バカと無気力で暇つぶし   作:プラスマイナス裏表

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強化合宿 ⑦

「……」

「うそでしょ……!?」

 

 島田美波──0点

 姫路瑞稀──0点

 フタガミウタネ──284点

 

「何故、貴女の召喚獣だけが?」

「鞭の動きがもし分かるとするなら、その攻撃は一本の線になる。面での攻撃で無いのなら、捕まってる2人に直撃しても不思議ではない──『鞭の攻撃は身を捻った私の召喚獣には当たらず、2人の召喚獣に直撃、その衝撃によりダメージは受けるものの、点数を残して存命する』」

 

 私の言葉は、理論さえ通るならそれを実現する方向へ現実を改変する事もできる。完全な書き換えじゃないものの、限り無くそれへ向けて動かせる。

 その言葉で──私が敗走する未来を、書き換えた。

 

「そんな……ですが、次の攻撃は防げないはず」

 

【避けろ】

 

『きゃあっ!? た、高橋先生!?』

「……っ!? す、すみません! 貴女は撤退、西村先生へ警戒するよう報告をお願いします!」

『わ……分かりました!』

 

 私の言葉は、誰にも聞こえない。認識さえされない。

 私の言葉は、その発話がどうであれ、発言者の意志によって現実を改変する。

 私は鞭が軌道を逸れ、近くにいた女子生徒の召喚獣を殺すように避けさせた。

 

「私と戦うのなら、その世界全てを凌駕しないとね。とは言え……勝ちも中々難しいなぁ……」

 

 この子に私が負けないのは簡単だ。

 この調子で無限に攻撃を改変するなら、負けはしない。

 けど倒すとなれば……私以外の要因を引っ張る必要がある。この状況、私があの子を倒すには圧倒的に点数が足りない。

 私の言葉は生物を対象にできない。いくら事象を捻じ曲げても人の認識や記憶は変えられない。

 唯一使えそうな姫路さんは使い捨てた。Aクラス代表さんは代表を裸締めしてておそらく使えない。

 他のメンツも消耗しつつ……と言ったところ。

 仕方ないか……

 

「バカ! カメラマン! 他の皆んなも! 代表さん連れて先へ行って! ここは私だけで食い止める!」

「フタガミさん!?」

「…………無理だ」

「……フタガミ、雄二は渡さない」

「行け! それが私の望みだ!」

「ムッツリーニ!」

「…………了解」

 

【開け】

 

「……あ、雄二……」

「悪いな翔子!」

 

 代表さんが抜け出すため少しだけ手伝ってあげた。

 カメラマンの先頭もあり約半数は速やかにこの包囲を越えていった。

 

「ふぅ。初めからそうしてれば全く」

「フタガミウタネさん。貴女は自分が何をしているか分かってますか?」

「ん、犯罪の幇助。けど安心しなよ、覗きは失敗する。被害は無い。あの子たちの衝突だけ見逃せばいい」

「1人たりとも許されません。学校の規則だけでなく、犯罪行為では尚更です」

「そ。じゃあ止めてみなよ」

 

 これでこの世界でも明確に犯罪行為……

 ん、前の世界はそんな犯罪してないか。

 戦況は主任の子とセクハラの子、他教師と女子生徒多数に対し、私と低クラス男子数名。

 絶望的だけど……私だけでも生き残ればこの場で維持できるか……難しいか……

 能力を使えばいいけど……私の能力の限界は見えてる。今後支障無い程度に収めるなら私の生存、しかもそう長くない時間に限られる。

 さて……その時間でシオンは望みを叶えられるか……? 

 

「では早々に始末をつけます。姫路さん、島田さん、2人は西村先生へこちらの状況を伝達してください。工藤さん含むA、Bクラスの女子は2人に続き男子生徒の制圧を! 残る者は私と共にこの場に残る男子と、フタガミウタネさんを制圧します!」

 

 追撃と殲滅を的確に指示。

 よほどのことをしないとこの場を無傷で乗り越えられないな……けど、私はあくまで一般高校生。この場でできる限りはするけれど、その範囲外はシオンに任せよう。

 

「行くわよ瑞稀」

「はい……」

 

 2人が階段を降りていく。

 

「で、私を倒して後を追うと」

「そうさせて貰います」

「無理」【続けろ】

 

 次なる攻撃は私自身が避けた。

 その背後を突こうとした女子が巻き添えになった。

 次は避けなくても当たらない。

 近くの女子と男子が巻き添えになった。

 男女問わず攻撃が交差し、私以外の全てが疲弊する。

 時間を稼ぎはするけど……最後は負けなきゃね。

 

 ♢♢♢

 

「……どうやら、抜けて来たようですよ、教諭」

「みたいだな。またお前がやるか?」

「そうさせて貰えると」

「昨日の様にどうにかなるのだろう」

「勿論。覗きはさせないさ」

 

 通路の向こうから男子の雄叫び。

 布陣からして相当厳しいところだったと思うが……姉さんがどうにかしたんだろう。

 

『フタガミぃぃぃぃぃぃぃぃ!』

「行くよ、フタガミさん!」

「明久、今日は全員でかかるぞ!」

「「「サモン!!」」」

「……むう、結構な人数だな」

 

 見たところABクラスは居なさそうな点数だ。

 そんな奴らで霧島姫路、学年主任や他教師と女子生徒を越えられるか? 

 いや、姉さんのことだ、何かしら言葉で動かしたな。

 

「西村先生、今点数は?」

「数科目は確保したが、何分な……」

「了解。総合科目限定ですからね。だから、点数低いやつは任せていいか? 流石に多い」

「ああ。吉井も何なら俺がやるが」

「いや、吉井と代表、ムッツリーニはこっちの獲物だ。万が一は頼むが」

 

 覗き魔の数は昨日と同じかそれ以上。

 姉さんめ……能力のスケープゴートに騒動を大きくしたか……? 

