──ガヤガヤ
──ガヤガヤ
「んー」
「代表、どうしたの」
結構賑わってるホールを見て代表が何故か頭を抱えている。
特に悩むことも無いと思うが……
「いや、少し人数が足りない。提供が遅れると回転率が下がって客が他に流れちまう。ホールはお前ら女子と秀吉にしか頼れんし、その数はまぁ足りてるんだが……調理班がどうもな。ムッツリーニと須川、補佐で明久。俺も入ってはいるが他の奴らはインスタント麺がせいぜいだからな……」
なるほど。回転率か。
確かに混んでるくらいなら他探すか、となるのは自然かもしれない。
クラスは男だらけ、高校生ともなれば余程でないと自炊も無いだろう。
オレが調理に回ればギリギリのホールが崩れる……試召大会で抜けることも考えると減らせない……売り上げは姉さんと姫路のためにも必須……
「……はぁ、仕方ないか……」
「ん?何か策があるのか?」
「……オレが2人分になる」
「…………………………はぁ?」
「……5分付き合ってくれ」
「おっ、おい!?何だ!?どう言う意味なんだ!?」
代表の腕を引いて一目に付かないどこかを目指す。
今は姫路と島田も出場でいないしな……数は結局いる。
「屋上前……この階段なら、今は誰も来ないな」
「なにすんだ、こんな事翔子に知られてみろ、殺されるぞ」
「……それは済まない?じゃあ、増やすから」
「だからどう──」
オーロラカーテンで家にいる姉さんを引っ張ってくる。
何故かオレの存在を知るらしい島田が同じクラスにいるんだ、もうある程度隠すことはするがバレたらバレたでなるようになるだろ。
「ぶぁ……?」
「うぉ!?」
「わー!代表さん!?ちょっシオン!何で連れてきたの!」
「うるせぇ、ちょいと使える人手が必要だったんだよ」
「フタガミが2人……しかもそれ、酒か……?」
「わー!代表さん違うの!私今日家出るつもりなかったから!」
「姉さん、この場合アルコールである事を否定するべきだ」
「あ……そっか、未成年か……」
持ってきた姉さんは缶チューハイ片手に呆けてた。
また虚無ってたのか……
「さて代表、見ての通りだ。コイツがホールやるから、オレは調理に加わる」
「見ての通りで理解できる事象じゃないんだが……今は助かる。増えた方、いけるか?」
「増えた方……ああ、私?接客かぁ……まぁいいけど、シオン、一応止める用意しといてね」
「ああ。当然だ」
「止める?」
姉さんに接客させるなんて自殺行為も甚だしいが……今回ばかりは仕方がない。
「うん、知性足りてないの見ると殺しちゃうかもだから」
「物騒な……」
「包丁やら十字架で平然としてる奴らに言われたかねぇな」
「増やしたの間違いだったんじゃないか?」
「……1つ言っとくが、増えたと言うならオレの方だ。姉さん、悪いが頼む」
「いーよー、今なら多少穏やかかも」
「……酒か、割とアリだな」
酒飲むと寛大になるとか言うもんな。
一生酒飲ませて泥酔させ続けるのもアリかもしれん。
「じゃあ戻るか。代表、一応この事は隠しといてくれな。バレたら双子って事で誤魔化せ。間違いではないから」
「同じクラスにいて誤魔化せるか……?」
「同じ視界に入らなければ何とかなるだろ。そうなったらオレが消えとくから」
「お前は何なんだ?」
「説明はまた今度、気が向いたらしてやるよ。行くぞ」
調理は確か胡麻団子と……何だったか。まぁいい、調理技術も能力のひとつ、並行世界にあるからな。
♢♢♢
「あ、いらっしゃいませ〜ヨーロピアンにようこそ〜」
シオンに言われるがままホールスタッフに配置されたんだども、私酔ってるのバレないかな。普通に逮捕案件でピンチじゃない?このくらいの料理だったら私にもできるし逆でも良かったのに。
「ご注文決まりましたらお呼び下さいね」
『あ、じゃあさっそく……』
「はい。お伺いします」
『これと……これ、2人分で』
「はい、かしこまりました。少々お待ち下さい」
簡単なコミュニケーションくらい私にもできる。
学生のする事と大目に見てもらえるしね。
「ちゅうもーん、4番テーブルにお願いしまーす」
「…………承知した」
「カメラマン、お願いね」
伝票代わりのメモを厨房スペースへ持っていくと、瞬時に現れたカメラマンが持って行く。
そしてその奥ではシオンがレシピを無視して大量生産している。鏡使うほどのペースいるの……じゃあ私じゃ無理だね。
「はいお待たせしました。胡麻団子になります」
量産されているので当然注文を通した直後に配膳。
なんてスピーディ。
男性2人組のテーブルにそれぞれ置く。あくまでゆっくり、丁寧に。
『ありがとうございます。あの……』
「はい?」
『その衣装、可愛いですね』
「ああ……ありがとうございます?」
『あ、あはは……』
「……?では、失礼します」
衣装は確かに……カメラマンが用意してくれたらしいけど。
可愛いって何だろ……服なんて布の集合体でしかないのに。
