「ハァ……て、やり過ぎたか? 死んではないな……やれやれだ」
西村教諭と2人で高校生1クラス分を叩き潰した。
怪我をさせず、かつ1人として通さない。そんなのを10倍近い人数相手にやるのは難しいことだった。下手に力を入れればどこぞの不良よろしく致命に至るからな。
「ま、いいんじゃない? お陰でウチらの出番も無かったし」
「……島田……何でお前が?」
動く奴がいなくなった後、島田含む女子が倒れた奴と同じくらいの数現れた。
「覗きの事くらい、もう知れ渡ってるの知ってるでしょ? だからウチらも交代で出ようと思ってたんだけど……アンタが1人でやっちゃうから」
……?
覗きだと騒いでたのは女子の方じゃないのか?
「……なんだ、だったら早く来いよ。オレは基本的にライダーシステムを使う気は無いんだからな」
「そう? アナタ、アキと戦ってる時はもっとやりたいって顔してたわよ?」
「それは試験召喚システムだからだ。あの腕輪の能力を確かめておきたかったし、現状ではムッツリーニへの対応がまだ不能なんだ。何かしらを得るために試しておきたかった」
「そう。まぁいいわ。では西村先生、ウチらはこれで失礼します」
「ああ。ゆっくり休んでおけ」
西村教諭にだけ礼をして去っていく女子陣。
半分はオレがやったんだが……オレにはないのな。
「ハァ……アイツらにもコレの処理手伝って貰えば良かったのでは?」
倒れ伏すFクラス男子の面々。
流石に代表とムッツリーニはしぶとかったな。ライダーシステムの前では全く足りないが。
「先生たちもいる。重症のやつから部屋に運んでいく。お前は男子を担げるか?」
「ああ。このままなら2人……4人はいける」
「2人ずつで構わない。お前も生徒ではあるからな。では先生方もお願いします」
各々の部屋に覗き魔未遂を押し込み、それで解散となった。
♢♢♢
「ふぁ……オレだけ動くってのは……アレだな」
昨日は結局、試験召喚ではなくライダーシステムでムッツリーニと代表を鎮圧したからな。正直なところ退屈というか目的を見失った。
吉井の腕輪もまだオレを超えるものではない。ならばまずムッツリーニへの対応として保健体育の点数を稼がなければならない。
オレの能力を持ってすれば点数など学年首席なのだが……それは成長ではない。能力無しの点数、若しくは試験召喚システムボトルによって攻略しなければ意味が無い。
そこでこの世界とオレの知る保健体育の知識の差はどうかと教科書、参考書をパラパラとめくっている。
「あんま変わんねぇなぁ……至って普通だ」
いくらかの世界を見てきたが……どこもさして、追加で科目が出来るだけでオレの知ってる科目は同じ内容。
魔法やエイリアン、ここなら試験召喚システム……それが乗っかってるだけ。
「何1人でブツブツ言ってんだ、シオン」
Aクラス代表を連れた代表がオレの隣に腰を下ろす。
当然反対側にAクラス代表がピッタリ座る。
「……代表。体は大丈夫だったか?」
「いや、少し堪えたな、どっかの誰かさんのお陰でな」
「……それについては謝罪しよう。オレも生身の人間相手にした経験は少ないからな……で? 何の用だ、勉強でも教えて欲しいのか?」
「いや、それは構わない。バスで話したが、少しいいか?」
バス……? ああ、誰にも話せないってやつか。
「ああ……それはいいが、ここでか?」
「ああ、そうだな。翔子、悪いが少しフタガミと席を外す。先生が来たらトイレだと言っておいてくれ」
「……浮気?」
「Fクラスの俺たちに必要な作戦会議だ。そう長くはかからない」
「……フタガミ、場合によっては」
「……ったく、いいよ、何かありゃ殺せよ」
「……行ってらっしゃい、雄二」
コレがAクラス代表だってのがこえーよな。
そーいや姉さん、この代表との約束っていつまで何だ?
(うん? いつまでって?)
浮気防止だろ? ボディガード役なら戦争不能期間くらいか?
(うーん……その辺特に言ってないや。一生じゃない?)
……それ隷属じゃないか?
(おー……それもそうかも。でもいいじゃん、あの子の目、綺麗だよ)
……まぁ、いいならいいが……
いや、それはオーケーなのか? 姉さんの性癖でぶっ壊れた世界は多分無い……からいいか。
「んで……何だよ」
廊下を少し歩き、人気の無い場で話を切り出す。
「ああ。お前……今はシオンだろ?」
「そうだが」
「ウタネは聞こえてるのか?」
「ああ」
「お前だけと話がしたい。それは可能か?」
「……? まぁいいだろう。姉さんには少し外してもらおう」
……いいか?
