「……どうも」
「ああ。では、両手を上げろ」
「……へい」
その夜。例の如く覗き防止の為西村教諭に合流する。
今日の昼の馴れ合いで警戒を持たれたのか、身体検査を要求される。
……断る理由も無く、信頼のためにもそれを受ける。
「ま……良いだろう。因みにだが、必要に応じての接触で個人的な感情は無い事を断っておく」
「……教師ってのは大変だな。法的弱者を相手に無為に手を上げられない」
「そうだな。勉強ができても問題を起こす者もいる。お前の様に聡い者ばかりではない」
「……聡い、ねぇ……嬉しい言葉だが、オレ達はそれから縁遠い存在だ。届かない理想に手を伸ばし続ける愚か者」
「何が愚かだ。理想を求めず成長は無い。こうなりたい、ああなりたいという思いが原動力になる。まぁなんだ、そういう意味では、奴らもそうなんだが……」
覗きという理想にがむしゃらに突っ走る馬鹿どもを思い浮かべたのか、西村教諭が苦い顔をする。
「……そうですね。アイツらも成長している。負けてられない」
「ああ、それでこそだ」
……何と言えばいい。このスポ根の様なやり取り。
今までに経験が無い。ゼストや銀時といた時でさえ、少なくとも対等ではあった。
明確にオレが下の立場でいる事……それは、あり得ない事態。
オレは生前でさえ、親も親戚も無かった。鏡の無いその時点、全てを独学で手にした。身長と体重の数値だけは上がらなかったが、筋力でさえ男子に負けはしなかった。
「……騒がしくなってきましたね」
「ああ。奴らめ、人数を増やしてきたな」
「……どうします?おそらく10じゃきかない……Fクラス男子全員と思われますけど」
「やる事は変わらん。俺が20やる。残りを召喚獣で止めろ」
「了解です」
……20?
「「「おおおおおおおおぉ!」」」
「ぶっ殺せぇぇぇぇぇぇぇ!」
「鉄人だ!」
「構うな!数で押せ!」
「「「うおおおおおおおおお!!!」」」
何て勢いしてやがる。
主要メンバーで見えるのは……吉井と須川か。他のは教師陣に足止めか。
とは言え数は昨日より多い。
が……
「教育的指導っ!」
「ぐはっ!」
「死ねええええええ!」
「指導っ!」
「ごはっ!」
20には届いていない。圧倒的身体能力の差に1人、また1人と鉄拳を受け沈んでいく。
すげぇな、相手は男子高校生、何もしなくてもピークの身体能力だというのに。
「く……!みんな!」
「後は吉井、お前だけだ」
「まだだ……!サモン!」
屍の上に立つ悪鬼。ゆらりと滲む殺意が吉井を刺す。
召喚獣を出して牽制するがもはや無意味だろう。
「教育的……!?」
拳を振りかぶった西村教諭の動きが止まる。
「須川君!」
「須川、何をしている、放せ!」
「はなさねぇ……吉井、今だ、鉄人を……」
「西村先生と呼べ!」
「ぐはっ!」
しがみついた須川を腕一つで振り回し、壁に叩きつける。
……それホントに生身の力か?
それを見て他のメンツもゾンビの如く立ち上がり西村教諭へへばり付く。
「う、うお……!放せ貴様ら!無駄なことだと分からんか!」
流石の西村教諭も10を超える人間が重なれば満足に動けず、剥がした後から復活した奴らが張り付いていく。
これで吉井がフリーだ。
「行け吉井!突破口を!」
「須川くん……!うん!後で雄二たちも追ってくる!時間を稼いでくれ!」
「フタガミ!吉井を止めろ!多少の負傷なら俺のせいにして構わん!」
「……だったら、やはり召喚獣での勝負になるな?吉井」
「やはり出てきたね、フタガミさん」
「……サモン」
総合科目
──双神詩音──496点
まずは基本の召喚獣。今回のモデルは白髪ロングに赤眼と姉さんに似ているが赤のコートにミニスカート、手袋……?
