百合の間に挟まるつもりは毛頭ないんだが   作:とくめい

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新キャラ登場……独自設定な方もいます。
なんかいつの間にかお気に入りが300突破してました。感謝でございます。


第九話

「なんだ、この稚拙な魔導書は?」

 

 一級魔法使いレルネンは頭を垂れる。尖った耳に少し垂れ気味だが美しい瞳。齢を感じさせない女性は受け取った魔導書を流し読みしてからそう言った。

 

「レルネン。これを使ってみたか?」

「は」

「お前が見たものと、どう違った?」

「……ほとんど違うものとなりました」

「であろうな。やってみせろ」

 

 師である女性の言葉に、彼は懐のナイフを取り出す。レルネンほどの者ともなると杖を経由せずとも魔法陣は構築されるのだが、ナイフを中心に光が灯ると、それは急に天井に向かい伸びる。そこに防御魔法が現れ、途中で止める、というか拡散していく形となった。

 

「そんなものか」

 

 女性が作り出したものは幾分かはマシな形ではあるが、それでも長剣と呼べるサイズで安定はしていない。明滅する光を抑え込む防御魔法は極小化してほぼ見えなくなっている。

 

「お見事です、ゼーリエ様」

「見え透いた世辞は言うな。これを書いたやつと比べたら、全然形になってない」

 

「ブルグ。試し斬りさせよ」

 

 壁際に立つ人物がピクリと動く。自らを指差し自分かと問うが、ゼーリエは「早うせい」とにべもない。

 

 諦めたかのようにスタスタと中央に歩み出るブルグは、全身をすっぽり覆う外套に身を包んでいた。

 

「『不動の外套』は調整してあるだろうな」

「今日は対魔法三枚と対物理二枚です」

「んん? わりと少ないな」

「今日は試験とか無いので」

 

 なんなら試し斬りされるとかも聞いてない。そんな不満も込められていたのだが、師は全く意に介さない。

 

「まずはレルネンからだ」

 

 歩み出たブルグに憐れみの視線を向けるが、彼の方はしょんぼりとした顔をしてどうぞと答えた。

 

「では。エイッ!」

 

 猿叫とともに袈裟懸けに斬るレルネン。「ヒッ」と小さくブルグの声が聞こえたのだが、不安定な刃は彼の外套を切ることはなかった。

 

「やはり無理ですな」

「どれ、私もやってみようか」

 

 言うが早いか、ゼーリエが素早く接近し連撃を加える。

 

「あ、あうあう」

 

 白い刃は外套を傷つけることはない。だが、ブルグとしては気が気ではない。生ける魔導書とも呼ばれる師の斬撃は鋭く、肉弾戦においても只者ではない。また、業を煮やして本気を出されても困る。師の術に耐えきった事などまだないのだ。

 

「ふむ」

 

 斬撃を止めると彼女は外套の状態を確認する。レルネンもしげしげと覗いているが、師と先輩というのも烏滸がましい人に見られているというのは彼にとっては只管に居心地が悪かった。

 

「一般攻撃魔法よりは効果が高いですな」

「斬撃だからだろう。点より面で当てるほうが効果的だからな」

「なるほど……」

「だが、費用対効果ではあまり良くない」

「我々の収束が悪いせいもあるかと」

「ふむぅ……やはり実物を見ないと始まらんか」

 

 何か二人でごそごそと討論を始めている。外套を掴む手が離れたのでこそこそと壁際に戻ろうとするブルグだが、そこにゼーリエから声が掛けられた。

 

「ブルグ。ナーベンまで行き、トローペンという子供を連れてこい」

「はぁっ?」

 

 そしていきなりの命令である。

 

「あ、あの。それでしたらレルネン様の方が適任では? 私は顔も知りませんし」

「今の時間なら魔法学校にいるだろう。目立つ子だから分かるはずだ」

「あ、いや、でも」

「レルネンには別件がある」

「な、ならゲナウとか……」

「あれとゼンゼは出ておる。ファルシュは書類を任せている。手すきなのはお前だけだ」

「……はい」

 

 別に一級魔法使いを使わなくてもいいじゃないかと、反論はできないブルグだった。

 

 

 

≫≫≫

 

 

 

「飛行魔法でひとっ飛び。大したことじゃないんだけど……」

 

 ナーベンの街の少し前に降り立つブルグ。周りの人に見られないようにこっそりと。何故ならこの外套を着込んでいると、怪しい人物にしか見えないから。

 

 ふわりと外套が消えて現れるのは痩身の男性だ。歳の頃はまだ成人したくらいかと思われる。朴訥とした顔立ちにその素朴な服装から、周りからは平民にしか見えなかった。

 

「さて、と」

 

 とりあえずゼーリエ様からの伝言をつたえて同行を願う。拒否されたら拉致するしか無い。連れてこれませんでしたなんて許さないのがゼーリエである。だから嫌だったのだ。

 

「聞き分けいい子だといいなぁ……」

 

 最悪キッドナップとか有り得ないと思いつつ、正門を潜るブルグ。

 

 

 魔法学校の場所を街の人に聞いて辿り着く。どうやら実技をやっている最中らしい。

 

「なんだか懐かしい風景だな」

 

 自分の学生の頃を思い出すブルグ。故郷のあいつらはどうしてるかな? なんて考えていたら、子供の甲高い声が響いた。

 

「いただだだっ!」

 

 魔法の暴発か? 

