バカと無気力で暇つぶし   作:プラスマイナス裏表

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Dクラス

「それでは、始めっ!」

 

 ばっ、と問題用紙をめくり、内容に目を通す。

 オレだってバカじゃない。高校レベルなら中堅程度の事は素でできる。

 

──カリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリ

 

 科目は現代国語。問題はそう難しいものでもない。

 戦争も開幕直後。いくら人数50程度の争いとはいえ数科目受けるだけの時間はあると聞いている。

 

──カリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリ

 

 とはいえ流石は新技術の試験校、Fラン大学以上のレベルだ。聞いた限り段々とレベルアップしていく問題形式のようで後半になるとオレでも中々手を焼きそうだ。

 しかしオレはリリカルなのは(キチガイ物理)の世界でその理論を習得するレベルの秀才。たかだか通常世界の基礎学問など少し思考を巡らせれば簡単に……

 

──カリカリカリカリカリカリカリカリカビッ……!シュッ!カリカリカリカリ……!

 

 やかましいな。

 戦争初っ端、戦線は教室から遠く、教室には担当教員と代表の坂本、あとは複数のバカと、隣でテストを受けてるオレと同じく点数の無かった姫路瑞稀という女……

 

──カリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリ

 

「……」

 

 姫路瑞稀だった。

 オレがまだ1問目だと言うのに姫路瑞稀の机にはもう厚みが分かるほど解答用紙が積まれている。その机の端にあるカッターと削り節みたいのは何だ?まさかさっきのシュッ!で削ったというのか?折れた鉛筆を?

 ──『いいかフタガミ。この学校は点数上限が無い。時間内に解き続ける限り何点でも取ることができる。ま、明久同様、お前に再度説明することでもないと思うが』

 代表に戦争前に言われた事を思い出す。18だかそこらのガキがナメた口ききやがって。

 

「先生、これで」

「よろしいのですか?時間はまだ……」

「隣見てやる気無くしました。戦線に加わります」

「分かりました。採点します」

 

 数問解いて即終了。

 ……舐めた口とは言ったがオレにアレは越えられん気がする。何かしらしないとな。この学校の上位陣は毎度あのレベルでテストしてんのか?答え知ってる1桁足し算でも無理だろ。折れた鉛筆削るならオレは最低2分は欲しい。なんならもっとだ。

 そりゃあAクラスなんぞあの待遇だろうな。足りんくらいだ。

 

「代表、1番手薄なとこどこ?行ってくる」

「お、おいおい!まだ1科目だけだろう!?」

「ああ……了解。全科目受けるよ」

 

 代表に止められる。止めたのは科目数じゃなく点数だろうが構わない。

 他科目も同様一息で解けるだけ解いて終了。

 

「さ、これで文句ないでしょ。どこ?解決してくるから」

「……お前、人が変わったようだな」

「……なんで?」

「1年の時のお前は明久同様勉強には興味を示さず、どころかほぼ全ての物事に反応さえしない無感情だった。だからこそお前は観察処分者の烙印を押されてる。正直言って、俺はお前をただの肉壁として使い潰すつもりだった。なのに何だ?テストを複数受けてまで戦線に加わろうとする。お前は何だ?」

 

 クラス代表の真面目な視線。

 逆立った髪も相まって並の女子高生なら怯むか茶化すかしか選択は無いだろう。だがオレは並でも女子でも高校生でも無い。

 コイツは多分、雑な嘘は見抜いてくる。だからとりあえず、オレの動機を正直に話そう。

 

「何って……何だろうね。西村先生いるでしょ。指導の人」

「……ああ」

「あの人ね、いい人だ。教師って仕事、大変なんだよ。上限無しのテストで数十点しか取れない生徒とか見ないといけないしさ」

「……」

「あの人はそれでも私たちを導こうとしてる。最底辺たる私にも、誰にも隔てなくね。だから、それには報いてあげようと思うんだ」

「……そうか。まぁ動機はそれぞれだ。Fクラスの為に動く気があるなら結構だ。じゃあ明久たちにこのメモの通り伝令を頼む」

「了解、代表」

 

 納得はしてないようだがまぁ認めてはもらえた様子。

 だからってフタガミウタネの本音は一切話していない。あくまでオレの、ウタネにとって偽物の動機。

 それはそれとしてメモを受け取って指定位置に向かう。そこでは昨日見た召喚獣とやらがわちゃわちゃしていた……見てる分にはかなり平和な戦争だな?

