「……」
「……」
とりあえず、無言。
結果として、私の行動は正解だったのだろう。
あの場で2人を殺していれば、また体を分けてどちらかが死ななければならなかった。シオンでも人の死を無かったことにくらいはできるだろうけど、記憶を消しても傷を治しても何をしても、何処かに何か歪みが出てくる。
それ無しで解決するには双神詩音がやるしかない。
「フタガミ。こんな所で何をしている。Fクラスは今頃どこぞの公園で打ち上げじゃなかっかのか?」
相手は最強教師……名前は忘れた。
シオンが上に見るのだから私のウソくらい見破られるだろう。
話すのは簡単。けれどもそれらを隠し通し話すべきは……何故私は、すでに祭りも終わって打ち上げをしているはずの時間に屋上に1人忍び込んでいるのか、ということ。
えー……シオン、ごめん、チェンジ。
♢♢♢
「……失礼、西村教諭」
「謝罪はいい。説明をしろ。先程坂本と土屋を見たが俺を見るなり走り去っていった。何かやましいことでもあるのか?」
「……そうですね、やましい、とは違うが……少し感情的になっていた」
「感情的?わからん、ハッキリ言え」
「……今回の清涼祭にて、私は少なくともクラスの面々と協力し、召喚大会においては準優勝の結果を残した」
「そうだな。売り上げも設備を改善するには充分だろう。よくやったな」
「……様々なイレギュラーがあったとはいえ、最低クラスのFクラスが2組も勝ち上がり、決勝に立った。
「学園長から聞いている。試験召喚の新システムの試験台らしいな」
「……まぁそれはいい。その上で、今後はまだまだ力をつける必要があると感じた。まだまだ、力が足りない」
「ふむ……自分の不出来に腹を立てていたと?お前は3年生のAクラスをも倒した。充分誇って良いはずだが?」
「……少数の小競り合いではそうかもしれない。だが学年全体となればそうもいかない。個人戦はおおよそ克服できた……が、多人数相手はまだだ……まだ、届かない……」
「ふん……貴様、少し生き急ぎすぎだな。まだ高校生、親の保護を受けるガキだ。そんな輩が多人数戦まで想定することはない。それはまた成人してからだ」
「……西村教諭。信じる信じないは任せる。妄言と笑うもいいだろう……
「ふん……?」
「……だからさ、エボルトリガー'、返す気は無いか?」
「それは無い」
「……ちっ、ねぇか。まぁ──そりゃそうだ。はぁ、じゃあいいよ。ここに居たのはただ打ち上げに誘う馬鹿どもを払って屋上に逃げただけだ。別に法的なソレは無い」
「……」
「……まぁ、強制はしない。Fクラスの馬鹿共に襲われても対抗できる」
「お前は女だ。危険を感じれば俺に話せ」
「オレは全てだ!」
「……?」
「オレは全て!世界を映す存在だ!オレを女だなんて下らん価値観で測るんじゃない!アンタは清浄な秩序で動く人間のはずだ!」
「お前は……俺を聖人君子とでも思ってないか?」
「そうだ。アンタはこの世の底辺とも言えるFクラスさえ、最上とも言えるAクラスさえ、変わらず指導しようとする。それはオレの思う教育の鑑だ。生徒だって教師だって、成績の良い奴には比較的良く接するし、悪い奴は少なからずバカにして軽んじる。けどアンタはそうしない!言葉で叱ってもその態度は本物だ!代表や吉井と同じ事をAクラスがやっても同じ対応を取る!逆も同じ!それは秩序だ。あるべき世界の歯車だ。アンタを超える精神性を持つ人間に、オレは会った事が無い!」
「ふん……確かに俺は俺の生徒ならば誰であっても同じ様にするだろう。だがそれは秩序か?秩序とはあるべき序列を満たすための言葉だ。であれば、ここは学園。学力が優先されて然るべきだ。なら学園における秩序とは学力主義に他ならん。俺はそれ以外の要素も評価はするが、それは学舎における秩序では無い」
「……」
「そもそも、俺を歯車などと言うな。歯車になるのは若いお前たちだ。俺はそれを育てる立場だ」
「……それでいいのか」
「?」
