バカと無気力で暇つぶし   作:プラスマイナス裏表

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間延びの間延び


強化合宿 ⑩

「……」

 

 撮影後、深夜。

 オレのスイッチが射程から離れた事で目が覚めた。

 

「……いねぇ。スイッチを押してはない、てことは清水が襲い連れ去ったわけでもない」

 

 射程と言ってもオレが回収できるかどうかの射程で押した押してないは分かる。

 布団にも乱れは無い。自力で抜け出したと考えるべき。

 オレにまで黙って行くということは──吉井からメールを受けとった上で無視してたことから──不純異性交遊か。

 ……どうするべきかねぇ。

 西村教諭に倣うなら、止めに入るべきだ。例え同意だろうと秩序を乱す行為に他ならない。

 が、そういうのも学生特有のものだ。それを否定するのは正常な世界を止めること。

 

「……様子見だけ行くか」

 

 観測する事は自由だ。

 島田の想定外の場合だけ手を貸せば良い。

 

 ♢♢♢

 

「む?何してる?さっさと寝ろ」

「……ご機嫌よう、西村教諭。いやなに、どうも寝つきが悪くてな。西村教諭こそ、こんな時間まで見回りか?」

 

 当然と言えば当然だがありえんといえば有り得ん。

 なんでこんな深夜まで巡回してんだ?まさか毎日してたのか?その上であれだけ暴れてるのか?本当に人間か?

 

「まぁな、夜間に隠れて酒でも飲んでるバカがいるかもしれんからな」

「あぁ……高校生の合宿といえばそれもあるな。覗きだけじゃないか」

「で、お前はなんなんだ?」

「何、と言われてもな。言った通り、寝られんから適当に歩いてみてただけだ」

「あれだけ騒いでたんだ、多少の疲労くらいあるだろう。寝られなくても横になっておけ」

「……それは教諭もだ。いくら超人とはいえ負担がかかるだろう」

「ま、それを言われちゃ返す言葉も無い……むっ」

「……?」

 

 西村教諭が急に振り向いて何かを感じたようだ。

 

「今吉井の声が聞こえたぞ!吉井!坂本!動くなよ!」

「……は?」

 

 西村教諭はおそらく代表たちの部屋へ走って行った。

 オレには何も聞こえなかったが?

 そういや写真撮影の時もこんなだったな。謎聴覚なのは間違い無いな。

 

「奴らが懲罰喰らって明日の力を残さないのはオレも困る。島田を守る意味でもな」

 

 ヤツへの献身はいずれこの世界のオレ達を知ることに繋がるだろう。できる限りは良くしてやろう。

 

『こっちだバーカ!明久!そのまま鉄人を抑えておけよ!』

『ふざけるな雄二!1人で逃げようなんて甘いんだよ!』

『待てキサマら!罰として朝まで補習だ!』

 

 部屋へ向かおうとしたところで勢い良く開くドアの音、3人の叫び声。

 

「元気だな」

『わわわ!?フタガミさん!?危ないから避けて!』

『お前今どっちだ!?鉄人を止めてくれ!』

『フタガミ!その2人を止めろ!ベルトを使って構わん!』

「……元気だな」

 

 廊下の先からバカ2人。

 さて……どうするかな。止めても良いし止めなくても良い。

 どっちもどっち。メリットデメリットそれぞれだ。

 ……が、まぁ今の立場で言うなら、代表を逃がしてやるか。

 

「う……」

「ウタネだったか!無理すんなよ!」

「……オレだ。弱ってるフリしてるから、さっさと行け」

「よし、行くぞ明久!」

 

 フラついて壁に寄りかかるオレを介抱しようとするがそれを拒否。

 

「くっ……奴ら、介抱することもせんのか。フタガミ、大丈夫か。やはり無理してたんだろ」

 

 西村教諭は代表たちを睨みつけるも、オレを支えて追うことはしなかった。

 

「いや、こっちから大丈夫と断った。奴らもそこまでゲスじゃない。西村教諭も気にせず追ってくれ」

「む……そうは言うがな、お前も相当に働いている。部屋までは着いて行こう。大人しく寝ておけ」

「……ああ。今日はそうさせてもらおう」

 

 不調を示した生徒を前に、西村教諭は不良を追うより生徒の介抱を選んだ。

 作り上げられた状況にせよ、吉井最優先ではない事も分かった……オレはそれで……

 

