百合の間に挟まるつもりは毛頭ないんだが   作:とくめい

8 / 19
エーレちゃんの続きです。
わりと適当なんで細かくツッコむ方は感想欄へどうぞ(笑)


第八話

 一通りの治療が終わり、後片付けのためにヴァルムは席を外す。残るのはベッドにうつ伏せに寝るトローペンと、その傍にある椅子に座るエーレだけとなった。沈黙に耐えきれず、エーレは口を開く。謝罪よりも先に出たのは、質問だった。

 

 

「なんで、防御魔法を反転させたの?」

 

 青ざめた顔のまま、エーレはトローペンに問いかける。謝らなければならないと分かってはいても、素直にできないエーレである。

 

 トローペンは気にした様子もなく、こちらを見ずにぽつりと答える。

 

「……それしか、勝ちようがなかったからだよ」

「……せつめいして」

「ええ……」

 

 口を尖らせて説明を乞うエーレ。

 トローペンは仕方なく、手の内を明かす。

 

「お前が背後から狙ってくるのは分かってた。死角から狙うのは定石だからな」

「うん」

 

 手の内を読まれてた事は分かる。だからこそ意味のわからない事をしたわけだから。

 

「必勝を期すならデカくすると思ってた」

 

 一番魔力を注いだ一撃だ。断面はきちんと平らにして突き刺さらないようにはしたけど、ぶつかるだけでも牛など昏倒させることが可能な一撃だった。

 

「反転、させる理由にはならないわ」

 

 そもそも反転させるという発想自体が有り得ない。それはつまり防御魔法が防御魔法足り得なくなるということだ。

 

 結界による半減を見越しての判断だろうけど、そこまでする理由がエーレには分からない。

 

 そこで彼は、こちらを覗き見るように顔を向けてきた。その仕草に、なぜかドキリとする。

 

「!……」

「防御魔法ってさ。攻撃を受けると衝撃が来るだろ?」

 

 だけど、聞いてきたのは当たり前のこと。頷くくらいしか出来ない。

 

「……うん」

「あれ、不思議に思わない?」

「……なんで?」

 

 エーレは首を傾げる。

 彼の言うことがさっぱり分からない。

 

「うーん……ちょっと図解にするね」

 

 すると、彼はサイドボードに置いてある紙に図を描き始めた。

 

「オレ達の使う魔法の威力はかなり高い。少なくともオレ達の体重よりずっと重い物も動かせる力だと思う。これはいい?」

「……ええ。そうね」

 

 エーレの使う石を弾丸に変える魔法(ドラガーテ)もかなりの力を持っているのは分かる。先ほど言った通り大きな魔物すら打ち倒すのだ。

 

 つまり彼や自分のような体格のものを動かすことなど容易なはずだ。

 

「でも、防御魔法にぶつかると衝撃が来る程度で済んでいる。本当なら幾らか吹き飛ばされるとかあってもおかしくないよな?」

「……言われてみれば、そうね」

 

 何度も攻撃魔法を受けたことはあるけど、衝撃はあるものの後ろに弾き飛ばされるという事はなかった。

 

「でも、大きな魔法を防いで吹き飛ばされてる人を見たことあるわ」

 

 より上の魔法使い同士の模擬戦では、そういう場面も多かった。

 

「だから、ある程度までの衝撃を相殺してくれているんだと思うんだ」

「相殺……?」

 

 線で書かれた防御魔法に矢印で書かれた攻撃魔法。そこに『x』と書かれている。

 

「この魔法、xがそのままぶつかると、この術者、yはどうなる?」

「防御魔法で防がれるわ」

「いや、そうなんだけど……」

 

 言わんとしてることが伝わらないもどかしさ。彼は噛み砕いて説明する。

 

「じゃあ、まず防御魔法を使わない状態で説明するぞ。いいか?」

「うん」

 

 こくりと頷くエーレ。勉強となればちゃんと話を聞けるいい子であった。

 

 

 

 

≫≫≫

 

 

 

 

「だから、この時に反発する力が働いてるんだ」

「それはおかしいわ。だって防御魔法が引っ張られたことなんて私は無いわよ?」

「防御魔法の前に開放されてるんだから自分には分からないんじゃないかな」

「じゃ、じゃあ。中和するんならどうして吹っ飛ばされる事があるの?」

「おそらく閾値が決まってるんだ。ある程度の力までは耐えられるけど、それ以上の力だと反発する力を上回ってしまう。下手に力に抗い過ぎると術者にも被害が出る可能性があるから力を反転させてノックバックという形で力を散らしてるんじゃないかな、とオレは考えてる」

 

 エーレは、おそらく頭が凄くいい子だと思う。簡単な説明で力の作用、反作用を理解してくれた。

 

 魔法のあるファンタジー世界に物理とかナンセンスだとは思うけど、この世界にだってちゃんとそういうのがあるのは分かっている。だから魔法にもそういうアプローチがあってもいいんじゃないかな?

