バカと無気力で暇つぶし   作:プラスマイナス裏表

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強化合宿 ⑨

「いいか?召喚獣を呼び出すフィールドの干渉があるって事は、つまりは余程スペースに余裕がある場合じゃないと教師を複数配置できないってことだ」

「なるほどのう、それで科目を絞って突破しようという事かの」

「その通りだ秀吉。それに加えて昨日の配置とムッツリーニの情報を合わせると……大体こんな感じになると予想できる」

 

 坂本が広げた紙には旅館の大まかな内面図と教師の名前が書かれている。

 

「む?今日とは配置を変えるのじゃな?」

「ああ。今日はあくまで翔子の予想込みでの配置だろうからな」

「じゃあ、明日は?霧島さんなら今日を踏まえて雄二がどう動くかも予想できるでしょ?」

「明日は最終日だからな。何が起こってもいいよう万全の布陣に置きたいはずだ。そして、俺が奴らなら、絶対に通過しなければならない場所に主力を置く」

 

 配置図には浴室までに必要な通路にそれぞれ学年主任、体育教師、西村先生とポイントしている。

 基礎戦力において男子側が不利な以上、奇を衒わず正面から隙無く待ち構えるだけでいい。しかも戦場にはすり抜けるような場も無い。

 

「それに加えて、俺たちはある人物を最終経路まで無傷で到達させなければならない。それも、十分な戦力と共にな」

「誰?」

「お前だよ明久。俺とお前が鉄人まで辿り着かなけりゃ覗きの成功は無い」

「僕が観察処分者で、腕輪の所持者だから」

「そうだ。鉄人を越えられる保証があるのはお前だけ。シオンを越えられるのは俺とお前だけだ」

「しかし雄二よ、今日でもウタネの支援が無ければ鉄人はおろか高橋先生で全滅じゃった。迂回もできんとなればさらなる策が必要になるぞ」

「もちろんだ。俺たちには後に引けない理由がある。そのためならどんな悪辣な作戦でも立ててやるさ」

 

 秀吉の言葉に強い意志を持って応える坂本。

 

「で、その作戦は?」

「正面突破だ」

「……」

「まぁそう絶望するな。しっかり作戦はある。それは戦力の増強だ」

「今日と変わらないじゃないか。同じ作戦じゃどうやったって」

「いいや、明日は必ずABCクラスを引き入れる。今日鉄人まで到達したんだ。ABCの追加火力があればこの布陣相手でも十分突破可能なはずだ」

「でも一度断られてるし、今更なにするの?」

「……簡単だ」

 

 おもむろに立ち上がった坂本は部屋に備えられている浴衣を手に取る。

 

「浴衣?使うなってルール破るのはいいけど、それどうするの?」

「ルール違反は良いのかの……?」

「…………覗きの主犯の時点で手遅れ」

「それもそうじゃな」

「コイツを着せて写真を撮る。上手くやれば男子の劣情を煽り、参加への協力を、参加してる奴は指揮向上を狙えるはずだ」

「ふーん……雄二の作戦っていつもそんな感じだね」

「うるせー。だが確実に効果はあるだろ」

「まぁそれもそっか。はい、秀吉」

「……ワシが着るのかのぅ?」

 

 自然に手渡される浴衣に苦い顔をする秀吉。

 

「安心しろ。協力を取り付けられそうな女子……島田や姫路、それと……ウタネにも着てもらう」

「それの何が安心なのじゃ……?」

 

 ♢♢♢

 

『♪♪♪〜〜』

 

 布団で死んでたら携帯にメール。

 

「ん……」

 

 今日はしばらくぶりに表立って動いた気がするしそろそろ寝たいところ。

 

『坂本雄二だ。悪いが今からこっちの部屋に来てくれないか?要件がある』

「ゔぁー……」

 

 今からぁ……?寝る寸前だども……

 シオン……‥どうする……?

(……今更奴らが姉さん連れ込んで……ってこともあるまい。覗きの作戦会議かなんかだろう。行ってやれよ)

 

「むー……」

 

『了解ですー少ししたら行きますー』

 

 しぶしぶだけど返答する。

 女子風呂覗きの作戦に女使うって普通は意味分かんないよ?