「う……!?」

「む、どうした?やはり無理をしていたのだろう」

「……いや……何でもない。自分の愚かさに気付いただけだ……」

 

 ♢♢♢

 

「……あの、フタガミさん……?ウタネ、ちゃん?大丈夫ですか?」

「……オレはシオンだ。夜中に起こして済まなかった。寝ていてくれ……」

「は、はぁ……じゃあ何で起こしたんですか……?」

「うっ……ぐ……!悪かったよ、気を悪くしないでくれ……詫びに何でも望みを叶えてやる……」

「きゅ、急にどうしたんですか?本当に様子がおかしいですよ?」

「……本当に気にするな。自分の愚かさに今更気がついただけだ……オレは今までなんてことを……」

 

 オレが不調を見せて代表たちを足止めしようとし、拒否した。

 オレがそんな様子を見せて西村教諭の動きを止め、オレに当てさせた。

 そんなもの、試し行動以外の何者でもない……!

 オレは世界を映す鏡であり、世界を動力とする風車だ……オレの行動で人をコントロールする?あってはならないことだ。オレはあくまで映すだけ、世界の動きを映し動力とするだけで、オレが世界を動かす動力源になってはならない……!

 

「あああああああぁぁぁぁぁ……」

「ほ、本当に大丈夫ですか!?あ、明久くんのエッチな写真見ますか!?」

「ああああああぁぁぁぁぁ……?なんでンなもん持ってんだ?」

「ほぇ!?あぃ、えとえとえと……!まだ持ってはないといいますか……!」

 

 吉井の写真……?

 コイツが撮れるとは思えんしムッツリーニも吉井を撮るとは思えない。

 慌て様から最近の入手経路で近い内手に入るとすると……

 

「……そんなもんに釣られてお前も撮らせたのか。それはそれで愚かな事だ」

「わっ、笑いたければ笑ってください!そんなものに釣られる愚かな女です!」

 

 ……こんな取り乱す奴だったか?オレが醜態さらして夜中に起こしたせいか?

 

「……笑いやしねぇけど」

「あ……明久くんにバラしたり……」

「しねぇよ。そういうのも学生の楽しみってもんなんだろ」

 

 この怯え方は覚えがあるな。

 オレが平穏を脅かす脅威になった上で対話可能と認識している場合だ。

 どうにか別の対価を支払って秘密保持を契約させようとする動き。

 ……その対価を受け取っても良いがそれは逆に相手も縛ることになる。いざって時に反故にされないよう対価を払った上で気を使うようになる。それは隷属する事に近い。そんな支配は望まない。

 

「自分だけ余裕でズルイです……」

「……オレのどこが余裕だってんだよ。お前らほど点数もねぇ。男女、生徒教師、どっちの味方とも言えねぇ。これでも日々必死だ」

 

 覗きに力を貸して覗きを止め、生徒と教師どちらの思惑も汲んで動く。

 動いた上で決定的な変化も無い。ただ戦況を混沌とさせるだけ。

 その上オレは試し行動などという……!

 

「あぁくそ!『ドアドア』!」

「きゃあ!?」

 

 姫路を巻き込んでエアドア空間へ飛び込む。

 

「あ……これは……」

「あぁ、着替えの時と同じやつだ」

「何するんです……?」

「……あ?コレだよ」

 

 黄金に揺らめく空間から酒缶を取り出す。

 

「えっ……?お酒ですか?ダメですよ!」

「よかねーけどいーんだよ。姉さんはオレより強いしな」

「そういう問題じゃ……」

「そうだな……お前の判断でいいから、オレが酔い潰れてると思ったらオレの顔を右から左へ殴り飛ばせ。目が閉じるようビンタがいい。そして首を折るくらい強くだ」

「は、はい……?」

「オレと姉さんの切り替えには自分でやるルーティンと両者の合意があるが、表に出てる側が酔ってたりするとそれができない場合がある。無理矢理交代させるには目を閉じさせ首を曲げること。姉さんからオレには逆だ」

 

 困惑する姫路にジェスチャーを交えやり方を教えておく。

 この方法で変わったのはいつだったか……なのはの世界2周目のソラか。

 しばらくだな……体が分かれてたから必要なかったのもあるか。

 

「ま、気にすんな。バレやしねぇから。お前も飲むか?」

「えぁ、いえ、私はその……」

 

 度数の低いものを同じ様に取り出して差し出し、受け取りはするものの何かゴニョゴニョと濁している。

 優等生でもいざバレない環境になると飲んでみたい好奇心ってのも強くなるか?