 だが対処不能な数ではない。まずは雑魚の露払いといくか。

 

「さぁいくぞ」

 

《エボルプライム!》

 

「「「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」」」

 

 西村教諭のフィールド内に存在する全ての武器を男たちへ向けて射出。

 あらかたの召喚獣がその場で防御を始めたことで、昨日と同じ……力の残る男子による物理的突破、代表や吉井によるオレの打倒へ戦況が移る。

 

「く……雄二っ!」

「ああ! 死んだ奴らは鉄人を捕縛しろ! 何としてもフタガミを倒すまで持ち堪えろ!」

「「「おおおおおおおおお!!!」」」

「?」

「そういえばフタガミってやつ、高橋先生と……」

「「「行くぞおおおおおおおおおおおおおお!!!」」」

「と、とにかく行くか! やるしかない!」

 

 ……そうか、今日来るのはFクラスだけじゃない。他クラスへは流石にオレが2人いる違和感は拭えない。今日この場ではどうにかなるかもしれないが、明日は難しいかもしれないな。

 

「ふっ! はっ! どうした吉井!? 何故腕輪を使わない!?」

「く……!」

「明久! 絶対に使うな! 俺とお前で抑え込めてはいるんだ!」

「でも雄二……! 早くしないと後ろも追いかけて来る!」

「明久! 合わせろ!」

「応!」

「む……っ」

 

 2人を相手に手こずってはいる。

 プライムボトルで他の奴らは足止めしつつ点を削っているが……コイツら2人は常時密着してきて武器を飛ばせばオレに当たる。

 そこで2人の同時攻撃を受けたところ威力に押され両腕が上に弾かれる。

 

「いや……一瞬でも隙があればそれでいい!」

 

 大振りした分この隙を2人は追撃できない。その間オレも体勢を立て直す時間は十分ある……

 

「今だ! ムッツリーニ!」

「…………加速」

「……!」

 

 代表の声にムッツリーニが小さく呟く。

 ……なるほどな、そういう事か。

 400点オーバーの科目であれば召喚獣の腕輪の力を使って特殊能力が使える。ムッツリーニのそれは加速能力。それでこの隙を突こうって腹だ。

 とはいえ……? 今は総合科目のはずだが……まぁいい。

 

《ラビット!》《タンク》

《エボルマッチ!》

 

「…………!」

「……惜しかったなぁ、お前でも総合科目ならオレを越えられない」

 

 超高速のムッツリーニもタンクの防御力を前に此方の点数を減らせない。

 ……オレは総合科目でも500点未満だった気がするんだが、どうなってんだ。まぁいいか。

 

「倍程度の点差ならタンクで受けられる事が吉井とお前でほぼ確定したな。しかしラビットは……」

 

 跳躍力を持ってムッツリーニ、代表の召喚獣を飛び越える。

 スピードもやはり、最高速はムッツリーニには及ばない程度ではあるな。

 

「終わりだ。今日も諦めな」

 

 これで背後を取る事ができた。もう終わりだな。

 

「いいや? まだ終わらないさ」

「何?」

「俺たちの目的はその形態を引き出すこと。武器のコピーが初期状態の能力だってのは分かってる。なら、今はそれが無理ってことだ! 野郎ども! 一斉にかかれ!」

「……!」

 

 掃射を止めたことで他の召喚獣が動きを取り戻した。

 なるほどな……数でオレも西村教諭同様封殺し、覗きは完遂すると。

 

「いいねぇ、確かにオレたちを倒さなくとも目的は果たされる……」

「俺たちの勝ちだ!」

「く……フタガミ! やはり無理か!」

「いいや、勝ちはない」

 

 20を超える生徒を殴り飛ばしながら西村教諭が焦るが……どうあっても覗きは失敗させる。それがルール。

 

「うお……!? す、進めねぇ! 召喚フィールドの向こうに行けねぇ!」

「どうなってる! せっかく鉄人を抑え込めているのに!」

「ち……! フタガミ、何かしやがったな……!」

 

 召喚フィールドを越えられない代表がオレを睨む。

 

「……ふっ、当然だな。お前たちはフィールドの境界を越えられない。オレを越えてみろ」

 

 フィールドの境界沿いには無限がある。

 だからどうあっても覗きはできない。オレの召喚獣を倒し、西村教諭を無力化するなら……考えてやってもいいが。

 

「甘い! 俺たちを舐めるな!」

「……?」

 

 代表が全員に突撃を指示。

 何人束になろうとも無限は越えられない。場を隔てる線は常にそこにある。

 

「『起動(アウェイクン)』!」

「……! 腕輪……! 2つあったのか!」

 

 起動──その効果は──

 

「召喚フィールドの消滅──!」

「これは『干渉』だ。俺が新しく召喚フィールドを展開したことで鉄人のフィールドと打ち消しあったんだ。これでフィールドの壁は突破できた! 行け! 野郎ども! 俺たちのアガルタはすぐそこだ!」

『『『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!』』』

 

 起動効果は召喚フィールドの生成か。そして干渉。フィールドが重なれば互いが消滅して召喚も取り消される……フィールドと他の境界にある無限はその効果で打ち消された……

 既に走り始めている男子数十名。対してこちらは西村教諭とオレだけ。

 

「バカな……! そんな……!」

「く……! 止めろ! フタガミ!」

 

 西村教諭も此方にまで手を出す余裕は無い。

 今からライダーシステムを起動しても数人撃ち漏らす。

 ここまで、オレが追い詰められるとは……

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