人の顔だって……無数の細胞の集合体でしかない。個人を判別するための記号に過ぎない。
可愛い……あくまでその時代、その地域の価値観に依る偶像……限定される時点で永遠では無い。永遠でないなら価値は無い。聞く耳を持つ必要も無いな。
「ねー代表さーん」
「ん?何だ?」
「あの2人組、殺していい?」
「ダメに決まってるだろ!何言ってんだ!」
「やー、永遠じゃなかったから……」
「永遠……?」
『だーかーらー!チビっ子じゃなくて葉月ですっ!』
『わ、悪かったよ、もうすぐバカのクラスだから、な?』
「ん……?須川か?なんでアイツ幼女連れてんだ?」
「お、おい坂本!このチビっ子知らねぇか?バカなお兄ちゃんに会いに来たってんだが」
「バカなお兄ちゃん……?」
1人の男子生徒が連れてきた幼女はライトグリーンの綺麗な目をした子だ。
「山ほどあるが、どれだ?」
「とってもバカなお兄ちゃんですっ!」
「「「吉井だな」」」
「なんでそこで僕に揃う!?」
保身や奸計を持たない純粋な瞳。ああ、私の目と交換しよう……今すぐその目をくり抜いて、私の目を……
「まて姉さん」
「「「ううううおおぉ!!!???フタガミがふふふふふふふふ!????」」」
「うぉ……あ、危なかった……えっと……なんだ、猥褻物陳列?」
「殺人罪だ。あとクラスの連中は清涼祭の内はスルーしろ。終わったら説明すっから」
「「「……納得できん……」」」
「しろ。でなければ男子高校生数十名が幼女を囲んでたって通報する」
「「「納得しましたッッッッ!!!」」」
「……バカ共が。で?何だお前」
シオンが幼女を睨みつける。
騒ぎにしたくないならもっと優しく……
「お人形のお兄ちゃん!お久しぶりですっ!」
「……は?」
怖がるだろうと思ってた幼女は満面の笑みでシオンに抱き付いた。
お人形の……お兄ちゃん……?
「……お、おいおいまてまて、何だそれ、オレは知らんぞ」
「お兄ちゃん……葉月のこと忘れちゃったですか……?」
突き放したシオンに涙目で縋る幼女。
流石のシオンもこれには引いたのか、私に助けを求めてくる。
「……コイツの心を読むのは……どうなんだ……?」
無しかなー。私達を害する敵では無いし……必要でも無いような……
「に……人形ってのは、何だったか……?」
「はいっ!私にノインちゃんたちのお人形をプレゼントしてくれたですっ!」
「の、ノイン……?」
あー、シオンの思考能力の限界が来た。
何者かの人形を昔この子にプレゼントしたんだろう事は分かったけど……それだけ。何の解決にもならない。
「あら、葉月?どうしたの?」
「……あ?」
シオンがいかにも悩ましい顔をしているところに島田さんと姫路さん、2人が帰ってきた。
「あ、お姉ちゃん、遊びに来たよっ!」
「……姉妹だったか。説明しろ。オレとお前らはどこで知り合った?」
「説明しろはこっちのセリフよ!なんでアンタが2人いるのよ!」
「……お前はオレを認識してると聞いてたが?」
「知ってたわよ、けど多重人格じゃなかったの?双子で騙してたわけ?」
「……そこまで知ってるのか。何してんだか」
シオンの存在が名乗らずに分かるくらいには知ってる……何だ?
何で知ってる……?前の私は何してた……?
「なーんにもしてないわよ。それより坂本、ちょっとマズいかもよ」
「何だ?」
「この喫茶店を妨害しようとしてる動きがあるの」
「…………それはこちらも確認済み」
「よし、見せろ、ムッツリーニ」
話を逸らされ、妨害工作らしい映像がカメラマンから見せられる。
『……ま……だったな!おせーし、なんか変な臭いし……たか?』
『それだ!……カビでも生えてた……ねーの!?』
『ありえる……辺のFクラス……な!』
遠いからか途切れ途切れだが、明らかにガラの悪そうな2人組の男が醜く騒いでいた。
「…………コイツら2人組が『Fクラス』を強調した悪評を触れ回っている」
「許せない……!雄二!今すぐコイツらとっちめに!」
「落ち着け明久。2人組の特徴が分かればそれでいい。下手に騒げば事実だと認めるようなもんだ」
「でも……!」
「今の状況を見てみろ。客は満員、フタガミのお陰で設備に関する文句も無い。どんな高級レストランにも低評価はいくつか付くもんなんだよ」
「でも……いや、雄二が言うなら、納得するよ」
「ムッツリーニ、引き続き不審な動きがあれば報告してくれ。他の奴らは俺の指示があるまで店を継続だ。島田も姫路も頼むぞ」
「勿論よ、任せなさい」
「私も頑張りますっ!」
「「「俺たちも全力を尽くす!」」」
店の評判悪いのは……あんまり良くはないのかなー
「シオン、私達はどうしようか」
「知るか。オレは中立だ。店の売り上げに協力はするが、妨害するのも勝手だ。よほど目障りでなければ放置だ」
「りょーかい。じゃあ仕事戻るよー」
「ああ」
妨害なー……シオンは嫌いそうだけど、対策でもあるのかな?