 ……そういや明久って誰だ?

 

「吉井!私たちは間違ってないのよね!」

「そうだね島田さん!僕たちにはまったく問題は無い!」

 

 しまったな。どんなヤツかくらいは聞いとくべきだった。

 今数人見逃したから……その中にいたら終わりだな。初任務失敗だ。

 戦線に不利を見たのかFクラスと思われる数名が横を通り過ぎていった。

 

「あ……」

 

 しまった、思考するより聞けば良かったな。

 

「む、フタガミか!増援に来てくれたのかの!?」

「ん……Fクラスだよね。そうだね、そう……」

 

 小柄な男装女子が撤退して来た様子。

 

「すまんの、ワシらの召喚獣はかなり疲弊しておる。補充に戻りたいのじゃが」

「ん……あの数人が追手か。アレの足止めしとけばいいのね」

 

 奥には数人、教師を連れて追ってきているように見える。

 

「ん?1人のようじゃの、伝令か何かじゃったか?」

「明久って人に伝令を頼まれたんだけど」

「む?明久ならばもう島田と撤退しておるじゃろ」

 

 撤退済み……?いや、島田……

 アイツか!吉井!昨日西村先生も言ってたな!じゃあアイツがもう1人の観察処分者か!この男装少女の様にウタネに見向きもせず自己保身を選んだか……いいだろう、この戦争が終われば個人的に質量兵器で戦争してやる。

 

「ならばワシらとここで粘るかの?」

「……いや、いいよ。足止めしとく。代表には任務失敗とだけ伝えてくれる?」

「微妙に会話ができとらんの……大丈夫なのじゃな!?」

「大丈夫。負けはしない」

「頼むぞ!早めに戻る!」

 

 男装女子と数名は教室に走っていった。

 ……お前ら数人で無理なところを最低得点者が1人でどうこうできると思っているのか?Fクラスってのはそんなにヤベーところなのか?

 

「まぁ……行こうか」

「五十嵐先生!Dクラス清水美春、Fクラスフタガミウタネさんに勝負を挑みます!」

『許可します』

「試験召喚獣、試獣召喚(サモン)!」

 

 相手が召喚。容姿は西洋剣に騎士甲冑と両サイドに縦ロール。

 まぁ、初戦には丁度良い装備だ。

 

「良いだろう、試獣召喚(サモン)

 

 こちらも召喚獣を召喚。

 容姿は……金髪碧眼の西洋騎士……?

 昨日出したのは姉さんのデフォルメキャラだったが……?

 

『Dクラス  清水美春(しみずみはる)    94点

 化学 VS 化学

 Fクラス  双神詩音(ふたがみうたね)    6点』

 

 しかも点数は絶対的。

 6点は流石にナメ過ぎたか。

 

「行きます!」

「おぉ……どーするか……なっ!」

 

 相手の攻撃を剣で受け止める。

 

「敵か……敵だよね……じゃあ敵だ」

「はぁっ!」

 

 一瞬で力の差は理解できたので押し合いではなくバックステップを選ぶ。

 さて、点数の差を越える方法を探さないとな……

 ……吉井明久か。

 ヤツがウタネを除く最低点保持者なら何故奴は生き延びて撤退できた?生き延びる術を持つからだ。

 よし。正直好ましくないが映してやろう。

 

「……なるほど」

「っ!ちょこまかと!」

 

『オレが吉井明久だったかもしれない』並行世界からその能力を使用した。

 圧倒的な操作性による回避能力。これならいけるな。

 