「……若いから、年老いたからでランクを分けるのか?アンタはその能力を持って社会に貢献している。Fクラスなんて社会に何の貢献もしない。そんなもんを若さだけで優位に置けば能力の低い若者が上に出る可能性がある!」
「だがなぁ……いずれ俺も誰かに負ける。今ある俺もまた、誰かの上にいて、誰かの下にある」
「オレは誰にも負けるわけにはいかない!例え寿命の数瞬前であっても負けるわけにはいかない。誰にも、決して!」
「さっきから何を言ってるのかわからんが……確かに少し、感情的になっているな。打ち上げには行くんだろう。お前の目指す場所もわからんでは無いが……今夜くらい、何も気にせず楽しんで来い」
「……そう、だな。西村教諭、急に発狂して申し訳ない。罰則があればまた、後日お願いします」
「それも無い。生徒が本音を語ってくれるというのは教師にしてみれば喜ぶべき事だ。また観察処分の雑用は頼むが、それだけだ」
「……ありがとうございます。では、失礼します」
♢♢♢
「遅かったわね」
「うんーごめんね、ちょっと気持ちの整理的なー」
「?」
集合場所の公園に行くと既にハチャメチャに騒いでるクラスの面々。
ポニーテールの子は冷静にそれを眺めて微笑んでる。
「シオン、良くやったわね。最後のカードゲームのお陰で売り上げも上がって、アナウンサーの分も合わせてそれなりに設備を改善できそうよ」
「ほー、それは良かった。私もあの環境は流石に辛いからね」
「で、そのシオンはどこいるのよ」
「私が珍しくスルーした話をする?そもそも貴女なんなの?何でシオンを知ってるの?」
本来ならあり得ないんだよなー。
そもそもシオンがいない世界……もそもそも無いと思うけど、いないなら存在が知られるはずが無い。
いたとしてもシオンは『ウタネの代わりの存在』だからウタネ、私として振る舞うはず。それは絶対。
だからどうあってもシオンの存在はこっちから出さないと知られないはず。事実生前は完全にシオンをウタネと認識されてた。
「なんでって……ああ、でもアレね。シオンが約束破ったからその話はしないわ」
「約束ぅ……?」
「ふふ、ウタネは分からないのね。体の共有はできても記憶の共有はできないのかしら」
「……っ!?」
「そんなに驚かなくてもいいじゃない」
「や……ホントに分かんなくなってきた。貴女何者?こっち側だったりする?」
普通に生きてて体の共有とかいう単語が出てくるはずがない。
魔術世界ならともかくこんな平和な世界で……
「なに、こっち側って。私たちとは違うのかしら」
「ふーむ……」
ポニーテールは顎に手を当てて少し上を向く。
思い当たるところが無いのだろうか……少なくとも、転生、並行世界には関係無いと思うべき?
並行世界であればまだシオンの能力で対応できるだろうし、私を超える事も無い。
私達と同じ様に転生してる存在なら……そのバランスは分からない。あくまで四象より下であると仮定するなら、それでも問題ないけれども。
「まぁいいや。ジュース飲もう。せっかくだ、乾杯しよう」
「そうね。といってもそこまでバリエーションもないけど」
『お、遅れました〜』
「お?」
まさか私達より遅い人がいたとは。
「あ、瑞稀、どうだった?」
「はいっ!お父さんにも分かってもらえました!美波ちゃんやフタガミさんのおかげですっ!」
「……?」
お父さん……?
このピンクは何の話をしてるんだ?私が何かしたのか?
「そ、なら良かったわ」
「あ、姫路さん!遅かったんだね」
「あ、吉井くん……」
「?」
「すみません、私も飲み物を貰っていいですか?喉乾いちゃって……」
「あ、うん。はいどうぞ」
一瞬ピンクの顔が曇った気もするけど……観察処分から紙コップを受け取り、一気に飲み干した。
「それにしてもあんたたちもよくやったわね。まさか優勝するなんて」
「ああうん。フタガミさんの力に対抗するには同じ力、って雄二が」
「同じ力……?」
シオンと同じ……鏡を持ってる?
確かに同じ鏡持ちのアインスには負けてたけど……それをこの子たちも?
