バカと無気力で暇つぶし   作:プラスマイナス裏表

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0で割る可能性

「あ"〜……ちょっと慣れないの飲み過ぎたかも……」

 

 ベッドから起き上がる事も面倒なほど、私の胃は逆流を促進しようとしている。

 しまったなぁ……流石に吸収分解は1人分かぁ……

 あのオレンジジュース風アルコール、どこからともなく無限に湧いてくるもんだから調子に乗って飲み過ぎた……なんでアレ無限にあるの……解散宣言が周知された瞬間消えたし……まさかあのロリコン、カスみたいな優しさで差し入れでもしやがったのか?許されんな。次会ったら絶対殺してやる。

 

(……オレと交代しながら飲んでたしな。姉さんの方が強いとは言えオレもそこそこ飲んだからな)

 

「ねー。まさかあの女装男子が……」

(それ以上言うと殺されるぞ)

 

「わぉ、それは大変」

 

(……ま、いいから体貸せな)

 

「ん……ついでに二日酔い治しといて」

 

 シオンに主導権チェンジ。

 私は視界と思考のみの心の世界に引きこもる。

 

「さて……ボトルでも作るか」

(学校は?)

 

「しばらくイベントも無い。サボっても学園長には昨日の恩がある。オレはその気になればあの三年生たちがした事を今からでもする事が可能だ。どうと言うこともない」

 

 確かにシオンの能力ならあの証拠音声とやらを復元して拡散する、なんて事は簡単だろう。

 そうなれば学園はおそらく存続不能、そして私達はそのシステムだけを取り込んで……次の世界へ。

 

(ちょーっと準備足りない気もするなー)

「あん?」

(あぁごめん、次の世界に行くにはまだ早いかなって)

「ああ、それはまだだ。試験召喚システムは今までとは違う戦闘システム。まだまだ絞れる」

(でもトリガー以上のことできる?ブラックホール以上なんて想像つかないよ?)

「……まぁ、それが問題何だよな。正直なところオレもプライムトリガーさえ取り戻せば即世界破壊しても問題無いとは思ってる」

(じゃーなんで?)

「……違うシステムって言ったろ。今までみたいに殺す事に特化したわけじゃない戦闘システム。ならその先には殺し以外で何か絶対的なものがある気がする。何かこう、画期的な……」

 

 ブラックホールの自由操作とかいうどの世界でも最強だろって能力を手にしておいて、それ以外に何がある?

 私や双神詩音の現実改変には及ばないものの『無かったこと』にするオールフィクションとか、負荷を押し付けるニキュニキュの実とかで大体の事象はどうにかなるし、即時回復能力や残機とか、何なら私が意識再生成するとかで死なない。

 一般的な感覚で言えばもう不要だ。

 

「ま、どうなるかは分からない。ニューオーダーズのランクアップ同様、オレ達でさえ限界と思うブラックホールを超えるもの、そこに新たな世界があるはずだ。以前言った越えられない地点の先。それは確実に得られる気がする」

(ん〜……それがわかんないなぁ)

「……あ〜、そうだな、ゼロで割る、って分かるか?5÷0」

(ん?うん?えーとそれなんだっけ、0だっけ、解無しだったっけ)

「答えは解無し。定義不能。現代の数学ではその答えは出せない。その式は作れるのに、その先を見ることが出来ない。それはオレの能力にも言えると思う。オレはおおよその式を作る事ができるが、今のオレではその先は見えない。できるできないは別として、ゼロで割る事ができれば数学会は更なる進化を遂げるだろう。同じように、あるかないかは別として、能力の先が分かれば更なる進化を遂げられるはずだ」

 

 今現在では認識できない、存在しない概念。

 それを見つけることが段階を一つ超えること、成長ではなく進化になる。

 けど私には……それは想定できない。

 

(まぁいいや。ねぇ、私学校行ってきていい?)