「まぁ、どっちにする?そのままじゃフェーズ1を、ダブルにすればラビットタンクを超えられない。現状、お前に勝ちは無い」
「そうだね。けど、やるしかない!サモン!」
総合科目
──吉井明久──758点
「……あ?なんだ?点数下がってるじゃねぇか」
「それは……その、シオン?フタガミさん?のせいでテスト受けられなくて……」
「……?テストを妨害した覚えは無いが……まぁいい、西村教諭も手が離せんようだからな!すぐに終わらせる!」
増援……代表が合流するならコイツはダブルを使わない。フェーズ1を封殺しつつラビットタンクを超えるだけの火力をどうにか用意するはずだ。
コイツ相手に試したい思いは当然あるが……西村教諭の余裕がどこまであるのか分からん以上、召喚獣の突破を許せば能力以外に止める手段が無い。
西村教諭の意向に沿うならできれば……早めに勝っておきたいところか。
「よし!通常状態なら正面突破!」
オレがまだ能力を使わないのを見て突撃してくる召喚獣。
「甘いぞ!点数が低くとも戦えるのはお前が1番知ってるはずだ!」
顔面を狙った突きを横に躱し、十分に次の挙動を見る。
「そこっ!」
「同じ技術でそんな単調な攻撃は無意味だぞ」
「ならこうだ!」
引いたこちらの召喚獣に大袈裟な……いや、一撃の威力を高めるためモーションを大きくした攻撃。
点数には大きく開きがある。一撃の威力を高めるなら当たれば即死を狙える。
しかもこちらの召喚獣は素手。まともな防御も望めない。
なら、取る手段は1つ。
『ラビット』『タンク』
『エボルマッチ!』
「ラビットタンク。昨日は同程度の点数だったが……今ならどうかな?」
「正面から!叩き潰す!」
力任せの木刀をタンクで受ける。
「……ぬぅ、流石にこの点差だと余裕とは行かないか」
──双神詩音──470点
止めはするものの点数が削られる。
全力でぶつかるならサポート性能はあるが1.5倍の点差を覆すものではない……
「お前のボトルだが、結構な能力だぞ」
「そう、じゃあもっと感謝してほしいね!」
「っと……もっと良い姫路のボトルもあるからな!」
「っ!」
ラビットによる高速移動。
フェーズ1と速度で言うなら点数次第と言う点で同じだが、踏み込みで行ける分自由度でかなり上だな。
「はっはっは!やはりオレの能力はお前を超えている!これならほぼ全ての召喚獣を攻略できそうだ!」
速度で十分に吉井を翻弄しつつダメージを与えられる。
これだけ制御が効いた上で観察処分の召喚獣を上回るなら点数がどれだけあろうが超えられる可能性を見出せる。精度を高めるならより確実だ。
「それはどうかな!」
「なに……?」
突如吉井の召喚獣が大きく移動。
召喚獣を召喚可能なエリアの隅に寄る。
「ふむ?自分から出たら敗北扱いになるぞ?」
「僕は出ないよ。けどこれなら、正面でやるしかないよね?」
「……なるほど」
召喚獣がエリアから出た場合、召喚獣は消滅する。
そこでの判定は2つ。
自分の意思で出た場合、対戦相手がいたのなら敵前逃亡とされ失格、死亡扱いとなり点数に関わらず補習。
その他外部要因による場合、事故であるとされ再召喚の権利を与えられる。
吉井の召喚獣はエリアの隅。多少軸をズラしてもほとんど正面からぶつかることになる。
移動速度はあるが、回り込むなどすればエリア外に走ることになりオレの敗北扱い。
対して吉井の召喚獣を押し出しても再召喚され、恐らく同じ形に持ち込まれる。
「考えたな、と言いたいが、甘いぞ吉井!」
相手が動かないならそれはそれで問題無い。
ハンドルを回し、昨日同様絶望に沈めてやる。
《ready GO!》
エリア枠から挟むコレなら奴を引っ張ってベストポジションまで誘導できる。
「く……端っこで発動はしないか……」
「自分が死んでもオレも外に出ると思っていたか?」
「それが1番楽だったんだけどね!」
召喚獣が飛び上がる。
点数差はあれど抜け出されはしていない。
《エボルテックアタック!》
《チャオ♪》
「く──
「お──!?」
「そこだっ!喰らえ──!」
キック直撃寸前にダブル。
分離した召喚獣はこちらの拘束を抜け、着地点に向けて木刀を振り下ろす。
「これでもダメか……!」
吉井の焦燥が見て取れる。
タンクの手足で受けた攻撃は分裂した際の点数半減で更に容易に受け止められるようになっている。