(いいけど。あの子との約束破るようなことしないでね)
……するわけねぇだろ。多分。
「……ん。一旦引っ込んでもらった。姉さんには聞こえない」
「よし。なら率直に言う。俺たちを救ってくれ」
「……? 何を言ってるんだ? イカれてんのか?」
「ああ……まずは俺だが、翔子にとある偽装音声を握られて婚約を迫られている。この合宿中に解決しなければ俺の未来は無い」
「ふん?」
「そして明久、アイツは脅迫文と共に女装写真を握られ異性に近付くなと脅されている。そしてムッツリーニの判断から俺たちの相手は同一人物だ」
「……なるほど? で? オレにその相手を探せと?」
Aクラス代表と代表の婚約は別に止める必要は無い。姉さんの約束を果たすならそれは止めるわけにはいかない。
吉井の女装写真がバラ撒かれたところで……アイツの社会評価は変わらない。ドブ川に泥水を流す様なもんだ。
「いや、俺たちの覗きに力を貸してほしい」
「……は?」
「犯人はお尻に火傷の痕がある女子生徒、これは確定だ、ソイツを探すため覗きが必要なんだ!」
「……それを信じたとして、お前、それに乗じて欲望を満たそうとしてないか……?」
「違う! 断じて違う! もしそうだとしてもだ! 初日俺たちに女子がした事を知ってるだろ!?」
初日……?
「あぁ、カメラ見つかって女子数人で突撃されたんだったか?」
「ああ。その時点では俺たちは全くの無実だった。それをヤツらは俺たちを盗撮犯と断定し私刑だ。俺たちとてしたくは無かった。地道な調査でも特定はできなくもなかったかもしれない。だがヤツらがその気なら! 拷問を受けた分は堂々と覗かせてもらおうじゃないかと!」
そう言えば現場には行かなかったな。
代表の言では無罪だと主張するも他にいないと弾圧され石抱きなど拷問が続いたと言う。
石抱き……? 現代のど真ん中で江戸の拷問?
「……なるほど、その報復ついでに手っ取り早く火傷少女を探して疑いも晴らしてやろうと」
「そんなとこだ」
「……で、なんでオレに覗きの協力依頼なんだよ」
「なんでって何だ?」
「……ウタネは女子風呂に入れるんだから、それで解決するだろう」
「……これは俺たちの問題だ。俺たちが真犯人を見つけなければならないんだ!」
「……」
コイツら絶対覗きたいのも半分あるだろ。
「……ふぅー……まぁ……なんだ……知っての通り、オレは西村教諭に覗きの阻止を依頼されてるんだが……裏切れというのか?」
昨日のを見た限り、何かしら対策を練らなければ西村教諭とて男子生徒が群れを成せば物量で押される。体力差でいずれは制圧するだろうが一瞬通せば負けの勝負。オレの能力無くして覗きの阻止は難しくなる。
「それはお前も難しいんだろ。だからなんだ……ウタネをこっち側に付けることはできないか?」
「……代表、お言葉だが女子風呂覗きに加担した女子生徒はどうなると思う?」
「……」
当然の想定をしただろう代表は黙り込む。
やりたい事の全てをすれば何処かに軋轢を生む。
その中で優先順位を付け折り合いをつける……それがまともな人間の思考だ。
「だがまぁいいだろう。ウタネをそちらに付けてやる」
「……! 本当か!?」
「……当然だが条件もある」
「だろうな。何だ?」
「ひとつ、オレは当然女子風呂の前で西村教諭と共に防衛に動くが、姉さんをオレと同じ場所に配置しない事。まだオレを認識してるのはFクラスだけ……バレれば面倒になる。分かるな?」
「そうだな。それは当然だ」
多分まだ……バレてない。
どうせバレた所でいつかの世界の校長みたいにロリコンに操作されて何とかなるんだろうがバレないに越した事はない。
「ふたつ、必ずオレに到達する事」
「何……? 結局は覗きに加担すると?」
「……半分そう言う意味にもなる。オレの望みはこのゴタゴタで試験召喚システムを更に進化させることにある。覗きなど勝手にすれば良いが防衛を依頼されている以上、そこでの最善は試験召喚システムの実験だ。現環境を超えるだけの何かを掴む……そのキッカケにはお前らのがむしゃらさが必要だ」