「お?珍しいな、姉さんが社会生活したがるとは」

(ちょっとあのポニーテール気になる。何かしら探れないかなって)

「……無理に探る必要も無いが……まずそうだな、クラスの人間の顔と名前は覚えてから行け。顔や名前に興味無いのは分かるが社会じゃそれが分類コードだ。島田だってポニーテール以外の時もあるだろう、他の髪型にした時判別できなくなるだろ。基本的に、日常的に変わらないのが顔と名前だ」

(私の能力なら私の意思で名詞は変わる……)

「それは知らん。現実改変なんだからそうに決まってるだろ」

(うん……そうだね。籠るならせっかくだ……私の言葉を試してみてもいいかもしれない)

「能力は世界壊さないなら好きにしな。それになのはやシロウだって名前覚えただろ。リスト用意してやるから」

(むむむむ)

 

 学校へ行くのは一時諦め、苦手な記憶作業を始める事になる……

 

 ♢♢♢

 

「よし……これでどうだ!」

(……ふむ、まぁ良いだろう。主要メンバーは合格だ。末端の方はズレもあるが……十分だ)

「よぉし!」

 

 あれからどれだけ経っただろう、えっと……え?あれ?

 

「どれくらい勉強してたんだっけ……?」

(……人の顔と名前覚えるのを勉強呼ばわりするとは中々だな。そうだな、ひと月半くらいか。毎週テストして6〜7回だからな)

「えぇ……?私それだけやって満点じゃないのぉ?ちょっとヤバい?」

(……そーとーヤバイ。まぁ明日から登校して、姉さんの名前と相手の写真入れた手紙を全員の下駄箱に入れてけ)

「えぇ……なんでそんな不審者行為……」

(実際名前と顔が合ってないと意味が無い。内容は《顔覚えようとしてます。あなたは〇〇さん、合ってるか教えてください》とかでいいだろ)

「むぅ……まぁ、社会性のためか……気が進まないけど……じゃあ、準備と早起きは任せるよ?」

(ああ。姉さんに早起きできるとは思ってない)

 

 私は自慢ではないが1人だと無限に寝てる。

 1日の8割は寝てる。午後4時に起きて午後7時に寝るなんてよくある。

 

(じゃ、明日から頑張れな。手紙とか用意するから体貸せ)

「ん。アレは?ダブルアップ」

(いや、してもいいがクラスの連中に話すのが面倒だからしばらくこのまま行く。その方が対応もできる)

「んー、まぁいいよ」

 

 その対応ってのが私のミスをカバーすること、ってのだろうけども。

 

 ♢♢♢

 

「あ、ウタネ?何この手紙。久しぶりに来たと思ったら奇行に走るなんて」

「あぁ、ポニーテー……違う……島田さんだ。合ってた?」

 

 久しぶりの学校。

 早朝シオンに学校の手前まで行ってもらって敷地内から私の行動スタート。

 下駄箱にたっぷり30分かけて手紙を押し込み、その後は教室で二度寝を決め込んでいた。

 誰もいない教室に、ポニーテールだけが来た。

 

「合ってるけど……何で今更?アンタが名前覚えないのは分かったわよ?」

「それを覚えてきたの……で、それがテストみたいな感じ」

「それでも奇行よ。シオンの案?」

「うん……私がそんな事思うはずない」

「そうよね。ならこれ、いつまでやるの?」

「いつまで……?」

「一回やってハズレてたら意味無いでしょ?全員覚えきるまでやるの?」

「……」

 

 それは考えてなかった……

 えぇ……?やだやだ、何で毎度毎度クラス全員と話さなきゃいけないの……私前の世界でまともに話したのエミヤシロウくらいだよ……

 

「それはアンタの考えることではないわね。まぁ良いわよ、いつまでも。アンタと関わるって事はシオンとも関わりがあるって事だからね」

「それ……それよ。別に目的を話せとは言わないけど……あなた、私達……シオンに少し執着しすぎよ?何の目的があるの?」

「動揺のあまり矛盾してるわよ。別になんて事ないわ。ウチ、シオンに気があるもの」

「ふぁ……?」

 

 ウィンクしながら話す島田さん。

 気がある……?それはつまり、恋愛対象として見てるってこと?

 

「ほほぅ……ほうほう……で?何が望みなの?私もいる限りそんな情報戦には乗らないシオンだども」

「あら……別にそんな事ないわよ。ウチと付き合っちゃえば──シオンがオンナを知るにも、過去を知るにも十分だと思ってるわ」

「──」

 

 コイツ……本気だ。

 実際シオンをどう思うかは別として──シオンを手篭めにする気しかない。

 シオンがそれに乗るとは思えないが──その提案が私達に魅力的すぎる。

 

「私達の過去──それさえ話すなら、私達はあなたに永遠を与える意味もある……対等な取り引きをしない?」

 

 この世界で得るべきはこの世界で生きてきた私の情報。それとシオンの進化の可能性。前者に比べれば後者は希望的観測に過ぎない。

 そもそも記憶喪失とは一言も行ってないのに過去がどうこう話してる時点で異常だ。

 

「永遠に?私とシオンを付き合う事を保証する?」

「えー……いや、ちょっと貴女心当たりある……ちょっと待って」

「?」

 

 シオン起きて。

 

(……何だよ、出ないぞオレは)

(違くて。この子ソラじゃない?)

