「ふぁーあ……やはは……やー、エボルドライバーでもラビットタンクできるの意外だったなぁー」
……本来エボルボトルはエボルドライバーで使うもんだ。姉さんが使ってるドライバーが異常な方だぞ。
「やー、シオンって何かしらのシステムと他のボトル使ってたイメージあったからさ」
暴徒鎮圧から少し。
私は結局部屋に備えられてたシャワーを浴びた。以外と普通に高機能。
今は夜間の自由時間として布団で天井のシミを数えている所だ。
……システムは世界の基盤。それを手にする事は次なるフェーズへの進化の踏み台になる。
「あっはっは、だからフェーズ2ではなかったのね。システムを……世界を基盤としない限りは、ただ強いだけの能力だと」
……そうだな。ただ単に相手をねじ伏せるのでは意味が無い。そんなものはただ暴れるだけの暴君。盛者必衰だ。それだけならソラの習得してる鬼の貌、アインスが望む無限月詠。なんとでもなる。単にあの場で不自然無く吉井を倒すならそれが最適だった……フェーズを冠するなら、あの腕輪の力だろう。召喚獣を二分する力。それは世界に一つであるはずの自分を分割する能力と言って良い。別人格でも、並行世界でも別時間でもない、純粋な1人を分割する……
「二分するかぁ……でも自分の半分がやられちゃったら残りも存在してないも同然だしねー……」
「ねぇウタネ?独り言なら外でして来てくれないかしら?」
「んぁ……あぁ……ポニーテール……名前また忘れちゃった。独り言でないのはアナタなら分かってるはずだども」
「シオンと話してるんでしょ?けど異様だわ。何について話してるの?」
「んー……私達といえば?みたいな?」
「何よソレ。何なのよ。折角の合宿イベントよ?少しくらい暴露しなさい」
「んー……まぁ、永遠について?」
「ソレねぇ……飽きないわね」
「……?」
「は……?」
ピンク……姫路さんがポカンとしてる。私はつい呆けてしまった。
どうも過去の私かシオンは永遠について語った事があるようだ。
何してんのホント。
……何してんだろうなホントな。
「わーたし……というかー……シオンはさー……アナタに何を話してる?シオンが約束で聞けないのは知ってるけど、合宿イベントなんでしょ?ちょっとは教えてよー……」
「そーねぇ。昔──シオンに会ってたの。ウチ」
「うん……で?」
「あぁ、そこから知らないのね。ウチ、ドイツにいたのよ。日本に来たのは、高校から」
「……は?」
ドイツにいて……シオンに会ってる?そんなバカな。心当たりは──私は無いね?
……ドイツ。と関わった覚えは無い。強いて言うなら、アインツベルンの城がドイツ。様式に近いこと、アインス含むベルカがドイツ。に近いこと。それら総合的な繋がりから考えて、生前1人暮らしでイモい姉さんがトップポテトチップスになる為にジャガイモが豊作だった年にドイツ。に進出し、そこでオレが……となると……あり得るのか……?
「なるほど……じゃあ以前の私はドイツ。でトップポテトチップスになるために……」
「は?ポテトチップス?」
そもそもドイツ。って?トップポテトチップスって?
……世界の記憶には様々な情報が入り乱れている。素振りやウイスキーの話はしていない。
「ごめん、よく分かってない。寝ましょうか」
シオンの読心が封じられてるからだろうけどヒントが小出しにされてるなこれな。
なんでクラス内で謎解きさせられてるんだろう。
さっさと心読んじゃえばいいのに。
……約束は約束。オレの勝敗によるものだ。負けは負け。
ふーん。あの妹さんでも人質にして話させればいいのに。
……なぁ、あぁ……やっぱいい。寝ろ。
うん?