「うん、相手の点数をコピーするなら初めから同じ点数でぶつかればいい。こっちの点数をどれだけ上げても意味はない──って」
「うーん……私はそれ違うかなって思うよ。武器の点数は確かに上がるけど本体は元の点数でしかないから刺し違えればワンチャンあると思う」
シオンのはあくまで操作性で優位に立って攻撃を受けない前提。
鍔迫り合いでも何でも力押しに持ち込めば普通に勝てるはずだ。知らないけれども。
「僕もそう思ったんだよ。けどやっぱりダメって雄二が」
「あの、さっきから出てる雄二って誰?」
「はぇ?雄二だよ、坂本雄二。あのバカっぽそうな……」
「バカはテメェだ」
「雄二……いつから……」
観察処分が背後の大男に殴られる……ああ、代表さん。
「代表さん、雄二って名前だったのね。失礼」
「いや、構わないんだが……名前知らずに接してたのか、今まで」
「あー……私、顔とか名前とかそんな覚えらんないっていうか……」
ナマモノの区別なんてつかないっていうか……
「ま、いいか。んでだ、フタガミ相手に点数を増やすのはマイナス点がある。それは1人で2人分の点数を操作できる点だ。1対1ならゴリ押しもいいだろう、勝機はある。だがフタガミ相手ではそれが効かない。相方が自分と同じ程度とすれば自分の倍の点数と戦うことになる」
「なるほど──と言いたいけど、その仮定だと2対1、差は無いんじゃない?」
「そこでもう一つだ。武器を使って加速する手法。そしてその移動に使うのは片方だけ。常夏コンビを潰したのもこれが効いた。加速しつつ1人に倍近い点数をぶつけられるんだ、これじゃあいくら点があっても敵わない」
「ふーん……?」
ちょっとよくわかんないですね……点数が同じってなら武器使って同じように動けば良い……あ、それが操作性の優位か。
「で、点数が同じならスピードも同じ。高速で翻弄する戦法は使えない。それを2人で挟めば点数も同じ、かつ2対1の形を作れる」
「お、理論立ってそう」
「俺はそれでも押し切れると思ってたんだがな。新システムを持ち出すくらいだ、それさえ対処してきやがった」
「あっはっは、そりゃあそのくらいはね」
「だから……ああするしかなかったんだ……明久を生贄に粉砕する苦渋の作戦を……許してくれ、俺は代表として……大切なクラスメイトを……」
「おい雄二!心にも無い事を言うな!僕ごと叩き潰したの一度じゃないだろ!」
「うるせぇ明久!他にねぇだろうが!」
わーわーとバカ2人が喧嘩を始める。
自爆特攻……うん、シオン聞いてた?対応しときなよ。
「あう……」
「ん……?どうしたの、顔赤いけど」
「いいえ……大丈夫れす……」
「……?」
フラフラとバカ2人に向かうピンク。
「あっ!?これお酒じゃない!誰よ買い出ししたの!」
「ん、あ、ホントだ」
あっはっは。『オトナのオレンジジュース』とか書いてるや。
絶対ワザとでしょ。高校生でよく買えるなぁ、私今でも年齢確認されるってのに。
「まぁいいや、オレンジあんま好きじゃないけど」
「ウタネも何で飲むのよ!アルコールよ!?」
「だから飲むんだけども……」
「未成年飲酒!犯罪よ!」
「ああ……うん、もういいじゃん」
もうこの世界でも5人殺してるし。
ああ……その時の記憶抜かれてるのか。まぁ、そうじゃなきゃこうやって話してないか。
『服を脱いでください!』
『ほわーっと!?姫路さん!?』
『────!』
『────!?』
1缶空けて喧嘩してた方を見てみると何やら別展開になっていた。
「あっはっは、アレいいの?猥褻じゃないの?」
「もう、瑞稀も大胆な事するわね……アキが本気にしたらどうする気なのかしら」
「えぇ……私は咎めといてアレはいいの?差別?何を理由に?顔か?スタイルか?学力か?生まれか?存在か?」
「全部よ」
「おお……まぁそれならいいや。シオンがいるのに私にそこまで言えるとは」
「え……」
♢♢♢
「テメェ、何様のつもりだ?殺すぞ」
「あら、話は聞こえてたのね、シオン」
「まぁな、で、何で死にたい?死因くらいは選ばせてやる」
アイアンメイデンにでもぶち込んでやろうか。
「まぁいいじゃない。コレでも飲みなさい」
「オレンジは好きじゃない。誤魔化すな」
差し出されたのは姉さんも飲んだ缶チューハイ。
どこにでもある、とは言えないくらいジュースと区別の付けづらいパッケージのもの。
下手すりゃオレでも気付かず手にしてしまうレベルだ。