(……は?)

(私とシオンを知ってて、しかも見分けついてる。んでシオンに好意がある)

(……断定が早すぎるだろ。コイツがソラ……の意識持ちの人間だったとして、何になる?要求があまりに人間過ぎる)

(違うか……)

(電話してみろよ、ソラでもロリコンでも)

(ああ確かに)

 

「ちょっとごめん、電話」

「ちゃんと授業までには戻ってくるのよ」

「うん」

 

 教室を出て携帯を取り出す。

 あ……ソラの番号知らないや。ロリコンも知らないな……

 番号お願い……

 

(ったく……)

 

「〜〜〜♪」

 

 シオンに番号を打ってもらい、携帯を耳に当てる。

 

『ハロー!みーんなーの抑止力!生きる命は護る!それ以外は滅ぼす!VNAの抑止力担当!ソーラさーんだよー!』

「切っていい?」

 

 命以外滅ぼすとか何言ってんだ。それでも抑止力か?

 

『なーんでよー!せっかく特異点も止めてペラペラの休みだってのにさ!シオンに変わって!?』

「特異点止めたっていうか双神詩音が消しただけだけどね。んでさ、その薄い休みに悪いんだども島田……美波って知ってる?」

『ほ……?シマダミナミ……?』

 

 パッと思いつく心当たりは無さそうね……

 

「私とシオンを区別できて、シオンに好意寄せてる女の子いるの。もしかして貴女じゃないかと思って」

『ん〜?そんなライバルが?けど私じゃ無いと思うよ。抑止力とはいえ私が現界するなら私の姿してるだろうから。ほら、前の世界でもシャドウ出たんでしょ?でも私の姿だったでしょ?』

「あぁ……了解。じゃあね」

『まってまって!?それだけ!?』

「だけ。もう用事無い」

『じゃーシオンに変わってよぉ!』

「用事無いって」

 

 うるさいし……

 

『ブラックホール!教えてよー』

「今無いから使えないよ。また今度」

『何?無いって。映らないの?』

「キーアイテムが没収されてるの。だから無理」

 

 プライムトリガー……今思えばベルトが復元できるなら何とかできそうなのにね?

 

『ふーん……そ。じゃあフェーズ進んだらまた教えてよ』

「ひとつたりとも教えた覚えはないけども」

『うん、えっちゃんから聞いたから』

「まぁ……いいけども。ブラックホールの先に行ったら教えるよ」

『ありがと!じゃあね!シオンによろしく!』

「うん。チャオ」

『……ちゃお?』

 

 ソラとの電話を切って教室へ戻る。

 他の世界で私達と関わった人ならそうと分かるはずだし……やっぱりこの世界産の人間で私達の転生前のウタネとシオンを知ってる……

 

「あ、戻ってきたみたいね。誰と話してたの?」

「ん……元幼馴染というか腐れ縁というか殺し殺される仲というか」

「腐れ縁以外ちょっと意味が分からないわ。幼馴染って解消されるものじゃないでしょ」

「ん〜……極めて例外的にというか元々違うけどそうだったと言うか……まぁ、いいじゃんそれは」

 

 教室では数人に手紙を見せられ、おおよそ合ってる事が分かった。

 

「ねぇフタガミさん!僕のこと何だと思ってるの!」

「え……何て書いてた?」

「『観察処分者』って書いてるよ!?」

「違ったっけ」

「あってるけど!名前じゃないよぅ!」

「あ、確かに……えっと……あれ、誰だっけ?」

「吉井明久!このクラスのスーパースターの名前を忘れるなんて、フタガミさんもまだまだ修行が足りないようだね」

「何言ってんのよアキ。アンタがスーパースターなら他の連中はレジェンドよ」

「ふん、美波には分からないさ。僕が手にしたこの腕輪、その力は既に人類の想定をはるかに越えている!」

 

 観察処分……吉井明久がその右手にある無機質な腕輪を掲げる。

 その力は……人類の想定を……?

 遥かに……超える……

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