 

 まあ、余計なことを考えすぎて魔法がうまく使えなくなる可能性もあるけど。『イメージが大事』なのだとしたら頭に数字とか浮かんでたら魔法にならないよね。

 

「ふうん……なんとなく分かってきたわ。あなた、面白い考え方するのねっ♪」

「そいつはどうもありがとう」

 

 そう答えると、枕にぽすんと顎を乗せる。

 

「つまり、防御魔法には力を産み出す機構が入ってる。それを利用するために反転させた、って事なのね」

「理解が早くて助かるよ」

 

 入ってくる力xに対して反発する-xを作り出して相殺するのが防御魔法。ならばその作用を反転させたらどうなるか。

 入ってくる力xに相殺するはずのxが足されるから2xの力になる、はず。

 その勢いを借りてエーレに急接近出来たというのがタネ明かしであった。

 

「……でも、これは実戦的じゃないわね」

「ご尤も。身を以て理解したよ」

 

 背中に受けたダメージは意外と大きかった。肋骨にヒビが入る程度で済んだのは、結界による減衰があったからだろう。魔法に防御無しでぶつかるのは正気の沙汰ではない。人の身体なんて、簡単に壊れてしまうのは世界が違っても同じということか。

 

 

「でも、よく思いついたわね」

「魔法構文にも書いてあるよ?」

「え?」

 

 エーレが少し驚いている。

 五級ならもう魔法構文は習ってるだろうからいいだろうか。オレは防御魔法の基礎の部分、魔法構文を見せるために魔法陣を展開する。

 魔法を使う時に展開される魔法陣は、魔法構文を発動体を通して簡略化した図形だけど、逆に魔法構文を書き出すことも可能だ。スラスラっと魔術文字の羅列が出来上がる。かなりの量なので三枚くらい出来てる。

 

「ほら、ここ」

「え……と、ん? もしかして、ここ?」

「そうそう」

 

 エーレは目敏く気付いた。やっぱり頭が良い。というか飲み込みが早い。

 

「でも、これ……設定がされてないわよ?」

「それにマークがあるだろ? その設定は後ろの方に隠れてるんだ」

「なんでそんなめんどくさいことになってんの?」

「それは、オレも知らない」

 

 オレが聞きたいくらいだけど、なんとなく分かる。

 たぶん設定するの後回しにして先に防御する部分を組み立てたかったのだと思う。で、組み上がったのが思うように動作してなくて調べたら、『ここ抜けてるじゃんっ』てなって後付で設定書き加えたんだと思う。ここから後の奴は全部注釈でリンクされてるからね(笑)

 

「えー……魔術構文て、もっと解り易く書いてなかったかしら?」

「一般攻撃魔法と同じくらいの頃だからね、一般防御魔法は。おそらくこのくらいの頃の魔法は全部こんな感じだと思う」

「私の魔法はもっとわかり易いわよ?」

「たぶん書式から違うんだよ。それに魔法を起動する時に使う魔術構文は短縮形が普通だし」

 

 魔法として起動する時には短縮された術式から起動する場合が多い。一般防御魔法にしても長い間にそうした短縮がされていて、正規の魔術構文を見るものはあんまりいないんじゃないかな?

 

「ふーん……」

「な、なに?」

 

 なんだか面白そうにこっちを見てる。

 

「こんな事考える人、あんまり居なかったから。あなた凄いわね」

「魔力が全然増えないからね。アレコレ考えてるだけだよ」

 

 照れ隠しにそう答える。

 実際、そうなのだ。エーレには当然のごとく、ラヴィーネやカンネにも大きく劣る量しかないオレは、工夫を凝らさないと太刀打ち出来ない。

 

「……それでも、凄いわ。ごめんなさい。奔放で無作法なひとなんて言って」

「それは本当だから、いいよ」

「……」

 

 エーレみたいなお嬢様じゃないし。あ、お嬢様でもアイツみたいな奴もいたか。同じにしちゃ失礼だな。

 

「あの。ケガ、痛くない?」

「痛くないって言ったらウソだけど、まあ動けるとは思うよ。これから帰って下宿先の手伝いもあるし」

「……」

 

 ケガしたって言ったら休ませてくれるだろうけど、逆に寝てろって言われそうだし。厄介になってるんだから心配はかけたくない。

 

 すると、エーレは自分のポーチから何かを取り出した。どうもビンのようだけど。その蓋を開けて、オレの背中に振りかける。その冷たさにオレは悲鳴をあげた。

 

「お、ひゃあ?」

「な、情けない声出さないの。これは上級ポーションなんだから」

「え、ええっ!」

 

 上級ポーションというと一瓶シュトラール金貨一枚とかいう高級品じゃないか! そんなモノ、オレ払えんぞ?

 

「これは私がお祖父様から渡されてるものだから、気にしないで」

「……え、でも……」

 

 それって万が一のために渡されてる物だろうし。勝手に使っていい筈無いと思うんだけど。でも、効果は凄い。みるみる痛みがひいていく。

 

「これで、貸し借りナシよ」

「……ありがと」

 

 彼女が手を出してきたので、握手をした。カンネより柔らかくて、ラヴィーネよりは硬い手のひら。こういうとこにも育ちの差は出るんだな。

 

 

 

 

 

 後日。エーレの爺さまというのが例の魔法を見たいと言ってきたので、見せたら驚いていた。

 

「なんと。本当に光の長剣になっておる……」

「トローペンっ、凄いですっ!」

『なんだぁ、アイツ……』

『な、なんか貴族のお爺さまとお嬢様がトローペンを褒めてる……どういう状況?』

 

 ラヴィーネとカンネのジトッとした視線が、少し気になったけど。オレの独自魔法は一級魔法使いの人が認めてくれたんで使うことは出来るようになった。

 

「この魔導書は預かる。ゼーリエ様にお見せしないと」

「使い方とか分かりますかね?」

「あの方は神話の時代から生きる方だ。問題あるまい」

「はあ」

 

 ま、別にいいか。この時代、特許とかあるわけじゃなし。正式に魔法として認められればお金も支払われるらしいので、楽しみにしておこう。




エーレ→トローペン ライバルだわ、キラッ
ラヴィカン→エーレ なんだ、アイツ……イラッ
トローペン→ラヴィカン なんで睨んでんの、コワッ

 吹き乱れる百合の嵐……なのか?(花弁を鋼鉄に変える魔法)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。