昨日の様にライダーシステムを使えば高校生の覗きくらい何とでもなる。
だが西村教諭の通り怪我させず制圧する……となると、昨日の人数が限度だ。人員が増すなら最終日の安全という名目で少し潰れてもらうしかない。
だからある程度……ウタネが足を引っ張る形で……というより、ウタネに説得する者がいればそれをキッカケに女子側に寝返り……ある程度数を削ってもらう。
それなら代表や吉井、ムッツリーニといった例外たちと存分にやれる。
マジェスティよろしくバカの底力でより進化に繋がる何かを見出せるかもしれない。
「目的は分からんが、ウタネは点数あるのか?」
「ああ。オレと同じ点数を使えるはずだ」
「よし。じゃあ作戦は後で伝える。時間になったら俺たちの部屋によこしてくれ」
「……了解だ」
♢♢♢
「……これで3日目。先生方も大変ですね」
「まぁな。だが、これが仕事だ」
順次女子を風呂に入れて経過を見る。
今日からは防衛体制を更に強化するらしい。
……これ姉さん向こうにやらねぇとここまで来れそうになかったな。良かった良かった。
「……ちなみにですが、戦力配置を聞いても?」
「ああ。霧島によれば坂本はそろそろ戦力を大幅に強化……つまり、数を増やしてくる」
流石にライダーシステム込みで考えるとな……
そして読み通りオレの協力を仰ぐなどそれらしい行動も見られた。流石だ。
「それで?」
「本隊が出るまでに霧島含む上位陣と学年主任に戦力の分断を狙ってもらう」
そもそもそのレベルが出るなら奴ら如きひとたまりもないだろう。
「ほう」
「後はなる様になるだろう」
「結構雑だな!?」
同様の思考なのかその後は殲滅戦らしい。
まぁその方が良いのだが……首脳陣だけ上手くここまで来れないだろうか……全力の奴らを相手にしておきたいんだがな……
最悪オレが負けても相当数は絞れるだろうし西村教諭に何とかしてもらおう。
「やれやれ……まぁいいだろう」
「ん? 何だそれは?」
手にしていたXXガシャットに西村教諭が目を付ける。
しまった……変に出すと姉さんの存在がバレるか……これを没収されると分離している姉さんと元に戻れなくなる……
「……これはライダーシステムのひとつだ。今回の切り札になる」
「そうか。あまり目立つ様に使うなよ」
「……没収しないのか?」
「学生の本分は勉学にある。この学園では試験召喚システムもそれに含まれる。それに付随するのならそれも勉強道具と言える」
「……ならプライムトリガーの返却を希望したいが」
「それはダメだ」
「……理由がわからない。このガシャットもトリガーも同じライダーシステムの物だ。どちらかだけが許されるのはおかしいのでは?」
何故かコレは許される。トリガーは問答無用で没収。
まさかの可能性だが……西村教諭にも転生に関わる何かがあって、トリガーの危険性を知っているのか……?
「確かに、同じものでどちらかだけ禁止、と言うのは不条理だ。だがこの場合、時期の差がある」
「時期? 戦争中とこの防衛戦でか? 対等な戦争時に外部ツールの使用は不可で、相手が犯罪集団なら可能だと」
「そうではない。俺が初めに没収したのはまだお前のライダーシステムが認められていないものだったからだ。だが今は学園長から正式に使用許可が出ている」
……正式な許可?
オレのゴリ押しで使い続けるつもりだったが認められてたのか。
「今許可が出ているならトリガーの返却も視野だと思うが?」
「それは無理だ。また機会を見て返してやる」
「むぅ……まぁ良い」
こりゃ暫く返ってこねぇな。
♢♢♢
「クソッ! 俺たちの作戦は読まれていたか!」
「どうする雄二!?」
「どうするもねぇ! とにかく出るぞ!」
何やら大変そうな雰囲気。
シオンに言われたミッションはバカと代表さん、カメラマンを死なせずシオンの所まで送ること、その他のメンバーは適度に減らすこと。
結構大変だね?