「……結局は詰みだったようだな。ラビットタンクへの解答はお前に無い。お前の負けだ」
パワー、スピード、全てにおいてオレの勝ち。
「ぐぅ……く、く……」
「……お前の負けだ。観察処分者──」
「明久ぁぁぁぁぁ!!よく耐えたぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「「「うおぉぉおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」」」
「……!」
「みんな!生きてたんだね!」
……廊下の先に見える高校生の集団。
多少の追加は想定していたがこれは想像以上だ……
「秀吉班は須川達に加勢し鉄人を亡き者にしろ!俺とムッツリーニ班はフタガミを突破する!俺に続け!そして屍を踏み越えろ!」
「「「うおおおおおおおおおお!サモン!!!」」」
……おそらくFクラスの半数以上は残存している。
現状でも一杯一杯の西村教諭はおそらくもう頼れない。愚かな馬鹿共の何の未来予測もしていないカスみたいな欲求の為に無力化されるだろう。
……だが、オレを相手に召喚獣を出したのは失敗だな。それが所詮Fクラス。底辺のゴミカスのカケラほどの知性の末路というわけだ。
「なんだ、あの武器たちは……!」
代表が足を止める。
それはオレの召喚獣……プライムエボル──フウシャボトル──による能力。それは対戦相手の武器をコピーするもの。
だが奴らはカン違いしている。オレがコピーできるのは両手の2つだけではない。対戦相手となる全ての武器をコピーする。その点で言えば、ソラの能力と同じ。相手が強ければ強いほど、多ければ多いほど、その合計に比例してこちらの戦力も上がっていく。
──今オレの召喚獣の背後には、20を超える武器のそれぞれが空中に並ぶ。
それらの全ては、切先を相手の脳天に照準を合わせ、射出を今か今かと震えている。
「お前たちは全てを誤った。オレに挑むなら──お前たちそれぞれが、自分から先に死ぬべきだったな」
全ての武器を射出。
当然だが、特撮とFateなので──それらは数倍の威力を持って爆発する。
爆発し消滅した武器は再びコピーされ、射出。
召喚エリアを埋める程に連続射撃されたそれら武器は……オレと吉井の召喚獣もろとも爆撃し、全ての召喚獣を消滅させた。
「ぎぃぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!全身があ!何で昨日からこんな目にぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」
「……やりすぎた……流石に爆破ダメージは……堪える……」
召喚獣は全滅させたが……それでは奴らは止められない。
物理的に止めるしかない。このダメージ……どうする……ニキュニキュ……で弾くのは目立ち過ぎる。西村教諭もいる以上その手は取れない。
かと言って20以上の男子高校生をこのまま通せば教師陣に面目立たない……
「仕方ない……」
《フウシャ》《ライダーシステム》
《エボリューション!》
「変身」
《プライム!》《プライム!》《エボルプライム!》
《フッハッハッハッハッハ!》
「残念だがお前らにはここで再起不能になってもらおう。殺しはせんが」
ライダーシステムでの暴力行為はトリガー返却の妨げになりそうだが……仕方ない。
「悪いなフタガミ!俺たちのアガルタのためにどいてもらう!」
「ま、まて朝倉!ライダーシステム相手に素手は無理だ!」
「ぐあっ!」
向かってきたカスを払って壁に沈める。
「秩序を乱すな。ルールの範囲内でなら何をしても構わないが……お前らのソレは罪。無秩序な世界がいいならそれも良かろう。もうお前らを法では守らん……」
代表たちを牽制しつつ西村教諭に張り付く奴らを引っ剥がしていく。
高校生とはいえ所詮は人間。やはり軽いな。
「……西村教諭。多少の怪我は構わないな?」
「お前がそれで物理的に戦えるのなら……できるだけ無い方がいい。仮にも俺は教師で、コイツらは生徒だ」
「……そうか。了解だ」
器用に数人を無力化しつつ方針を決める西村教諭。
確かにダメージはありそうだが損傷は無いな……まさか10人ほどに苦戦していたのは怪我させないように?
……まぁいいだろう。それなら尚のこと、これで終わりだ。