 彼は走り出す。導師格は無いが、幼子の悲鳴に無関心でいられるほど情緒は腐っていない。

 

 校庭の隅か。そこに子どもたちが(たむろ)してるようだ。

 

「大丈夫かっ!?」

 

 子供をかき分けてみると。

 

「いでででっ!」

「どうでい。関節技はお前の専売じゃねぇんだぞ?」

「ちっくしょ! いててっ!」

 

 そこには足を捩じ上げる少女と、地面をばんばん叩く黒髪の子供がいた。

 

「……魔法、学校……だよね?」

 

 彼の質問に答える子供は、居なかった。

 

 

 

 

≫≫≫

 

 

 

 

「大陸魔法協会創始者にして大魔法使いゼーリエの名において、トローペンなる子供の召喚を命ずる。速やかに引き渡すよう願う」

「おやおや。ブルグ坊やも立派になったのう」

 

 ブルグは知らなかった。オイサーストからほど近いこのナーベンの魔法学校に、二級魔法使いのバンデが居ることを。知ってたら全力で断る。だが、その辺りもゼーリエには織り込み済みだったと気付くと肩を落とさざるを得なかった。

 

「頼むよ、婆ちゃん。荒事にはしたくない」

「おやおや。泣き腫らして抱き着いてきた坊やが怖いこと言うとはねえ」

「婆ちゃんっ!」

 

 この二人。実は師弟関係だったりする。そこを知ったうえで彼を送り込んできたのだ。さすがゼーリエ、汚い。

 

「別に好きにすりゃええだろ。どっちかと言うと領主のほうが文句言いそうじゃが」

「マジで?」

 

 そして、師から飛び出た言葉にまた頭が痛む。大陸魔法協会というのは国家とは関わり合いのない組織である。故に貴族や王族などと言う者たちとの争いの種はなるべく避ける。

 

 無論、貴族の中にも魔法使いは多い。ラヴィーネもそうだし彼女の兄たちも優れた魔法使い達である。だが、ブルグ自身は平民の出なのだ。貴族との交渉とかやりたくもないし、うまくいく想像も出来ない。そもそも何故貴族が出てくるのかと師に切り出す。

 

「その、トローペンとかいうのは貴族なのか?」

 

 その言葉に彼女は答えない。代わりに、ノックが応えた。

 

「入っておいで」

「しつれーしやす」

「お邪魔します」

「し、失礼します」

 

 どやどやと三人の子供が入ってきた。トローペンという黒髪の子供に、女の子が二人。一方は仕立ての良い服を着ていた。というかさっき関節技を極めてた子だった。

 

「こちら一級魔法使いのブルグ氏じゃ」

 

 バンデがそう紹介すると、寡黙に頷くブルグ。

 

「いっ、きゅう……魔法使い」

「なんかカッコいい……」

「いやお前ら。こないだ来たじーさんも一級だったろ」

 

 どうやらレルネンとはあったことがあるらしい。

 

「ラヴィーネや。お屋敷まで連れて行ってあげなさい」

「そりゃいいけどよ。何の用だ?」

「いやな。将来有望なお前たちをオイサーストに招待してくれるらしくての」

 

 ブハッ

 

「マジかよ」

「オイサーストか。行った事無いんだよな」

「えー、トローペン無いんだ。この辺だと一番大きい都市なんだよ。別名、魔法都市なんだから」

 

 わちゃわちゃと賑やかになる子どもたちだが、ブルグはわなわなと震えていた。

 

『お、オレにガキどもの引率させようとしてるぅ!』

 

 バンデはにっこりと笑うと淹れてあったお茶を啜った。

 

「旅費やら何やらはこの人が融通してくれるじゃろうから」

 

 がくり。

 しかもこっち持ちである。

 

『け、経費……落ちるかな?』

 

 頭に思い浮かべたファルシュのメガネがキラリと光る。どうも、成功するイメージが湧かなかった。

 

 

 

≫≫≫

 

 

 

 領主は最初難色を示したが、孫娘のラヴィーネが要望すると渋々頷いた。そもそもオイサーストには息子夫婦もいるので宿泊には問題はない。

 

 ブルグ一級魔法使いに関して思うところはあったが、その実力か折り紙付きなのは間違いない。定時連絡のゴーレム鳥をちゃんと届けることと、彼や向こうの人たちの言う事をちゃんと聞くことを念を押すくらいだった。

 

「トローペンというのは君かね」

「あ、はい」

 

 領主はトローペンを呼ぶとその相貌を見つめた。

 

「うむ……がんばって勉強してきなさい」

「うん。ありがと、爺ちゃん」

 

 

 

 

≫≫≫

 

 

 

 

「おい、まだかよ」

 

 ブルグは三つ目柳の宿屋の食堂にいた。昨日はここに泊まることになった。

 本当なら飛行魔法でひとっ飛びのハズが、オマケがくっついてきたお陰で徒歩行軍になってしまったのだ。さすがに近いとはいえ、夕暮れ近くから出発は出来ない。

 

 まあ、実際寝心地の良いベッドだった。あれこれ仕事を押し付ける上司や同僚が居ないので、ゆっくり休めたわけだが。

 

 ちなみに貴族令嬢のラヴィーネは、もう来てたりする。手荷物も比較的少ないし、旅慣れてるのかもしれない。

 

 問題のトローペンという子は、もっと軽装だ。昨日と似たような衣服に軽いブーツ。腰にナイフと貸与されてる杖を挟み込んでいるのを見ると、自分のガキの頃を思い出してしまう。

 

「カンネー、まだー?」

「ごめーん、もうちょいっ」

 

 トローペンの声に上から返答がある。あの子達の中で一番普通の女の子に見えたわけだが、だからこそ準備に時間が掛るのだろう。だが、両手いっぱいの鞄を見て一同は同じことを答えた。

 

「「「「カバンは一つにしなさい」」」」

「えーっ?」

 

 出発は、まだ掛かりそうだった。




原作ではほとんど出番のなかったブルグさんでした。なんか、不幸キャラっぽくなったけど、よく考えたら不幸キャラで間違ってなかったね(笑)
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