 少しだけ目を閉じて、どうしようか考える。このまま寝ちゃいそうだ……

 

「あ、すみません。私ちょっとだけ出てきますね」

「うん……?あぁ、私もそれ行くよ。代表さんに呼ばれてるんでしょ」

「あ……ウタネさんもだったんですね。私は明久くんからでしたけど」

 

 姫路さんが何かを持って部屋を出ようとするのを呼び止める。

 このタイミングで部屋から出るなら代表さんに呼ばれてるしか無い。

 

「いいよ、文面見せなくて。じゃあ行こうか。島田さんは?」

「ウチもアキから来てるけど……遠慮するわ」

 

 島田さんへも連絡はあったらしいけどお断り。

 まぁそれはそう。今あの部屋にノコノコ行くようなマヌケは私みたいに全部ぶっ壊せるタイプか、姫路さんみたいにバカか。

 

「じゃ、気を付けて。シオンのスイッチ持ってる?」

「持ってるわ。助かったから、また使うかも」

「遠慮無く」

「アンタたちも気を付けなさいね」

「それじゃあ美波ちゃん、行ってきます」

「はいはい」

 

 2人で部屋を出る。

 以外にも規則を守る生徒が多く、廊下には生徒の姿は見当たらない。

 

「ちなみに……何それ」

 

 姫路さんが持つ手提げの正体をあらかじめ確認しておく。

 カンではえげつないのが入ってる。

 

「あ、これですか?初日のお昼に出し損ねちゃった手作りクッキーです」

「そう……」

 

 しんだ。

 

「む?フタガミに姫路か。何処へ行くんだ?」

「あ、西村先生。さっき明──」

「えっとですね、私が館内の案内頼んだんですよ。明日は最終日、覗きの抜け道とか探すついでに」

 

 バカ正直に答える姫路さんの口を塞いでそれらしい言い訳。

 んなこと言ったら帰されるに決まってるでしょ。

 

「そうか。覗き防止に身を粉にしてくれるのは助かるが、この合宿の大義はあくまで学力強化だ。適度に体を休めておけ」

「そうですね。ありがとうございます」

「ではな。先生は見回りしているから、何かあったら助けを求めるように」

「先生もお疲れ様です。あの、もし良ければこのクッキー食べてくださいっ」

「む?クッキーなど持ち込んでいたのか」

「あ……先生、これは初日に食べ損ねてたものです。特段悪意のあるものではないし、腐ってもなさそうだし……」

 

 ルール違反には厳しい先生だ。優等生とはいえ平等に罰はあるだろうということで庇いを入れる。なんなら私が罰を被れれば御の字だ。

 

「まぁ、こういう合宿には酒など持ち込むバカもいるからな。可愛いものだ。なら没収品として有り難くいただこう」

「はいっ。ありがとうございます」

 

 酒、という単語に少し冷や汗が出る。

 それはそれとして寛大に受け取ってもらえたようだ。良かった良かった。

 ……よかねぇだろ?

 

「……西村教諭、渡した手前言いづらいが、それは食べない方が良い」

「えっ、どうしてですか?」

「何だフタガミ、お前が食うか?」

「……オレが言いたいのはそういう話じゃない。単純に3日も常温放置された手作り食品を食うのは不安だと言ってるんだ」

「あ……それもそうですよね、先生、すみませんでした。やっぱりやめておきます」

「クッキーは普通常温だろう、と言いたいところだが、その忠告も最もだ。教員が生徒の差し入れで腹を下すなどとんだ笑い話だ。すまんな、姫路」

「いいえ、こちらこそ……また今度、しっかりしたものをお渡しします」

「楽しみにしているぞ」

「はいっ」

 

 ……姫路が乗ってきたお陰で助かった。あんなもん西村教諭に食わせられるか。

 

「じゃ……私たちはこれで……」

「ああ。引き止めてすまなかった。また明日も頼むぞ」

「はいっ!」

「了解ですよ」

 

 シオンの介入で毒殺は防がれた。

 そのまま別れて代表さんたちの部屋へ向かう。

 

(……西村教諭を毒殺は何考えてんだ)

「私、ビミョーに苦手なのよね」

(絶対やるなよ)

「ジョーダンだよ。たまたまだったでしょ」

 

 こっちが意図したわけじゃないし、無理に勧めたわけでもない。

 自然とこうなった結果。

 

「あの……シオンと話してるんですか?」

「ん……ああうん、ごめんなさいね、口に出ちゃって」

「いえ……」

 

 ちなみに今この状況も苦手だ。

 何故人はワープしないのだろうか。

 こっちが喋らないせいで相手も困ってそうなのがなお嫌だ。

 とはいえ目的地はそう遠く無い。すぐに到着し、ドアをノック。

 

「失礼。要件だけ聞きにきたよ」

「こんばんは、明久くん」

 

 返事を待つ必要は無いと判断し、即ドアを開ける。

 そこには木下弟に浴衣を当てがう変態3人。

 

「おお来てくれたか。呼び付けてすまなかった」

「あ、姫路さんも来てくれたんだ!ありがとう!」

「え?あ、はい」

「まぁ……何?覗けなくて抑えられない?」

「…………非常にそれはある」

「やめろムッツリーニ、今コイツらに逃げられたら終わりだ」

 

 何やら碌でも無い作戦がある様子。

 

「お前らに頼みがある。この浴衣を着て写真を撮らせてほしい」

「私で代用は不能だと思うけど……」

「わ、私も浴衣はちょっと……」

 

 覗きの目的は盗撮犯の特定のはず……諦めた?