……寝ろ。
はーい。
「えっ!?寝た!?もう何なのよ……瑞稀、どうする?」
「えっ……えっ?そ、そうですね、どうしますか?」
「もう、じゃあ今日はもう寝ましょう。初日だもの、移動の疲れもあるからね」
「はい。ありがとうございます」
「いいのいいの。あ……悪いんだけど、ウチの布団、端でいいかしら」
「……?はい。大丈夫ですよ」
「ありがと。瑞稀には絶対迷惑かけないから……ウタネ挟んで並べましょ」
「分かりました。明日からもよろしくお願いします」
「ええ。おやすみ」
「おやすみなさい」
♢♢♢
「……」
『お姉様!何故美春の顔を抑えるのですか!この場に邪魔者はいません!』
『2人寝てるのが分からないの!?いいから自分の部屋に戻りなさいっ!』
『嫌です!日中は私も迷惑をかけないよう我慢していたのですよ!?』
『なら合宿中ずっと我慢してなさい!卒業するまででいいわ!』
『では!卒業後は美春と子を授かるつもりと!?』
『違うわよ!く……っ』
ボタンを押されたから起きてはみたが、女2匹が乳繰り合ってるだけだった。
まぁ……相談内容はそうだもんな。だがレズ相手に無理だから助けてくれ、ってもなぁ……
「とりあえず静かにするか、清水2年生」
「む……起きていたのですか、フタガミさん」
「シ……ウタネ……」
「オレはよっぽどじゃなけりゃ年中起きてられるからな。とはいえ何だ、お前、帰れ」
「帰れ?私に言っていますか?」
さも自分は悪くないとばかりにオレを睨む清水。
「当たり前だろう。お前以外はこの部屋の住人。お前は部外者だ。夜間の安全が保障されるのも人間の知性の結果だ。それを脅かすことは文明の侵略者……つまり犯罪者だ。罪には罰を、駄犬に鞭を。今帰るなら島田次第で許してやる。だがそれでも引き下がるなら……お前をこの社会から追放することになる」
「突然何を言っているのです?私はお姉様を愛しているのです。部外者である貴女に文句を言われる筋合いはありません」
「はぁ……これだから女は……ってのはダメなんだよな。とはいえオレは昔から言ってるから変わらず言うぞ……そんなだから女はダメなんだ。感情だけで動いて後のことを想像さえしない。自分の感情を理性とさえ思っている。知ってるか?今日Fクラスのバカ4人が女子風呂の覗きを敢行してたんだが」
「そのくらい知っています。お姉様のぺったんこを覗き見ようなどと度し難い邪悪です」
「……美春、それについては後で話があるわ」
「……まぁ、ソイツらの覗きの結果は分かるな」
胸の格差はまぁ……一応この世界、オレの常識的な範囲のレベルであるからそんな気にしなくていいはずだ。
どっかのリリカルな世界では姫路で基準、上には上って感じだったからな……
「相応の処罰でしょう。事実、補習を受けたみたいですし」
「そうだろう?ならお前も同じだ。望まない相手に無理矢理迫るのは覗きより悪質だと思わないか?」
「私をあんな薄汚い豚どもと同じにしないでください!」
「ほらほら、感情で喋るな女。では聞くが、お前のやってる事とアイツらのしてた事、何が違う?」
「豚どもは穢らわしい性欲で動く下郎畜生!私はお姉様を愛しての行動です!」
「自分のやってることを客観的に見てみろ、と言ったつもりだったんだがな……主観と偏見でしか考えられないのか?暴走した姉さんと同じだな。お前のやってることは望まない相手に性的行為を迫ること、それだけだ。両者が望むならそれもよかろう。だが事実、島田は拒否している。知っているか?不同意性交ってのは殺人の次に重罪とされている。不純異性交遊は禁じられているが、不純同性交遊なら良いというわけではない。知性体であるなら、その辺の分別も付くだろう」
「何を言っているのです?知性の無い獣と私は違うと言ったはずですが」
「……はぁ、お前は女だから世間に見逃されてるだけだ……と言っても理解しないよな。島田。どうするか言え。そうしてやるから」