「でもウチを殺していいの?聞けなくなるわよ、昔のこと」
「……」
「ウチはあなたと話してたいの。ウタネよりね」
「……何なんだお前?と言っても答えやしねぇんだろうが」
「正解」
「……姫路を止めてきてやれ。酒の失敗は尾を引くからな」
「優しいのね。いいわ、止めてくる。アキ!瑞稀に何してんのよ!」
『うぇ!?ち、違うんだ美波!僕は何も──』
『言い訳しない!お仕置きは何が良い!?殺しはしないから好きなの言いなさい!』
『ちょっとメチャクチャな!ホントに無罪なんだってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!』
馬鹿はポニーテールに次々と関節をキメられていく。
多分若干ギャグ時空なせいなんだけど前の世界だったらデッドエンドだろってくらい背骨曲がってる。
構造から違う可能性もあるけど多分関係無いな。
「若さだなぁ……」
「何を言っておるのじゃ。お主も同じじゃろうて」
「あ……?そうだな。そうじゃないからオレはこうやって酒を空けるんだが」
「やはり酒じゃったか。クラスの連中も平気で飲んでおる。通報されれば一発じゃぞ」
「……まぁ、そうなったらオレが何とかしてやるよ。今回だけは特別にな」
「なら、そうじゃの、儂も一杯貰うかの」
「ああ。死ぬまで飲め」
「ふふ、乾杯じゃ」
2人で缶を合わせ、ひと口煽る。
「なるほどのぅ、少し苦めなんじゃな」
「ああ……物によるがな。甘いものもある。オレンジだからな」
「何じゃその理論は」
「……酒の席って事で言うんだが、召喚大会の報酬希望を聞こう。高校生だ、欲しいもののひとつくらいあるだろう」
「またその話か、姫路の転校はなくなった、それで良いと言うのに」
「お前……多少なりなんか無いか?代表を超えるガタイを手に入れて男らしい顔になってみたいとか……」
「そんな事ができるのか!?」
「お、おぉ……出来んことはないが……」
「それが良い!それが良いのう!」
冷静に一歩引いてた秀吉が思った以上の食い付きを見せる。
「してもいいんだが……提案してなんだが、そうなった後お前、どうやって生活する?」
「あ……」
「今までのお前とかけ離れた容姿、他のクラスメイトからの態度も変わるだろう、教師からもだ。そも家族はそれを認めるか?お前は居場所を失う。ほぼ確実にな」
「む……」
「だから、とは言わないが、1人で生きたくないなら多くを望まないことだ。今のままでも、幸福と笑顔はあるだろう」
「それでいいものかのぉ」
「お前の容姿も能力も、他人からすれば喉から手の出るほど魅力的に映るかもしれない。人の特徴は人それぞれ、お前はアイツらになれないが、アイツらにできない事をお前はできる。全人類の規格を統一したいのでなければ、自分を変える必要も無いだろう。足るを知る、というヤツだ。手に届かないモノは綺麗に目に映る。それは手にした瞬間には王冠となるだろう。何よりも輝きを放つ史上の価値。だがそれはいずれ朽ち果て、輝きを失う。ならどうするか?それは遠くで見ている事だ。どれほど悪辣な政治を行っていようと、地球の反対側の王ともなれば敬意を表す。流れ星のように届かない輝きを夢を見る……それは、永遠だと思わないか?」
「……儂をフォローしておるのは何となくわかるのじゃが……」
「お前たちはどこまで落ちても誰かの希望になる、と言う事だ」
「……流れ星を落ちる星と表現したのはヌシが初めてやもしれぬな……」
誰かから見た輝きは誰かの闇になる。
秀吉がもしスペック相応の見た目になれば、秀吉自身は喜ぶかもしれないがクラスの男子どもは絶望を抱えるだろう。
流れ星は地上で見れば輝きを放つ願いの象徴であるかもしれないが、天体から見ればただ重力に敗北した哀れなカケラでしかない。
「……まぁなんだ、お前らはそれでいいと思うって事だ。少し酔い過ぎたな」
コイツらは少なくとも……他人を害して得をしようだなんて行動原理は無い。
望む未来のために、他意無く協力できる奴らのはずだ。
「嘘じゃの。何やらお主ら、随分と酒を飲み慣れておるようではないか」
「……誰から聞いた?代表だろうな。殺してくるか」
「まてまて、別に言い触らそうとも思うておらん。酔うておるなら都合が良いと思うただけじゃ」
「……あ?」
「……ありがとうの。儂らの好きな居場所を守ってくれて」
「……知らんな。神の気まぐれだ」
「ふふ、そう言うことにしておこう」