走って出て行った代表さんたちを追って廊下へ。
そこでは既に戦闘が始まって、適度に女子有利となっていた。
「く……! 全員聞け! 一点突破でここを突っ切る! 俺に続け!」
代表さんから見てもかなり劣勢なようで、どこかを無理に突破することを選択。
先生の召喚獣は私やバカ同様に物理干渉できる。つまりはそれさえ突破できれば女子は男子を止められない。
けど先生を倒そうと召喚獣を出せば女子との戦闘になる。
それを踏まえて……代表さんは見た感じ最も人数の多い方へ走る。
「ちょっと雄二!? そっちは層が厚い! あっちの方がすぐ突破できる!」
「違うぞ明久! こういう時は罠を張ってる方へ誘導するためワザと薄くしてるんだ!」
代表さんへ意見したバカもその返答に納得して後を追っていく。
他の人も適度に殿をしつつ後を追う。
私も……一応それについて行く。
「……」
「……」
「……」
すんなり道を譲る女子たちの視線が何故か私を刺していた。
「代表さーん、一応だけどー」
「何だ!」
「私のカンがヤバイって言ってるー」
「何がだ! 覗きに加担したお前の今後か!? それなら安心しろ! お前は俺たちを追っていたって事で済む!」
「んー、違くて」
私の今後の評価なんてそれこそどうでも……
「……雄二、待ってた」
「霧島さんっ!?」
「ち……ヤバいってのはコレのことか……!」
少し広い場所に出ると、Aクラス代表さんと姫路さん、あと知らない先生と女子数名。
「くっ……雄二、ここは一旦撤退……」
「ざーんねーん、そうもいかないんだよね」
「工藤さん……!」
バカが撤退のため後ろへ走ると、セクハラの子が出てきた。その隣の先生は……多分保健体育だよね、当然ね。
飛んで火に入る……やはー、絶対絶滅だ。
「……フタガミ、約束は守ってもらう」
「んー、そっか、これも浮気にはなるのか……」
「おい待て! お前が裏切ったらそれこそ終わりだ!」
「でもごめんね。私はこの2人を先に通す様言われてるんだ。だから殺す」
「ウタネ! アンタも女子の端くれでしょ!? 覗きの阻止くらいしなさいよ!」
「島田さん、貴女の正体を知れればそっちについても良いけれど……どうせ覗きは成功しない。だからここを通してもらう」
風呂前で待ち構えてるのはシオンと最強先生。
ライダーシステム以外でも高校生くらい何とでもなる。
そして私達のやり取りの中で、人間の言うことなんか聞く義理もない。
「観察処分者……少しは見所のある子たちだと思っていましたが」
「それは残念。見てるものから違うから」
「そうですか。では──サモン」
「サモン」
総合科目
高橋洋子──7791点
フタガミウタネ──496点
点数差は絶望的。おそらく操作技術的にも勝ちはなさそう。
「ウタネさん、何で、明久くんの味方をするんですか? そこまでして、明久くんを……」
「……? 何で、は答えられないけれども。私はこの子を女子風呂前まで送る」
「やっぱり……分かりました。だったら力づくです! サモン!」
姫路瑞稀──4422点
絶望が増えた。
学年次席レベルって言ってたね、その倍近い数値の学年主任は何なんだ。
「まぁいいよ、2人まとめてかかって来なよ」
「高橋先生、気を付けてください。ウタネさんの召喚獣は、点数に依らない強さですから」
「問題ありません」
2体がじりじりと詰めてくる。
他でも戦闘は起きてるけどこちらに関与する気は無いらしい。
戦闘経験なんて無い。
点数なんて無い。
数の利も、知恵も無い。
「……2人じゃ、少な過ぎる」
超高速で振るわれる鞭を大きく躱す。
「一見変幻自在の鞭であっても、その攻撃は使用者の行動で決まる。いくら速く長くても、分かっていれば対処出来ない攻撃ではない」
「はあぁぁぁぁぁっ!」
「パワーはあるけど、単調過ぎる」
着地点へ向けられた大剣を、私の言葉で曲げた現実で避け、更に横へ跳ぶ。
「はっ!」
「速さがあってもその直前の動作さえ見切れるのなら、当たるはずも無い」
更なる鞭も、大剣も、ただ2つだけなら不可能ではない。
「ああもうっ! 瑞稀! ウタネにそんな攻撃当たらないわよ! サモン!」
「っ、島田さんか……!」
何なんだホントに……! 私の事をどれだけ知ってる……!
「くぅ……!?」
「瑞稀! 捕まえるのよ!」
「は、はいっ!」
「しまっ……」
「高橋先生! 私の召喚獣ごとやって下さい!」
姫路さんの召喚獣が私の召喚獣を捕らえ、羽交締めにする。
しまった……この状態から逃れるなら言葉だけど……明らかに操作技術の範疇を超える……!
けど……! やるしかない……この場を切り抜け、シオンまで辿り着くなら……今更のこと!