「く……!みなさん!増援願います!彼女を突破しましょう!」

「「「了解!!」」」

 

 少しの間攻撃を避け続け、敵の縦ロールが集合命令を飛ばす。

 判断が速い。3人間に立ち回るにはスペックが低過ぎる……これは今後、点数伸ばすか……とは言え姫路瑞稀のを見てると点数で競うのは無理そうだな。アレで病弱は無理だろう。オレのいた世界ではオリンピック選手でも不可能な速度だ。

 

「だが……」

 

 敵の撃破を完全に捨て、回避と撤退に総動員するなら……不可能じゃない。

 

「くそっ!全然当たらない!」

「たかが6点にこんなに苦戦するなんて!」

 

 おそらく相手も初陣なのだろう、単調な動作しかできていない。

 それだけ操作性に差があれば……永遠に回避し続けることも可能だな。

 

「やっぱりお前ら……!自分に似たヤツが召喚されるんだな!」

 

 対峙する相手の召喚獣は全て本人をデフォルメした様な姿をしている。

 

「フタガミさん!ありがとう!もう大丈夫!」

「悪かったわね、1人残して撤退しちゃって」

 

 召喚獣への不満点を見つけたところで増援。

 コイツら……さっき撤退してった吉井と島田か。あと数名。

 

「じゃあお願い。私疲れた」

 

 1人で結構な時間稼いだろ。

 あとは姉さん基準で代表の護衛兼サボりだな。

 

「ありがとう!君のおかげだよ!」

「……じゃ」

「吉井!さっさと参加しなさい!坂本に殺されるわよ!?」

「あああうん!吉井明久、召喚します!」

 

 コレがもう1人の観察処分者、吉井明久……か。

 影の無い抜けた表情に明るい言動。対極にある姉さんとは相性が悪いな……まぁ、もう姉さんが表で動く事の方が少ないだろうが。

 とりあえず撤退許可は得たのでクラスへ戻る。

 そこには数科目の補充を終え万全の様子である姫路瑞稀、護衛に戦略を説明している代表。

 

「戻りました……」

「ああ、フタガミか。良く1人で耐えてくれた。姫路の補充が終わったから、これからDクラスを獲る」

「……責めないの?」

「あ?何をだ」

「私への指示は吉井明久への伝令。私はそれを達成できずみすみす崩壊の危険を犯した」

 

 いくらバカのクラスとはいえコイツは多分、ワザとこのレベルに居る。

 姉さんのカンが自分より地頭は良いって言ってる。コイツの過去については知らないが、中々キレる人間だ。

 そんなヤツが、任務未達成で戻ってきたヤツの安全を保障するとは思えない。何かしらの罰則はあるべきだ。そしてそれは、信用を得るため今のオレたちとしては受けるべき条件だ。

 

「ああ……そうだな。お前は司令官の命令を無視するという戦場での極罪を犯した。だが、その結果より万全な状態で戦略を進められた。お前の稼いだ時間はDクラスの寿命を確実に削ったんだ、その上で責めるなんてするもんか」

「ああそう……まぁ、無罪ならいいよ」

「それにな……(ごにょごにょ)」

「ん?」

 

 コイツはどうも成果に甘いタイプらしい……と思ったのも束の間、顔を寄せて他に聞こえない小声での話になる。

 

(このクラス、女子が少ないだろ?女子を叱責すると他の奴らの精神状態が狂うからな……)

(えぇ……)

 

 前の世界だと……衛宮士郎しかいねぇな……アイツは怒り狂うまではいかなかったぞ……せいぜい全裸の姉さん相手にたじろぐくらいか……まぁ、このクラスもそんなモンだろ。

 

(丁重な扱いになるかもしれんが、別に他意は無いんだ、済まない)

(……私……オレの事は男と扱っても構わない。どっちでも同じだ)

(……無理するなよ?とりあえずこの話はまた今度)

(了解、代表)

 

 とりあえずの役割は終了。

 戦線に動きが出るまで待機で構わないとの事なので、オレは一旦引っ込んで姉さんに代わろう。

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