 隣では姫路さんも恥ずかしそうにしてるし……

 

「ウタネ、お前は従うはずだ」

「なぜに?」

「何故ならこれは俺たちがシオンに到達する手段だからだ。そのためならシオンは約束を破らない」

「んー……なるほど、そうきたか……まぁいいよ、こんな顔と体撮って楽しいか知らないけども」

「ウタネさん!?」

「私はいいの、貴女は断っておきなよ。元は私の約束だからシオンも冷静にしてるけど、男の欲情した声はシオンの逆鱗なんだから」

 

 男の欲情した声と女の発狂した声は無条件の殺意って言ってた気がする。

 

「そ、そうですね。流石に恥ずかしいですし」

「まぁまぁ姫路、少し耳貸せ」

「は、はい、何ですか?」

 

 代表さんが何やら隅で耳打ち……何の打開策があるんだ……?

 

「ウタネさん!撮りましょう!写真!」

「えぇ……何その変わり身……洗脳でもされた……?」

「いいえ!これは私の意思です!」

「まぁ……後悔ないならいいけども……」

 

 何があったらそうなるんだ……人間は何考えてるかサッパリ……

 とりあえず代表さんから浴衣を受け取る。

 

「んー、チャイナもそうなんだどもこういう民族衣装って着方がイマイチわからないんだよねぇ……」

「…………(ブッシャァァァァァァァァァァァァァァ!!!)」

「ちょっちょっウタネさん!?何故急に服を脱ぐんですか!?」

「待て待て待てフタガミ!んなもんバレたら翔子に殺される!」

「ぐぶっ……ありがとう……僕はもう、後悔しない……」

「……明久くん?」

「ひゅおっ!?やっぱりよくないよねっ!」

 

 シャツを脱いだだけで阿鼻叫喚。

 なして……あぁ、この世界はやけに性耐性が低いんだった。正義の味方を見習ってほしいものだ。

 

『何事だっ!吉井の声が聞こえたぞ!』

 

 廊下から響く最強先生の声。

 

「なんで僕だけなの!?1番静かだったよねぇ!?」

「明久も苦労人じゃのう」

「どうしよう雄二!このままだと2人が!」

「ちっ……こうなりゃ必殺『アキちゃん爆弾』を使うしか……」

「待て!それは僕の大事な何かも爆破する気がする!」

 

 あらら……なんでこうなるんだろ。

(……姉さんが普段どんだけ思考にリソース割いてないかが良く分かるな。代われ、何とかしてやる)

 はいはーい。

 

 ♢♢♢

 

「……はぁ、落ち着けバカ共。この部屋の外だけ全て無かったことにする」

 

 大嘘憑き(オールフィクション)……吉井の声が西村教諭にバレた出来事を無かったことにした。

 廊下に響く足音は消え、教諭の怒号も聞こえなくなる。

 

「……とりあえずはこれでいいだろう。あぁ……姉さんが悪かった。何分多重人格を発症するような社会不適合だ、常識無いんだ。許せ」

 

 下はともかく上は下着残して思い切った脱ぎ方してんな。

 確かに我が救世主は鉄の意志と鋼の強さを持っていたがどちらかというと……オレの知る男子高校生はコイツらの方が近い。

 

「まぁ……とりあえずだシオン、服着てくれ」

「……ムッツリーニ、今撮ったやつは消せな」

「…………断れば」

「……殺す。姫路、手ぇ出せ」

「…………やむを、えないか……」

「えっと……手を……?」

「……『ドアドア』」

 

 空間へドアを作り、姫路を引き入れる。

 

「わっと……?何だか薄暗く……これは?」

「……一種の亜空間だ。ここから外の世界は見えるが奴らからはこちらが見えない。どんな目的であれ……オレは止めない」

「は、はぁ……」

「着替えるんだろ、今のうちだぜ」

「は、はい」

 

 コイツも女子風呂覗きの片棒担ぐ形になることくらいわかるだろうに。

 それを踏まえて好条件だったのか?

 コイツからは既にラビットエボルボトルを取ったからその条件も別段興味無いが……

 気にせず浴衣に着替え、ドアドア解除と共に姉さんに代わる。

 ……撮影も適度にしとけよな。

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