撃魔法であるのは明白であり、それなら防御魔法で事足りる。エーレは防御で凌ぎつつ後方からの狙撃で決めることにした。長引くとマズイと直感したからかもしれない。

 

一般攻撃魔法(ゾルトラーク)

 

 思った通り。七級というなら二つの多重起動はなかなかに素質がある。自分でも多重起動は六級からだったのだ。

 

「でも、容易いわ」

 

 防御魔法にぶつかり、掻き消える光弾。一般的な防御魔法は魔法攻撃に対して相当な防御力を持つ。たった二本の光弾では小揺るぎもしない。そして、その無防備な背後からの石礫を放つ。今までの物より大きく、貫通力は持たせてない形状だ。これなら死にはしないハズ。

 

「終わりよ」

 

 轟音とともに放たれる石礫。

 

「そうくると思ってたよ」

 

 トローペンがニヤリと笑う。

 次の瞬間。

 トローペンは物凄い勢いでエーレに向かって飛んでいた。

 

「えっ?」

「でりゃあっ!」

 

 五メートルほどの距離を瞬く間に縮め、トローペンはエーレへと迫った。そして防御魔法を展開する間もなくエーレへとぶつかった。

 

「ふぎゃっ!」

「そいっ!」

 

 ぶつかった衝撃で杖を手放すエーレ。その腕を素早く取って両足を引っ掛け、一気に腕を伸ばす。

 

「あだだだっ!?」

 

 腕ひしぎ十字固めである。完全に入ってしまってるので抜け出すのは容易ではなく、しかも激痛を伴う。魔法の結界も関節技にはなんの効果もなく、ただひたすらに痛みを与えられるエーレ。

 

「ギブ? ギブアップ?」

「だ、だれが、て、いたたぁっ!」

 

 未だに折れないエーレに、トローペンは愉しげに笑って言う。それは、先ほどのエーレの言葉だ。

 

「腕一本くらいで勘弁してあげようかなぁ?」

「ひ、? ご、ごめんなさいっ! 参りましたぁっ!」

 

 エーレの宣言により、ヴァルムからの試合終了が告げられた。勝者はトローペンだった。

 

 

 腕の拘束が解かれると這々の体でエーレが立ち上がる。トローペンの方はというと、ぐったりした様子である。

 

「ま、まったく。野蛮な戦い方ね」

「いやあ、面目ない……」

「魔法での勝負で肉弾戦とか。泥臭すぎるわよ」

「これしか勝ち目ないからね……勘弁して」

 

 そこにヴァルムが駆け寄ってきた。

 

「トローペンさん、背中を見せて下さい」

「先生、平気だよぉ……」

「平気な人はそんな声出しませんっ!」

 

 身体を抱き上げ衣服を捲ると、そこにはかなり大きな痣ができていた。ひょっとすると肋骨も何本かいかれてるかもしれない。それを見たエーレは、顔を青褪めさせていた。

 

「え、そんな……だって、防御魔法掛けてたじゃない」

 

 トローペンが後方に防御魔法を掛けていたのは見ていたのだ。だから全開で撃ち込んだのである。

 

「トローペンさん。あなた防御魔法を反転させましたね?」

「!?」

 

 その言葉に、エーレは驚愕する。

 

 防御魔法はその性質上、防御には滅法強い。反面、内部からの魔法攻撃には効果は限りなく薄い。

 

「ともかく、治療しないと」

 

 この程度の怪我なら女神様の魔法を頼らなくても何とかなる、はず。ヴァルムはトローペンを抱き上げると校内へと運び入れた。




エーレ 「こんなはずじゃなかったのに……」
ヴァルム先生 「何とかしないと」
トローペン 「何とか勝ったぜ……」
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