 あぁいや……コイツ、清涼祭の打ち上げで悪酔いしてたな。そのせいか。

 

「酒の失敗なんて人生何度もするもんだ。オレは何とも思ってないし他の奴らもバカにしてねーよ」

 

 オレなんてどこで何してたかわからんこともままある。

 

「そ、そうですか……?だといいんですが」

「まぁ飲みたきゃ飲め。朝にはオレがアルコール抜いてやる。ここなら誰にもバレないし、お前の体にも悪影響はない」

 

 ふぅー……気分がどうこうでは無いが、酒を飲むという行為でリフレッシュしてる節があるな。人間の屑だ。

 2本目を開け、流し込む。

 飲んでも何も解決しない。ただこの時、気が紛れるだけ。なんの意味もない。愚かだ。

 さっさと寝てしまって体力気力を回復させておくべきだ。

 

「いえ……やっぱり遠慮しておきます。シオンもほどほどにしてくださいね」

「……ほどほどじゃなかったらブン殴れって言ったろ」

「それはさすがに……」

 

 オレみたいな人外でも暴力は嫌らしい。

 学力が通用しない相手になれば暴力しかないというのに。淘汰されるぞ。

 

『はぁ、結局騒いで終わりだったわ。折角勇気出したのに……あら?シオンでしょ、瑞稀攫って何してるの?出てきなさい』

「……」

「あ、美波ちゃん戻ってきましたね」

 

 戻ってきた島田がオレの行動を指摘。

 ドアドアの空間は認識できないはず……ならオレがそうできるだろうと認識しているってことか……

 

「やっぱりお前、何なんだ?」

 

 ドアドアを解除して姫路を降ろす。

 

「何ってなによ、アンタこそ人に言える立場じゃないでしょ」

「……それはそうだが」

「さっきの何?私の知ってるのと違うけど」

「……オレの能力を平然と知ってるとか言うな」

 

 知ってるのと違う……つまりは、以前にコイツと知り合いだったオレの能力か。

 確かにそれも探るべきか。

 オレの能力はこの世界の能力は映せない。万一この世界のオレが持ってた能力しか対処法が無い状況になった時、それは致命になる。

 ……この世界の吉井の能力を使ってる?違うな、この世界の吉井を姉さんがシオン認定していた世界のオレの能力を使ってるだけ。この世界のあったかもしれない並行世界の能力。

 

「まぁなんだ、お前も飲むか?」

「ハァ……そうね、一杯貰うわ。バレないのよね?」

「ああ、その点においては安心しろ」

 

 オレが飲んでたのと同じものを島田の近くに出現させる。便利な倉庫だ。

 

「み、美波ちゃん!?飲むんですか!?」

「瑞稀も飲んでたんじゃないの?シオンなら大丈夫よ。たまには不良しちゃいましょ」

 

 そう言って出所さえ不明であろうオレの酒を受け取り躊躇いなく口へ。

 

「ぶっ!なによコレ!なんてキツいの飲んでるの!?」

「……あ?あぁ、お前なら大丈夫とオレと同じのを出したんだが……お子ちゃまには強過ぎたか。ちなみに、姫路には軽いのを出している」

 

 島田が吹いたのに驚き、信じられないものを見る目で手にした缶を凝視する姫路を一応フォローしておく。

 

「う……ウチもそっちがいいわ。そっちにしなさい」

「はっはっは、それは要求だな。なら相応に話す事があるだろう」

 

 姫路と同じ缶を取り出し、ヒラヒラと振る。

 この程度で喋るとは思わんが……何か出るか……?

 

「話すことなんて無いでしょ」

「そうだな……さっきの、お前の知ってるオレの能力を喋れ。それで通してやる」

「……」

 

 島田は拍子抜けした様に目と口を開け、目線を左右させて少し考えている様子だ。

 

「ハァ……いいわよ、教えてあげる。ドイツで会った、シオンの能力」

「おぉ、情報出るのか」

「それは──」

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