話が通じないな。オレの話が長いのもあるが、Eクラスなら所詮は平均以下。コイツはそのくくりでは無い気もするが。
「じゃあ美春を元の部屋に戻して。ゆっくり寝させて」
「はいよ」
「な、何を──」
『清水美春がこの部屋に夜這いしに来た事実』を『無かったこと』にし、清水美春が熟睡している未来に限定した。
「き、消えた……?」
「今頃部屋で寝てる。当然だが、他言無用だ」
「まぁ、アンタのこと自体そう広げる気も無いわよ」
「それは感謝する。お前も寝ておけよ、明日もなんだ……アレだ、あいつら……」
「覗きでしょ。当然阻止するわよ。アンタはどっちなの?」
「オレか?オレは西村教諭から依頼を受けてる。言われた通りやるさ」
「そ。なら安心ね」
「だといいな。今日は新たな力で撃退したが、アイツらは2度目でオレのフェーズ1を攻略している。吉井にいたっては単独で攻略してきた。明日同じになるとは限らない」
とはいえ同様、どう攻略されるか想像もつかない。
単純だが純粋に強化されたラビットタンクに奴らは手を持たないはず。1番警戒するべきムッツリーニがどう動くかだが……ラビットの加速でどこまでついていけるかだな。フェーズ1対応するにも即死では意味が無い。
「……」
「なによ、急に黙っちゃって」
「……いや、ムッツリーニへの対抗策が薄いのが割と致命だ」
単体科目で400点オーバー。学年首席レベルなら首席も同様だろうが首席はまだだ。
その点数帯で言うなら2年生の中で最も召喚獣を使ってるのはムッツリーニだ。今後操作性でのアドバンテージは埋まっていくだろう。
高速移動を封じるか?いや、それじゃあ勝てないのを認めてるも同じだ。速さには速さでもって勝たなければ意味が無い。
「なによ、そんなの簡単じゃない」
「……なんだと?言っておくが保健体育以外なんてくだらん事言うなよ」
「アナタが脱げばいいのよ。全部」
「……」
「あらゆる状況下で勝てるわよ?多分」
「……猥褻物陳列はオレの負けじゃないのか?」
「その体、女なんでしょ?大丈夫よ、十分保健体育だわ」
「……お前、シラフか?女でも男でも変わらないだろう。ここは法治国家だぞ」
「そうかしら。女子供が男に襲われる、ありがちな展開でしょう?」
冤罪特攻を悪びれもせず提案する島田。
倫理観的にコイツは相容れないな。
「……死刑は親兄弟さえ例外無く。いついかなる状況でも法を犯せば罪になり、裁かれる。男女問わず裸に価値は無い。同様に着飾った服にもな」
「冷めてるわね。美春の事といい、そういうの語りたいお年頃?」
「……中立とはすなわち、相手の主張を元に妥協点を映すことだ。法に守られてるお前たちには法を守る義務がある。そうしないなら、法に守られる権利は無い。同様に、試験召喚獣で戦う以上、それ以外の要素は使用しない……システムで即死させるか」
本体を殺すだけなら簡単だ。その点で言うならオレは死神とさえ張り合える。
だがオレの望みはあくまでシステム内での競い合い。フウシャボトルでならアンサラーで即死がある。学園長にしか即死能力は伝えてないと思うが、まぁどうでもいいか。
「アンタ……やっぱりFクラスには馴染めないわね」
「……あ?」
「アンタの頭なら充分理解してるだろうけど、Fクラスの頭は坂本とアキよ。アイツらが望むのは自分たちだけの勝利。アンタとは違う」
「……オレを追放したいのか?そんな事はどうでもいい。誰が何を望んでもオレ達はそれを否定しない。オレ達が望むのは永遠だ。支配じゃない」
「だからよ。普段はウタネでいた方が良いんじゃないのって」
「……お前、ほんとに何なんだ?オレ達を知ってるなら姉さんを出しとく方がヤバいと分かるだろ」
姉さんだけでいると引きこもるか発狂して破滅だぞ。
割合で言うなら9割オレでいるくらいが安全だ。
「ウタネがヤバイ?引っ込み思案な性格が?」
「……分からん。また話そう。今日は寝ろ」
とりあえず今の問題はコイツじゃない。
明日、明後日……奴らを越え続けなければならない。